理不尽なオークション
数日空きましたが、今後も無理せずマイペースに投稿します。
ランキング復帰は、作者の私生活が落ち着いた頃にでもまた目指してみようかなぁと。
オークションの入場料は、1グループにつき2000Gだった。
1人あたりではないのがせめてもの救いだが、入場するだけでも焼き鳥10本分の高額だ。
内部は円形状の構造になっていて、中心に立っている派手な服装の男性が進行を務めるようだ。
「皆様、本日は当オークションへとご来場頂き、誠にありがとうございます。……お前ら、狙いの品を競り落とす準備は、できているかぁぁぁ!」
「「ウォォォォォォ!」」
堅苦しい挨拶から一点、場内は熱気に包まれる。
まるで、今から決闘でも行われるような雰囲気だ。
熱気を帯びた参加者を落ち着かせる間も無く、進行の男性は間髪を入れずにオークションを開始した。
「それでは、一品目! この町の高名な貴族から出品された、【翡翠のペンダント】! 美しい装飾のアクセサリーとしても人気だが、この魔道具の真価は風魔法のダメージを軽減することにあるッ! 貴婦人から冒険者まで、幅広くオススメできる一品だァ!」
「おい、初っ端から魔道具かよ!」
「飛ばしすぎじゃねぇか!? 今回は期待できそうじゃねぇか!」
「俺は買うぞ! 10万Gだ!」
「こっちは12万G!」
「13万!」
「14万!」
「……20万!」
男性が20万Gを提示したところで、オークション会場は静まりかえった。
「20万、それ以上は……居ないッ! 【翡翠のペンダント】は、20万Gで落札されたァ!」
(……なるほど、オークションは、こんな感じなのか)
参加者同士の心理戦。
少しずつ値を上げたほうが、出費を抑えられる。
その心理を逆手に取り、あの男性は一気に金額を6万Gを引き上げることで、他の参加者の戦意を削ぐことに成功したのだ。
僕は、男性の手口にひどく感心していた。
……しかし、オークションで魔道具が出品されるのは、そんなに珍しいことなのだろうか?
魔道具は、大規模な組織が製造しているものから、個人によって製作されるものまで幅広く存在する。
僕のように、趣味の範疇で製作している人も少なくはないはずなのだが……
「続いての品は……おっと、奴隷のようです! 彼女の容姿もさることながら、何とまだスキル未発現! 彼女の父親の固有スキルは【賢者】! 将来有望、主人の好みに育成できる原石だァ!」
(……酷い)
僕は、少しだけ嫌悪感を覚える。
オークションで奴隷が出品されるのは、そこまで珍しいことではないと聞いた。
……しかし、スキル未発現ということは、あの子は少なくとも10歳以下で奴隷に堕とされたということだ。
また、固有スキルというのは、育った境遇や親からの遺伝によって、ある程度発現する能力の方向性が決まる性質があった。
だからこそ、奴隷に有用なスキルを求めている人にとって、親の固有スキルが優秀な「ノースキルの奴隷」は、文字通り原石となりうるのだ。
助けたい気持ちは山々だが、そうやって出品される奴隷を全員救い出すほどの財力は持ち合わせていない。
僕にできることは、せめて良い主人に巡り合えるように心の中で祈ることだけだ。
「では、300万G出しましょう」
突然の宣言に、会場の注目が集まる。
声の主は、僕の右斜め前に座っていた男性だった。
「おい、あれって……」
「確か、マクロン伯爵の長男だったか?」
……周囲の反応を見るに、300万Gという大金を叩きつけたのは、どうやらこの町の貴族の息子らしかった。
(……最悪だ)
奴隷にも最低限の人権は保証されているし、主人の意向で奴隷を殺したりすることはできない。
……しかし、それはあくまで一般人が奴隷を扱う場合。
貴族の権力を以ってすれば、法を握り潰すなど容易いことだ。
あの少女がこれからどんな目に遭わされるのか、僕にはとても想像できなかった。
「300万G! 念のために聞いておきますが、それ以上は……居ません! 300万Gで落札です!」
盛況を見せていた会場の雰囲気は一転、まるでこれからお通夜にでも向かうような、どんよりとしたものになっていた。
「なんで、オークションに貴族がいるんだよ……」
「やめだ、貴族相手に勝ち目はねぇ」
「今回は、あの貴族が目をつけなかった余り物を争奪することになりそうだな。俺は降りるぜ」
会場に居た人々は次々とオークションを後にし、客席は開始時の半分ほどが空席となった。
開始から、まだ数分しか経っていないというのに……
しかし、すぐ後に僕は、彼らの言い分が的を射ていたということを思い知らされた。
貴族の息子は、自分が欲しいものに対して毎回他の参加者では手の届かないような金額を提示するため、もはや誰一人として彼に太刀打ちできない状態となってしまったのだ。
当然ながら、進行を務める男性はそれを止めようとはしない。
オークションとしての体裁が崩壊しかけていても、運営側に莫大な利益が出ることに変わりはないからだろう。
もはやオークションは、「貴族」という理不尽な存在による独擅場となった。
「……なんか、興醒めだなぁ」
「……すみません、私の勘は外れてしまったようです」
「いや、興味をそそられたものはいくつかあったよ。ただ、今回は相手が悪かったかな」
本気で申し訳無さそうにしているシアルだが、今の僕の言葉に一切の偽りはない。
決して、欲しいものが無いわけではなかった。
しかし、魔石や短剣を始めとした武器など、僕が欲しいと思った品は、全て例の貴族に競り落とされてしまったのだ。
やがて、今回の目玉の商品だった【竜斬りの剣】がまたも貴族の息子に競り落とされたところで、オークションは幕を閉じた。
「結局、何も収穫は無かったなぁ。あの貴族のせいで、相場もよく分からなかったし」
「……そうですね。あの人は立場の弱い人を集めて、一体何がしたいんでしょうか?」
シアルは、怒り……というより、客席にいる貴族に軽蔑したような視線を投げかけていた。
シアルの言う通り、貴族の息子は欲しいと思ったモノだけでなく、ノースキルの少女を始め、女性の奴隷だけを集中的に競り落としていった。
……それも、戦闘経験のある女性の奴隷を中心に。
元々人間に虐げられていた彼女からすれば、あの貴族の行動に思うところがあるのだろう。
無論、僕にも、だが。
「もう帰ろうか。少し、気分が悪い」
「……私もです」
オークションは、毎回こんな感じなのだろうか?
だとしたら、例え相場より安く魔石が手に入るとしても、進んで来たいとはとても思えない。
この国の奴隷事情は把握したつもりになっていたが、僕の認識が甘かった。
まさか、10歳に満たない少女を、奴隷としてオークションに出すなんて……
会場から出ようとしたその時、僕は誰かの視線を感じ、咄嗟に後ろを振り返った。
(あ、ノースキルの子……)
そこには、恐らく既に貴族の息子に受け渡されたであろう、ノースキルの少女の姿があった。
少し距離は離れているが、彼女は確かに僕と視線を交わした。
そして、僕……ではなく、隣を歩くシアルを指差して、そっと唇を震わせた。
(……え?)
勿論、ここからでは少女の声は聞こえない。
しかし、唇の動きから、何を言ったのかはある程度推測ができた。
僕の予想が正しければ、の話だが、あの少女は今、こう発していたのではないだろうか?
ーーその人は吸血鬼、と。
「誰が勝手な行動を許可したのですか? ワタシの奴隷になった以上は、ワタシに従って頂かないと困りますね。ほら、行きますよ」
「……」
呼び止められた少女は、何も言わずに自らの主となった貴族の方へと踵を返した。
それっきり、少女がこちらを振り返ることはなかった。
帰り際、僕はシアルに尋ねてみる。
勿論、正解が返ってくるとは思っていない。
「……ねぇ、シアル。あの子って、本当にノースキルだったのかな?」
「……? さぁ、少なくとも、雰囲気がやけに大人びているとは感じましたが……」
……考えすぎかもしれない、けど。
僕はどうしても、あの少女が重大な何かを隠しているような気がしてならなかった。
次回は不死鳥パートです。
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ものの数秒で終わる作業ですので…!




