ダンジョン対策
※扇○機ではありません
僕は、あることに頭を悩ませていた。
火炎のダンジョンをどう対策すべきか、ということである。
「黒い雷」のメンバーならば、ダンジョンのモンスターにそこまで苦戦することはないだろう。
別段、それを心配しているわけではない。
「火炎のダンジョン」について調べたところ、驚くべき事実が明らかとなった。
なんとこのダンジョン、Cランク相当のモンスターが多数出現するダンジョンなのだ。
それが何故Bランクのクエストに振り分けられているのかというと、内部が高温になっているため、必然的に短期攻略を余儀なくされる点を考慮してのことだとのこと。
そのため、Cランク以下の冒険者は潜入不可能となっているのだそうだ。
僕が懸念しているのは、モンスターではなくこの暑さそのもの。
……さて、どうしたものか。
僕は収納してあった「眠り玉」からネムリクサを取り除き、代わりに氷を敷き詰めてみる。
上手く煙が冷気を纏えば、ダンジョンでも使えるかもしれないと思ったからだ。
(さて、どうなる……?)
僕は冷却玉(仮名)を軽く床に叩きつける。
すると、僕の目論見通り、溢れ出した煙幕はほのかにひんやりとした空気を纏っていた。
(ここで使うと少しひんやりする程度だけど、周りが高温なら十分冷たく感じるかな?)
これは、ブレイクの際に役立つかもしれない。
……ダンジョン内部で休憩を挟み、体力や魔力を回復させる行為を「ブレイク」というのだが、火炎のダンジョンではブレイクすらも体力を奪いかねない。
ブレイクの際に熱による疲労を緩和できるだけでも、攻略難易度はだいぶ違ってくるはずだ。
……それはそうと、上手くいったのは良かったけど、これは部屋の中でやるものじゃないな。
「ゴホッ、ゴホッ……」
とにかく、煙たい。
そして、視界が悪い。
これをダンジョンで使おうものなら、涼しさよりも鬱陶しさが勝ってしまう。
しばらくして煙が晴れてから、僕は更なる改良を加えるべく、冷却玉から魔力回路の部分を取り出す。
次なる課題は、この煙を取り除き、冷たい風だけが出てくるようにすること。
(煙幕は、内部に仕込まれた火属性魔法の魔力回路で煙を発生させる仕組みだ。なら、これを風属性魔法に書き換えれば……!)
僕は、魔力回路の魔法陣を風属性魔法のものに上書きした。
……魔力回路の最大の特徴は、魔法適正がない人でも、魔力さえ流せば魔法陣に書き込まれた魔法が発動できるという点にある。
そのため、自分では魔法を扱えない僕は、魔力回路の作り方や仕組みをある程度独学で覚えていた。
このくらいなら、お手の物だ。
(……できた!)
再び、僕は冷却玉・改(仮名)を床に叩きつける。
すると、ほんの一瞬だけ、ひんやりとした空気が僕の体を撫でた。
……なんというか、思ってたのと違う。
これでは、本当に気休め程度にしかならない。
この問題の核は、魔力回路は基本的に使い捨てのため、一度限りしか風は起こせないという点にある。
もし魔力回路が使い捨てじゃなければ、魔力量次第で風を起こし続けることができるのだけど……
一つアテがあるとすれば、「魔石」の存在だ。
魔力を込めることで、込められた魔力の量に応じて無限に物質を生成する石。
……但し、生成された物質は、数分のうちに元の魔力に還元されてしまうというデメリットもあるが。
「風の魔石」を組み込めば、恐らく僕の思い描いた魔道具を完成させることができるだろう。
しかし、魔石を材料に使ってもいいのであれば、僕は最初からそれを作っていたと思う。
……というのも、魔石は、非常に高価なのだ。
稀にオークションに出されることのあるこの石は、確か、おおよその相場が10万Gほどだった記憶がある。
山賊のアジトで得た臨時収入は20万Gほどなので、買えないことはない。
しかし、「火炎のダンジョン」の対策だけにそれだけの大金を投じるのは、正直少し気が引ける。
ダンジョン以外でも使い道があるなら安い投資だと思うけど、メリーズにははっきりとした四季は無いし、涼を取る手段はそこまで必要無いんだよなぁ……
……しかし、オークションの会場に行ってみたいという気持ちはある。
入場料こそ取られるものの、オークションでは必ずしも商品をせり落とす必要はない。
まずは雰囲気を知るためにも、一度会場に足を運んでみようかな?
(買えなかったときのことを考えて、魔石の代案を考えておかないと……ん?)
ふと、誰かに見られているような気配を感じて、僕は顔をあげる。
「……なんだ、シアルか。おはよう」
「! ひゃい、おはようございます」
僕に名前を呼ばれたシアルは、傍目から見ても物凄い慌てっぷりを披露してくれた。
……それだけではなく、シアルが昨日僕の血で酔っていたことを指摘すると、彼女は顔を赤らめて自室にこもってしまった。
何か、悪いことを言ったかな?
相変わらずというか、女心は全く分からない。
シアルも目を覚ましたので、僕は一旦作業を中断し、一階のキッチンへと向かう。
……こう見えて、料理は少しだけ得意だ。
パーティーにある程度料理ができる人材がいないと、数日かけてダンジョンにアタックする際、全く味のしない非常食で食いつなぐことになる。
食事も冒険者にとってはモチベーションの一つ。
戦いに直接関係がないからと言って、疎かにはできないのだ。
僕は【収納】内にあった材料で適当にスープを作り、そこにパンを添えて朝食を完成させた。
……食材の不足により、若干手抜き感が出ているのは否めない。
そろそろ食材を買い足さないと、収納しておいた分はもう無くなりそうだ。
食材の買い足しに、オークション。
……今日の予定は決まったかな。
シアルを呼び、いつもより少しだけ賑やかな朝食を取る。
「赤い不死鳥」に所属していたときはギルドの寮で一人で食べていたので、誰かと朝食を取るのは少し新鮮な感じがした。
……ちなみに、吸血鬼も人間と同様の食事からエネルギーを摂取できるらしい。
勿論、毎日血を飲んだ方が遥かにエネルギー摂取の効率が良く、何より排泄をする必要がなくなるので、多くの吸血鬼は人の血以外の食事を取らないそうなのだが。
とはいえ、毎日三回も血を抜かれていては、流石に僕の体が保たない。
彼女もそれを考慮してくれたのだろう。
……吸血鬼って、謎が多いなぁ。
シアルと暮らしていくにあたって、僕は吸血鬼のことをもっとよく知るべきなのかもしれない。
幸せそうにパンを頬張る彼女の姿を見ながら、そんなことを考えた。
「今日は町で食材の買い出しと、ついでにオークションを見に行こうと思う。シアルはどうする?」
「ご一緒させて頂きまふ」
「……話しかけてごめん。ゆっくり食べていいからね」
先に食べ終えた僕はシアルより一足先に自分の部屋に戻り、服を外出用のものに着替え……あ、服!
思えば、シアルは今身にまとっている一着しか服を持っていないはずだ。
僕はファッションには疎い。
しかし、これだけは自信を持って言える。
彼女の容姿に、使い込まれた古着は似合わない。
食材に、生活用品に、魔石(まだ買うと決めたわけじゃないけど)に、シアルの服。
……うへぇ、今日は出費が大きくなりそうだなぁ。
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