【赤い不死鳥side】すれ違い
ギルドに帰還し、ミリー達と別れたマイルスは、1人でギルドの受付へと足を運んでいた。
……無論、ネイの除名を働きかけるためである。
マイルスは、除名できないとたかを括っているからこそ、ネイが自分に対して生意気な態度が取れるのだと勘違いしていた。
「受付嬢、ギルマスを出せ!」
「えっと、ギルマスとの面会は、まずはアポを取って頂かないと……」
(チッ、新人かよ。ツイてねぇ……)
マイルスは、内心で舌打ちをする。
一刻も早くネイにお灸を据えてやりたかった彼にとって、その受付嬢の態度は気に食わないものだった。
「俺はSランク冒険者だぞ?」
「……存じ上げております」
「ここまで言ってもまだわかんねぇのか? このギルド唯一のSランクパーティーに所属する俺は、ギルマス如きにアポなんて要らねぇんだよ!」
マイルスが怒号を響かせる。
しかし、新人の受付嬢はマイルスに対して一歩も引かなかった。
「お言葉ですが、ランクは関係ありません。そもそも、冒険者はギルドマスターが雇用主という形になっていますので……」
マイルスを相手にマニュアル通りの対応をする新人受付嬢の様子を見て、隣で見ていたベテランの受付嬢が冷や汗を浮かべる。
……彼女は、このギルドの影の支配者がマイルスであることをよく理解していた。
「新人は下がってなさい。……部下が失礼しました、マイルス様。執務室へご案内させて頂きます」
「え、でも……」
「いいから貴女は自分の仕事に戻っていなさい。この方の対応は私がします」
……新人受付嬢は、「聞き分けの悪い冒険者が来た際」の、マニュアル通りに対応をしただけ。
本来であれば褒められるべき行為が、この腐ったギルドでは認められなかった。
ベテランの受付嬢に案内されたマイルスは、執務室の扉を荒々しく開け放った。
「おい、ダック。ネイをこのギルドから除名しろ!」
マイルスは「赤い不死鳥」のギルドマスター・ダックに、手短に用件を告げた。
「……またですか。ちゃんと理由は用意してあるんですよね? ネイを追い出して、後で俺が咎められたりはしませんよね?」
(お前が咎められたって構いやしねえよ!)
マイルスは内心ではそう思っていたが、それをあえて口に出すことはしなかった。
……ダックは、マイルスに逆らうことができない。
マイルスは、ダックの弱みを握っていた。
ダックは賭博で負けを重ね、ついにはギルドの予算にまで手を出してしまったのだ。
偶然にもその情報を掴んだマイルスは、かえってそれを喜んだ。
これを材料にダックを脅せば、自分の思うようにギルドを動かすことができる、と。
マイルスはダックに「横領の隠蔽に協力してやる代わりに、バラされたくなければ、自分にも協力しろ」という交渉を持ちかけた。
築き上げた地位や家庭を何としても手放したくなかったこの男は、まんまとマイルスの傀儡に成り下がったというわけである。
「心配性だな、テメェは。理由なら作るまでもねぇ、あいつはスケルトンキングの素材を持ち逃げしやがったからな!」
マイルスは、ネイに素材を持ち逃げされたことに一時は腹を立てたが、今度は理由を工作をする理由が無くなったと喜んだ。
……しかし。
「……お言葉ですが、マイルス様。ネイ様より、ギルドの解体室にスケルトンキングの素材を置いておくという伝言を預かっております」
「はぁ!?」
……そう、持ち逃げされたというのは「紅き閃光」の3人の早とちりだったのである。
本来ならば喜ぶべきところなのだが、ネイを除名するということが決定事項となっていたマイルスにとって、これは非常に厄介なことだった。
ネイを除名する正当な理由が無くなった以上、どうにかして別の理由をこじつける必要がある。
しかし、ネイは後輩冒険者からの信頼が厚い。
明らかに不自然な理由では、今度は自分が冒険者達から疑惑の目を向けられてしまうだろう。
マイルスもそれを理解しているからこそ、頭を悩ませた。
「クソ、何か良い方法は……ん? 待てよ。受付嬢、ネイは今どこに居る?」
「しばらく遠出すると言って、ギルドから出て行きました。どこに行ったのかはわかりませんが……」
(……そうか、俺に手を下される前に、自分から出て行きやがったのか!)
マイルスは、自分でネイを除名するのを辞めた。
向こうから出て行ってくれたのなら、これほど今の自分にとって好都合なことはない。
「ならいい。ダック、この話は忘れてくれ」
「……わかりました」
マイルスは、満足げな顔で執務室を後にした。
……しかし、マイルスは一つ、勘違いをしていた。
ネイはネイで、自分はマイルスによってギルドを除名されるだろうと考え、正式にギルド脱退の手続きを踏んでいなかったのだ。
ネイは自分からギルドを辞めたのだと思い込んでいるマイルス。
自分は今頃、マイルスによってギルドを除名されているだろうと思い込んでいるネイ。
……この僅かな思考のすれ違いが、この先自分の首を絞めていくことになるとは、この時のマイルスは知る由もなかったのだった。
最近少し忙しくなってきたので、今後毎日更新するのは厳しいかもしれません。
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