プロローグ
お初にお目にかかります。
未熟者なりに精一杯頑張って書くので、応援よろしくお願いします!
「アイラ、今日限りでお前を『紅き閃光』から追放する」
……僕は、何の前置きもなくギルドの執務室に呼び出された。
何事だろうと駆けつけてみると、パーティーリーダーのマイルスが開口一番でそう言い放ったのだ。
「……え? どういうことだ?」
突然のことに、困惑する僕。
だが、僕以外の他のメンバーは、マイルスの言葉に全く動じていなかった。
……まるで、予め打ち合わせをしていたかのように。
「そのままの意味だ。荷物持ちとして迎え入れたが、お前はSランクパーティーに居るには弱すぎる。……これ以上、無理に背伸びをして俺たちのパーティーに寄生するのはやめてくれ。君には元のBランクパーティーがお似合いだよ」
マイルスは、まるで世間話でもするかのように、声を荒げず淡々と話す。
「ち、ちょっと待ってくれ。僕の【収納】が無かったら、どうやって戦利品を地上まで運ぶんだよ?前回のクエストだって、スケルトンキングの死体を何十体も収納しているし……」
「だ〜か〜ら、アンタ以外で【収納】持ち、かつ戦力になる人材を募集すればいい話でしょ? 無能な上に物分かりも悪い。救いようがないわね」
僕の言葉の続きは、同じく「紅き閃光」のパーティーメンバーであり、【魔道士】として後衛を担っている女性・ミリーによって遮られた。
「なっ、サナは? サナはそんなこと……」
僕は、必死にサナに助けを求めた。
【聖女】であり、誰にでも優しい彼女なら、少しでも僕を庇ってくれるのではないかと思って。
……だが、僕の一縷の希望は、ここで潰えたと言っていい。
「マイルスとミリーの言う通り、いずれSSランクを目指す『紅き閃光』には、アイラのような荷物持ちを置いておく理由がないと思います」
「サナまで……みんな急にどうしちゃったんだよ!?僕たちは2年間、まだ『紅き閃光』がBランクだった頃から一緒に頑張ってきたじゃないか!」
確かに僕たちは、2年前にこの4人でSSランクパーティーを目指すことを誓ったはずだ。
固有スキル【剣聖】のマイルス。
固有スキル【聖女】のサナ。
固有スキル【魔道士】のミリー。
……そして、固有スキル【収納】の僕。
そりゃあ、この3人に比べれば、僕の固有スキルは見劣りするものかもしれない。
人々は皆、10歳の誕生日に「固有スキル」と呼ばれる、将来の職業に直結する特別なスキルを授かる。
荷物持ちになるためには【収納】の固有スキルを授からなければならないのだが、そもそも【収納】自体がハズレスキル扱いされているため、それに伴って荷物持ちの待遇もあまり良くなかった。
【収納】がハズレスキル扱いされている大きな理由は、戦闘に関わるスキルの発現が壊滅的という点にある。
固有スキルだけは、いくら努力しても後天的に身につけることはできない。
通常のスキルならば努力次第で発現することはあるが、それも固有スキルに大きく影響される。
例えば、【剣聖】を授かった人は剣に関わるスキル、【聖女】を授かった人は回復に関わるスキル、という風に、後天的に身につけることのできるスキルは、固有スキルを軸として派生していく。
……つまり、つまりだ。
【収納】を授かってしまった者は、戦闘に関わるスキルをほとんど発現させることができない。
冒険者という職業柄、これは致命的だった。
僕は辛うじてまだ戦闘に役立つ【回避】というスキルを習得できたが、攻撃面に関しては一切スキル無し。
悔しいが、僕が攻撃面でパーティーに貢献できていないことは、誰の目から見ても明らかだった。
だからこそ、パーティー内で僕にできることは雑用だろうと何でもやったし、なるべくパーティーの足を引っ張らないようにと心がけてきたつもりだ。
……心がけてきたつもり、だった。
「2年間頑張ってきた? 笑わせないで。2年間足を引っ張り続けてきたの間違いでしょ?」
「ミリー、流石に、冗談だよね?」
「お前は本音と冗談の区別もつかねぇのか。今のはどう考えてもパーティー全員の総意だろ」
そう言ったマイルスの表情は、先程とは打って変わって怒りに歪んでいた。
「そりゃ、ランクが低かった頃はろくな荷物持ちを雇えなかったから、お前で我慢したけどな? 俺たちは今やSランクパーティーだ。既に戦闘もこなせる荷物持ちに話はつけてある。わかるか?……お前はもう用済みってことだよ!」
マイルスの怒号が響く。
それを聞いた僕は、絶望すると同時に、彼らに深く幻滅していた。
マイルスのことは、同じパーティーの仲間であると同時に、気の合う友人のように思っていた。
サナのことは、面倒見が良く、頼りになる姉のように感じていた。
ミリーのことは、多少口は悪いが、根は仲間思いで良い奴だと思っていた。
……でも、それは全て僕の幻想に過ぎなかったらしい。
悲しいのに、乾いた涙腺からは涙が出ない。
悔しいのに、言い返す言葉が口から出ない。
僕はただ呆然とその場に立ち尽くす他なかった。
「わかったら、さっさと出て行ってくれ。…あぁ、金は置いていけよ? 2年間の迷惑料はそれでチャラにしてやるからよ。寛大な俺に感謝するんだな」
どこが、寛大だ。
本当にマイルスが寛大なら、ここまで僕を冷たく突き放さなくても良いじゃないか。
そう思ってしまうのは、僕の甘えなのだろうか?
「………………わかっ、たよ」
僕は辛うじてその一言を捻り出し、今ある限りの全財産を机の上に並べた。
……これでもう、このメンバーと僕が相入れることは二度とないだろう。
少しずつ、自分の感情が色褪せていく感覚がする。
僕の頭は、とっくに考えることを放棄していた。
この現実を受け入れてしまったが最後、正気を保っていられないかもしれない。
多分、そういう本能的な直感が先に働いたんだと思う。
僕はこの日、「紅き閃光」と決別した。
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ものの数秒で終わる作業ですので…!