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好き……?

 思い返せば、俺の中学生活はトキが中心だった。


 先生もそんな俺を知ってか1年からずっとトキと同じクラスにされていた。


「ソウ。わからないことがあれば何でも聞いてね」

「ありがとう」


 トキは本当に良いやつだ。

 記憶を失った面倒くさい幼馴染の俺に対しても優しく接してくれた。


「え、ソウ。こないだのテスト、クラスで一番だったの?」

「まあ。記憶なくても知識はあるから」

「それにしてもすごすぎるよ……」


 勉強はそれなりにできたので、トキに勉強を教えることがよくあった。いつも助けてもらってばかりの俺がトキに教えるという構図に、俺でもできることがあるのだと少し嬉しくなった。


 学校も帰り道もずっと一緒で家も隣だったから、家族よりもずっと長い時間一緒にいてくれた。だから、勘違いしてしまったのだ。これが普通だと。


「なんかさー、ソウとトキの距離感ばぐってね?」

「わかる。近すぎるよな」


 あるときクラスの男子が言った。

 ちょうどトキは教室にいなかった。


 俺はどこがおかしいかわからなかった。でも、第三者から言われて気づいてしまった。


 トキはよく俺の頭を撫でてくれる。俺をよく後ろからハグしてくる。家では体を寄せ合って一緒に小説を読んで、そのまま昼寝するなんてこともある。そのどれもが俺の心をじんわりと満たしてくれる行動だった。


 これが友達として普通だと思っていた。でも、トキ以外の人と同じことができるのか想像してみると鳥肌がたつ。無理だ。他のやつとはできそうもない。


 じゃあこれは、この感情はなんだというのだろうか。


「ちょっと気持ち悪いっていうかさ」

「もしかして付き合ってるんじゃねえの」

「あー。男のこと好き、的な?」


 クラスメイトの笑い声に俺はハッとした。

 記憶のない俺でも分かる。この感情は間違っているんだ。


 何も言わないで呆然とする俺にクラスメイトは黙った。そして気まずそうに口を開く。


「え……。冗談だったけどマジなの?」

「ち、ちがう! 付き合ってるわけないだろ!」

「おいおい! そこまで否定されたら逆に疑わしく聞こえんだろ!」


 みんなが笑って俺を見た。俺も一緒に笑って見せた。


 記憶がない俺にとって普通がわからない。だからきっとみんなが正しいんだ。


 それから俺は普通の男子のフリをするようになった。みんなが言うように、好きなタイプは胸が大きくてロングヘアのかわいい女の子。恋愛話だってつきあうし、夜のおかずの話だってする。


 その度に俺は気持ち悪くなった。本当は違うのに誰にも本当のことを言えない。でも間違っているのは俺だから仕方ない。


 トキはそんな俺を見て心配そうに尋ねた。


「最近、顔色悪いよね。なにかあったの?」

「……え」


 気づいてくれた。


 それだけで嬉しくなった。トキはちゃんと俺を見てくれているのだと歓喜した。しかしすぐに「違うだろ」と否定する声がする。


──『ちょっと気持ち悪いっていうかさ』


 あのときのクラスメイトの言葉だ。


 ああ、そうだった。

 この感情は気持ち悪いものだ。だからトキにバレたら絶対にダメなんだ。


 俺は笑顔で言った。


「大丈夫だ」


 それから暫く経った頃だろうか。トキが俺と過ごす時間が大幅に減った。

 トキに彼女ができたからだ。


 俺はトキに彼女ができたとき、「おめでとう」と伝えた。

 すんなりと言えたことに酷く安堵した。



♢♢♢♢♢



「トキ。幼馴染じゃないってどういうことだよ」


 中学時代、幼馴染だと信じて接してきた俺にとって、ユウの一言はあまりにも衝撃的なものだった。


「……詳しいことを話す前に知っておいてほしいことがあるんだ」

「なんだよ」


 トキは何かに怯えるように俺を見つめた。そんな表情は初めて見る。


 ただならぬ様子に俺はつばを飲み込んだ。


「ソウの幼馴染じゃなかったけど、別に嫌いだったわけじゃないんだ。むしろ、……す、好きなくらいだから」


 好き。

 ……好き?


「……ああ。わかってるよ」


 友達としての好きだろう。わかっている。勘違いしてはいけないと中学の3年間で完璧に俺は学習できていた。


 俺の返答にトキは嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう。まずはソウがどこまで知ってるか把握したいんだけど、この子とはどこで会ったの?」


 トキはユウを指差して言う。やはりユウのことを知っているのだろうか。

 

 俺は高校生活で起きたことを話した。

 高校に入ってユウレイが見えるようになり襲われたこと、ユウが成仏するために一緒に生活していること、全てを伝えた。


 話し終えたところで、トキは俺をギュッと抱きしめて耳元でつぶやく。


「ごめん、ごめんね。俺が傍にいれば怖い思いをさせることもなかったのに」


 痛みを感じるほど強く抱きしめられた。しかし、トキの涙で濡れた声を聞いて突き放すことはできなかった。


 俺は手を上げてトキの背中を撫でる。


「トキが謝る必要ないだろ。とりあえず中学のとき何があったか話せ」

「……わかった。ありがとう」

 

 そう言うと、トキは俺から離れて涙を拭った。俺がお茶をもたせるとソファに2人で座る。ユウはふわふわと浮いて少し離れたところからトキを睨んでいた。


 お茶を一口飲んでトキは口を開く。


「ソウが突然変異だと思ってる体質、ユウレイに好かれるってやつあるでしょ」

「ああ。ユウのおかげで襲われたのは最初だけだけどな」

「あれね、突然変異じゃないよ」


 突然変異じゃない……?


 突然変異と言った本人であるユウを見ると気まずそうに視線をそらした。どうやら嘘をついていたらしい。


「あれは前からある体質。だから中学のときも絶賛発動してたんだ。ユウレイは見えてなかったけどね」

「でも、襲われたことなんてなかったと思うけど」


 ユウレイが見えないとはいえ、襲われたのなら俺の体になんらかの影響があるはずだ。事故にあったり、病気になったりするもんだと思う。しかし、中学でそんな目にあったことはない。学校を一日も休んだことがないくらい元気だったはずだ。


「そうだね、襲われたことはないよ。だって俺がいたから」

「トキがいたから?」

「うん。俺はソウのお兄さんに頼まれてソウと同じ中学に入学したんだ」


 兄に頼まれたという言葉に少し胸が痛む。

 俺と幼馴染のフリをしていたのは、兄に言われたからだったのか。


「俺はユウレイから嫌われる体質。つまりソウと反対の体質を持って生まれたんだ。嫌われるっていうより、怖がられるって感じだけどね」


 トキが指を指した方向を見ると、ユウレイが怯えるように逃げ出した。


「この体質のおかげでユウレイ関係の仕事を請け負うことが昔からよくあるんだ。ソウの件もそのうちの一つ。いや、仕事とはちょっと違うか。ソウのお兄さんにはお世話になってたから頼まれた、が正しいかな」


 兄は高校入学以降、一度も家に帰ってこず連絡もついていない。既読はついているから読んでいるのだろうが、メッセージが返ってきたことは一度もなかった。


 その兄にトキがお世話になった。

 一体なにがあったのか少し気になった。


 トキはため息を一つ吐くと、決心したかのように俺をまっすぐに見つめる。


「じゃあ、ソウとの出会いから改めて話そうか」

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