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友達できるかな

 ユウレイに襲われれたあの日から体がまともに動かせるようになるまで一週間かかった。その間、ユウのおかげかユウレイに襲われることはなかった。隅のほうでちらりと見るくらいはするが、俺に干渉してくることはない。一体ユウは何者なのだろうかと思いつつ、時間割を手にしてニコニコ笑う彼を見つめた。


「今日から授業うけるんだよね! 楽しみ! あ、体育もあるんだね」

「俺以上に楽しそうにしてるな」

「だって、ドラマでしか学校知らないもん。ユウレイになってから授業の様子見たりはしたけど分かんないこと多すぎてさ」


 死ぬ前に何があったのか、ユウには学校に関する記憶がなかった。勉強しに行くところということはわかっているらしいが、どんな内容なのか等は一切分からないという。つまり、俺はユウに一つ一つ説明する役を担うということだ。守ってくれてる分のお礼はしないと、とやる気を出した。


「一週間遅くなったが紹介する。みんな仲良くな」

「月見爽です。よろしくおねがいします」


 学校に着くと、担任の先生に促されて自己紹介をした。まばらな拍手が教室に響く。微妙な反応になんとなく不安を抱く。そしてその不安は的中した。


 朝のHRが終わって誰かにノートを借りようかと周りを見るといくつかの人の塊ができている。

 一週間は短いようで長い。その間に友達関係は出来上がってしまっていたのだ。前の席の人に借りようと思ったが、机に突っ伏して寝ている。到底声をかけられるような様子ではない。


「ソウ、どうしたの?」


 純粋な笑顔を浮かべたユウに俺はどう返そうかと頭を抱えた。



♢♢♢♢♢



「きた! 体育の時間だ!」


 数学や英語といった科目は退屈そうにしていたのに、体育の時間になるとユウは楽しそうに鼻歌をうたっていた。ちなみに俺は相変わらず友達を作れず、みんなについていく形で更衣室に行き、運動場にたどり着いた。グラウンドには野球ボールとグローブが用意されている。


「ソウ! あれ何? もしかしてカキーンって打ったりするやつ?」

──あれはグローブ。ボールをキャッチするやつな。もしかしたら今日野球やるのかもな。

 

 どういう仕組みなのか今みたいに俺が念じればユウに声が届くらしい。もし声に出さなければいけなかったら不審者になるはめになっていたので助かった。これ以上、友達が作りにくくなる環境はごめんだ。


「よし、今日はキャッチボールだ! 適当にペア作って投げてくれ!」


 体格の良い体育教師が腰に手を当てて叫び、ホイッスルを鳴らす。その音はまさに地獄の幕開けを意味していた。


 朝の教室でも感じたとおり、すでに友達関係は出来上がっているのだ。声をかける暇もなくペアが作られていく。気づけば俺はみんながキャッチボールしているところを突っ立って見ている生徒になっていた。それを見た先生が俺に声をかける。


「なんだ! お前一緒に組むやつがいないのか」

「えっと……。はい、そうですね」


 ユウがいる手前、肯定したくなかったが仕方ない。状況を理解していないらしいユウの顔をまともに見れなかった。


「そうだな。じゃあ……梅原! お前も一人じゃないか。月見と一緒にペア組んでくれ」


 梅原と呼ばれた生徒を見るとワックスで遊ばせた黒髪にピアスが目に入った。切れ長な赤い目はだるそうに俺を見つめてため息をついた。


「黒髪にピアスだ! かっこいい! ソウの友達?」

──たしかにかっこいい。だけど、友達になれるかはまだわかんないかな。


 俺は努めて人の良い笑顔を浮かべ、梅原に声をかける。


「あの。俺、月見爽」

「知ってる。朝の自己紹介で聞いた」


 梅原はグローブとボールを手にした。やる気がないのかと思っていたが、一緒にキャッチボールをしてくれるらしい。なにより俺の自己紹介を覚えてくれていたことに少し嬉しくなった。

 キャッチボールをするためにある程度の距離をあけて梅原が投げようとしたところで、ふと気づく。


「梅原ー! これ外したほうが良いんじゃね?」


 俺が耳を指さして叫ぶと、しんと周りが静かになる。先程まで生徒同士の声がうるさかったくらいなのに、ほとんどの生徒がこちらを見ていた。何かしたか、と周りを見ているとみんなは視線を逸らしてまたキャッチボールを始めた。俺と同じようにユウも不思議そうに首をかしげている。


「えー、今のなんだったんだろ?」

──さあ? 俺が聞きたい。


 梅原は口をぽかんとあけていたかと思うと、吹き出して笑った。


「ッハハ。さんきゅ」

 

 先程のだるそうな態度とは異なる笑顔に嬉しくなって俺も思わず笑みがこぼれる。

 梅原はピアスを外してポケットにしまうと、ボールをこちらに投げてきた。俺のグローブにすとんと投げられたボールを握り、俺も投げ返す。そんなふうにキャッチボールをしつつ、ぽつりぽつりと話すうちに打ち解けることができた。



 体育が終わって教室に戻ったところで梅原が俺の前の席だったことにようやく気づく。気づくのおせーよ、と言いつつ俺にノートを貸してくれた。ノートには”梅原賢人”と綺麗な字が書かれている。


 梅原は用事があるのか教室の外に出ると、数人の女子が俺のもとへやって来た。


「ねえ。えっと、」

「俺? 月見爽」

「うん。月見くんって梅原くんと仲良いの?」

「体育の授業で初めて話したけど……」

「そっか。あのね、梅原くんってあんま良い噂聞かないから気をつけてね」

「ピアスとかも怖いもんね」


 それだけだからと、女子は言いたいことだけ伝えて去って行った。たぶん善意での行動だろうが、あまり良い気はしない。


「梅原くん、そんな悪い子には見えなかったけどなー」

──俺もそう思うよ。


 女子に直接言えなかった言葉はユウにしか届かなかった。

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