最期の入道雲
『今年人類は滅びるだろう』
突然だが、君はどれだけの回数この言葉を聞いた事があるだろうか。
ちなみに僕は3回。
マヤ文明の人類滅亡説とノストラダムスの大予言、それと――。
「にぃに、はやく〜、にぃにの番だよ〜?」
「分かってるって、これだ!」
「あっ! あーあ、また負けだ……」
おっと失礼、今僕は弟の享と縁側でババ抜きをしている最中だったんだ。
「これで僕の10連勝だね」
「うー、にぃに嫌い!」
はっはっは、享よ兄の偉大さを知ったか。
ん? 何、大人気ないって?
ふっ、獅子は兎を狩る時も全力なのさ。
「お兄ちゃん、少しは負けてあげなさいな」
僕が縁側でふんぞり返っていると、母さんがスイカを持ってきながら呆れた顔でそう言った。
んー、なら今回は1番大きなスイカを享に譲ってやろう。
「ほら享、これやるから機嫌直してくれ」
「んーいいよっ! ゆるす!」
享はニカッとした笑顔でそう答えると、1番大きなスイカを取って僕の隣で齧り付く。
「はむはむ……んっ!? にぃに、あれ入道雲!?」
享はスイカに一心不乱に齧り付いたかと思うと、今度は空を見上げて目を輝かせる。
「あーあれは入道雲だな、となると……母さん、洗濯物は大丈夫?」
奥で何やらラジオを操作している母さんに声をかけると、気の抜けた声で「よろしく〜」とだけ返ってきた。
『ジジッ……我々人類は滅びるでしょう……ジジッ』
「母さん、いい加減そのラジオ替えなよ」
「んーでもねぇ」
ああそうだ、人類滅亡の話だっけか。
「にぃに! 今度は左から入道雲が見えるよ!」
「んなバカな事があるか」
「ほらにぃに、あれ!」
「ん? あーあれは入道雲じゃない、キノコ雲だ」
『ジジッ……速報です、今第……ジジッ……号の核爆弾が投下されました、繰り返します』
僕は人類滅亡説を3回聞いた事がある。
1回目はマヤ文明の滅亡説、2回目はノストラダムスの大予言、そして3回目は……いつものラジオだ。
『ジジッ……続いての速報です、現時刻にて第……ジジッ……号の核爆弾投下場所が決まりました、投下場所は日本です』
「あらあら、やっとうちらの番ね」
「んー? ばくだん今度はこっちに落ちるの?」
「ああそうだよ、次は僕らの番だ」
じゃ、そういう事だから僕達はこれで。
ん? 死ぬのが怖くないのかって?
ははは、君はバカな事を聞くね。
全人類が滅びるのだから、僕達だけ生き残っても仕方ないじゃないか。
『ジジッ……ではさようなら人類、これより最期の核爆弾を投下します』