①
「大人しくでてきやがれっ、もう逃げ場はねぇんだ――わっ」
猫目大作の手に握られていたメガホンが、丘の上から放たれた弾丸によって見るも無残に打ち砕かれると、中のアンプの断末魔のような不協和音が辺り一面に響き渡った。
「猫目チャンっ、ひっこめ!」
間一髪、猫目の頭を押さえて地面に伏せると、私と彼の髪の上を、疾風のようなものが通り過ぎて行った。こちらの咆哮にひるむことなく、相手はバリケードの隙間から執拗にエアガンの弾を浴びせてくる。玩具とはいえかなり威力の強いものだから、打ち所が悪いとひどくはれ上がってしまう。
「――ちきしょう、寄るも地獄、退くも地獄、死ねば天国かァ……」
「のんきなこと言ってる場合か! ――先生、無関係なあなたまで巻き込むようなことになってしまって、申し訳ありません」
山藤悠一は猫目の頭をひっぱたくと、帽子の上をかすめて行った弾丸を恨めしそうに見送ってから、私を巻き込んだことをひどく後悔しながら詫びた。
「オレだって興味本位でくっついてきたんだ、いい年こいた大人なら、自分の始末ぐらいつけられらァ。ま、そうメソメソしなさんな」
無理に笑顔を作って見せると、山藤悠一はわかりました、と、どこか煮え切らない返事をひとつしてから、ホルスターから抜いた拳銃をそっと、暗がりに向けた。
それにしても、とんだ持久戦である。四月の末とはいっても、夜になればまだまだ寒さが身に染みてくる。おまけに、郊外の遮蔽物がない丘陵地帯の一角という地理的要因も加わって、南から吹き付ける風が弱まりもせず、容赦なく体を冷やしてくるからたまらない。
「それにしてもあの三人、どうしてるのかねえ」
胸ポケットにつっこんであったピースの箱から、最後の一本を抜き取って火をつけると、斜面に沿って煙が流れて行った。山藤悠一と猫目大作はしばらく考え込むと、力なく、
「さあ……」
と、動きの読めないこの局面についての返答ともとれる、曖昧模糊とした声を上げたのだった。