表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

『十人十色に恋してます』 第1編「咀嚼」

 早川 葵 著


 性癖というものは人によって全然違うので、それを認めていける世の中になればと思い書かせていただきました。

 少しでも皆さんがもっと他人の価値観を許容できるようになれれば幸いです。

 ちなみに筆者は筋肉(特に腹筋)フェチです。

 皆は「何フェチですか。」と聞かれたら、女性なら匂いや筋肉、手とでもおそらく言うでしょう。男性なら胸や尻、脚などと言うのではないのでしょうか。私という人間は違うのです。私は男性の咀嚼(そしゃく)音を聞くことや、咀嚼された食べ物を見るのが好きなのです。私は咀嚼フェチなのです。

 吐瀉物(としゃぶつ)と咀嚼された食べ物というものは同じように細かくなった食べ物というふうに皆、考えているのかもしれません。

 しかしながら、別に吐瀉物は好きではないのです。なんと説明すればよいのかわかりませんが、吐瀉物には一種の()()()()というものが付きまとうのです。汚さというものは別に感じないのですが、人体のどこかよくわからない場所から食べ物が出てくるというのが不気味なのです。無から有がつくられていくさまを見せつけられていくようとでも言えばいいでしょうか。その様子が私の苦手な神話というものを彷彿させてしまうからなのかもしれません。

 それだけではないのです。吐瀉物というものは唾液だけでなく、胃酸というものが含まれているというのも苦手なのです。

 唾液は苦手ではありません。むしろ好物といえるものです。なぜ唾液に性的興奮を覚えるかは、これまた説明しにくいものでして、男性の唾液というものを口の中に含むのは好きではないのです。不自然に甘く、少々粘着質であるのが苦手なのです。そのため、接吻をするのもあまり好きではないのです。しかし、その唾液というものが食品と交わり変化していく様子を見ることに性的興奮を覚えるのです。ぐちゃぐちゃになり色が変化していくさまはジャクソン・ポロックの抽象画を彷彿とさせ、それが美しく私には見えるのです。

 皆は勿論、私の友人にさえおそらくわかる人間はいないでしょう。

 少々話が脱線してしまったので、話を胃酸に対する嫌悪感についての話に戻させていただきます。

 胃酸というものを私が知ったのは8歳ほどの頃でしょうか。テレビという媒体で動画として胃酸を見てしまったのがおそらく問題だったのでしょう。その胃酸というものは実際の胃酸ではなく、3DCGの()()()()()()()というものだったのです。そうだったのですが、胃酸が沸騰しているように泡をたてて、ポコポコと気泡を生み出すさまが、なにやら()()という液状の生き物がいるように感じてしまったのです。それが自分の身体にも住んでいると思うと身体中に虫酸が走るほど気色が悪いと感じてしまったのです。

 ここまで吐瀉物が苦手な理由を話してきましたが、ここからは咀嚼音や咀嚼された食べ物に性的興奮を覚える理由をお話ししましょう。

 先程言ったとおり、噛み砕かれた食品だったものがポロックの抽象画を彷彿させることが好きだと話しましたが、これについてもう少し喋らせていただきます。

 まず食卓を想像してみてください。食卓には綺麗な食品があると思います。それを箸でつかみ口に入れる、その瞬間まで()()()()として存在しているのです。しかし、口に入れ、1度でも噛んだ瞬間、その()()は別のものに変わるのです。皆さんは何を言っているのかわからないと思います。おそらくそれが当然であり、いわゆる()()()なのです。

 しかし、わたしはその食品が食品でなくなる瞬間こそが美しく感じるのです。人間がまるでシュレッダーにでもなったようで、人間が人間でなくなるような瞬間に立ち会えるのです。皆さんは動物が生まれる瞬間を見たら美しいとも違うなにやら形容しがたい気持ちが生じることでしょう。おそらく、それに近しい感覚です。

 そしてその食品がだんだんと細かくなっていき、分割され、原型をとりとめなくなったところを観ることが性的興奮という観点では一番感じるのです。もともと私は皆さんがいわゆる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものが壊される瞬間を見ることが好きだったというのが理由なのでしょう。

 咀嚼音というものも私は好きなのですが、この理由は明白でして、自分がその男に性的な意味で食べられているような感覚になるからでしょう。別に噛まれることで感じる趣味はありませんが、何故かそう感じてしまうのです。おそらくはその時の小さな唾液の音が私の耳に入っていき、耳という性感体を刺激するというのが一番の理由でしょう。無論、唾液以外の音も耳に入ることによって性的興奮を覚えるのですが、性交の時にも好きである、耳を舐められるという行為に近しく感じる微かな唾液の音が耳に入るというのが一番好きなのです。

 しかし、女性では性的興奮を覚えない理由はよくわからないのです。同性だからという単純な理由ではおそらくないと思います。事実、私自身が食べ物を食しているところを第三者的視点で俯瞰(ふかん)してみると、ある種のマスターベーションをしたような感覚に近しいものを覚えるのです。そのため、なぜ女性では性的興奮を覚えないのかは私の長年の疑問なのです。

 ふと思ったのですが、人間の三大欲求の一つを満たしている姿を愛おしく感じているのかもわかりません。皆も彼氏の寝顔や性交時の顔というものを少なからず愛おしいと感じるでしょう。私からすると、おそらくそれと同じなのです。

 そんなくだらないことを考えながら彼氏が咀嚼している姿を見つめております。私はこの時間が一番の幸せなのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ