28・それからのそれから
白々と夜が明け始めたローマン近郊の街道。
朝早くからローマンの市場へ野菜を乗せた荷車を引いていく農民たちとは反対に、地方方面へ進む幌馬車が一台あった。
「よかったのですか?」
「え? 何が?」
貸し切り馬車の客室でゴシカがふと言った。
「ローマンに残らなくてよかったか、という話です」
「……ふぅ、何度目だ。別にいいと言ってるだろ」
「ですが……」
「それを言うならそっちはどうなんだ。あの魔王に一撃を食らわせた伴士なんて、引く手あまただと思うが」
魔王の竜首を斬り飛ばし、胴体のフォトンを削り取る姿を、大勢が目撃している。
特に最前線の兵士たちの中では戦乙女だと騒ぎ立てている者もいる少なくなく、既に彼女の雷名が轟き始めている。
彼女であれば、どんな役職も思いのままだろう。
「大剣槍弓聖どのの技を見て、自分の実力不足を痛感しました。私は、あの方の領域に近づけているつもりでしたが、実際にはまるで……まるで及んでいなかった。今の私に必要なのは、地位や名声ではなく、修行です」
「そうか……」
明の脳裏に去来するのは、誰よりも地位や名声に拘泥していたオールド・フェイスの姿。
あれを見て明も思うところはあったが、それはゴシカも同じだったのだろう。
「そして何より、私が仕えるのに、あなた以上の人間はいません」
言い切ったゴシカの顔には、強い意志の光があった。
「そうか……だとすれば俺もそうだな」
「え?」
「かたっ苦しい王宮にいるよりは、ゴシカと旅したほうが楽しいと思う」
「ふぇっ……!」
ゴシカが指で押されたカエルのように、すっとんきょうな声を上げた。
「そ、それは、もしやプロポ……」
「そうだ、ゴシカに言わないといけないことがあったんだ」
「ふぇぇぇぇ!?」
ゴシカは頭の上にヤカンを乗せたら音を立てそうなほど顔を真っ赤にして驚愕する。
それほどに、明の顔はどこまでも真剣で、そしてその真摯な瞳でゴシカを見つめていた。
「? 言っていいか?」
「ふぁい!」
「あのな、魔王に使ったフォトンは、【封印】じゃない」
「はい!?」
「俺が使ったのは――」
直後、馬車の幌が膨れ上がるほどの、ゴシカの叫びが轟いた――
「ちぇいさあああああああああああああああああああああああああ!?」
*
ローマンから遥か西方。
深山幽谷という言葉がよく似合う、川から立ち上る霧とそこから突き出した絶険の数々。
岸辺では、人里近くでは聞くことがないような奇怪な鳥の囀りが響く。
太陽を遮るほどの緑の葉の折り重なる密林の奥に、光の卵が淡い光を放っていた。
その中央には二文字の漢字が浮かんでいた。
光が、じんわりと収束していく。
それは朧気に人型となっていき、空か海のように青い肌、灼熱のマグマのように赤い髪を持つ少女の姿となった。
「勇者……パパ!」
【転生】のフォトンによって生まれ変わった魔王グロステクは、そう呟いた。




