19・馴染みの地震
明が地震の衝撃に目を覚ましたのは、早朝だった。
ごく一般的な日本人である彼は、驚きこそしたものの、パニックにはならなかった。
揺れが弱くなった瞬間に、王族御用達のふかふかのベッドから転がり出ると、まずドアを開けた。地震でドアが歪んで出られなくなるのは最悪だからだ。ガスの元栓を気にしなくていいのは、この世界ならでは。
あてがわれていた部屋の外に出ると、外は白々と明けており、その朝日に照らされて、砕け散った窓ガラスの破片があちこちに見えた。
すぐさま、隣に泊まっているはずのゴシカの部屋に飛び込む。
「無事か!」
「ママァーーー!!」
ゴシカは絶叫すると、明に飛びついた。
下着姿で、である。
「お、おい!?」
地震には冷静に対処できた明も、これには目を丸くする。
「ママ! こわい!」
恐怖のあまり、自分がなにをしているかもわかっていないのだろう。
泣きじゃくって、すごい力で抱きしめてくる。胸が押し付けられ、太ももが力いっぱい挟まれる。
そんなん、明の方が冷静じゃなくなる。
もし、昨日抱き着かれたばかりでなかったら、耐えられなかっただろう。
「……だ、大丈夫だゴシカ」
「……うん」
そう答えてから――
「……!」
その顔が真っ赤になった。耳から首までまんべんなく。
「……アキラ、どの……?」
「ゴシカは本当に、泣き虫だな……」
「……!?!?????」
目を白黒させて、即座に飛びのく。
それから自分が下着姿であることに気づいて更に顔を赤くした。パジャマは寝苦しかったのか、例のドロワーズのようなものではなく、真っ黒なレースの上下の下着であった。
――確かに、ゴシカの趣味からしたら、ふんどしよりこっちの方が好きなんだろうが……
普段からゴスロリ姿の彼女を想像し、にやけとも苦笑ともつかぬ表情で一人ごちる明。
一方のゴシカは、布団のシーツを引っぺがし、古代ローマのトーガのように体に巻きつけ、簡易のドレスとした。
「……な、なにかありましたか、アキラ殿」
顔を真っ赤にしたまま、もはやリカバリー不能なのは明らかにもかかわらず、何とか威厳を保とうとしているらしい。
しかし――
ドン、と体が浮くような地震の衝撃。
「ちぇいさっ!?」
ゴシカが悲鳴を上げて、再び飛びついて来た。
部屋の中から、入り口の明まで、まったく無駄のないジャンプで、芸術点の高い飛びつきであった。
「……」
「……」
無言である。
「もう、畏まったキャラ諦めたら……?」
武士の情けである。
「……そ、その……」
ゴシカが、今後のキャラを決めあぐねていると――
「コホン……」
廊下の先で、呆れきった顔のステンシルが立っていた。その隣のフォマルも、髪で表情がほとんど見えないにも関わらず、呆れているように見える。
「……あの、イチャつくのも、時と場合を考えてほしいのよ? とんでもない事態が、起っているんだから――」




