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第8話

椿とはお互いの家を行き来するほどの仲だった。でもそれは僕が「異性」を意識していなかった青い頃までの話。



 生意気事にも小学5年くらいの時から、椿とは人間として、異性として対等でいられるか、釣り合うかどうか悩み始めていた。



そして、椿が僕と関わる上でのメリット、デメリットを打算的に考えた結果として、自然と距離が遠ざかっていった。その距離との間には、二度と相容れないであろう絶対的な溝があり、理解、納得をして大人びて、都合良く諦める理由にしていた。



 椿も意図を汲んで同じように僕と関わる選択肢を破棄したのかはわからない。



 お互いに背を向けて、別々の方向へ歩いていくんだと、今でもそう思っている。だから、今後も交わる道なんてなだろうと決めつけていた。




 その椿が5年ぶりに僕の家の玄関に立っている。短いようで長い年月に感じられる。




 「ママがお裾分けだって」と鍋を差し出す椿の声は、穏やかに流れる河のように落ち着き払っていた。その河に溺れてしまったのか、僕は息苦しさを感じる。



 取り敢えず差し出された鍋を「どうも」と受け取る。椿が「ん」とだけ短く言う。それだけのやり取りのハズなのに、随分と懐かしく感じた。果たして椿も同じことを考えているんだろうか。





「息子と同じ学校でしょ?いつも仲良くしてくれてありがとね椿ちゃん」

 


 僕の心情から、どうしても母が能天気に見える。いつもって、ずっと話してなかったよ。




 見てみろ、椿もバツが悪そうに・・・・・









「いえ、こちらこそトラとは仲良くしてもらってるんで」





 ほーーーーん。あ、そう。へ~。




 いやぁ、怖い。椿さん、確かに、浮かれてる母さんの前で「もうずっと前から関わってないんで」なんて正直に言える空気じゃないけど、でも息を吐くようにそんな台詞が出るなんて、椿、恐ろしい子・・・。






「椿ちゃんならいつでもお嫁にきても大丈夫よ?」



 心の中でうわぁぁって声をだす。もうそれテンプレだよ。幼馴染を困らす親みたいな台詞。椿は苦笑しながら「あはは」と誤魔化していた。




 「ほら、早く上がって上がって」と、身内は普段使用することを禁止された、禁断の来客用ふわふわスリッパを用意しながら母さんが椿へ履くように促す。そこまでされたら「じゃあ、お邪魔します」と言うしかないよなぁ。




「お邪魔します」



 椿は自分の靴を几帳面に揃え、履き心地の良さそうな禁断の来客用ふわふわスリッパへ足を通す。本当に入ってきちゃったよ・・



元凶である母さんは「あら!火点けっぱなしだっわ!」と、慌ただしくパタパタと台所へ引き返していった。



椿は既に制服から普段に着替えていて、2月というまだ寒い時期なのに季節感無視のショートパンツを履き、裾からは黒タイツに覆われた細長い足が伸びている。それが妙に大人びててエチエチなので、黒タイツに覆われた椿の足のその先ではなく、日本の未来(さき)を見据えようと心がける。無理だけど。




「ごめん、なんか親が強引に・・」


「別にいい」



 そのまま無視、という訳にもいかなくなったので、「取り敢えずこっちに」とリビングへ案内をする。椿は珍しいものを見る猫のように周りをキョロキョロさせていた。別に家の中入るのは初めてじゃないのに、と様子を見てると「何も変わってない」と目を少し細める。その目には決して戻る事のない昔の懐かしさと、その事実を噛み締めたような哀愁が漂っていた。



 そうか。家の中を忙しなく伺ってたのは、椿が幼い頃に覚えていた僕の家の中の記憶と、今の家との間違い探しをしていたのか。そう理解した時、それほどの時間が僕たちは間には隔てられていたんだと、改めて実感する。




 「そりゃ、家なんて引っ越すかリフォームでもしなきゃ変わらないって」と、傷物に触れないように冗談を交える。僕の茶番に椿も「そうね」と答えた。





 リビングに案内したあと、一旦椿から受け取ったコンソメの良い匂いが漂う鍋を空いているコンロの上に置き、「はい」とテーブルに配置された椅子の一つを引く。「ん」と、素直にその椅子へ座る。





「「・・・・・・・・・・・・・・」」




 いやなんか喋れよ。と思ったけど、こっち側が家に上がるように誘ったのだから、もてなすのは獅子山家の努めか。




「なんか飲む?」よしよし、及第点だ。



「いらない。うちももうすぐ夕飯ですぐに帰るし」



そうかそうか、それは非常に残念ですねーーーーーwうっぴゃぁぁぁえぴふぉjwd



 早めにこの生き地獄から開放されるとわかった瞬間、数年前のビットコ◯インみたいにテンション瀑上げの高騰ですよ。今が売り時ですよ皆さん。





 その時だった。





 「椿ちゃーん。今ね、椿ちゃんの親に連絡してこのままうちで預かっていいかお願いしたら、そのまま夕飯食べていきなさいって!!」と、電話の子機を持った母さんがキャッキャキャッキャしてご報告してきた。椿も椿で「ではお言葉に甘えて」と言ってるし。



 水を差すとは言うが、心情的には顔面に思っきりぶっかけられた気分だ。シシヤマコインは大暴落ですよ。今が買いですよ皆さん。地獄の片道切符ですけど。




 「飲み物何がある?」と、もうすぐ夕飯だけどすぐに帰らなくなった椿が聞いてきたので、「コーラか緑茶かアセロラドリンクか牛乳」の4つの選択肢を与える。あ、牛乳って言われたら、僕の貴重なカルシウム補給飲料が減ってしまうからお断りさせて頂こう。





「緑茶がいい」




 了解と、冷蔵庫を開けてペットボトルに入った緑茶取り出す。あー牛乳じゃなくて良かったわ〜。




コップは・・・・棚にあるコップを選んでいると、ひとつのコップが目についた。よし、これに注ごう。




 おまたせ、と椿の前に差し出した緑茶入りのコップには、昔に僕と椿がハマっていつも2人で見ていたアニメ「無理キュア」のキャラがプリントされていた。

ブクマ、評価をして頂いた方ありがとうございます(*´꒳`*)

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