第7話
幼馴染椿本格始動開始
午後は必死に食らいつきながら授業を受け、ようやく放課後が訪れた。先生が話す内容の一部が理解できなかったので、家に帰ったら今日はそこを重点的に復習するか。
少し談笑をし、部活がある由樹や柿沼を含むクラスメイトに別れを告げ、帰宅部の僕は昇降口へ向かうために階段を下りる。
また皇さんが待ってるかもしれないと、緊張と期待を心に滲ませながら階段を降りきって靴箱に着く。居ない。まぁ、落ちつけ。どうせ、また昇降口の死角に潜んでいるに違いない。でも、今日は周囲に人がいるので、いい加減そろそろ誰かに目撃されてもおかしくないと思うんだけど。
えーい、ままよ!と心なかで叫びながら昇降口から飛び出すが、後ろから声がかかってくることはなかった。念の為バッと振り返ったけど、皇さんの姿はない。
今日はいないのか・・・・・・。あ、うん、これが当たり前な日常なんだよ!こういうので良いんだよ!寂しがってるんじゃないよもうひとりの僕!心の千年パズルに封印されているであろう人格に注意する。
皇さんと関わっていると心臓に悪い。体も小さければ比例して心臓もノミみたいに小さいので、いずれドクターストップがかかるかもしれない。トコトコと歩いて校門を出たときだった。
「獅子山くん」
「っああぁぁぁぁ!?」
今度はそっち!?なんで毎回現れる場所が違うの!?神出鬼没でホラーなんですけど!!?心臓が体の中で弾むかと思った・・少し寿命が縮みました。
皇さんはニヤニヤしながら「今日は居ないと思ったかしら?」と僕を見た。これあれだ、さっき昇降口から出て後ろを振り向いたの見られたやーつだ。恥ずかしい・・・・恥ずか死ぬ・・。
その後、いつもと同じように誂われたり、週末は何をして過ごしたのかを聞かれ、僕は慌てふためいたり、必死に記憶を掘り起こしながら質問に答えたりしながら帰った。
自宅での自己学習に区切りをつけ、夕飯が出来上がるまで居間でゴロゴロしていると、「トラ、先にお風呂入っちゃいなさい」と母さんに促された。
「へーい」
この家の絶対権力者に逆らう愚行をおかすわけにもいかないので、僕はいそいそと脱衣所へ向かう。ちなみにだけど、我が獅子山家の家庭内ヒエラルキーは頂点から下へ母、妹、猫、父、そして最後に僕の順である。僕はこの家においては人権がないと言っても過言はありません。アマゾネスに迷い込んだと思えば良いだけ。
上着を脱ぐと、貧弱な体が鏡に映し出される。客観的にみても情けない体躯を見る度に、この持ち主が自分である現実にげんなりしてしまう。同時に寒さが肌を刺す。
急いで温かいお湯に浸かるべく、ズボンに手をかけたときだった。
ピンポーンと、妙に緊張してしまうあの音が鳴った。インターホンね。
夕飯前の時間にお客なんて珍しいなと思っていると、母の甲高い「はーーい」という来客に用意された声がしたので、聞き耳を立ててみる。ちなみに全国のお母さんって、お客の訪問とか電話口だと声が2オクターブくらい上がるけどあれなんなん?辛くないのかな。
(あらーーーー!!!久しぶりじゃないぃぃ!!!!)
(本当にそうよぉ、いつぶり!!?)
(あらあらありがとうございますぅ!!!)
(いつも仲良くしてくれてありがとうねぇぇぇ!!)
基本的にバイブス上がった母の大きくて甲高い声しか聞こえない。ってか声デカすぎじゃない?それに、相手は誰だろう。随分と親しげだけど。
(少し上がっていって!)
(いいじゃないいいじゃない)
こんな時間に家に招くのか。教師に自宅訪問される行ないもしていないし僕には関係ないはずだ。家に知らない人がいる空間は苦手なんだよなぁ。一刻も早くお風呂に籠城しなければ。
ズボンを半分降ろしたところで、「トラーーーー、ちょっと来なさい!!」とお呼びがかかった。くそ、風呂に入れって言えば次はこっちに来いとは・・・。
しかし、僕に一体何の用なんだろう。ハ◯ヒに振り回されるキョ◯の気持ちになりながら、やれやれと逆再生で衣類を着て玄関へ向かった。
そこには意外な人物が玄関に立っていた。
「うお?」
両手で赤い鍋を持った椿が立っていた。
長年触れずに遊んでなかったブリキのおもちゃが突然動き出した時のように驚く。この家の中で椿を見るなんて数年ぶりかな。
「ママがお裾分けだって」
昔とかわらず、落ち着いたトーンで話す椿が、逆に新鮮に映った。
いつもご覧頂きありがとうございます!
またまたアクセス数が増えて、話も進んでいないのに何故?と、逆にドン引きております。