第6話
本来の1話分が長くなったので半分にしました。
週明けの月曜日。ただでさえ重い足取りが更に重く感じる。遠くから通学している生徒に敬意を表したい。
僕と皇さんが噂になっていないか心配をしていたけど、杞憂だったようで学内はいつも通りの様子で安心した。
ところで、今更言うことでもないけど皇さんは学校ではとにかく目立つ。見慣れた廊下でも、彼女が歩くだけで舞台のセットであるかのように華々しく映え、その姿を際立たせる。
その感覚は僕だけのものだけではないらしく、「いつ見ても皇さんは神々しいな」と由樹がしみじみ言う。柿沼も同感のようで、うんうんと頷いた。
移動教室のために校内を移動中、廊下で皇さんを見かけた時の一コマだ。
僕の記憶では、入学してから皇さんが他の生徒と一緒にいるところを見かけたことがない。でも、それは仲間はずれやいじめでは無いことははっきりとわかる。
皆同じく、どう接すれば良いのか距離を測りかねているだけだと思う。もしかしたら、親が皇財閥の系列会社に勤めていて、失礼のないように言い聞かせられているのかもしれない。そんな事情もあるのだろうか。だから、下手に会話もできないし、そもそも関わらないほうが一番安全なのかもしれない。
あくまでそれは僕の想像に過ぎないし、勝手な思い込みかもしれないけど。でも、最近皇さんと話すようになって、意外と話しやすいというか、まだまだ謎が多い部分はあるけれど、そんなに構えるほどでもないように思えた。
いつもの3人で歩いていると、皇さんも向かいからこちら側へ歩いてくる。このままいけば、皇さんとすれ違いになるので、緊張しながら進むと、皇さんが近いところで一度僕をさり気なく盗み見た。顔を見ていなきゃ認知できない程小さく微笑み、そしてすれ違う。
そのことが、大事な隠し事を二人だけで共有しているようで、それがいかにも特別なように思えた。お互いに振り向かず、気配だけが遠ざかっていく。自意識過剰かな。目立つのを嫌い、表立って僕に話しかけないようにしただけかもしれないし、あまり自惚れるのはよしておく。
「お、トラ。椿さんだ」
由樹の声にハッとしながら前を見る。確かに、女子生徒数人と会話をしながら廊下を歩く椿の姿があった。身長は女子の中でも高く、顔は昔から変わらず大人びている。皇さん同様椿ともクラスが違うので、校内でもあまり見かける機会は少ない。
「皇さんも綺麗だけど、椿さんも負けないくらい綺麗だよな」
強面でガタイが大きい柿沼が言うと、何か違和感というか似合ってないというか、そこは堅物なキャラでいて欲しいと望む僕がいるのだった。
閑話休題、椿を含む女子生徒たちが、僕と柿沼の間にいる由樹の存在に気づき色めき立つ。なんていうかこう、由樹をみた瞬間にパーーッっと周囲が明るくなるような、そんな感じ。すんげー原辰徳。今年のペナント頑張ってください。
寒いおやじギャグはさておいて、今度は椿とも目が合った。まともに目を見るのは随分久しぶりだなと、率直に思った。別に喧嘩をしているわけでもないし、気まずさというものは一切ない。ただ、顔見知りと目があった程度だ。
ふいっと、椿からすぐ目を逸らした。ああそうですか、何時も通りですよね。
「良いのか?」
由樹の声が飛んでくるが、意図がわからずに柿沼へ向かって言ったのかと推測し、そのまま気にしないでいた。でも、由樹は僕を見ている。
「・・・・・・・え、僕?何のこと?」
柿沼が「ああ・・・」と気の抜けた声を出した後、「そういう事か」と納得した。「そういう事」と、由樹が答え合わせのように言う。・・・・・・どういう事?
「お前好きな人とかいないのか?」
「なんで?別にいないけど」
柿沼の突拍子もない質問に焦る。いやいや、仮にいたとしても言わないよ。照れくさい年頃だよ、言わせないで。実は、ふと皇さんが頭を過ったけど、これが好きなのかどうかがわからない。じゃあ、なんで告白じゃなくプロポーズしたんだろう。うーん、ジレンマですな。
僕の答えが不満だったのか、柿沼と聞いていた由樹まで困ったように目を合わせた。なに、さっきからこの空気。二人だけ答えを知っている前提で出題されたひっかけクイズに、頭を悩ませているようで馬鹿馬鹿しくなってくる。
「どうしたの?」と耐えられず聞いてみると、「いや、苦労してるんだなって」っと由樹。合わせるように「それなー」と柿沼。僕は話の方向がわからないまま「それねー」と流した。
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