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第5話

「獅子山くん」


「ひぃぃぃ!!!!」びっくりじだよぉぉ



 声の主は出入り口の横の壁に寄りかかっていたので、僕からは死角となって全く気づかなかった。



 心臓が裏返ったと思った・・・。驚きすぎて体が跳ねるという初体験を経験した事を後から思い出す事になるけど、それよりも今は声の犯人について頭がいっぱいになった。




 す、皇・・・さん?



「もう帰るのかしら?」


 

 コクコクコクコクと頭を何度も上下に降る。ヘビメタのライブかよ。

 


「ご一緒して良い?」



 ブルブルブルブルと頭を左右に降る。透明人間に往復ビンタされていると勘違いされるかも。



「あら、どうして?もしかして、私と一緒じゃ迷惑かしら?」



 頭を斜めに振る。これはよくわからない。迷惑じゃないけど、皇棗様とご一緒に下校とか恐れ多くて無理です。てか、緊張しすぎて喋り方忘れたかも。




 皇棗様は僕の謎の行動がえらく気に入ったのか、ニコニコしながら手にしたスマホで僕をカメラでパシャリを撮影されなさった。僕のチェキなんて藁人形に貼り付ける以外に需要あるの?




「実は迎えの車が急に故障したの。代わりの車もあるのだけど、せっかくだから歩いて帰ろうと思って、あなたを待ってたのよ?」



「ななななんででですすか」



「獅子山くんと一緒に帰りたいからに決まっているでしょう」




 少し照れてる?ような表情の皇棗様は、同じ年の女の子にみえた。あ、同じ年だったか。まともな思考ができない。でも、それは答えになってない。僕が聞きたいのは、なんで僕なんかと一緒に帰りたいのかって事なんだけどな。




 「とにかく行きましょう」と、皇棗様は歩きだす。僕、まだ一緒に帰ると言ってないんだけどなぁ。




 なんで僕がここまで拒否をするかというと、周囲からの視線だ。当然だよね。あの、誰とも話すところを見たことがな皇棗様が、チビで頼りなさそうな冴えない僕なんかと一緒に下校してるんだもの。UFOが飛んでると同じくらい怪奇な現象だろうなぁ。



 この光景を同じ学校の生徒に見られもしたら・・・・・ある程度覚悟した方が良いかも。








 皇棗様が少し前を歩き、それを僕が追う。百歩譲って一緒に帰るのは良いとして、僕が皇棗様に提供できる会話なんてこれっぽっちもないんですけど・・・・庶民と財閥の跡取りですよ?無理無理、僕このままだと蒸発しちゃう。




 おこがましい事に、後ろから眺める皇棗様の姿につい見惚れてしまう。ゆらゆらと揺れる銀髪の髪は、一本一本が生きているように輝き、左右に曲線を描く。目の錯覚か、髪の先から銀色の小さな光が漏れているように見えた。




 本当に同じ世界に生きているんだろうか?ふと疑問が過る。今、僕の隣に居るのが冗談みたいだ。手を伸ばして触れようとすると、するりとすり抜けてしまうんじゃないかな。




 魅力の海の底へ沈んでいると、意識を網で引き上げられた。




「私ね、入学した当初から獅子山くんをずっと知ってたの」



「!?」



「あら、嘘じゃないわ。本当よ?」



「?」



「気になる?」



「!」



「まだ秘密」



「・・・・」



 なんで皇棗様は心が読めるんだろう。



「ひとつ聞いていい?」



 頷くと、珍しい生き物でも発見したような、期待と好奇心に満ちた顔になる。




「なんで急にプロポーズしたの?」



「ブッフォぉ!!!」



 一番触れられたくない質問だし、回答にも困る。理由は僕にもわからないから。なんなら、タイムリープしてやり直したい。




「あれは、その・・・何て言うか」




 よくわかりませんが勢いです、なんて言えないしどうしよう。何かを言葉にしようとしても、喉に引っかかったまま出てこない。



 やはり僕の心が読めるのか、「わからないのなら別に良いわ」と、そして不快な顔ひとつしないで「あの言葉が後から本心になれば、それで十分よ」と言う。それが僕に向けてなのか、それとも自身に向けてなのかが曖昧に聞こえた。



 自宅まであと数分。相変わらず何を話して良いかがわからず、ただ早くこのまま胃が締め付けられる緊張感から開放されたい、そう願いながら歩いていると、本日二度目の衝撃を味わう事になる。




「獅子山くん、私はあなたの事が好きよ」



「ファァーw」




 友達として!?友達としてって事ですよね!?まぁ、僕と皇棗様が友達かって問われたらそうじゃないってなるけど、Likeの方だよね?



「Loveの方よ」



「いちいち心読むの止めてもらえます!?」



「読んでないわ。顔に書いてあるの」



「くっそ、こんな顔に生んだ親を恨んでやる!あと、こんな小さい体に育った事もついでに!!」



「私はあなたのご両親に感謝しているけど」



「どうして皇さんが僕の両親に感謝するの・・・するんですか?」



「鈍感?そこはここまでの流れで察してくれる?」



 それよりも、と皇さんは間を作り、和らいでいた表情から真面目な表情になる。



「お願いがあるのだけど、今後(・・)私を呼ぶ時は、名字じゃなく名前で呼んでくれるかしら」



 ・・・・・ハードルが高い。皇さん以外の女の子でさえ下の名前で呼ぶのに抵抗があるのに。椿は例外だけど



「いきなりそんな事言われても・・・」



「あら、親しい感じで素敵じゃない。それとも、名前で呼んでくれなきゃ私があなたを下の名前で呼んでも良いのだけれど、虎二郎くん?」



 逡巡してから恐る恐る「な、・・・・なつめさん」と呼んだ。うわ、何これ恥ずかしいんですけど超ウケル~。



 顔に熱が篭るの実感じながら、顔が赤くなってるんだろうなと考えると、羞恥でさらに熱が篭るという悪循環に見舞われる。俯きながら皇さんの顔を伺った。




「~~~~~っ!」



 両腕を交差させて自身を抱くような態勢で、プルプルと小刻みに震えながら目を強く閉じていた。悶てるというよりは、内側から弾けだしそうな何かを抑え込んでいるように見える。



 僕はただ足を止めて、妙に色っぽい皇さんの様子をただ眺めることしかできなかった。




「やるわね、獅子山くん、想像以上よ」



「何がですか!?あと、はぁはぁしながら喋るの止めてもらえません!?」



「私をこうさせたのはあなたが原因じゃない」



「・・・・知りませんよ」




 少し皇さんの変態的な内面が垣間見たタイミングで、丁度僕の自宅の前まで着いた。心底ホッとしていると、皇さんが立ち止まった。




「ここでお別れね。また一緒に帰りましょう」



「え?あ、はい」



 皇さんは「さようなら」と告げ、長い道をカツカツと靴を心地よく鳴らしながら歩いていく。遠くなるまで呆然としながら背中を見送ったが、振り返る事はなかった。




 終始、皇さんのペースに乗せられて、聞きたいことが何も聞けなかった。どうして僕にLoveなんだろうか。



 棗さん、と呟いてみたが、自分の恥ずかしい行動に耐えられなくなり逃げるように自宅の中へ入る。



 あ、一番皇さんに肝心な事を聞き忘れた。



 なんで僕の家の場所知ってるの?



 今は居ない皇さんに問いかけた。


ここ数日間で、アクセス数が一気に増えて正直困惑していますΣ(・□・;)


ただ、成果が数字として現れるのはやはり嬉しいものです。ブクマ、評価して頂きありがとうございます!

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