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第4話

 僕が通う旭高校は、自宅から徒歩圏内の距離に位置しているので、天候が悪い日はバス。それ以外は徒歩で登校する。



 あくびを噛み殺しながら、通い慣れた通学路を歩くいつもの朝。少しでも学校に着くのを遅くしようとノロノロ歩いて抵抗を試みるけど、あざ笑うかのように確実に学校までの距離は縮んでいく。あまり抵抗すると遅刻するので程々にだけど。



 ぼんやりとした意識の中、考えるのは昨日の校舎裏での出来事。あの皇棗様と会話ができるだけで光栄なのに、僕なんかが段階をすっ飛ばしてプロポーズをして、即答でOKの返事をもらえて・・・・



 やっぱりあれは夢だったのか。あるいは拗らせた痛い妄想か。代わり映えの無い朝は、僕を現実的な思考へと引き戻すのに十分な影響力だった。





「おっす。おはよ」





 背後から聞こえる声で、友人の由樹だとわかった。なので、振り向かずそのまま「おはよう」と挨拶を返す。このやり取りも特別じゃないいつも通り。やっぱり夢だったのかな。




 由樹は僕の顔を覗きながら「どうした?」と、僕の心境を敏感に察知する。その敏感さはウィルスの侵入を検知するウィルスバスター並じゃないかと思う。




「別になんでもない。なんか変な夢みちゃって」半分本当で半分嘘。だって昨日のは夢に違いないから。



「どんな夢だ?」



「海がカレーになった世界に飛ばされる夢」これは嘘100%。



「カレーが食べ放題だな」



「でも穀物が育たない土でできてる」



「じゃあナンもダメなのか。拷問だな」



 面白おかしく笑う由樹は、男の僕から見ても爽やかイケメンです。アニメだと、画面の端に綺麗なシャボン玉のような玉がいっぱい散りばめられてると思う。風○君みたいに。




 そうだ。イケメンの由樹なら、皇棗様と面識があるかもしれない。




「なぁ由樹。皇さんと話したことってあったりする?」



「随分唐突だな。しかもあの皇さんって、ないない。無理、関わることがない」



「え?イケメンって、可愛い子と友達じゃないの?」



「随分な偏見だな。ついでに、椿とだって仲良くはない」



「ふーん」



 なんでここで椿(幼馴染)の名前が出てくるんだろう。そっか、一応椿も可愛いというか美人の類なのか。




「おいおいトラ。椿という大事な幼馴染がいながら、皇さんに浮気か?」冗談交じりに茶化してくる。



「浮気も何もそういう関係じゃない上に、僕だって中学からはほとんど話してないよ」



 念のために否定すると、由樹は器用に眉毛を八の字にしながら「はぁ~~」とため息を吐いた。なんですかそのため息は。



 抗議の視線を浴びせると、由樹は「そろそろ急ごうぜ」と話を切り上げて歩くペースを早める。モヤっとした感情が宙に浮いたままだけど、確かにこのままだと遅刻するかもしれないので、不承不承後を付いていった。










 進学校へ入学できたからといっても、僕は地頭は良くないことを自負している。少しでも先生が喋る呪文を聞き逃すと、たちまち授業についていけなくなってしまう。なので、必死に目を剥いて授業をこなして昼休みの時間。



 机に突っ伏していると、由樹ともう1人の友人である柿沼が僕の席までやってきた。柿沼は高校から知り合って仲良くなった。




「トラじゃなくて疲れたチワワだな」と柿沼。



「うるさいよ」



 遠慮なく僕のコンプレックスを弄ってくる柿沼だけど、不思議と不快な気持ちはしない。柔道部に所属していて、体格が人一倍大きい彼が言うのだから、本当に僕は矮躯に映るんだろう。嫌味がないように聞こえるのも納得できる。



 朝の爽やかさをそのまま付着させた由樹が「飯食べようか」と言うと、お決まりのように席をくっつけてそれぞれの昼食を机に並べる。




 柿沼は肉類が多めな全体の色合いが茶色のいかにも、な弁当。更ににコンビニのおにぎりが3つ。さすが、巨躯な柿沼らしいメニューだ。



 由樹も、大きめな弁当箱に目一杯のおかずとご飯が入ったボリューム十分の弁当。やはり運動部だからよく食べるな。でも由樹の場合はサンドイッチとリプトンがお似合いだけど。



 そして僕は、身長を伸ばすためだけに特化した特製弁当。しらすにひじきに煮干しにチーズにお米に牛乳。組み合わせなんて無視した栄養のみを追求したメニューとなっている。




 ではではいただきまーーす。パクパク、モグモグ、ゴクリ。




 由樹と柿沼は「それ本当に美味しいのか?」と疑問を顔に書いた顔で僕を眺めていた。正直、美味しくはないけどまずくもない。これで数ミリでも身長が伸びるなら。ただその思いだけで平らげていく。






 その後も、何事もなく午後の授業を受け放課後。帰宅部には二日間の休みが確約されたなんとも言えない開放感に満ち溢れる時間。




 昇降口へ向かう僕は意識していた。もしかしたら、また皇棗様がいるんじゃないかと。



 階段を降り靴箱の前へたどり着いたが、皇棗様の姿はなかった。




 まぁ、そうだよね。うん、わかってた。



 靴を履いて、昇降口を出たときだった。




「獅子山くん」

ブックマークと評価までして頂いてありがとうございます。・゜・(ノД`)・゜・。


コツコツと頑張ってきます

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