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第34話

 神保町から徒歩15分程度で御茶ノ水に到着した。その間は比奈のお受験の話や、椿が買った本に惹かれた理由を語り、僕はそれを聞いているだけで時間が流れていった。



 神保町もそうだけど、僕の中では御茶ノ水は普段であればまず訪れることのない土地になる。大学は多いけど、まだ高校生の僕には縁がない。




 スマホナビアプリの奴隷になり、指示に従いながら目的の飲食店へと向かう。道中椿が「あれ?こっち?」「あ、逆だ」とぶつぶつ呟き右往左往しながらも、到着したお店は中々にオシャンティなパスタ屋だった。




 僕の外食といったら一般の男子高校生らしくラーメン一択なので、とても場違いな場所に来てしまったような気がする。客層も女性ばかりだ。それに、大人のカップルもいるけど、男性は慣れた感じでオシャレな雰囲気に溶け込んでみえた。垢抜けていないのは僕だけのようで恥かしい。椿は言うまでもなく違和感はない。




 昼の時間から少しズレたおかげか、待つこと無くテーブルへ案内された。




 先程巡っていた書店とは異なり、小気味よいジャズが小音で流れ、間接照明の光が落ち着きを演出していた。でも、椿は店の内装には興味を抱いていないようで、すぐにメニューを開いた。




「お腹空いた」


「朝飯は食べて・・・・きてないよね」そんな時間あるわけないか。遅刻してきたんですもんね。案の定「食べてない」と抑揚のない声がした。



「それじゃ、早めに決めちゃおうか」


「ん」


「背が伸びそうなパスタが良いんだけど」


「さぁ」そんなの知らないと言いたげだった。



 早く決めようかと言った割に悩んだ僕は、無難なボロネーゼパスタを注文し、椿はレモンクリームパスタとか言うハイカラなパスタを注文していた。それって美味しいの?




 パスタが到着するまで椿と向かい合って座っているという状況に、僕は不思議と緊張に似た気持ちを抱いた。なぜ今更緊張なんてするのかと思案してみる。まだ明るい時間に、こうして面と向き合う機会は今までありそうでなかったからかも。



 2人で居る夜の公園は話が別。あの場所には夜の魔法がかかっている。暗い夜の下では、恥じらいの心まで暗い闇で覆い尽くされていると思う。



 真っ昼間に、学校でもなく家でもない場所に2人きりでいる。今更ながら違和感が募る。そして、その違和感は緊張や気まずさに変換されていった。





「お昼食べたらどこに行くの?」



 気まずさから逃れるため、偶然手に触れたものを見境なく投げつける気持ちで思いついた言葉を口にしていた。待ってましたと言わんばかりに「これ」と、椿はトートバックから、一枚のビラを取り出し差し出してきた。



「猫カフェと犬カフェ?」


「うん」



 犬と猫それぞれと触れ合えるカフェが隣接して秋葉原に先月オープンしたらしく、このビラはwebの広告をプリントアウトしたものだった。このビラを見せると、40%OFFになるんだとか。




 そこである事に気づく。




「猫嫌いって克服したの?」



 昔から椿は猫が嫌いというより怖いらしい。我が家の猫は辛うじて大丈夫らしいけど、2匹になったら怖くて無理かもと以前話していた。その際は、うちの猫は分裂なんかしないから大丈夫だと(なだ)めたっけ。




「目的はこっち」と、椿が犬カフェの記事を指差す。


「まぁ、そうだよね。猫カフェはお金払って地獄に行くようなものか」



「そういう事」

 

「どうして猫が苦手なんだっけ?」



「急に噛んだり爪で引っ掻いたりするから」


「うちの猫はそんな事しないぞ」



 決めつけられた言い方に少しムッとする。猫を飼っている代表としてここは抗議しなくてはならない。僕の講義に対して「全ての猫が大人しい訳じゃない」と反論を述べたので、「犬だって同じ事言えるよね」とさらに抗議をすると「うるさい」とだけ呟いた。



「うるさい」の一言で片してしまう椿さん。この様子だと、猫を克服するまでには当分時間がかかりそうだ。




 なんて心の中で思っていると、注文したパスタが到着した。ボロネーゼのトマトソースの酸味とオレガノの香りが鼻を突く。嫌でも食欲をそそられる破壊的な香りに、胃が早く食べろと急かすようにお腹が鳴った。



 椿のパスタも程なくして出てきた。バターとクリームが合わさった香りに、レモンの風味が追加されてパスタというよりはケーキやお菓子の匂いに近いかも。



 2人手を合わせて「いただきます」をしてパスタを口にする。語彙がないけど、パスタの味は言うまでもなく美味かった。



 途中、レモンクリームパスタの味が気になっているのがバレていたのか、唐突に「一口食べる?」と椿が使用しているフォークを差し出されたので、「いらない」とお断りさせて頂いた。



 この時の僕は、パスタを待っている間の気まずさなんてすっかり忘れている事に気づいていなかった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆




 昼食を終えた僕たちは、満足のまま店を出て余韻に浸るようにゆったりとした歩調で秋葉原へと向かっていた。



 パスタの感想を言い合いながらまた15分程度歩くと、遠目からでも二次元の女の子が描かれたアレな広告が見えてきた。




「ここに来るのも久しぶりだな」


「私も」



 ライトノベルや漫画を買う場合は、今や新宿や池袋で事足りてしまうようになったので、なかなか秋葉原まで足を運ぶ機会は滅多になくなった。昔は歩行者天国で賑わっていたらしいけど、今では執拗に警察が巡回するエリアになり、街全体に活気がなくなったのも足が遠のく理由の1つだけど。

 



 「どうする?店とか回る?」と聞くと、「いい」と返事が返ってきた。



 まぁ、僕も椿と一緒じゃここでは買い物し難いし、またの機会にしよう。椿の前で妹がヒロインの小説を堂々と購入するメンタルは持ち合わせていない。人間的信用が失墜しかねます。




 胃に収まったパスタを胃が消化しようと活発に機能しているせいか少し眠気を覚え、椅子に座ってゆったりしたい気分だった。椿も同様だったので、早速犬カフェを目指すことにする。




 再びナビアプリの奴隷となり、今度は分かりやすい道のりもあってスムーズにたどり着く事ができた。



 幸いにも行列はなく、昼食同様に待ち時間もなさそうだ。



 「いざっ」と、椿にしては珍しく興奮気味に意気込みながら犬カフェの扉を開ける。すると、愛想の良い女性の店員さんが出迎えてくれた。



「いらっしゃいませ~何名様でし「バタン!」




 店員さんが言い終えるより先に、椿は開けた扉を閉めてしまった。ちなみにまだ入店はしていない。どうして店の中に入らないんだろう。僕からは椿の背中が邪魔をして、店内の様子を見ることができなかったので理由は不明だ。




 「あの、えー、どうしよ」何故か取り乱している椿へ「どうかしたの?」と伺うと、「こっち」とそのまま向かいの椿が苦手とする宿敵(猫ちゃん)がうじゃうじゃといる猫カフェへと引っ張られた。え?犬カフェに行くんじゃなかったの?







「・・・大丈夫?」


「ダイジョウブ」




 店員さんに案内され、テーブルにつくと早くも2匹の猫による愛らしいお出迎えが待っていた。しかし、大きな揺れが発生する前の初期微動のように、椿は小さくガタガタと震えている。



 一体どうしたんだろうか。気が変わったかのように自ら猫カフェに入っていくなんて。苦手を克服しようと思ったのかな。このタイミングで?



 お互いコーヒーを注文してしばし待つ。



 すると、椿の足元に猫がやってきて、身体を擦りつけていた。本来であれば微笑ましい光景であり、猫カフェへ足を赴いた末の本懐であろうはずが、対して椿の瞳が少しずつ潤んできているのがわかった。喜びや感動の類によるものではないのか確かだ。




「なんで猫カフェに入ったんだよ・・・」




 呆れて尋ねると、「他に頭が回らなかった」と意味不明な供述を述べるだけで、それ以上は何も語ろうとしなかった。





 しかし、椿の謎の行動の答えはすぐに判明する事になる。




「そろそろ・・・・限界」




 椿の膝の上に猫が乗ってきたのが心を折る最大のきっかけになったらしく、早々に会計を済ませて猫カフェを後にする。




 店の扉を開けてすぐだった。向かいの犬カフェからもお客さんが扉を開けて、鉢合わせみたいになる。その相手が皇さんだったのだ。




「あ!」


「あらっ」



 さすがに皇さんもこの偶然には目を見開いて驚いていた。


4月から忙しくバタバタして、なかなか更新できませんでした(;´д`)


それに加え、PCの故障(?)によりキーボードが使えません。スマホで執筆を試みましたが、チマチマと文字を打っていてイライラが溜まってきて諦めました・・・



週末に新しいPCを新調する予定(は未定)なので、もう暫く更新が遅くなりそうですΣ('◉⌓◉’)

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