第27話(第19~25.2話)
タイトルの括弧通り、また少し遡りヒロインサイドです。
1年の期末考査あたりから、皇さんと椿さんがバチバチやり合う直前までのお話となっております。
期末考査に関わらず、私はお父様と交わしたある約束で、どの学力テストでも一位を取らなければいけない。
その為に授業以外での勉強は必須なわけだけど、進学校なだけあって他の生徒の学力はかなり高いし、テストで出題される問題も結構難しい。そのため、屋敷に家庭教師を雇って遅くなるまで勉強をしている。
周りは天才だとか、秀才と称しているみたいだけど、私から言わせてもらうと、ここまで一位を取り続けているのは並々ならぬ努力、そして意地以外何ものでもない。
旭高校では、上位30名の成績優秀者の順位を張紙で公に発表している。個別の成績表を貰うよりも発表が早いので、結果を知りたい私は居ても立ってもいられず、一番に張紙が貼られる掲示板の前で、内心そわそわしながらただその時を待っていた。
そして、教員が一枚の紙を持ってきて掲示板へ貼り付ける。私は平静を装いながら恐る恐る紙を眺める。
"1位 皇 棗 482/500"
・・・・・良かった。純粋に心から安心する。まだ、この高校で生活が続けられる。
身体が弛緩して、この時はさすがに心に羽が生えたように気持ちが軽くなる。不安と恐れでできた重油みたいなドロドロした粘液の濃い液体が、身体の中から全て外に流れ出るような開放感は言葉にならない。
「やっぱり今回も皇さんだったね」
「不動の一位だもんな」
「天才の天才ってやつ?」
「チクショー敵わねー!」
「この俺が3位だと!?」
当たり前じゃない。一位を取らなきゃいけない理由が貴方達とは違うのよ。
早く人気のいない場所で1人ガッツポーズをしたいわ。
余韻に浸るのは良いけど、もうここには用がないのでどこかに移動しましょう。
・・・・・・それにしても、今回の順位が2位の彼女。また名前が唐突に出てきたわね。
"2位 柊 椿 469/500"
この名前には正直恐怖を覚える。たまに30番から20番くらいの順位に名前が載る程度なのに、どういうわけか、気まぐれのようにいきなり2位の順位に名前が上がる時がある。それが、得体の知れないモノに背後から追われているようでとても気味が悪いわ。
それに、柊さんはどうやら獅子山くんとも深い間柄で、「椿は幼い頃からの知り合いで・・・・身内とか家族みたいなもので」と証言してたわね。
もしかしたら、今後私の成績順位一位の座を脅かす存在になるかも。そして、私と獅子山くんとの関係の妨げにも。要注意人物ね。
春休みは、お家の行事に駆り出され、皇財閥としての棗を演じ、触れたくない人達と握手をしたり、愛想を振りまいたりしていたら、呆気なく春休みが終わってしまった。
皇財閥の子会社の役員が、安寧を願うかのように私に向けて挨拶や進級に対しての祝福の言葉を送ってくる。でも、私というフィルターを掻い潜って、少しでも皇財閥に良い印象植えつけようとする意図が透けて見えた。証拠に「お父様にも宜しくお伝え下さい」と決まって皆んな言うわ。わたしは伝書鳩じゃない。
春休みが終わり、新学期が始まる。
どこか色めき立った街とは裏腹に、私の気持ちはちっとも晴れない。なにも新しい事なんて起こしはしないし、期待もしてないから。
クラス割りの発表も、私の名前の前に「獅子山」という名前はなかった。でも、それでいい。私の今までの行動とは矛盾してるけど、私にあまり関わるといろいろ大変だと思うから。
そう割り切っていたつもりだったけど、実際に獅子山くんが柊さんと一緒にいて、楽しそうにお話をしている現場を目撃すると妬けるわね。
さて、どうしたものかしら。
◇◆◇◆◇◆◇◆
期末考査は2位と上出来も良いとこだった。いつも皇さんが一位の座に着いているので、大手キャリアみたいに実質一位と謳っても差し支えない気がする。
今回はすごく勉強した。私の悪いところは、読みたい本があるとテスト前でもその本ばっかり読んじゃって、勉強が疎かになってしまうところ。
でも、普段から授業は真面目に聞いてるし、要領よく勉強しているのかある程度の成績を残すことができていた。真面目に勉強している人には申し訳ないけど。
今日から春休み。
胸騒ぎ?虫の知らせ?みたいな気が起きて、何だか新学期からは忙しくてまともに本を読んでいる時間が取れない気がする。なので春休みの期間中は、虫の知らせに従って図書館に通い、私自身が本の虫となることに決めた。
学校でも本を読んでいると友達に「よく飽きないね?」なんて呆れながら言われる時もあるけど、「うん」といつも言う。だって飽きないから。
正直、私は人付き合いが少し苦手。もちろん、友達の事は好きだし一緒にいて笑って楽しいって思える。けど、やっぱり無理をして塗り固めたメッキが段々と剥がれていく気がする。
そんな時は、物言わぬ本が壮大に語りだす物語に物言わずに更ける。あとは、昔から知り合いのトラが、もう少し私に構ってくれれば文句はないんだけど。
本を読んでいるときと、トラと一緒に話しをしている時が気が楽で心が落ち着いて安心する。心の安定剤みたい。
・・・・・・そういえば結局、皇さんの件は聞きそびれちゃった。でも、ぎこちなくだけど、ちゃんと昔のように接してくれて嬉しい。
もし皇さんにトラを取られたら、また私と話をしなくなるのかな。それは怖い。事実を知るのが怖くて、おいそれと皇さんについて触れることができない。私は臆病者だ。証拠に、トラの連絡先も「教えて」と言えてない。
モヤモヤした気持ちのせいで、自室のベッドに横になりながら足をバタバタをさせているところを、勝手に部屋に侵入してきたママに目撃されちゃった。
今日からいよいよ新学期。
新しいクラスには前から仲の良かった友達と一緒だった。そして、トラとも一緒。
久しぶりにトラと一緒に家まで帰ったし、この間ハンバーグを作って持っていったら美味しいって褒めてくれた。これからまた昔みたいに、他愛もない話しをしたり一緒に遊んだりできたらいいな。
そう浮かれていた矢先。
「5組から転籍してきた皇棗です、これからよろしくお願いします」
そのささやかな願いを阻むように、唐突に皇さんが1組へやってきた。よく見たら、教室に机が1つ増えていた。昨日の夜か朝早くに用意したのかな。
トラは皇さんとずっと行動を共にしている。お昼も2人でどこかに行っちゃうし。せっかく同じクラスになれたのに、昔みたいに無視されているようで悲しい。
帰りもトラは皇さん一緒に帰るみたい。私はまたしても、部活がある日だったけど遠巻きから2人の様子を伺う事にした。はい、尾行です。
校門から堂々と2人で歩いている。その様子を新入生をはじめとする生徒が目を剥いて見ている。私は、その群衆に紛れながら的確な距離を保ちつつ、2人を観察する。
二回目の尾行だけど、その動きは驚くほど板についていると思う。きっと、私の前世は探偵か忍者に違いない。
人が少ない住宅街に差し掛かったところで、皇さんがカバンから何かを取り出した。あれは何かの用紙みたい。なんだろ?トラの顔が尋常じゃないくらいに青ざめている。
・・・・危険かもしれないけど、もう少し近づいて確かめてみよう。調子に乗って、物陰に隠れながらどんどん距離を縮めている時だった。
「ニャーー」
住宅の塀の上に猫ちゃんが歩いていたらしく、飛び降りて私の目の前に急に飛び出してきた。驚いてついカバンを引いたら、端が電柱に当たってガタンとかなり大きな音が響いた。思わず「あっ!」って声が漏れそうになったのを堪える。
「さっきから付け回していたようだけど、ようやく尻尾を出したわね」
私は尻尾なんて生えてないけど。そんな事を言ってるんじゃないよね、わかってる。
「出てきたらどう?」
口ぶりからしてきっと、尾行していたことも、犯人が私である事も気付かれてたんだね。
いつか、面と向き合わなければ行けない日が来ると確信はしてた。それが今日なだけ。
だから、私は大きく息を吐き出して、隠れている電柱から姿を晒す。
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