第24話
「棗さん!?今朝のアレですけど、本当に止めて下さいよ!」
僕の抗議に対して、皇さんは卑しく笑う真似をしながら「秘密のメッセージみたいでドキドキした?」と言ってきたので「ハラハラしましたよ!」と更に抗議を強めた。
そう、今朝、僕の机の上にあったのは数本の長い銀髪だったのだ。
「登校したら机の上に髪の毛が落ちてるとかホラーですよ!?他にやりようがあっでしょう!?頭おかしいんですか!?」
これは最早ちょっとした事案じゃないかと思うほど恐怖を抱いた。だって髪の毛ですよ?いくら珍しい銀髪だからって、流石にドン引きしました。あれですね、だんだんストーカーの行動がエスカレートしていって、髪の毛をポスターの中に入れるとか、そんな感じに怖い。
「粋な計らいよ」
「わぁ、ありがとう。ってバカ?」
生涯初のノリツッコミがこんな場面だなんて思ってもみなかった。
「私の髪はもちろん食べてくれたわよね?」
「もちろん食べてませんけど」隙をみてすぐゴミ箱にポイしました。
変人及び実はアホなんじゃないかと疑っている皇さんは、やっぱり僕の予想の斜め上な思考までイっちゃってる。僕が銀髪を食べていないのが意外だと言わんばかりに「あら、まだ食べてないのね」とか言ってるし。
「まず食べる前提で話すのやめませんか?」
「それよりも獅子山くん。私に何か言うことはある?」
何故か手に持っていたけん玉をカバンの中にしまいながら、確かなる証拠を掴んだような口ぶりで皇さんが僕に問いかけてきた。しれっと流されたけど、髪の毛の件はもう飽きちゃったのかな。結構イカれた事件だったのに。
それよりも皇さんに何か言うこと?
様々な記憶を収納している袋の中から、心当りがある記憶を目を瞑りながら手探りで漁るような心許なさのままで考えてみる。でも、何も手応えも感触も得られないまま時間は過ぎていった。
すると、皇さんが耐えきれなくなったのか「新学期になってから、随分と楽しそうじゃない?」とけしかけてきた。
「そ、そうかな?」
あからさまに狼狽してしまった。そう言われると、確かに新しいクラスにも慣れてきて充実した日々を送っている。
「少し前から、私と一緒にいる時間が減ってしまったのに・・寂しいわ」
「それは・・」
椿と同様にここにも切れるナイフが居ました。違うところは、椿は無自覚に対して、皇さんは自覚して確実に急所を捉えてくる暗殺者であること。
「・・・柊さんとも同じクラスになったのよね?」
「・・っ!」
"なぜここで椿の名前が出てくるんですか!?"と、言いそうになり思い留まる。それよりも皇さんの口ぶりは、僕の学校での生活を見ていたと言わんばかりだった。
要は "私のいないところで随分と楽しそうじゃない" と、皇さんの言葉や態度でビリビリと肌に伝わってくる。
でも、違うクラスになってしまった時点で皇さんと関わる時間も増えない。もちろん、同じクラスになれたら皆で楽しい学校生活を送れたかもしれない。でも、既に決まってしまった事は覆すことはできない。
「まるでクラスの違うヒロインと関わる描写を書こうとするとどうしても放課後になってマンネリ化してしまい挙句の果てに面倒になって無視された上に放置された気分ね」
更に痛い言葉だった。でも、言ってることがよくわからない。描写って何の事?
どんな言葉を返そうか迷っている時だった。
「私、決めたわ」
何かを決意したように宣言する。
「何をですか?」
この場で何を思いついたのかを聞きたかったけど、その前に「明日を楽しみしておいて?」と意味ありげに笑った。その表情に心臓が跳ねてしまい、何も言えないままただ頷くしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の朝のHR。
「5組から転籍してきた皇棗です、これからよろしくお願いします」
困惑した顔の新山先生の横で、涼しい顔で挨拶をする皇さんの姿があった。
静まり返る教室。僕も含め誰もが新山先生同様、困惑していた。何も聞かされていなかった上に、あの皇財閥の令嬢が突如クラスメイトとして転籍してきたというイレギュラー。
皇さんの「明日を楽しみしておいて?」という言葉は、こういう事だったのか・・・。
なんていうか、皇さんの背後で何か強大な力が動いているのではないかと疑ってしまうくらい行動が早い。こうもあっさりとクラスを変えられるものなの?
「そういう事なので、皆さんよろしく」
後は任せたと言わんばかりの新山先生のやっつけ感が伝わってきた。その後に、「獅子山さん以降の生徒は出席番号がひとつ繰り上がります。伴って、席もひとつ後ろにズラして下さい」と指示を飛ばす。
後ろの関口君が「ん?どういう事?」と悩んでいると、皇さんがこちらへ向かって歩いてきた。そのまま僕の後ろ、関口君の目の前で止まった。
そして一言「移動してもらえるかしら?」。
・・・そうか。五十音順で言うと「獅子山」の次が「皇」になるのか。その次が「関口」だから、関口君は一番後ろの席から一番前の席に移動する事になるのか。
慌てながら荷物をまとめて席移動をする関口君をはじめとする約過半数の生徒一同。誰一人文句を言わない。いや、言えないのか。
席がひとつ繰り上がった事によって、椿が僕の隣へと移動になった。その時、椿が無言で困ったような視線を僕に向けてきた。
そんな視線を向けられても僕も困ります。
皇さんは席に着くと、「獅子山くん」と僕に声をかけて「これからよろしくお願いね?」と意味ありげに微笑む。
かくして新たにクラスメイトが増え、新学期は再出発となった。
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