第16話
可能であれば、夜にもう一話投稿します(するとは言ってない)
1限が始まる前の少し空いた時間、机に教科書を並べて授業を受ける準備をしているところに、今日も爽やかクソイケメンの由樹がキキキーと床を滑りながらやってきた。
「獅子山氏!獅子山氏!お知らせがござる!貴殿の幼馴染である椿殿が、昨日にて発症されし風邪の病により本日学校をお休みされたそうでござるぞ!?」
・・・・・・誰?
右手でメガネのブリッジを中指でクイっと上げるジェスチャーをしながら、余った左腕は上斜めにピンと伸びている。どこぞのちびっ子名探偵ですか。由樹はたまにスイッチが入ると、今のように突拍子のない言動や行動をする事が稀にある。本人曰く「ガス抜き」だそうだ。年中体から爽やかな空気を発散させている人間空気洗浄機の台詞とは思えなかった。
ただ、爽やかクソイケメンがこれをやると相当浮くので、是非とも止めさせたほうが良いかもしれない。ほら、柿沼にも奇異な目を向けられてるし。放っておくけど。不思議な事に、女子生徒は見えていないようで、どこぞのAno*herみたいに無視している。随分と都合の良いフィルターですね。
「椿が風邪だからどうかしたの?」
「むむ、心配ではござらんのか?」
あ、まだそれ続けるんだ。
「風邪でしょ?安静にしてると思うし大丈夫でしょ」
「トラがそう言うなら良いけど、案外あっさりしてるんだな」
お、戻ったと思いながら「そうかな」と答える。イマイチ手応えを得られなかった由樹は、そのまま首をかしげながら自席に戻った。
風邪か・・・・まぁ、すこーーーーし心配だけど。
◇◆◇◆◇◆
放課後、黒塗りの高級車が学校から遠ざかっていくのを目撃し、皇さんが既に下校したことを知った僕も特に用事もないのですぐに帰宅した。
大事な期末考査もそう遠くない。既に範囲を記載したプリントが配られた教科もあるので、将来のためにもいつも通り学業に勤しむ。結婚とか結婚とか結婚とかはなるべく考えないようにする。
勉強前だけど喉が乾いたので、冷蔵庫にある飲料を物色しようと下へ降りる。すると、本来は仕事で居ないはずの母さんが買い物袋から大量のジャガイモやら人参やらを取り出して洗っているところだった。
「おかえり、もう帰ってたんだ。いつもより早くない?」
「仕事が半休なのよ」
「ほーーん。ってか、ジャガイモ多くない?一度にそんなに使うの?」
どう見ても家族4人分以上はありそうだけど、指摘する。
「この間のお礼に柊さんとこの分も作るの」と、戸棚から赤い鍋を取りし「肉じゃがを」と言う。
「あっ・・それって」
見覚えのあるお鍋を見て、そこでようやく以前椿を自宅まで送った時、持ち込んだ赤い鍋を持っていなかった事に気がついた。それと同時に、公園での恥ずかしいやら照れくさい出来事を思い出して死にそうになる。赤い鍋は椿がしかけた黒歴史の時限爆弾だ。
「出来たらあんた持っていきなさい」
「ワ、ワイがですか!?」
もう決定事項のような物言いだった。ヒエラルキーの頂点にたつ母様には逆らえない。でも、久々の椿の家に行くのはちょっと抵抗あるという・・・・そう考えると、普通に来た椿ってどんなメンタルしてるんだろう。
母特製の肉じゃがが出来上がるまでの待機時間は、刑罰を言い渡され執行に怯える犯罪者のようだった。その刑罰の名も「肉じゃがが完成次第、椿宅へ届けるの刑」。そのまんまじゃねぇか。
肉じゃがに罪はないので、醤油と味醂が合わさった甘じょっぱい匂いがリビングの充満し、僕の腹の虫はグーグーと悲鳴を轟かせた。母さんは鼻歌を歌いながら終始上機嫌だった。
◇◆◇◆◇◆◇
「気をつけて行ってくるのよ」
母さんは小さな子供に注意するみたいに言う。背は小さいけど僕はもう16歳なんですよ、と思いながら「んじゃ行ってくる」と告げ、家を出た。ちなみに、面倒になりそうなので椿が風邪を引いていることは言わないでおいた。
・・・・・・・・・・着いた。
まぁ、そうなるよね、近いんだもの。1人で歩けば1分もかからない。椿宅は立派な佇まいの一軒家だけど、両親と椿の3人家族の柊家なので、随分と部屋を持て余しているんじゃないかな。
玄関の前の塀に備え付けられたインターホンを押す。すぐに、「は~い」と返事が聞こえたあとに「あらら~?トラくんね?」と声がした。カメラですぐに僕とわかったようだ。
重厚な扉が開いて、中から出てきたのは久しぶりの椿ママだった。最後に覚えている数年前の見た目とほぼほぼ一緒だ・・・・・・若い。
「いらっしゃ~い、久しぶりねトラくん!元気だった?」
「は、はい。お久しぶりです、元気でした」
「今日はどうし・・・・」椿ママが言いかけて口を止める。視線は赤い鍋に向けられていたので、要件を察したようだ。
「あの、この前のお礼で、母が肉じゃがを」
やけに緊張しながら、赤い鍋を差し出す。椿ママは「あらあら、ありがと」と、心底嬉しそうに受け取った。
「トラくん、ロールキャベツ美味しかった?」
「あ、美味しかったです」
うんうん、と笑みを浮かべて「じゃあ、誰が作ったか知ってる?」と、変な質問をしてきた。腹の探り合いが始まったようで違和感がある。
「はい、知ってます」
ただそれだけ言うと、「そっかそっか」と、またまた心底嬉しそうに納得したので、僕も余計な事は言わないでおいた。
このまま帰るのも呆気なくて失礼だと思ったので、「椿の具合はどうですか?」と少し雑談を交えてみる。
「あら?もしかし心配で見に来てくれたの?」
「え、そういう訳では・・・」
「せっかくだから上がって?お見舞いお見舞い♪」
「ちょ、なっ、え!?」
赤い鍋を持ちながら肩で僕を家の中へと押し込む椿ママ。物言わせぬ強引さに、ただされるがままにされてしまった。
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