第12話(5.5話~6.5話)
タイトルの括弧の通り、遡り5.5〜6.5話の間のお話です。
椿さんサイドのストーリーとなっていて、12話を読んだ後に5話辺りから見直して頂くと、また違った視点から楽しめるかなー?なんて企てておりました( ˘ω˘ )
全ての始まりは、お家でママの夕飯の支度を手伝っているときだった。
「そういえば、トラくん、すごく綺麗な子と一緒に歩いてたわよ?」
突然その言葉を聞いた時は、持っていたお皿を落としてしまいそうなるほどビックリした。思わず「いつ!?誰と!?どこで!?」と、食い気味に聞いてしまう。
「今日、綺麗な髪をした子と、通学路で」と、ニヤけながら言われてしまった。ちょっと必死すぎた・・・。
まだ頭が混乱して全然冷静じゃないけど、表面は冷静を装って「きれいな髪?」と聞き返す。少しずつ、少しずつ真実にたどり着くために、絡まった糸を根気よく解いていく。
「そうなのよ~もうね、本当にお人形さんみたいって言うか・・・・・・あ、椿ちゃんも同じくらい可愛いから安心して?」人差し指を立てながらウィンクをするママは、とても今年で40歳になるとは思えないほど見た目が若くて、行動が幼稚だ。
って違う!ママの感想が聞きたいんじゃなくて、もっと具体的な特徴が知りたいの!それに別に不安だなんて言ってないし。
今度はコブ結びになった糸を慎重にほぐすような気持ちで「どんな髪だったの?」と、再び聞き返した。
「髪が長くて~サラサラしてて~珍しい銀髪だったの。そういえば、椿ちゃんと同じ制服だったわね」
「銀髪!?本当に銀髪だったの?」
「そうよ~椿ちゃんは同じ高校だけど知らないの?」
「知ってる。すごい有名人」
ここまで聞いて、旭高校に通う生徒ならピンと来ないほうがおかしい。そもそも、銀髪と言われればあの子しかいない。
"皇棗"さん。
でもなぜトラと?接点なんてなさそうだし、皇さんが学校で誰かと話しているところを、入学してから約1年の間で見かけたことがない。
私ともクラスが違うから、皇財閥の令嬢という事以外はよく知らない。だから、余計になんでトラと一緒に歩いていたのか謎が深まっていく。次は深すぎてたどり着けない海底に答えが潜んでいるような焦れったい気持ちになる。
翌日、私はさっそく行動に出た。放課後、所属している文芸部に顔は出さず、遠巻きからトラの様子を伺う事にした。オブラートに包みましたけど、尾行です。
トラのクラスの教室で待ち伏せをすると、少し経ってトラが1人で出てきた。1人なら尾行には都合が良い。ラッキーラッキー。
教室を出て階段を降り、靴を履き替え、昇降口を出る。その時、トラが急に振り返ったので慌てて身を隠す。危ない・・・後を付けているのがバレちゃうところだった。
トラは誰かと待ち合わせる事もなく、1人で校門へ向かう。学校が終わってから中途半端に時間が経ったせいか、周囲に人はいない。後ろをついていったら、目立ってすぐに見つかりそう。
校門を出たところで、トラの様子が慌ただしくなった。どうかしたのかな?と、眺めていると、私から見て丁度石造りの名盤と重なって見えない誰かとお話をしているみたい。
二人が歩き出したので、私も距離を保ちつつ校門をでて、トラの隣にいる人物を確かめる。すると、後ろ姿でも見惚れてしまうような銀髪をなびかせた皇さんの姿が目に飛び込んだ。
予めママから聞かされていたけど、本当にその現場を目撃すると信じられないというか、衝撃というか、とにかく「どうして?」と疑問符が頭にポンポンと湧いて溢れてくる。
混乱の渦にぐるぐるにされながらも、私は後を追う。二人の関係は観察をしていてもよくわからない。会話が聞こえないので余計にそうなのだけれど、私の目には皇さんが何かを話して、それにトラが翻弄されるように慌てたり照れたり驚いたりしていた。でも、なんだか楽しそう。
心がモヤモヤする。モヤモヤどころじゃない、血がコポコポ泡を立てながら沸騰しそう。なんで私の事はずっと無視をしているのに・・・・・・・。結局トラの家まで皇さんと一緒に帰って、そこでようやく解散した。
ママの言ってた事は本当だった。なんでか無性に悔しい気持ちになって、私は次の行動に出た。
すぐにスーパーへ行き、貴重なお小遣いでキャベツとひき肉、玉ねぎ、念の為ローリエを購入した。調味料等はお家にあるのは知っている。
お家に帰ってからは、普段ママが拠点にしている台所を独占する。今、私が一番自信のあるロールキャベツをこれから作る。それをトラの家に持っていく。ロールキャベツは口実を作るための道具に成り果てちゃった。でも、女の料理は武器とも言うし、オッケーオッケー。
「どうしたの?急にお料理なんて始めて」
二階の掃除を終えたらしいママが、不思議そうな顔で聞いてきた。
「友達が私のロールキャベツを食べてみたいって話になって、作って持っていくことにしたの。お家の分も残しておくから、今日の晩御飯ね」
早く仕上げて、少しでも煮込む時間を長くしたい私は、パパっと手を動かしながら口も動かす。ママは特に追及しないで「頑張ってね」と声援を送る。うん、頑張るよ。
手際よく完成させたロールキャベツを予定通りコトコト煮込ませておく。獅子山家の夕飯の時間はわからないけど、18時頃に行けば多分間に合うと思う。時計を見て時間を確認すると、早くも17時半を少し過ぎていた。
気持ちが焦れる。でも、緊張もするし少し楽しみでもある。怖くもあるし不安でもあるけど、トラの驚く顔を想像すると楽しみでもある。特製のロールキャベツを携えて、久しぶりにトラの家にこれから行く。私、こんなに料理ができるようになったの、と成長を見せつけにいくような高揚感がみなぎる。
短い時間の中で気持ちがコロコロ変わる情緒不安定な中でも、貴重な時間は確実に失われていく。そうだ、着替えなくちゃ。
制服のままエプロンをしていた事に気づいたので、慌てながらパタパタと2階の自室へ駆け込む。深い意味は無いから、と心の中で言い訳をしながら、結構な勝負服に着替えた。ショートパンツは、有難いことに足の長い私にはよく似合う・・・と思う。黒タイツも色気があっていい。深い意味は無いけど。
思いの外服選びに時間を割いていた事に気づいて、私はドタドタと慌てて1階へ下りる。さっきから慌ててばっかり。
結構な量があるホクホクのロールキャベツをタッパーへと詰めている最中だった。
「鍋ごと持っていったら?」
ママの提案だった。「私達の分はタッパーに寄せていきなさい」椿ちゃんはこっちっと、赤い鍋を指さした。
意図がわからずポカーンとしていると、「いいからいいから。時間ないんでしょ?」の一言で、ハッと我に返った。ママの言う通り、時間もないのでその通り鍋を掴んで玄関へ向かう。
「ちょっと行ってくるね」と家を出ようとした時に、わざわざ見送りにきたママが「トラくんとご家族によろしくね」と言ってきた。
「友達」としか言ってないのに、ママはこれから私がトラの家に行くことを確信していた。なので、背中を押してもらった気持ちで「うん、行ってくる」と、心の中でありがとうを含ませた。
恋愛の日間ランキングで2位を頂きました!
なんで?って気持ちですが、これからも頑張っていきますw