注文の多い転生者
転生の神が下界に降りてから二ヶ月がたった頃には、仕事の流れが分かってきた。マニュアルのような物は無く、見学時の記憶のみでなんとかなっていた。
問題だった自分の姿も、力を利用することで、常にスライムにすることが出来た。ファンシーなスライムでは無く、本当にゲル状のスライムだ。
「転生の間へようこそ」
お約束の挨拶をして、一通りの説明をする。
ほとんどの転生者は、自らが死んだことを受け入れられずにやってくる。そのため、ゆっくりと説得していく。ここが本当に面倒くさい。
ただ、もっと面倒な人もいる。それは残念なことに、私と同じ世界の同じ国の人に多い。
どうやら、今回の転生者もその口だ。
「転生するならチートスキル貰えるんですね?」
現実と妄想の区別がついていないようだ。
「必ずしも前世の記憶が残るとは限りません。それはごく稀です。また、転生先の世界が元の世界と別とも決まっていません」
何度かしてきた説明をする。これだけ話せば理解してくれる。
「ってことは、記憶が残ったまま異世界への転生ってだけでレアなんだ!」
理解していないようだ。こういう人には、現実を見せた方が早い。
「あなたは、元の世界に記憶も残らずに転生とします」
早口で希望のチートスキルを羅列していた転生者に、ゆっくりと告げる。理解に時間がかかった様子の転生者は、急に声色が変わった。
「すみません。高望みしました。普通の冒険者でいいです。お願いです。元の世界だけはやめてください」
「次の人生は良いものになるように願っています」
涙を流す転生者は、転生の光の中に消えていった。
転生の先と転生後の記憶、さらにチートスキル付きでなんて、注文の多い転生者ですね。