転生なんてするものか!
私は死んだ。死因は練炭自殺だと思う。
社会不適合者だった私は、どうしようもなく死を選んだ。そのばずだった。
目の前に広がるのは真っ白な世界。神殿のような建物がある。
「ここは……」
何かが私を呼んでいるような気がする。引き寄せられるように神殿へと歩いていくを
「ようこそ転生の間へ」
どこからともなく声が聞こえてくる。おそらく男の声だ。
もしかしたら、私の苦手が現れるかも知れない。私は、薄目で周りの様子を伺う。
「大丈夫。僕はここにいますよ」
おそるおそる近付いてきた声の方向を見ると、そこには誰も居ない。目をちゃんと開いて周りを見渡したが、やはり誰も居ない。
「ここですよ」
視線を下に落とすと、そこには薄水色の不定形があった。いわゆる『スライム』というやつだ。
安心した私は、しゃがんでスライムを凝視した。
「あの、見上げなくて済むのはありがたいのですが、下着が見えてますよ」
私は急いで膝をついて服の裾を整えた。どうやら、ワンピースを着ていたようだ。
「それでは膝が汚れます。私が台に乗りましょう」
そう言うと、スライムの足元がせり上がってきた。
それに合わせて立ち上がると、丁度同じ目線の位置で止まった。
「自己紹介が遅れましたね。私は輪廻転生を管理する者。転生を司る神です」
私はいくつかの疑問と心配を抱いた。
「そうですね。私のこの姿は、私の力で『あなたが接しやすい姿』に見せています。それと、輪廻転生とは言えど、元の種族や世界になるとは限りません」
「考えを読まないでください。私が接しやすいのは、相手の考えを読まないものです」
自称神のスライムは、何やら驚いた表情になった気がする。
「私の力を利用するとは面白いですね。ただ、自称では無いことだけ訂正して、考えを読むのは止めましょう」
どうやら、接しやすい姿というのは視覚的だけでなく、像としての姿も意味しているようだ。ただ、ある程度の調整が聞くようだ。
「あなたの転生について話したいと思いますが、先に言っておきたいことや聞いておきたいことはありますか?」
そう言われると、考えを読んでくれた方が楽だったかも知れない。まあ、余計なことまで考えないように気を使う可能性を考えると、さっきの判断は間違いではないと思える。
「私は転生したくありません」
スライムはやれやれといった顔をすると、くるりと回った。
「さっき言った通り、元の種族や世界とは限りませんよ」
そういう問題では無い。いや、ちょっとは安心したが、それだけでは無い。
「どこの世界に転生しようと、私の苦手は何らかの形で私を苦しめると思うんです」
元の世界は絶対に危険だ。しかし、他の世界でもそれが関わらない保証も無く、関わらなければその世界で孤独になるかも知れない。
「そうですか。ここの時間で一週間まで、転生の猶予が与えられます。その間に色々考えてみてください」
スライムは台座を降りると、付いてくるように促してきた。
着いた先は神殿の二階部分で、さっきまで居た場所が遠目に見える。
「ここで、色々な人の転生を見ていってください。何か思い付くかも知れません」
スライムはそう言うと、天井から白い布を垂らした。その布は向こう側が透けて見える程の薄さだった。
「これを通して見ることで、全てあなたの見やすい姿で見ることが出来ます。これで、安心して見ていてください」
本当に私の転生先は見つかるのだろうか。
人間が苦手な私の転生先は……。