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接触

 ハッカーという職業はアットホームな上に勤務時間も自由なので基本的に日時や曜日の感覚がない。深刻な場合では、徹夜を徹夜と認識する事すらできない。

 そしてライアー少年は明らかにそれに当たる。

 昨晩のハッキング後ライアーは更に深く追跡したが、依然発信源が不明である。いや、正確には発信源は突き止めているのだが、それはあくまでも「その時刻になれば、このようにハッキングする」というプログラムが仕込まれたサーバーであって、相手の情報はほとんど掴めずにいた。

 ただ一つだけ、相手が残してくれた手掛かりはあのパズルゲームにあった。

 大きな時計台の下、一つ大きなあくびをして、その視線を再び手元のスマホに戻した。

 しかし、一体相手の目的は何だろうか?

 あの後改めてサーバーを調べても、破壊されたデータに致命的な物は少ないし、破壊性ウィルスを仕込まれた形跡もない。

『ゴーン。ゴーン......』

 頭上の時計台が午前11時を告げた。

 その知らせを認識した人間んは、ライアーを含めても、恐らく三十と居ない。

 それもそのはず。平日の真っ昼間からデパートで待ち合わせをする事自体異常であるのだから。

「さて」

 手元のスマホで最終確認をした後、ライアーはある場所を目指し歩き出した。

 ライアーがやって来たのはデパート内にあるカフェだった。

 普段店内に客が多いかと言えば、決して多くは無いが、かといって閑古鳥が鳴く程寂れている訳でもないごく一般的なカフェである。

 しかし今日は誰も居ない。こんな誰も来ない時間でも店を開いていなければいけないことには多少の尊敬の念を抱きながらライアーは店内に入った。

 手動で開くドアをくぐり抜けると、ドア上部に設置された呼び鈴が清廉な音を響かせ、来客を店員に知らせる。

 呼び鈴の音を聞きつけ、少ししてから店員が店の奥から現れ、マニュアル通りの問答の後、席へと案内した。

 その際少し制服が着崩れしていた事や、手に微かな

スナック菓子の

 案内されるがまま、ライアーは両サイドがソファー型座席のテーブル席に座った。

 店内にBGMとして流れるクラシックや、ダークブラウンのテーブルの醸し出すレトロな雰囲気は不思議と心を落ち着かせる。

(ここに来るのも久し振りだね。)

 レトロな雰囲気を楽しみつつ、テーブル上に置かれたメニューを手に取り、注文を決める。

(ああ、ここも変わって無いんだね......)

 ライアーは店員を呼び、メニューにあった紅茶のエスプレッソをアイスで注文した。

 せっかくレトロな雰囲気を楽しんでいる最中、メニューに表示された一円減らして数百九十九円という家電量販店の様な表示と、消費税の変動に影響されない様にするためか、少しでも値段を安く見せるためか、表示された数字の横に付く小さな+税の文字は、ロンドンでの優雅ティータイムを不景気な日本でのひとコマに世界最高峰のクレーン車もびっくりの勢いで引きずり戻してくれる。

 これが正しい商法だと言われればそれまでだから、思ったとしてもそっと心の奥にしまっておく。

 こうして日本という国は表面上の平和を保ちながら、世界で最もストレスの溜まる国となっていく。

 そんな現実的プラグマチックな事を考えていると、注文の品が運ばれて来た。

 アイスだが、薄いながらも柑橘系の果物を絞った香りがグラスから立ち込める。

(昔とある筋から聞いたことがある。ここは豆や茶葉を冷凍庫で保存する事によって香りが損なわれず、上品質なまま保存しているらしい。)

 グラスに付属のガムシロップを一つ入れ、ストローでよくかき混ぜてからストローで一口吸い上げ、口に含む。

 レモンとガムシロップが混ざりあった甘酸っぱい味と紅茶の香ばしい香りが味覚と嗅覚を刺激する。

 しばらく紅茶の余韻に浸ると、ドアベルが鳴り響いた。

 今度はライアーが既に店に入っていたからか、ライアーの時の様な不備はない。

 ドアの向こうから現れた女性は、店内を一通り見渡すと、出てきた店員の誘導を片手で制し、迷い無くライアーの座る席のライアーの向かい側に腰をおろした。

 隠しきれないほどの驚きを顔に出さないよう、ライアーは飲みかけの紅茶の入ったグラスから出っ張ってるストローに口を付け、一口吸い上げ、それを口に含んだ。

 グラスの中身の六割近くを占めていた氷によって冷やされた紅茶は、混乱でオーバーヒートしかけた頭から余計な熱を逃がしてくれる。口に含んだ紅茶が体温近くまで温まると、頭の中身もある程度整理がついた。

 例え自分が丹精込めて作り上げたハイスペックPCがハッキングされても顔のパーツを何一つ動かさなかった天才ハッカーがなぜここまで動揺したのかには当然ながら理由が存在する。

 まず一つは、相手があまりにも意外な見た目をした女性であった事。

 その容姿は、メッキを施したのかと見惑うほどの輝く銀髪を結ぶ事無く腰まで下げた絶世の美少女と言っても世界中の人間(男性の同性愛者は除く)が同意するであろう美貌の持ち主だった。

 シミ一つ無い透明な肌を同じく真っ白なワンピースで包み、みずみずしい桜色の唇は固く結ばれ、言葉を発しようとしている意志は見えるが、それを理性で抑え込んでいるようだ。

 宝石の様に透き通ったコバルトブルーの瞳は無駄に動く事無くじっとこちらの反応を伺っている。

 要するに、美し過ぎる異性に出会った時の生物の本能による物。

 もう一つの理由は、このような女性が天才ハッカーとまで呼ばれた自分の作り出した中でも最上位のセキュリティをあそこまで突破できたということ。

 ライアーの様に過去の出来事からなる場合はともかく、これほどまでの美貌の持ち主はまず進まない道である。

 そして最後の一つ。

(まさか......いや、やはりそのようなハズは......)

 ライアー首を左右に振って、混乱した最後の理由を否定し、脳内から削除する。

 目の前の女性が店内に入ってから時間にして一分足らず。

 ライアーのグラスに入った紅茶もそろそろ半分を切る頃、誰にも知られず電脳世界で史上最高レベルの攻防を繰り広げた二人の初めての会話がこの一言で始まった。

遅れて申し訳ありません(汗)。学校は名目上は夏休みに入ったのですが、全員強制参加の補習があったり、部活以外にも休日出勤があったりと、忙しくてたまった物ではありません(苦笑)。

皆さんも熱中症にはご注意下さい(作者はまだ今の所大丈夫)。

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