ファーストコンタクト
人は、働かざる者食うべからずと言う。
実に的を得た言葉だ。だが、そうなると、銀行経営者はどうなる?
人々は生活資金が不足になり、銀行から借りる事がある。
その際に利子をもらう事によって銀行は儲かる。
この一連の動作で、銀行経営者は一体どこで働いたのだろうか?
銀行の警備?
いいえ、それは先ほどの利子で賄っています。
もっと多くの人々が財産を預てくれるための発案?
いいえ、それはその道の専門家を雇って利子で給料を支払っています。
では彼らは何をしてお金を稼いでいるのでしょうか?
そう聞かれたら彼らはきっと口々に違う事を述べるでしょう。
しかしながら、それが本当かどうか分からないのが現在の世の中である。
こう例えてみましょう。
某大手銀行経営者の山田さんがいます。
山田さんはお金を持っています。一万や二万じゃありません。数億、数十億、数百億です。
某大手ニュースキャスターの吉田さんがいます。
吉田さんはアイドルが大好きです。
某人気アイドルの田中さんがいます。
田中さんはアイドル期間中に最大で一億稼げると噂される大人気アイドルです。
ある日吉田さんのところに山田さんが仕事でミスをして、たくさんの人に迷惑を掛けたという情報が入って来ました。
吉田さんはすぐに報道の準備をしました。
そんな所に山田さんがやって来ました。
山田さんは吉田さんにミスの事を黙っているよう頼みました。
吉田さんは報道すると言って断りました。
山田さんは「鈴木さんと会わせてあげますから」と言いました。
報道の準備が整うまで少し時間があるので吉田さんは了解しました。
山田さんは約束通り吉田さんに田中さんを紹介しました。
そして山田さんは気を利かせて吉田さんと田中さんを二人切りになれる場所に連れて行きました。
実は今回吉田さんに田中さんを会わせるために、山田さんは田中さんの事務所に二億の寄付をしました。
山田さんはその事を事前に吉田さんに伝えてありました。
その後鈴木さんがどうなり、山田さんのミスがどうなるかはもうお分かり頂けただろうか。
このように、人生にはいくらでも理不尽な出来事が待っています。
学校の先生は皆さんにこう教えます。努力する人が幸せを掴むのだと。しかしそれは嘘です。
働かなくとも食って行けるし、努力したからと言って幸せは掴めるとは限りません。
世界とは山田さんのような持っている人種が吉田さんのような人種を田中さんのような操りやすい人種を操り、田中さんのような持っていない人種をひたすら食い物にする世の中である。
アインシュタインはかつて言っていました。
「第三次世界大戦でどのような兵器が使われるか私には分かりませんが、第四次世界大戦は必ず石と棍棒によって行われるだろう」と。
つまり第三次の時点で世界は滅びる。
人間は数々の綺麗事を並べて自らを正当化するが、根本的な部分ではそういった自分さえ良ければいい利己的な物であり、そこに善悪は基本的に存在しない。
自分の利益を考えるのは人間である以前に一種の生物として当たり前な事である。
例えばサソリは、自らの空腹を解消するために自らの交尾相手だろうが子供だろうが容赦無く食い物にする。
アニメとかでよく見る自分を犠牲にして仲間を救う主人公がいるが、あれも自分が好きな仲間が殺されたくないからやっているだけで、救われる仲間の気持ち何か考えちゃいない。
人間は自らの存在理由を考え続け、数多くの哲学者が十人十色の回答を述べるでしょう。
しかしそれはどれも本質の一部に過ぎない。
ならば本質とは何か?
答えはそんな物どこにも存在しやしない。
あるわけないでしょう。
人間だろうが何だろうが存在するのはその両親が倫理的思考の全てを忘れ、本能の赴くまま生殖行為を行って出来た物。
要するにオスとメスが好き勝手にズッコンバッコンした結果の産物でしかない。
「と、頭では理解しているけど、これはさすがに気分が良くならないね」
とあるマンションのとある部屋にて、少年は自らのパソコンに表示されたデータをブルーライトカットメガネのレンズ越しに覗いていた。
画面に表示されたデータを見て気分が最低値まで下がったため、少しでも気分を良くしようと、正当化しようとしたが、結果は失敗である。
部屋の明かりは何年も使用した事により、その輝きは、当初のそれより大分色褪せている。恐らくもう長くは持たないだろう。
パソコンのマザーボードの廃熱処理をする冷却ファンの音だけがやたらとはっきり聞こえるのは、このそこそこ広いマンションに少年以外誰もいないのと、現在の時刻が午前三時という社畜や作家や自宅警備員と呼ばれる人種以外の人間がほとんど眠りについている時間だというのもその理由の一つである。
「結婚式では『愛を誓う』とか結婚前では散々愛をささやく癖に結婚したらこれとは人間はおかしい生き物だね」
まあ、僕もそんなおかしな種族の人間の一人だけど。と、少年はその言葉を最後にオーストラリアの衛星経由で表示されていたデータをあるアドレスに送信した。
「しかし、ここまでやりるかね?普通」
少年はハアと一息つき、先程送信したデータを表示していたウィンドウを閉じ、アイコン以外無地のホーム画面に戻すと、パソコンをスリープモードに移行し、キッチンに設置した冷蔵庫の中からエナジードリンクを取り出し、中身のおよそ半分を一気に飲み干した。
「普通なら深夜アニメのチェックだったり、アニメブログの更新をする時間帯だろうけど、僕はそういうのやれない人種だからなぁ」
少年はソファーの隣に置いてあったリモコンを手に取り、テレビの電源を入れた。
この時間帯は丁度海外番組を紹介するバラエティーの再放送をやっている時間だったらしく、モニターには怒り狂う女性と、そんな事など露知らず別の女性とパーティーで熱烈なキスを楽しんでいた女性の夫である男性が写し出されていた。
「この番組をやる人も正気じゃないけど、僕もやってることはほぼ同じ事を趣味でやっているから正気じゃないのは同じなんですよねぇ」
残りのエナジードリンクを味わいながら、少年は崩れ落ちる愛とフルボッコにされる男性の映像が映るモニターを見て僅かに口角の位置を上昇させた。
少年が何故18という若さで都会のエントランスで家主から許可を貰わない限り入れない様な高級マンションに一人で住んでいるのか?
その理由は、
少年が凄腕のハッカーだから。
実際、少年が依頼されたデータを獲得し損ねた事は一度も無い。
そのため、裏業界では少年のハッカーとしての名前:ライアーを知らない者は少ない。
そもそも自分のいる国とは異なる特定の国の衛星を使う事は出来ないし、ましてやそれを使った事が発覚しない時点で少年の手腕は明らかである。
少年は自営のサイトでユーザーの個人掲示板に書き込まれた夫婦の浮気調査を確認し、依頼を受けたら依頼料先払いでその対象のパソコンやスマートフォンなどのデータをハッキングし、それを依頼人へ送信する事である。
つい先ほども依頼された男性の浮気調査をしていたところ、スマホやパソコン、パソコンに繋がれたハードディスクからはテキストにしても五十メガバイト程まで昇るメール履歴が検出され(通常のテキストファイルでは一メガバイトでおよそ二万字。五十メガバイトでおよそ百万字)、あろうことかその写真や動画のフォルダには夜の営みの記録が一瞬業者なのでは?とすら思わせる程膨大な数があった。
しかもほとんどが違う女性との単独のものだったため、同時複数股確定。
一見非効果的だが、実際これはかなり重要性の高い事である。
データを入手した依頼人は相手にこれを突き付けて問い詰めることもよし、圧倒的に有利な裁判をするもよし。脳に発達障害を抱えた小学生を弁護士に雇わない限りは。
だがこれは、あくまで趣味であって、メイン収入源は他にある。
例え犯罪だと言われようとも、複数の国の衛星経由で送信されたデータの特定など出来ないし、特定されたとしても、それより先に少年自身が特定された事に気付き、その圧倒的なプログラミング技術で的確にパソコンのデータを消去し、消去不能なデータはそれを管理するメモリーごと破壊する。
何故パソコンごと破壊しないのかというと、それだと買い替えた時期から更に疑いが掛けられるリスクがあるし、何よりーーーコストが掛かる。
マザーボードから組み立てれば多少は安く上がるが、それでもやはり値段としてはバカにならない。
趣味でそんなにコストを掛ける気はさらさら無いので、多少の手間は惜しまない。
「うわぁーひでぇ」
男性が現妻にボコボコにされ、浮気相手に見捨てられ、這いつくばって泣いている姿を見て、少年は思わずドン引きの声を漏らす。
ーー本当なら僕もこんな事仕出かしてもおかしくない時期になるハズなんだろうな。
そう思ったとたんに少年の顔から浮気をした男性を見て浮かべた僅かな笑みが消えた。
「本当、何やってるんだろう」
エナジードリンクの最後の一口を一気に喉に流し込み、僅かに残るエナジードリンク独特の香りの余韻を楽しみながら、テレビを消し、少年は再び自室へと戻った。
「さて。次の仕事は......ん?」
自営サイトの掲示板の画面をマウスでスクロールさせながら掲示板いっぱいに書かれた依頼のリンクの中から次に引き裂くカップルをセレクトしていると、突如パソコンの中央に黒い背景に白い文字で様々なデータが表示され、所々赤い文字でエラーを示した中央に大きく『ERRO』の文字が表示されたウィンドウが本体の熱暴走や画面のフリーズなどといった前触れもなく現れた。
そして『ERRO』のウィンドウは第一のウィンドウが開いたのをきっかけにまるで塞き止められていたダムの水がダムの決壊により一気に雪崩れ込んで来たかの様にモニターのあちこちに表示される内容は違うが、システムエラーを示すウィンドウが次々ととてつもない速さで出現し、二秒もしない内に画面の9割を『ERRO』のウィンドウに占拠され、スピーカーからはキィィィンという甲高いエラー音が鳴り響く中、少年は無表情なまま机の引き出しから黒い本体に青い電子配線に似せたが装飾されているイヤーマフを取り出し、エラー音から耳を保護するため、それを装着した。
「手当たり次第か僕に宛てた嫌がらせか分からないけど、相手が悪かったね」
少年は持ち前のブラインドタッチを駆使し、そのタイピング検定一級の実力を存分に発揮した。
「管理者権限一部奪還完了。第一ダミーサーバー展開」
持ち前のタイピング検定一級をも上回るブラインドタッチによる圧倒的速度のキーボード捌きによって定価千円と行かないチープあコード有のキーボードはSF映画のハッカーも自主的に引退を考えさせるほどの精密かつアクティブな指令を次々とマシンガン一斉掃射の如きキーボードによって奏でられる打撃音と共に文字通り打ち込んで行く。
コマンドを打ち込むことおよそ五秒。
相手のハッカーは少年のパソコンから少年が使い捨て出来るようカスタマイズしたダミーサーバーへと誘導され、少年のパソコンから「ERRO」ウィンドウの増加がまるでフリーズしたかのようにピタリと止まった。
ダミーサーバーにはこういった場合の時間稼ぎのため多少なりとも価値あるデータが保存されており、ファイヤーウォールや暗号ロックといったパソコン本体より少ししか劣らないセキュリティが相手により本体を攻撃しているという手応えを与え、本体への進攻を食い止める。
多少の犠牲は避けられないが、時間は確実に稼ぐ事ができる。
誘導が成功した事を確認すると、『ERRO』ウィンドウの黒い背景に少年の生命感の薄い目がパソコンからの光を反射し、凶悪な光発している様に写り込んだ。
優れた殺し屋がターゲットに生まれた僅か数瞬の隙を逃がさない様に、優れたハッカーもまたよそ見をしている相手に容赦はしない。
少年は右手をマウスに、左手をキーボードに置き、少年が制作した独自のコマンドを打ち込むためのウィンドウを開き、そこにコマンドを打ち込んで行く。こういった事態をも想定し、少年はあらかじめ全てのシステムに細かく診断、初期化、削除の操作をコマンド一つで実行できる様にカスタムしてある。
システムの初期化や、完全に壊されたデータをファイルごと削除するなどの被害はあるが、現実とSF映画は違うので仕方ない。
そうこうしている内にさっきまで『ERRO』ウィンドウで占拠されていたモニターはたちまち青い無地のデスクトップ画面に戻った。
「なかなかやる様だけど、相手が悪かったね」
ハッキングによるパソコンのエラーを解消したところで、少年は鼻歌を歌いながら、パソコンの右側に置いてある百均にて購入した半透明のアクリル製の小さな引き出しの中から一枚の薄い緑色の板を取り出した。
よく見ると、板にはかなり精密な電子配線が施されてあるメモリーカードだった。
そしてメモリーカードには、配線の上から黒く達筆な字で『本気です!』とふりがなまでご丁寧に書かれていた。
少年は少し目を細めると、それをパソコンの本体に挿し込み、モニターからそのメモリーカードに少年が仕込んだ逆探知プログラムのアイコンが出現すると、少年はマウスでそれをダブルクリックし、開いた。
開いたウィンドウにはいくつものステータスバーが付いていて、その進行度合いを示すバーは右から左へ白から青に、右下の進行度合いを示す数字が目にも止まらない速さでその桁を増やして行った。
やがて全てのバーが真っ青になり、モニターの中央に『発信源特定完了』のウィンドウが開き、これが示す答えはただ一つ。
「勝負あったね」
少年は仕上げとばかりに軽くキーボードの『enter』キーを叩き、パソコンに逆探知結果を表示させる指令を出した。
「中国の山奥に、アメリカの衛星、イギリスの街中…」
相手が経由地点にした場所を調べて行く内に、少年はある事に気が付いた。
自分は最初から誘導されていた、と。
経由地点にされていたサーバーにはそれぞれ幾つかの奇妙なデータが残されていた。
そのデータはどれもそれだけでは何の意味もない、例え管理者がチェックしたところでどこかのエラーで生じたバグだろうと気にも止めない程のただのプログラム言語の一部に過ぎないのだが、それらを繋ぎ合わせる事で一つのプログラムが完成する。
しかしそのプログラムは、システムを狂わせる様なウィルスでも無ければ、こちらの居場所を特定するプログラムでもない。
何の変轍もないパズルゲームだったのだ。
しかも繊細なグラフィックなどは一切無いチープな液晶ゲーム機の様な薄っぺらい絵をただ組み合わせるだけのゲーム。
ただ、このゲームは少しだけ特殊であった。
このゲームは、レベルに合わせて幾つかのピースが用意され、そのピースの方向を変えたりして組み合わせる事で、幾つかの文字の絵が完成し、更にその文字を並び替え、隠された言葉を完成させて初めてクリアとなる少しだけ変わったゲーム。
一見少し変わったパズルゲームだなと片付くのだが、問題はこのゲームのデータが、今は少年を含めた二人の下にしか絶対に存在しないハズのデータであるからだ。
少年も最初はどこかの企業が偶然開発したのかとも思ったが、グラフィックがこれではまず商品にならないし、このタイミングでここに現れる訳がない。
「考えても仕方がない、か」
少年は念のため、更にパソコンのセキュリティを強化し、いつでもコードを抜いて重要なデータを守れるよう、外部ハードディスクを手元に寄せた状態で、パズルゲームをプレイし始めた。
ある意味では、現在この世界で最もこのゲームに詳しいのは、少年なのかもしれない。
なので、ものの一分もしない内に隠された文字が全て浮かび上がり、少年はそれを一つ一つマウスで並べていった。
そして完成した隠されたキーワードとは...
「『タスケテクダサイ』か」
これが少年......天才ハッカーと呼ばれたライアーとその進む道を完全に変えたある存在とのファーストコンタクトであった。
皆さんお久しぶりです。いきなりですが、ペンネーム変えました。
前のは読みにくい上に覚えにくいという指摘を受けたので、今度は分かりやすい物にしました。
この新作では、前作の様なご都合主義展開は一切予定しておりませんので、ご了承ください。
更新は不定期です。




