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戦争犬の収穫

白布を纏った小人族(ハフリンガ)の遺体は12体。


2体は私が斬った。後10体は分隊長が倒したのだが損壊の激しい遺体が4体ある。あの手裏剣(スローイングダガー)での戦果だと思う。初手の一投で炸裂して血煙が上がっていたのを見れば、尋常じゃない何かが仕込まれた手裏剣だとわかる。


一方でラウラ分隊長が注目したのは私の斬った2人目の遺体だった。


「鮮やかな斬り口だな。コレは「魔刃」によるものだよ。」


「なんですか?それ?」


分隊長は、やれやれと肩をすくめ目のあたりを手で覆ってみせた。ちょっとモヤッとする。カーとかガーとかバーン以外の言葉で説明していただきたいよ。


「魔刃というのは文字通り、魔力の刃だよ。魔力親和性の高い金属に魔力を染み込ませ、あるいはただの鋼に魔力を纏いつかせて斬れ味を飛躍的にあげる技だな。魔力配分の次のステップだよ。」


ほほう。もしかして私、誉められるてる?凄いことやってのけた?


「コレを意図してやってのけたのなら素直に称賛するのだが…。ぶっちゃけお前なにも考えてなかったろう?色々すっ飛ばしてるから再現性がない。」


はい。無我夢中というか、怒りのあまりの結果です。でもちょっと分隊長の言ってたカーっときてガーってくる感じはわかった気がするんですよ。


「ふむ。たしかに魔素を燃やして魔力を生成することが出来たのは間違いないな。」


カーッときてガーッと湧いてきた力でギャーンと刀を振りましたよ。ここは誉めていただきたい。私は誉めれば伸びる子のはずです。


「…ん?お前、今も魔力生成中だな。あまり魔力生成続けてると、すぐにでも衰弱死するぞ。」


止めて!今すぐカーッのガーッての止めて!


「もう少し気持ちが落ち着けば勝手に止まるだろう。身体も心も興奮状態だから調節がうまく行ってないだけだ。」


くっ。この身を焦がして魔力が溢れている。封印をせねばならん!とか厨二病セリフが思い浮かびましたよ。ええ。




「ところで分隊長。あの爆発するダガーはなんですか?魔道具とかいったものなんですか?それとも魔法?」


「私は魔法は使えないよ。魔道具でもない。あれはただの鉄のダガーに魔力を限界まで充填して、別の魔力体に当たったら限界超えて魔力が暴発するという技だな。魔力配分や魔刃のもう一個先の技だな。」


「…うぅむ。」


「魔力を熾すだけでなく手指に送り込むように…寒い時に手をこすり合わせて手指に血を送るように、そしてその体温を刀に伝えるようしてやれば魔刃は作られる。つながり触れていることに集中していけばいい。ただの鋼ではそのつながりも希薄なのだが、神威鋼や黒鋼、聖銀鋼のような親和性の高い金属ならば、そのつながりも比べ物にならないほど強固となる。」


「刀とのつながり…体温を染み込ませる感じ?…」


「お前は本来、魔刃を作りにくい鋼の刀で魔刃をつくりあげたのだ。魔刃の形成が易い魔力親和鋼ならば、すぐに覚えることができるだろう。」


「無我夢中でも一度成功したなら身体のどこかで覚えていると?」


「そうだとも。先に身体が覚えたのなら、理屈は後からでもついてくる。よし。今後、お前には魔力を活用する戦技を教えていこう。」


「はい。ありがとうございます。」


「まずは形からだな。今夜にでも私の自慢の一振りの刀を渡そう。お前は今から魔素から魔力を熾す練習をずっとしていろ。異界人の魔素の量はよく知ってる。10日ほど魔力を熾しても死なないこともわかってる。だから安心して魔力を熾せ。魔素を燃やした勢いと熱量のままに、全身をめぐる血液に乗せて巡らせろ。」


「了解いたしました。」


今もたしかに、何か隙間みたいなところから染み出してくるような熱を感じている。ゆっくりと閉じかけてるのが、なんとなく伝わってくる。そこに焦点(フォーカス)を合わせるように、指に刺さったトゲを抜くようにジクジクと広げていく感じ。


うん。意識の焦点を合わせたことで熱量が増えていく。蛇口をイメージしてみるといいのだろうか。いやむしろガスコンロでとろ火を続けるイメージだろうか。さっきは強火で一気に沸きたつ感じだった。頭の中で頭蓋骨の内側をガスバーナーで白く灼き続ける感覚。


ならばイメージするのはガスバーナー。蒼く透明に絞られていくガスバーナーの炎。これが私の魔力のイメージ。身体の外から酸素を吸い込み、体内から魔素を吸い上げ混合し燃える蒼く透明な炎。これに決めた。


「ふむ。随分と魔力の熾りが安定してきたじゃないか。私の尻がキッカケになったか?」


「分隊長の尻を見てるのではなく、尻尾を見ているのであります。」


「尻尾!お前は女の尻尾に欲情しているのか!」


誤解しないでほしい。尻尾に性的な関心を寄せたことなど一度もない。分隊長の尻に欲情することはあるが尻尾に欲情したことはない。むしろ反対に尻尾には癒しを求めている。だからシャロンちゃんも尻尾を足の間に挟んで隠さないでもらいたい。分隊長も微かに頬を染めないでいただきたい。




と、幾つかの誤解と今後の訓練計画が出来上がったところで、改めて小人族(ハフリンガ)の遺体を検分してみる。私らが話し込んでる間に小人族の遺体は皆、下着姿に剥かれていた。犬耳娘ことシャロンちゃんのお仕事である。彼女らはこういった死体剥きといった汚れ仕事もこなす役割が与えられている。まさに雑役奴隷なのだ。


その在り方に異を唱えるつもりはない。そういう仕組みでこの世界は回ってる。もしかしたら、それは公国だけの仕組みなのかもしれないけれど、公国の軍用備品49番としてはそれが世界になる。彼女らは洗濯をし、調理をし、時には死体を剥き、水を汲む。49番は飼い主の命ずるままに戦いに赴き死ぬ。それだけの違いだ。


ざっくりと仕分けられた遺留品。あとあと換金されたりするので戦利品というべきか。コレといった重要そうな書類とかは持ってなかった。地図も持ってない。


麻でできた上下の服、人族がつけるには小さい鎧、籠手、脛当て。20本の短剣。あと4本は分隊長の刀でスッパリと斬られていた。小物入れの中には刻みタバコとパイプ。小さなフラスコに入った火酒(ウイスキー)、長さ10cmばかりの鋳鉄製の棒手裏剣(スローイングピック)、軽作業用のナイフと携行食、ほぼ空の水筒など。


背嚢は彼らが潜んでいた溝においてあった。中身は毛羽だった毛布と皮の水袋、小さな飯盒と火打石と火口箱とヤギ糞の燃料。火床に埋めてあった塩釜焼きの鳥が二羽、3m四方ほどの白い麻の天幕(タープ)。そして海老茶色に変色した血のついた白布のフードマント人数分。


下着姿に剥いた遺体は、馬車に括りつけてあった古くなって交換する予定だった馬鋤でゴリゴリと溝を掘って埋めといた。道端で干物にするのも偲びないので。


戦利品として私は自分が斬った2人目の短剣二本をもらっておいた。どうやら彼はこの小人族のチームリーダーだったらしく、その短剣も神威鋼の逸品だったのだ。まともに斬り結んでいたら私の借りてる打刀は斬り飛ばされていただろうと思うとゾッとする。ついでに棒手裏剣(スローイングピック)の全数200本ほどももらっておいた。今は無理でもいつか分隊長みたいに炸裂するダガーの技を覚えたい。それに投擲術はちょっとロマンを感じる。


ラウラ分隊長は小さな飯盒を取った。黒茶を沸かすのにちょうど良い感じだかららしい。高く換金出来そうな、火酒(ウイスキー)のフラスコと刻みタバコは3人で山分けにし、携行食や麻の服、血染マント、天幕(タープ)はシャロンちゃんが持って帰ることにした。本人は何もしてないから貰えないと言っていたのだが分隊長が「軍規だから」と言えば納得していた。まぁ本音で言えば天幕はかさばるし血染マントだって私たちには小さいのだ。


布地はそれなりに貴重品らしい。天幕でみんなで新しい服を作れます!マントや服だって繕って染め直せば充分着れます!と鼻息も荒く、尻尾も箒のようにバサバサ振られているのだが私の顔見ると尻尾を丸めてしまうのは何故だろう。目線も合わせてくれない。馬車から蹴り落としたのがまずかったのだろうか。


敵に襲われ応戦していたのだから、大義名分は立つ以上、急いでも仕方ないからとラウラ分隊長は塩釜鳥をムシャムシャし始めた。足を握ってぼきりと折るや一心不乱に食べ出したのだ。口の周りを脂で光らせご満悦である。シャロンちゃんも慎ましやかながらも確かな勢いでナイフで切り分けては口に運んでいる。

私はというとまだショックが残っているのか食欲はなかったのだが、最初の日に空っぽの胃から胃液吐いていたのに比べればだいぶマシにはなっているようだ。


「あの…どうぞ…」


小さな声に呼ばれて顔を上げると、シャロンが飯盒の蓋に足の一本と削ぎとった肉片を乗せて私に差し出してくれていた。


「ありがとう」


礼を言って、肉を受けとった。いざ、こうして鼻先に肉があるとその脂の匂いに腹の虫が鳴いた。結局、悩んでるふりしたところで生きてれば腹も空くのだ。この鳥も自分達が殺した相手が楽しみにしていたものだとて、肉は肉。調理者はすでに飯を食う心配をする必要もないとこへ送ったのだ。日本語にはこんな時にもいい言葉がある。


「いただきます」


日常的に使っていた言葉でも、この世界ではその重さがはっきりとわかる。まさに、命をいただき生きて行きます。殺し殺されてもそれはそれ。生者は死者へと感謝を捧げねばならないのだと思う。目頭が熱くなる。知らずに頬を涙が伝わっていた。でも悲しいわけじゃない、辛いわけでもない。ただ感謝の気持ちだけ。


いただきます。

日本語で一番優しい言葉だと思います。

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