お祝いパーティー 3
ギルバードが部屋を出て行ってから俺たちは部屋の中でのんびりと過ごしていた。特に何かする事がある訳では無いので、部屋の中で雑談をしながら待っていた。ラトリーに用意してもらったお茶を飲みながら椅子に座っていた。
暫くすると、部屋の扉が開いた。そこには少し前にどこかに行ったギルバードの姿があった。何か用事があると言っていたが、先ほどと特に変わった様子は無い。何か持ってくるのかと思って居たが、そうでは無い見たいだ。
「お待たせした。準備が出来た」
その言葉と同時に扉の奥からミーナが姿を現した。メイド服を着ているミーナは相変わらず可愛い。小さな体で白いワゴンを押している。必死さが伝わり、それすらも可愛い。
「お待たせしたです!」
ワゴンを机の隣に置き、ミーナは俺たちに笑みを浮かべる。
「可愛いメイドさんね。私たちより年下よね?」
「そうなのです!」
少し砕けた敬語で話すミーナ。料理や家事はとても得意なミーナだが、敬語を使う事は慣れていないのだ。俺と話しをする時は使わない敬語だが、お客さんに対しては慣れないなりに一生懸命使おうとしているのが見て分かる。
「ワタル……この子」
「ああ、あの時の子だ」
隣に座っているドメインは、ミーナの事に気が付いたようだ。全身を黒いローブで覆っていたにも関わらず、見た瞬間にミーナの事に気が付くドメインは流石の一言だ。
「なるほどな……可愛いな」
「え……」
ドメインの言葉に正面に座っているラトリーが、物凄い目をしている。残念な者を見る目……いや、ゴミを見るような目をドメインに向けている。こんな目をしたラトリーは今まで見た事が無い。妙な迫力があるというか……とにかくそんな目で見られたくないのは確かだ。
「あんた、もしかしてロリコンなんじゃ……」
「断じて違う。まぁ、どう思おうが勝手だけどな」
「ふーん」
納得したようには見えないが、とにかくラトリーはドメインを見る事を辞めた。そんな二人の事は全く気にしていない様子のミーナは開いたままの扉の向こうを見ていた。
「どうしたの!早く入ってきて!」
そう言うとミーナは駆け出し、扉の前まで行く。誰か居るとすれば、アーニャかフィアナになるが……仮にその二人だとしても部屋に入ってこない理由が分からない。一体どうしたのだろう?
「恥ずかしいですよ!この格好!」
「そんな事無いよ!似合っているから!あ、料理こぼさないでね!」
フィアナの声が聞えると同時に、ミーナがフィアナを押してきた。そして姿を現したフィアナが着ていたのは、ミーナと同じメイド服だった。同じメイド服を着ているというのに、ミーナとは違い、女の色気という物を感じる。均等の取れたスタイルに豊満な胸。可愛らしい顔が恥じらいにより、林檎のように真っ赤に染まっている。可愛いの一言すら出てこない。俺はフィアナのメイド姿に釘付けだった。
「うぅ……恥ずかしいです。私も羞恥心はあるのですよ?」
「私はその恥ずかしい恰好を毎日してるよ!直ぐに慣れるから大丈夫だよ!」
ドメインとラトリーには敬語を使うミーナだが、大陸の姫であるフィアナには敬語を使わないその強気の精神は流石だ。そして、メイド服を着せたであろうミーナ、物凄くナイスだ。
フィアナのメイド服姿など、この場でしか見る事が出来ないだろう。この恥じらい方だと、もう着る事は無いだろうし、目に焼き付けておこう。
「先輩が物凄くフィアナを凝視しているのだ」
「まぁ、仕方無いと思うわ。女の私でも物凄く可愛いと思うもの」
「否定は出来ないのだ。我が同じ物を着ても、こうはならないと思うのだ」
十分可愛いラトリーと柊がこう言うのだから、フィアナの可愛さは言うまでも無い。六花さんや静奈さんの浴衣以上かもしれない。
そんなフィアナは、恥じらいながら恐る恐る、白いワゴンを机の横に止める。すると、ドメインとラトリーが立ち上がる。
「初めまして、私はクローズ・ラトリーと言います。お呼びしていただき、ありがとうございます」
「自分はハルバード・ドメインと言います。同じになりますが、お呼びしていただきありがとうございます」
二人はギルバードに出会った時のように敬礼はしなかったが、やはり言葉が固い。ギルバードに言われた通りにーーーと言われても無理か。言われたからと言って、本人を目の前にするとどうしても一般市民と王女という壁が出来てしまう。こればかりは気持ちではどうにもならない。むしろ、ギルバードに言われたため、敬礼をしなかっただけマシだろう。
「私はフィアナ・メロディアと言います。城下町襲撃の時は本当にありがとうございます。今日はそのお礼と言ってはなんですが、どうぞ楽しんで行ってください」
フィアナはそういうと、律儀の礼をした。王女であるフィアナに礼をされ、顔を見合わせるラトリーとドメイン。フィアナは自分が王女という立場でありながら、それを一切飾らない良い人なのだ。それが、この場で伝われば良いと思う。
「ありがたいお言葉です!」
「そんな固くならなくても結構ですよ。お祝いの場ですので、普段通りでも大丈夫ですよ」
「でもーーー」
フィアナの満面の笑みを見て、ラトリーは何か言うとしていたが、直ぐに口を閉ざした。そんな様子にドメインはため息を吐き、椅子に座る。
「わかりました。努力してみます。けど、敬語を外す事は出来ませんので、それだけは許してください」
「わかりました。ラトリーさんも同じでよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
小さく笑みを浮かべるラトリー。ギルバードや俺たちが言っていた意味が理解出来ただろう。自分たちが住んで居る大陸の王女はこういう人なのだと。物語の世界だとしても、本当に尊敬する人だ。
「はいはい!それでは、料理を机の上に置いていくです!」
二回手拍子をして、ミーナが笑みを浮かべながら料理を机の上に並べていく。メイド服を着ているフィアナも手伝い、机の上にはたくさんの料理に覆いつくされる。
「物凄く美味しそう!」
「お腹空いたのだ!早く食べるのだ!」
「いい匂いがする。腕の良い料理人が作ったのだろう」
みんな各自に配られたお皿に食べたい物をのよそう。俺も食べたい物をよそい、一口食べる。
「やっぱり、ミーナのご飯は美味しいな」
「この料理、ミーナちゃんが作ったの!?」
俺の言葉にラトリーが驚く。隣に居るドメインも少し驚いた顔をしている。幼い女の子であるミーナが作ったとなれば驚くのも当然だろう。
「えっへん!準備から料理まで全て自分でやったです!」
得意げな顔で胸を張るミーナ。このレベルの料理を作るのがどれほど難しいのかなど、聞かなくても分かる。努力が必要なのは言うまでも無いだろう。
「ミーナは本当に優秀ですね。頭撫でてあげましょうか?」
「大丈夫!今日はワタルにしてもらう!」
すると、近寄って来たミーナは俺の膝の上に座る。小さな体は本当に同じ人間なのかと思うほどに軽い。そして、俺の胸を背もたれにする。
「むぅ、私よりやっぱりワタルですか……」
なんだか、冷たい目線がフィアナから突き刺さるが、気に無いのが一番だろう。きっと、俺が居ない時などはフィアナがミーナの頭を撫でたりしているのだろう。
「ほら、よしよし」
「えへへへ」
彩を思い浮かべる笑顔で笑う。物凄く可愛いのでもっと撫でる。
「わしゃわしゃされてる!」
そんなミーナとの戯れを、周囲に居るギルバード以外の4人が冷たい目で見てくる。
「ラトリーよ。あれがロリコンと呼ばれる人種だ」
「ごめんなさい、ドメイン。私が間違っていたわ」
「先輩は可愛い女の子にはいつもこうなのだ!反省するのだ!」
「私も頭撫でたいです!そこを変わってください!」
お祝いパーティーはこんな感じで賑やかに過ぎていった。この時間がフィアナにとって、かけがえのない物になれば良いと心から思う。
こうしてみんなで集まれる瞬間というのは、きっと物語の世界ではそう多くないだろう。貴重な時間になったのは間違いない。




