予選開催
予選当日になった。朝起きるとカーテンを開ける。空は予選がある事を知って居るかのように、快晴で気持ちが良い天気だ。準備をするために早めに目を覚ました俺は立ち上がり、予選に向けて準備をする。
朝食も食べ終わり、準備も終わったため、俺は部屋を出るとツインテールの女の子ーーー柊が部屋の前で待っていた。用事の内容は今日の予選の事なのは言われなくても理解しているが……。
「どうしてノックでもしてくれたら良かったのに」
「我も今さっき来たばかりなのだ!だから、部屋の前で待っていた訳では無いのだ!」
「それなら良かったけど……おはよう」
「おはようなのだ!」
笑顔で返事をくれる柊と一緒に玉座の間に向かう。今日はフィアナは一日中大陸の王女として予選会場である学院に居なくてはならない。だからこそ、こうして一番にフィアナの所に向かうのだ。
王女として会場に居るフィアナに話しかける事は容易では無いだろう。城の者たちは俺たちに事を知って居るため問題無いが、逆に言えばそれ以外に人は知らないのだ。気軽に一般人である俺たちが話しかける事は辞めた方が良いだろう。
玉座の間に付くと、騎士の人に中に通される。中には騎士団長であるギルバードとアーニャ、そしてエルフであるエリスと何十人もの騎士が居た。流石に王女が外に出るとなると警備も厳重になる。
さらに、一ヵ月前にアレセイア大陸の襲撃があったために余計に警戒する。ギルバードが付いているからフィアナは大丈夫だと思うが、城下町自体の警備も必要になるため騎士の数も増えるのも当然の事だろう。
「ワタルとツカサ!おはようございます」
「おはよう」
「おはようなのだ!」
フィアナの目の前まで行くと、俺たちは挨拶を交わした。俺たちが予選に出る事は全員知って居るため、騎士たちも会話を邪魔する気が無いように少し遠ざかって行く。
「今日はお二人共頑張ってください。お二人が負けるとは思いませんが、頑張ってください!」
胸の前で両手で拳を作るフィアナ。少しだけ気合が入っているように見えるのは気のせいでは無いだろう。肩に力が入っているのが良く分かる。
「なんか、いつもより硬いのだ!珍しいのだ!」
柊でも気が付くのだから相当だろう。当然のように騎士のみんなも気が付いているだろう。何かあるのだろうか?
「姫様は開会式の一言で緊張している二ゃ!開催宣言だけでいいから緊張する事無いと思う二ゃ」
「緊張しますよ!予選とはいえ、神種選定に関わる事ですよ!?本来私が行う物では無いですから、緊張する物はします!」
本来は氷漬けになっている両親が行うはずだった予選の開催宣言。数百年に一度しか行われない神種選定に関係しているから固くなっているのだろう。フィアナでもあんな風に緊張する物なのだと、声には出さないが密に心の中で思った。
「その気持ちは分からなくも二ゃいけど……けど、本番までにはどうにかする二ゃ!」
「それもそうですね。姫様なら必ず何事も無く終える事が出来るでしょう。自分を信用してください」
「そうですね……結局やる事は決まっていますので、私に出来る限りやるだけです」
そう言うフィアナは未だに肩に力が入っているようだ。流石にその様子にはギルバードやアーニャも苦笑いを浮かべる。しかし、フィアナなら必ず本番は成功させるだろう。俺たちも邪魔にならないように挨拶など簡単に終わらせて会場向かおう。
「それじゃ、神種選定には必ず出れるようにだけはするから」
「我たちに任せるのだ!」
「ええ、期待しています!」
それだけを言い、俺と柊は玉座の間を後にした。それから会場である学院に向かう。いつも通り、転送魔方陣で人気のない部分に移動し、学院まで歩いて向かう。
予選当日のため、多くの一般人も学院方向に歩いている。普段は校門を潜る事すら出来ないので、一般の人は物珍しそうに周囲を見渡している。俺たちも今日は私服だが、制服を着て学院に入っていく者も多く居る。一般人だけでは無く、出場しない学生も戦いを見に来ているのだろう。
誰でも参加できる予選だが、実際に参加する人数は予想より少ない。二人一組という縛りはあるものの、参加人数を見た時は少ないと感じた物だ。戦うより、見る方がみんな好きなのだろう。
ドーム状の中に入ると、中は少しだけ変化していた。模擬戦を行う時は、いくつもの舞台が用意されているのだが、今はそれが無くなっている。模擬戦の時のように一度に数組が戦うのではなく、一組づつ行われるためだろう。組数が多くないとは言え、それでも結構な時間が掛かるのは言うまでも無い。
「ホシノ君とヒイラギさんじゃない。早く受付に行かないと、面倒な事になるわよ」
正面からラトリーとメアリーがこちらに向かってくる。二人は私服だが、予選に出るために来たのではなく、観戦しに来ているのだ。俺と柊が出る事はドメインにも話てある。ちなみに、ラトリーとドメインには俺たちがフィアナに召喚された勇者だという事を明かしてある。
あの場に居たのだから、ギルバードと顔見知りなのはバレている。その事について、聞かれる前に自分たちから明かしたのだ。勿論、フィアナの許可も貰っている。ただ、他言無用な事なので、決して誰にも言わない約束をしている。約束を破るようには思えないので、俺は安心している。
「そうなのだ!受付に行かないといけないのだ!」
「そういえばそうだったな……」
出場する事は決まっているが、当日に何かあり、急に出場する事が出来ない人も居るため、出場する人達は再度受付をしなければならないのだ。
「二人共頑張ってね!」
メアリーが笑顔でそう言ってきた。メアリーには俺たちが勇者である事を伝えていないが、ドメインと模擬戦を行った時の事を見ている。あまり不安そうにして居ないのはそのためだろうか?
「二人が負けるとは思えないけど、頑張ってね。応援してるから!」
ラトリー達と別れて、俺たちは受付を終わらせる。そして、暫く時間が経過すると、ドームの中は満員になった。俺たち選手は待機場所が決められているため、全く問題無いが、座れずに立って居る人も多く居る。広いこの場が埋まる事はこういうイベント事が無ければ、決して無いだろう。
「それでは、フィアナ王女からの開催のお言葉がある二ゃ!しっかりと聞くように二ゃ!」
予選の運営を行っているアーニャに言葉により、ざわざわしていた会場内が一瞬で静まりかえる。そして、ピンクのドレスを着飾ったフィアナが、ギルバードたちに守られながらみんなの前に出る。
出場する者は、フィアナ居る場所から近い。だからこそ、フィアナが全く緊張していないのが分かる。玉座の間では緊張のあまり、肩に力が入っていた様子だったが、今はそれが全く見られない。やはり、本番になると緊張などは全て飛ぶようだった。
「私はフィアナ・メロディアと言います。この場でこうして挨拶出来る事を光栄に思います」
堂々とした声に、会場内に人は皆、フィアナに釘付けだ。容姿の良さも関係しているだろうが、やはり王女としての堂々たる姿は、普段のフィアナを知って居る俺たちでも惹かれる物がある。
「神種選定に参加しようとする選手の皆さん、また、身内の者や知らない人を応援しようとこの場に集まってくれた皆さん。この予選はそんな皆さんが居たからこそ出来る物です」
周囲を笑顔で見渡すその姿はまさしく王女の姿。慈愛に満ちた笑顔は全てを釘付けにする。
「襲撃があり、多くの人が怪我をし、多くの建物が未だに壊れたままです。しかし、そんな中であるにも関わらずにこの場に集まってくれた事に感謝の気持ちが絶えません……だからこそ、この予選を楽しんでください!選手は勝ち負けは大切ですが、自分が後悔しない予選にしましょう!観戦する皆さんは選手の士気が上がるような応援をしてください!みなさんでこの予選を後悔の無いものにしましょう!!フィアナ・メロディアが、開催を宣言します!」
フィアナが言葉を言い終わり、礼をすると同時に大きな拍手が沸き起こる。まるで花火のように胸の中が震えるような拍手の中ーーー神種選定に参加する五組を決める戦いが始まった。




