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動き出す影

 俺がドメイン戦いに勝利をした日から一週間ほど経過していた。


 三つ加護を持った俺は学院内で一瞬で名前が広がり、ドメインに勝ったという事もあり有名人だ。全く知らない人達から声を掛けられる事も増えた。


 同じくして柊も模擬戦を機に有名になった。戦った相手は知らない女の子だったが、勝ち方が圧倒的だったためだ。


 俺のように苦戦は一切せずに、ただ高い魔力をぶつける戦法だった。ドーム中が揺れ、誰もが手を止めて避難しようとするほどだった。戦った相手は何も出来ずに気絶するという勝ち方だった。


 メトロ先生が柊が一度に込められる魔力量を量った事により、四万越えという驚異の数値を叩き出し、一躍有名人だ。よくサインをねだられると得意げな顔で言っていた。


 転入生というのは少なからず上級生から模擬戦を申し込まれるとラトリーに言われたが、ドメイン以来誰も申し込みはしてこない。大勢から言われても困るので、模擬戦をドメインとして良かったのはそれぐらいだろう。


「ところで……ワタルは家どの辺なんだ?」


「どうした急に……」


 授業の終わりを告げる鐘が鳴り響き、昼休みになった。片付けをしている所に声をかけられたのだ。


「ずっと思ってたけど……どうしてドメインがこの場に居るの?」


「何言ってんだ?最近良く来てるだろ?」


 そう、ドメインは模擬戦以来良く俺の元に来るようになった。あれ以来模擬戦を申し込まれる事は無く、戦った日が嘘のように普通に接してくる。元々ドメインという人物はこういう人物なのだと理解してきた。


「それは知ってるわよ。なんで来てるのかってことよ!教室が違うでしょ!?」


「まぁまぁ、来たらダメって言うルールは無いんだからいいと思うよ。ラトリーは目の敵にし過ぎだよ」


 ラトリーの隣に居るメアリーは落ち着かせるように両手を開いて上下に振る。ドメインが来た当初から同じようなやり取りを何度も目にしている。


「そうだ、メアリーも言ってくれ。俺はラトリーに会いに来た訳じゃなくてワタルに用事があるんだ」


「航先輩は用事は無さそうに見えるのだ!一方通行の愛は辛いのだ!」


「ふ、ツカサはわかって無いな……一方通行の方が愛は燃えるだろ?」


「それもそうなのだ!我はドメインの愛を認めるのだ!ワタル×ドメインなのだ!」


「それは認めたらダメでしょ!?」


 昼休みの教室で下らない事を話す俺たち五人。放課後に予定の無い時のボランティア部のような感じだ。不思議と悪い感じはせずに、新しい友達ができた感覚。転校すればこんな感覚なのか……と思っている。


「それよりも、さっきの話に戻るが……ワタルはどの辺に住んでるんだ?寮生活じゃないんだろ?」


 特に何事も無く誤魔化せたと思っていた話題が戻ってきた。住んでいる場所は答える訳には行かないので、誤魔化す以外に方法は無い。


「その話はとりあえず学食行ってからなのだ!!我はお腹が空いたのだ!!」


「そうだな……席が無くなったら困るし、先に行くことにするか!行こうぜワタル」


「え?あんたも来るの?」


「なんだ、ラトリーは来ないのか?そうか、それならみんなで行こうぜ」


「私も行くわよ!!」


 俺たちが学食に行くため、立ち上がり教室を出る。広い学院内は未だにほとんど何がどこにあるのか把握していない。しかし、毎日行く学食とトイレ、教室の場所だけ把握している。


 王立魔術学院の学食は全て無料になっている。学院に入学する事自体が難しいため、特別扱いされるらしい。将来優秀な者が多いというのも一つの理由だろう。


 毎日バイキング方式で並べられる数多くの料理の中から好きなだけ食べても良いようになっている。内容も毎日変化するため飽きないで食べる事ができる。そのうえ、美味しいので文句の付けどころがない。しいて言えば、学食の席が生徒分足りていないので、座れない時があるという事だ。


 持参のお弁当なども全て可なので、お弁当を持ってきている人も居る。しかし、ほとんどの人が学食を利用するそうなので、食べるのが遅くなる時もある。そんな人のために休み時間は少しだけ長いらしい。


 学食に到着すると、多くの人でごった返している。席を見つけるのも一苦労だが、歩いている途中に偶然五人座れる席を発見した。


「空いてて良かったな。ラトリーの話のせいで座れないと思ったぜ」


「どうして私のせいなのよ……」


 言いながら俺たち五人は座る。他にも多くの人が話をしているため、学食では少し大きめの声で話をしないと聞こえない時もある。


「さて、ワタルの住んでる場所をーーー」


「ドメイン君、とりあえず、料理を取りに行こうよ。ヒイラギちゃんも待ちきれない様子だし……」


 ラトリーが視線を向ける方向には柊が待ちきれない様子で料理がある方向を見ている。少しだけ涎も垂れているため、本当に待ちきれないのだろう。


 この学食の料理は本当に美味しいため、柊の気持ちも分からなくも無い。日本で食べている物とは正直レベルが違う。この料理代を自分で払うとなれば諭吉一枚では利かないだろう。


それほどまでにこの学院の生徒は優秀だという事だろう。将来が約束されているからこそ、国もこれほどのお金を掛けるという事だ。他の魔術学院がどうなのかは知らないが、王立というぐらいだ。ここ以上は存在しないのだろう。


 各自好きな物を取り、再び戻ってくる。あまりお皿に多く盛るのは汚いため、俺は少しだけ少なめに盛った。これまでもそうしてきたが……対する柊はそんな事お構いなく、山盛りにお皿に盛っている。


「相変わらずね……」


「何がなのだ?」


 ラトリーが苦笑いを浮かべながら柊のお皿に盛られた食べ物を見つめる。ラトリーは小食のため、お皿に盛っている量も少ない。同じくしてメアリーも同じぐらい少ない。


「ラトリーもメアリーももっと食べた方がいいのだ!」


「ツカサは少し食べすぎだと思うぞ?いや、お前らしいと言えばお前らしいな」


「まぁ、ヒイラギさんは取って来た物を自分で食べられれば文句ないんだけどね……」


 俺の方向を見ながらラトリーは呟く。柊はたくさんお皿に盛るが、元々大食いでは無いので必ず残す。そのあまりを俺に分けてくるのだ。


 勿体ないので食べるしかない俺は毎回お腹がいっぱいになる。今日は座って受ける授業しか無いため問題無いが、動く授業があればお腹が痛くなる。食後の運動後の腹痛は魔術ではどうにもならないのだ。


「航先輩は我の残り物を食べられて嬉しいのだ!」


「そんな事無いんだが……」


 美味しいのには変わりは無いが、残り物を食べて嬉しいと感じる事は無い。例え可愛い柊であってもそこは変わりは無い。


「まぁまぁ、とりあえずみんな食べようよ。時間が過ぎていくだけだよ」


「そうだな。早く食べてワタルの家の場所を聞き出さないといけないしな」


「あんた、まだ聞き出そうとしてたのね……」


「確か、ヒイラギちゃんも一緒に暮らしているって言ってたから、無理に聞かない方が良いと私は思うな」


 メアリーは編入初日での事を覚えていたようだ。良く覚えているなと感心した。それっきり話題にもならなかった話なのに。


「お前ら二人はそんな関係だったのか……それは悪いな。二人の愛の巣を荒らすのは趣味じゃない。諦めるか……」


「物凄く勘違いしてるけど、俺たちはそんな関係じゃないからな?」


「そうりゃのだ!」


「ツカサは話すか食べるかどっちかにしろよ」


 ドメインはハルバード家という名家育ちのため、食べ方も上品で綺麗だ。一切こぼさずに、ナイフとフォークを使って綺麗に食べる。姿勢も綺麗で、育ちの良さが伺える食べ方をしている。


 他にも周囲を見渡すが、柊のようにお皿に大量に盛ったりしている生徒はいない。みんな背筋を伸ばし、綺麗に食べている。正面に居るラトリーとメアリーも同じように綺麗な食べ方をしている。


 対する俺たちはそんな礼儀など学んだ事は無い。一般的な高校生の食べ方しか出来ないため、少しだけ浮いているのは確かな事だ。


 だが、それを言ってくる者は誰も居ないので気にしないでいいだろう。行儀が悪くなければ問題無い。柊の盛り盛りはどうにかして欲しいが……言っても何も変わらないだろう。


 それから俺たちは美味しい料理を食べながら話をして、昼休みを満喫した。


*************


 学院の終わりを告げる鐘が鳴り響き、クラスメイトが教室を後にしていく。俺と柊も城に帰る準備をしていると、ドメインが教室の中に入って来た。


 ドメインは昼休みは良く来るが、放課後に姿を見せるのは今日が初めてだ。俺に用事があるとは限らないが……いや、俺の方を見ながら不適に笑っているので、俺に用事があるみたいだ。


 俺の目の前まで来ると、ドメインは立ち止まる。下の席に居るメアリーとラトリーも気になるのか、こちらに視線を向けている。というか、ラトリーに関してはドメインを睨んでいる。仲良さそうに話をしているのに、ラトリーはドメイン事を敵対視しているみたいだ。


「ワタル!一緒に遊びに行かないか?」


「どうしたんだ急に……」


 前にドメインは学院が終わるとすぐに家に帰り、訓練などをしていると言っていた。ハルバード家を継ぐ者として、すべき事は山ほどあるとも言っていた。それを知っているため、この誘いに驚いたのだ。


 名家を継ぐ事がどれほど大変なのか想像も出来ないが、きっと簡単な事では無い。身近に静奈さんが居るが、それとは比べ物にならなう家系なのだろう。


「今日は久しぶりにフリーの日なんだ。訓練もあるから長く居られないが、三十分ほどだったら時間がある。だから遊びに誘った訳だ」


「我も行ってもいいのだ?」


「ああ、構わない。そもそも一緒に行く事前提で誘いに来ているからな。ワタルだけが良い時は個人的に誘っているさ」


「やったのだ!」


 返事をしていないのに、なぜか行く事が確定しているように感じる。俺も城に帰ってから文字の勉強は、ギルバードに剣戟を見てもらうなどあるため、忙しい。だが、三十分程度なら別に問題は無いだろう。フィアナからも友達と遊ぶようと銀貨数枚渡されている。使う機会が無かったので、ちょうどいいだろう。


「わかった。三十分程度なら全然良い」


「それなら決まりだな。ところで……ずっと、見ているラトリーはどうする?来たいのか?」


 急に声を掛けられ、体が震えるラトリーは少し恥ずかしそうに頬を赤く染めて、視線を逸らしながら口を開く。


「別に行ってあげてもいいわよ!勘違いしないでよね!私が行きたいとかじゃなくて、来てほしそうだから行ってあげるのよ!」


「おお!見た目通りのツンデレなのだ!」


「ヒイラギさんは私に事そんな風に見てたのね……」


 金髪ツインテールでツリ目と来たらツンデレだろう。初めてラトリーからツンデレを見る事が出来た。やはり、言っていても何も違和感が無い。むしろ言わない事に違和感を覚えるほどだ。


「あ、私は用事があるからパスするね?楽しんできてね」


 隣に居たメアリーはラトリーにそう伝えると、鞄を持って席を立つ。手を振ったメアリーにラトリーも同じように振り返す。


「それなら行きましょう!」


「なんだかんだ乗り気なのだ!」


「そんなんじゃないわよ!」


 俺たちがが教室を後にして城下町に向かう。下校時間なので多くの生徒の中に混じりなあがら学内を歩く。


 広い学院を歩き、ようやく校外に出たのは十分ほど経過してからだった。人が多い分余計に歩く速度が遅くなるため、十分ほど掛かる事は珍しくない。


「ところで、三十分でどこに行くの?」


 中世ヨーロッパの街並みを見ながら歩いていると、ラトリーが不思議そうにドメインに聞く。確かに三十分程度でいける場所など知れている。あらかじめ場所が決まっていなければ決めている間に三十分経過しそうだ。


「場所なら決まってる。行こうぜ」


 ドメインは普段通り笑いながら先頭を歩く。俺たちはどこに行くか分からないまま後をついていく。


 この時の俺たちはまだ知らなかった。三十分程度の予定が、まさか一日を潰す出来事になる事など。


*********


 城下町の細い脇道に黒いフードを被った四人が居た。一目に一切触れる事が無い脇道で、小さな声で話をする四人。


 いかにも怪しげな四人だが、脇道で話をしている以外に特に変わった所は無い。しいていえば、足元に魔方陣が展開されているという所だろう。


 だが、魔方陣も展開されているだけで特に変わった動きはしていない。デザイアが当たり前にある世界では魔方陣を街中で展開している者は珍しくない。というか、見ない日の方が珍しいほどの出来事だ。今時小さな子供でも展開している。


 四人が展開していた魔方陣は一つになり、巨大な魔方陣に変わる。そして、何事も無く魔方陣は姿を消す。


「完了した。これで支障は無いだろう」


「うむ。問題が無いのなら行動に移そう」


「それが良いだろう。勇者降臨の儀が行われたとなれば、確かめる必要性がある」


「我々はそれが任務だ。当然の事だ」


 四人はフィアナが勇者降臨の儀を行った事を知っていた。一体どこから漏れたのか……それは全くわからない。だが、勇者降臨の儀の事についてはメロディア城の誰一人として口外していない。その事実だけは確かな物だ。


「それでは作戦に移ろう。勇者は二人だ。上からは殺しても構わないと言われている」


「言われなくてもわかっている。それでは、時間まで少しある。抜かりは無いか確認しよう」


 四人はその言葉を最後に黙り込み、再び魔方陣を展開する。そしてーーー魔方陣が消えると同時に黒い影はその場を後にする。


 城下町で何かが起ころうとしていた。

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