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王立魔術学院

加護……それは生まれながらに持ち合わせる自身の力とは異なる力の事を指す。


 生まれながら与えられた力はまさしく神に授けられた力で、選ばれた者のみしか与えられる事が無い特別な力。万人が欲しがる力だが、万人が持つ事が出来ない物だ。


 与えられた力には代々受け継がれる物もあれば、突然降ってきたかのように与えられる力もある。だが、総じて代々受け継がれる力という物がほとんどで、急に降って湧いてくるのは珍しい物である。しかし、体験している者は多く居るため、無いとは言い切れない。


 主に加護を持つ者というのは、大きく二つに分かれる。まずは戦闘に特化した加護だ。加護と言っても一概には言えず、様々な物が存在する。数多くあるのは把握しているが、全体でどれほどの加護が存在しているのかは、まさに神のみしか知りえない物だ。戦闘に特化した加護もまた同じように様々な加護が存在している。


 第二に治療に特化した加護だ。エルフなどはその象徴だが高い魔力を持ち、主に治癒魔術を得意とする。勿論、逆も然りで、戦闘魔術を得意とするエルフも存在している。


 治癒魔術が得意なエルフの中でもさらに最上位の方になると治癒に特化した加護を持っている者が多い。治癒の加護を持ったエルフより治癒魔術が得意な種族は存在しないほどの力を発揮する。魔術に特化した加護は今の所発見されていない。


 主に二種類の加護があるが、例外も存在する。どちらにも属さない第三の加護だ。その加護は突然降って湧いてきた加護の中に多く、加護である事は間違いないのだが、使い道が極端な物が多い。例えるならば、湯を沸かす時のみ、水温や水の状態などを完璧に把握する事が出来るなどーーー日常生活でのみ使用する事が出来る物だ。


 草刈りが上手になれる加護や、歩く速度のみが早くなるなど種類は様々だ。二つと同じようにその数も膨大で神のみ知る事が出来る。


 加護というのは生まれながら自分の能力とは別に“何か”をする事が出来る能力で、持っているだけで便利になる。戦闘と治癒の加護に関しては特に家系や血などが色濃く関係してくるため、一般市民では持っている者は居ないに等しい。


 主に強者に与えられる力という訳だ。一人に一つという決まりは無いため、複数持つ者も過去には存在した。しかし、今現在では複数加護を持つ者は存在しない。


 確認されているだけで、数千年前という事になる。それほどまでに複数持ちは珍しい。実際に生きている者で見た事がある者は存在しないと言っても過言ではない。


 そんな加護だが……今、数千年という歴史が変化する出来事が起きた。なんと、複数加護を持った者が現れたのだ。


************


「そんな事ってあるのか……?」


「あるのだから仕方無いですね……」


 俺はフィアナの部屋の中に二人で居た。王立魔術学院の試験に合格し、明日転入生として入学する事になっている。


 フィアナに必要な物を揃えてもらうのと同時に、気になって居た加護について話を聞く事にしたのだ。ちなみに柊はアーニャに城下町に行ってるため、城の中に居ない。女の子の必要な物は男より多いという訳だ。


「私も初めて聞きましたよ……数千年ぶりの快挙じゃないですか!」


 フィアナに一通り加護の事について説明してもらい、ついでに俺にも加護があるかどうか調べてもらう事になった。そして、気ままに加護を調べてみると……俺には三つの加護が付いていた。


 話を聞く限り、加護というのは基本的に一人一つの物らしい。今から数千年前には加護を二つ持った者も居たらしいが、俺のように三つ持った者は初めてらしい。


「加護の内容を知るには専用の物が必要になります。ここでは分かりませんが……学院にならありますので、一度調べて見てください」


「加護って調べないと分からない物なのか?」


「いえ、本来であれば家系によって分かりますが……ワタルにはそういうのがありませんので、加護の内容はわかりません。ただ、加護を持ったギルバードの話では、誰にも教えてもらわずに、いつの間にか理解していた……と言ってましたよ」


「やっぱり、そういう物だよな……」


 加護を調べるなど聞いた事が無い。本来であれば本人が自ずと理解している物だろう。だが、俺にはそれが無いため、今この瞬間に加護はどのような物なのか、という事は分かりそうも無い。三つもある加護だ。戦いに使える物だとありがたい。


「そればかりはどうする事も出来ません。ただ、間違いなくワタルには加護が三つ付いています。これだけは断言できます」


 キリっとした顔で言い切り、フィアナはから空になった俺のカップを持ち、お茶を入れてくれる。


 机に置かれるカップの中からは先ほどと同じように湯気が立ち、美味しそうな匂いが立ち込める。フィアナの入れたお茶は本当においしい。俺は冷まさずに少しだけお茶を飲む。


「ありがとう。わかったよ。学院の先生とかに一度相談してみるよ」


「お願いします。こちらからもお願いの手紙をお渡ししますので、一応念のために学院側にも渡してもらっていいですか?」


「わかったよ。編入当日に言うのは迷惑になるだろうし、明後日でも良い?」


「構いません。学院側に迷惑を掛けるのは私としても望みませんので、時間がある時で構いません。神種選定の予選が行われるまでに知れたら問題ありません」


 神種選定の予選は一ヵ月半後に行われる事になっている。エントリー期限ギリギリになったが、問題無くエントリーする事が出来た。予選に出る事は確定している。


「お二人の能力を考えれば、間違いなく予選は突破出来るでしょう。けど、油断は禁物ですので、学院で学べる事は学んでください」


「しっかり学んでくるよ。文字も練習しないとだしな」


 そう答えるとフィアナは微笑む。その姿は可愛らしい女の子という笑顔で、人懐っこい笑顔だった。彩に似ているかもしれない。


「戻ってきたのだ!!」


「戻った二ゃ!」


 部屋の扉が勢いよく開くと同時に、重なった声が聞こえてきた。どうやら城下町に行ってた二人が戻ってきたみたいだ。手には買い物をした物を持っている。二人共両手がふさがるほど抱えている。


「おかえりなさい。いい買い物は出来ましたか?」


「出来たのだ!ありがとうなのだ!」


 勿論、俺たちの身の回りの物を揃えてくれたお金はフィアナが出してくれている。当然のようにお金の持ち合わせは無いため、フィアナを頼る以外に無い。


 通貨は銅、銀、金の三つの硬貨であきなうが行われている。銅貨五枚で銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚という価値になっている。金貨一枚あればかなり豪華な食事や買い物が出来ると言って居た。


「お二人もお座りください。ツカサにも話をしておきたい事がありますので」


「分かったのだ!疲れたので座るのだ!」


 本当に疲れているのかと疑うほどのテンションで答える柊を笑顔で見つめるフィアナ。近くに買ってきた荷物を置いて、俺の隣に座る。アーニャはフィアナの隣に座る前に、自分と柊の分のお茶を用意する。


「ありがとうなのだ!」


 熱いをお茶をふーふーと冷ましながらゆっくりと飲む。可愛らしい光景だった。


「それでですが……お二人は学院に通う事になりましたが……行き帰りはどうされますか?」


「俺はこの前話した方法で良いよ」


「我も大丈夫なのだ!」


「そうですか、良かったです」


 前に話をした方法とは、この城から学院まで通うという方法だ。王立魔術学院までは城から少し距離が離れているため、寮生活にする事も提案されたのだが、その方法を断り通う事にした。


 特に理由は無いが、この城の中にある転送魔法陣を使えば近くまで移動する事が出来るというのが大きい。時間にして一瞬なので、ある意味一番登校するのが楽だ。


 だが、一番の理由はアーニャから言われた「寮生活にすると姫様が悲しむ二ゃ」という言葉だった。だから俺たちは城から通う方法にした。お世話になっているフィアナを悲しませる事はしたくないからだ。


「お二人には学友と自由に遊べる分のお金もお渡ししますのね」


「それは流石に申し訳ないからいいよ」


「良く無いです。せっかく入学するのですから、仲良くなってきてくださいね」


 数日過ごすうちに分かった事だが、フィアナは自分から提案した事を簡単には曲げない。だが、決して嫌がる事を無理やり強要させたりする訳でも無い。


 今回は俺たちの事を思っての言葉なので、曲げないのだ。お金が無い俺たちのために、自分がさらに負担してくれようとしているのだ。


「わかった。お世話になるよ」


「はい!お世話になってください!」


 俺たちは特にする事が無いので、フィアナの部屋で何気ない会話をする。夕方から姫としての仕事があるらしいので、長居は出来ないが、お昼を少し超えるまでは大丈夫だろう。


 それから俺たちは、四人で会話をしたり……フィアナが持ってきたお菓子を食べたり……少しだけ文字の読みを勉強したりして、時間を使った。



**********



翌日になり、俺たちはいつもより早めに目を覚ます。今日から学院に通う事になって居るため、遅刻する訳には行かないからだ。


 準備などは全て昨日の夜の内に終わらせているため、今更準備する事は無いが、早く起きておいて損をする事は無いだろう。


 暫く部屋の中で過ごし、朝食を食べるために部屋を出る。柊と合流して、朝食を食べる。毎日美味しい料理を食べる事が出来て嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちがある。


 この恩は学園に入学するして、戦えるようになる事で報いる事にしよう。神種選定も優勝しなければならない。


 朝食を食べ終わると、一緒に部屋まで戻り、学園に行くために制服を着る。黒いマントに青を基調とした上下。フィアナ曰く、制服には高い防御力があるらしい。


「どうなのだ!カッコいいのだ!?」


 自慢げに来た制服を見せてくる柊の頭を撫でて、俺たちは転送魔法陣がある地下に向かう。途中でエルフのエリスに出会い、挨拶をしてから進む。


 この場所には本来許可無しには入れないようになっているが、学園に行くときだけは入っても大丈夫なようになっている。城の使用人にも伝わって居る事なので、何か言われる事は絶対に無い。


転送魔法陣に少ない魔力を込めて、フィアナ達と向かった学院の近くを思い浮かべる。同時に魔法陣が淡い光を放ち、俺たちは一瞬で街中に移動する。


 移動する瞬間を見られると不信に思われる可能性があるため、あらかじめ人通りが少ない場所を探して、そこに転送するようにしているのだ。帰りもフィアナから渡された王族専用の魔石を使い、転送魔法陣を展開する事が出来る。


 街中は中世ヨーロッパという感じで、フィアナに教えられた通り、商うは銅、銀、金で行われている。見た事が無かったので少しだけ新鮮だ。


 街中を見渡しながら歩いていると、学院の門が見える。そびえ立つ門には歴史を感じられ、目の前には教師らしき人が三人居る。不審な者が来ないように監視しているのだろう。俺たちと同じ制服を着ている人が大勢入っていく。


 試験が行われた時は学院自体が休みの日だったため、こうして人が居る光景を見るのは初めての事だ。


「それにしても本当に大きいな……日本の学校とは大違いだな」


 門の奥にはまさに魔術学院という校舎がある。大きさも桁違いだが、お城のような外見は慣れ無い俺たちには少し新鮮だ。


「航先輩!行くのだ!」


 立ち止まって居たため、かなりの人が俺たちを不思議そうな目で見ている。制服を着ている事から不審に思われる事は少ないだろけど……あまり目立った行動はしない方がいいだろう。


 俺は少し緊張しながらーーー隣の柊が物凄く楽しそうにしながら校門に向かう。


「ちょっと待て!そこの見慣れない二人の男女だ!」


 制服を着て居るため、何事も無く入れると確信していたが……太い声の教師に呼び止められた。筋肉の付き方も素人から見て、凄いと分かるので相当強い人なのだろう。


「見慣れない顔だな……知ってるか?」


 三人居た内の二人が俺たちの前に立ちふさがる。もう一人は先ほどと同じように登校する生徒を見つめている。


「知らないな……学生書は持ってるか?」


「あ、はい」


 フィアナから昨日の夜に学生書を渡された。学院の生徒である証になるため、無くさないようにと忠告を受けていた。

そのため、無くさないように内ポケットに入れてある。


「これでいいのだ?」


 俺と柊は学生書を見せる。すると、二人の教師の顔色が変化する……というか、物凄く驚いた顔に変わった。


「何かおかしいですか?」


 姫であるフィアナに渡された物なのだから、偽物という事はありえない。この教師の驚いた顔の意味が良く分からない。


「いや、特に何もないが……この学園の編入試験を合格してきた二人だったのか……」


「なるほど……それほどの力があるように見えませんね……ただ、学生書の色が青色なので間違い無いでしょう……」


 教師たちが俺たちをジロジロ見ながら二人で話をする。学園の編入試験というのは比較的難しいと聞いていた。だからこの反応なのだろうか?


「この学園の編入試験は物凄く難しい。それを突破してきたという事はかなりの実力者なのだろう……おい、職員室まで案内してやれ。この学園は初めて来る者には優しくない。なんせ広すぎてどこに何があるのか把握出来ないだろう」


「わかりました。二人共、学生書を直して付いてきてください」


「わかりました」


 学園の生徒と認められたようだ。俺と柊は少し細身の教師の後ろについて、職員室に案内して貰う。迷って時間に間に合わないなんて洒落にならない。


 職員室に行かなければ、どこのクラスに行けば良いなども全く分からない。完全に迷子になるだろう。


 教師に連れられているため、周囲の生徒からは不思議な目で見られて居るが気にしない事にした。そして、案内してくれる教師が居てくれて本当に良かった……と、思いながら、校内を見渡す俺たちは職員室にたどり着いた。


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