表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/83

ポンコツ勇者返上

 城内の広場に来た俺たちが目にしたのは、空中に浮かんでいる赤い魔石と、人の形をした木材だった。王立魔術学院の試験と言っていたので、大掛かりな道具などが使用されると思って居たが、そうでも無い見たいだ。


 合格の基準値は一切分からないが、何もかもしっかり検査される物だとばかり思って居た。それとも、この二つの道具で全て量る事が出来るのだろうか。


「この二つは主に剣術とデザイアを量る物ニゃ!」


「王立魔術学院は学力は後から付ければ良いという考えだ。高い基準値を超える者なら後からでも間に合う、という訳だ」


 二人の道具に手を添えながらギルバードがそう言う。学力を検査されないというのは今の俺たちからすれば大変有難い話だ。字が読め無いので、学力以前の問題だからだ。


 仮に学院に入学する事になれば、確実に読み書きが出来るようにならなければ行けないが……そこはフィアナ達に教えてもらうしかないだろう。全く知らない言葉を自分たちで学ぶ事は容易では無い。その事は英語の授業などで身に染みて理解している。


「まず、学院で行われている試験の説明をしますね。まずは魔力測定石からです」


 隣に居たフィアナは空中に浮かんでいる魔石ーーー魔力測定石に近づく。ギルバードとアーニャは離れ、俺たちの隣に来る。


「なんだか、緊張するのだ!普段の学校のテストでは全く緊張しないのにだ!」


 柊の言っている事は分からなくも無い。確かに今の俺にも普段では味わう事の無い緊張感がある。フィアナの真剣な表情が緊張感を味合わせてくれているのか、あるいは、全く知らない世界の試験だから緊張しているのか……どちらかかは全く分からないが、少し心臓が刻む音が早い。


 俺と全く同じ状況なのか、柊も慎ましい胸に手を当てて、自分の心臓の音を確かめている。自分の魔力総量が桁外れに高いと理解していても尚、緊張する物は仕方ないだろう。知って居るのと、理解しているのでは全く別物だ。


「行きますね……」


 深く息を吸い、吐き出す。そうする事でフィアナが纏う空気が変化する。そして、魔力測定石に手を翳すと……口を開く。


「私の魔力、今、全力で解き放て!」


 瞬間、フィアナから爆風が吹き荒れ、俺は飛ばされないように足で踏ん張る。同様に三人も飛ばされないように足で踏ん張って居る。俺の時にはこんな風にならなかった。これが、魔力総量が一般よりも高く、尚且つ魔力の扱いに慣れた者だからこそ起こる現象なのだろう。


 暫くすると風は勢いを無くす。翳していた手を下ろし、魔石の覗き込むフィアナはため息を吐く。


「大体一万四千程度ですね。私の魔力総量はこれ以上、上がる事は無いでしょう」


 少し残念するにするフィアナにアーニャは両手を横に小さく広げて、何を言って居るか、と分からないと表現している。


「今でも十分過ぎるほど高い二ゃ!一万四千以上なんて探すのに苦労する二ゃ!」


 フィアナは自分で言ってた通り、一万四千という魔力総量はかなり高いのだろう。今後は、この一万四千を基準に魔力総量の高い、低いを基準にしていこうと思った。


「そうでございます。騎士団長を務めておきながら、守るべき姫様より私の方が魔力総量は劣るのですから……」


 少し顔を歪ませながら言う。ギルバードの中では消化しきれないほどの何かがあるのだろう。


「ギルバードは私とほとんど変わらない魔力総量を持ちながら加護を持ってるじゃないですか。私とは比べ物になりませんよ」


 加護という気になる単語が出てきたが、今は聞かない事にする。それよりも先に仮試験を行った方が良いと思ったからだ。加護に関しては後で聞けば問題無い。


「先ほどのように、魔力測定石に魔力を込めるのが試験の一つです。ただし、先ほどの魔力総量を量った時とは少し異なる事があります」


「どう異なるのだ?我には全く同じに見えるのだ!」


 柊の言う通り、俺にも全く同じに見える。魔力総量を量った時とは魔石の種類が違うように見えなくも無いが、素人には違いらしい違いは分からない。


「この魔力測定石は一度に扱える魔力の総量によって、数字が変化するのです」


「どういう事だ?」


「ようするに、一度に込める事が出来る魔力の総量が表示されるのです。魔力総量がいくら高くても、一度に込められる魔力の数値が低いと強いデザイアを発動させる事が出来ません。だから、一度のデザイアで込められる魔力の数値を調べるのです」


 フィアナの言う事は理解出来る。頭が良くて、知識がたくさんあっても、それを知恵に変える事が出来なければ意味が無いという事だろう。要は宝の持ち腐れになってはいけないと言う事だ。


「そうなると、フィアナは自分の魔力総量分を一度の魔力に込められるという事か?」


「そうなります」


「それって、すごいんじゃ……」


 一度に自分が持つ全ての魔力を込める事が出来る。聞くだけで凄い気がする。


「そう二ゃ!姫様は魔力の扱いに長けている二ゃ!魔力総量と同じ分を込められるというのはそういう事にゃ!」


 なるほど……そうなると、魔力の扱いをうまく出来なければ柊の高い魔力総量を有効に活用して発揮する事が出来ないかもれない。


 魔力総量を量る時に爆発したのは、あまく扱う事が出来ないからだとフィアナは言って居た。そうだとすれば、柊にとってこの試験は難しい物になるのではないだろうか。


「そして、もう一つの試験ですが……これは私は不得意ですので、ギルバードに行って貰いましょう。お願いしてもいいですか?」


「わかりました」


 そう言うとギルバードは腰に携えている鞘から剣を抜き、人の形をした木材の前に立った。


「あれは、斬撃障壁と呼ばれる物です」


 隣に居るフィアナが俺たちに説明してくれる。


「斬撃障壁というのを起動させると、あの木材の周囲に障壁が展開されます。展開された障壁を剣を振るう事で、剣の扱える能力を見極める物です。ちなみに、威力や力だけでは障壁を壊す事は出来ない仕組みになって居ます。あくまでも剣を扱う能力が必要という訳です」


 説明を聞きながら、剣を構えるギルバードを見つめる。洗礼された動きはまさに騎士団長と思わせる動きで、誰にでも出来る物では無いのは容易に理解出来る。


「ではいきます……」


 斬撃障壁に剣を構え、そして振るう。瞬間、凄まじい音が鳴り響き、木材の周囲で何かが割れる音が聞こえた。


「Aですか……まだまだ未熟です」


 斬撃障壁を調べたギルバードは情けない様子でこちらに戻ってくる。基準が分からないため、Aというのが高いのか低いのか全く分からない。


「Aというのは極めて優秀な評価です。加護も使わずにAを取れるのはメロディア大陸を探してもギルバードのみでしょう」


「ありがとうございます」


 フィアナの言葉に礼をして、剣を鞘に直す。


「ちなみに、斬撃障壁の判定ですが……D,C、B、A、S、SSと分かれています。Cでも入学する事が可能です」


「下から二番目だから低そうに見えるのは無理ない二ゃ!けど、B、Aは簡単に取れる物では無い二ゃ!」


 俺と柊の表情を見てか、アーニャが補足してくれた。騎士団長を任されているギルバードがA判定なのだ。Bも容易に取れない事は察しが付く。


「とりあえず、行ってみましょうか。本番ではありませんが、本番さながら行ってください」


 まずは魔力測定石で一度に込められる魔力の総量を量る事になった。順番は柊が先に行い、俺が後から行うという事になった。どうしても柊が先にやりたいと言ったので、先に行う必要性も感じられないので譲った。


 浮かんでいる魔力測定石の目の前に立ち、手を翳す。遠目で見つめる俺たちは柊が魔力を込めるのを待つ。


「我の全魔力よ……力と成りて、発現せよ!」


 柊が詠唱を行うと同時に魔石が光り輝く。フィアナの時には起きなかった現象に、俺は不思議に思いながら柊を見つめる。


 少しの間、何も起きずに無音に包まれる。数秒経過すると同時に、凄まじい爆風と轟音と共に魔力が解放される。


 フィアナの時は両足で立つ事が可能だったが、柊の爆風は比較にならない物だった。その場で全員が膝を折り、必死になって飛ばされないように努める。気を抜いてしまうと飛ばされそうになる。


 周囲の木々も発せられる風に大きく靡き、音を立てながら揺れている。まるで嵐が襲ってきたようだ。


 魔力を込め終わると、徐々に風は弱くなっていく。そして、完全に無くなると同時に翳していた手を下ろす。俺たちも安全を確認すると立ち上がり、魔力測定石に近づく。


「完全に扱いきれないとしても、四万越えですか……」


「扱いが慣れて、さらに込められるよになれば……どれほどの威力出せるか想像も出来ないですね」


 完全に魔力を扱いきれるフィアナも、柊の数値にただ関心している。深くしらないが、それほどまでに凄い数値なのだろう。フィアナの時とは比べ物にならない爆風だった事から察する事が出来る。


「魔力測定石にヒビが入って居る二ゃ……量る事の出来る想定値を超えている二ゃ……」


「持ち合わせも無いですし……ワタルは量る事が出来なくなりました」


 先ほどの魔力でひび割れたため、使用する事が出来なくなった見たいだ。俺は量る事が出来ないが……元々百四十と少ない魔力総量なので、量る意味はあまりないだろう。


 完全に扱いきれても全く使えないのでは話にならない。氷の結晶程度しか出せないのであれば、使えないのと何も変わらない。諦めて、斬撃障壁に掛けるしかない。


「仕方ありません。斬撃障壁の方を行いましょう。ギルバード、訓練用の剣をワタルに渡してください」


「かしこまりました」


 反対側に携えている鞘から剣を抜き、ギルバードは俺に渡してくる。受け取った俺は片腕にずっしりとした重みを感じた。


 実際に剣を握るのは初めての事だが、これほどまでにずっしりとした重さがあるのだと知った。命を扱う重さという訳だろう。


「それにしても……なんだか重さが妙に馴染むと言うか……」


 剣を持った瞬間から、妙に手に馴染むのだ。まるで昔から毎日訓練を行っていたような感覚……まさに、自分が剣を握って居るという事に違和感を覚えないのだ。


「どういう事ですか?」


 隣に居るフィアナは不思議そうに呟いた言葉に対して聞いてくる。他の三人も同じように俺の方を見て不思議そうにしている。


「分からないけど……妙に馴染むんだよ……」


 俺は剣を握りながらフィアナから少し離れ、斬撃障壁に向かう。妙に剣が馴染む感覚があるが、実際は初めて振るう物だ。練習がてら一度だけ斬撃障壁に向けて軽く剣を振るった。


 瞬間、俺の振るった剣は空間を切り裂くが如く、空気を切り裂き、少し離れた位置にある斬撃障壁周辺で何かが割れる音が聞こえた。


 それだけでは無く、ギルバードの時には何一つ傷が付かなかった木材が、離れた距離で振るった俺の剣の軌道通りに真っ二つになった。


 あまりの出来事に周囲に居る三人言葉を発する事が出来なくなり、振るった本人自身も何が起こったのか理解出来なかった


「ど、どうなってるんだ?」


「なるほど……そういう事ですか」


「何かわかったのか?」


「ちょっと、待ってくださいね」


 そう言いながらフィアナは真っ二つに斬れた木材に近づき、手に取る。結果を見たフィアナは再び俺たちの元に戻ってくる。


「評価はSSです。ワタセは紛う事無き剣士です」


「つまり……魔力の才は一切無いが、剣術の才は類まれた物を持っているという事ですか?」


「その通りです。勇者降臨の儀で勇者として召喚したにも関わらず、魔力総量が低い理由がわかりました。答えは単純でツカサはデザイアの才能が高く、ワタセは剣の扱いに長けているという事です」


 俺はポンコツ勇者では無く、魔力が非常に少ない剣士という事か。それなら魔力が低くても納得できるし、握った経験など無い剣が妙に馴染んだ理由も理解出来る。


 勇者としての才能が、そうさせていたという訳だ。Aでも優秀だと言って居たのだからSSという評価は文句無しのものだろう。


「とりあえず……これなら問題無く魔術王立学院に入学出来るでしょう。ツカサ殿もワタセ殿も」


「そうですね……流石勇者様と言っていいと思います。正直所、四万とSSなんて見た事が無いですから、どれほどの物か想像できませんけど……」


「それでも凄いのは間違い無い二ゃ!それだけ理解出来れば十分二ゃ!」


「ふふ、アーニャの言う通りですね。考えても分からない事を真剣に考えるのは辞めます」


 柊の魔力総量の他にも、今回の仮試験で俺にも勇者としての才能がある事が理解出来た。ポンコツ勇者では無く本当に良かった。


 その日にしてポンコツ勇者という名前は返上出来た。呼んでいたのは自分だけだけど。


 一週間後、俺と柊は王立魔術学院の試験を難なく合格し、見事入学する事が決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ