フィアナからの提案
魔力総量を量り終わり、俺たちは移動する。柊が起こした爆発は使用人たちが片付けてくれるようだ。
俺とは違い、高い魔力総量を持つ柊は使用人たちの中でも有名だ。それと相対して、勇者降臨の儀を行って召喚された勇者の低い魔力総量はさらに有名だ。
同じ勇者としての召喚されたにも関わらず、十五万と百四十……流石の性能差には驚きを隠せないだろう。俺自身にも何がどうなって居るのか理解できない。
花恋が言うには、俺は物語の主人公らしい。桃太郎の時にそんな事を言っていた。しかし、どう考えても今の俺は脇役以外の何でもない。子供より低いとフィアナに言われた。
「どうしようも無いか……」
移動した先で、フィアナには各自の部屋を紹介された。自分の部屋の何倍もある大きな部屋。綺麗な魔石が置かれているシャンデリア。一人部屋なのにも関わらず、ダブルベットが置かれている。
他にも各部屋についているお風呂にキッチン。読めない本が大量に並べられた本棚。鉱石で出来た机に、柔らかさそうな椅子……一般人である俺たちが暮らす場所とはかけ離れている。
「こちらの部屋はワタルの部屋です。その隣はツカサの部屋になります。困ったことがありましたら、その魔石に魔力を流し込むとメイド達につながるようになっています」
電話の役目をしてくれる魔石。フィアナが言うのだから俺のように魔力総量が低い者でも使える物なのだろう。
勇者として召喚されたにも関わらず、役に立てそうにない俺にも親切に部屋を用意してくれるフィアナに感謝するしか無い。追い出されても可笑しく無いだろうに。
異世界召喚物という物語を完結させるためには神種選定に優勝する必要がある。可能性の話だが、確率はかなり高いだろう。
各大陸の選ばれた者が来る場所で俺のような魔力総量が低い者が役に立つとは到底思えない。完結させるためには、アーニャも聞いた事が無いと言った柊に頼る以外に無い。
雪の結晶程度しか出せなかった俺は逃げ回る事しか出来ない気もする。いや、逃げ回る事すら出来ないだろう。今まで何もしていない俺が逃げ回る事が出来るなら、死者など出ないはずだ。
「今日は疲れたでしょうから、このまま二人には休んで欲しい所ですが……大事な話がありますので、玉座の間に来て欲しいのです。よろしいですか?」
「俺は大丈夫だ」
「我も全然大丈夫なのだ!」
俺たちの返事を聞いて頬を緩めるフィアナ。多分だが、聞く前から返事の内容は大体予想していたのだろう。
「ギルバードとアー二ャも一緒にきてください。意見を聞きたいです」
二人共同意して、フィアナの後に続く。玉座の間というのはフィアナの座具がある場所だ。普通の人は簡単に入れる場所では無いのは容易に想像出来る。
連れられて数分歩くと、豪華な装飾が施された扉の前にたどり着いた。この場に来るまでに鎧を着た騎士が何人もいた。この置くが玉座なのだろう。
フィアナが扉を開けると、玉座の間が姿を現した。赤い絨毯が敷かれ、小さな階段の上には一つだけ座椅子がある。座椅子の奥には国の紋章が書かれている。
始めてみる玉座の間に俺は言葉を出せなかった。想像以上の雰囲気で、何かを言える空気では無かった。ここが、大陸を収める姫……フィアナが座る椅子。
「この場なら誰も来ないでしょう……」
フィアナは椅子には座らずに、俺たちの方に視線を向ける。何か決意を固めた顔をしているように見える。
「今現在の私は正式には王位を継いでいません」
「姫様……それは……」
「構いません。いつか話をしなくてはいけない事です。暫く言わない気で居ましたが、嘘を付くのは嫌ですから」
ギルバードの言葉を遮り、再び俺たちの方に視線を向ける。俺たちは何も言わずにフィアナの方を見続ける。
「今の正式な王位は父上と母上が持っています」
「…………」
「ですが、今は父上と母上は居ません。死んだわけではないですよ?ただ、生きているとも言えませんが……」
フィアナは魔石を取り出し、魔力を繰り込むと写真のような映像が空中に浮かび上がる。そこには巨大な氷に覆われた部屋があり、氷の中には二人の男女の姿が見える。
「これが私の父上と母上です」
「ど、どうして氷漬けになって居るのだ?」
柊の言葉にフィアナは首を振る。子供であるフィアナにも原因は全く分からないようだった。
「何者かに襲われて氷漬けにされた可能性が高いです」
氷漬けにされているフィアナの両親は、手を繋ぎ合い何か決意したように見える。理由は分からないが、俺には二人が誰かに襲われたようには見えなかった。
「私はこの二人の氷を解かすためにお二人を勇者降臨の儀で召喚しました」
神種選定の優勝国の王位には神種から何でも願いを叶えて貰う事が出来る……二人はそう言っていた。フィアナは氷漬けにされた家族を救うために、俺たちを呼んだのだ。
「物凄く勝手な事に二人を巻き込んだのは申し訳無いですが……どうか私に協力してもらえませんか」
なぜ、神種選定で優勝する必要があるのかを説明してくれたフィアナは再度俺たちにお願いする。
物語の世界に来ている俺らからすれば、断りようが無いフィアナの誘い。しかし、俺は家族を助けたいと思って居るフィアナの言葉に、余計に断れないと思った。
同じように花恋と一緒に暮らしたいと思って居るからこそ、余計にフィアナの思いは理解出来る物だったからだ。
「勿論、俺に出来る事なら……ほとんど無いかもしれないけど」
「我に任せるのだ!我の才能があれば絶対に優勝出来るのだ!」
「ありがとうございます……」
お礼を言うフィアナは少しだけ涙ぐんでいた。それだけ嬉しかったのだろう。俺も正直に話してくれた方が、フィアナ好感を持てる。理由が理由であれば手伝う事に何も問題は無い。
「そして、一つですが……私から提案があります」
「提案ですか?」
「そうです。お二人には王立魔術学院に通って欲しいのです。神種選定まで時間もありますので……どうでしょうか?」
王立魔術学院……名前だけ聞いても凄そうな学院だ。きっと俺たちが通っている学校とは比べ物にならないのだろう。
魔術という非現実な物が発展しているこの世界ならではの学院。数多く優秀な魔術師が居るのだろう。
「それはいいけど……そこでどうすればいいんだ?」
「はい、様々な事を学んで欲しいのです。学ぶ事は強くなる秘訣ですから」
確かにフィアナの言う事は分かる。知識があればいざという時に対応出来る事がある可能性もある。あるに越した事は決して無い。
「まずは基本的なデザイアの知識からです。使い方などもそうですが、魔力を制御する方法なども必要です。ツカサの爆発は魔術心にある大量の魔力を制御出来ないために起こった事です。急にあれほどの魔力を操る事など不可能なので、知識を付けて、学院で学んできて欲しいのです」
大量の魔力があっても制御が完璧に出来なければ意味が無い。毎度毎度、暴走させていては話にならない。それは理解出来る。しかし、俺はどうしたらいいのだろうか?
魔力総量が高い柊は制御する事を重点すればいいが、低い俺は一体何を学べばいいのだろうか?多少何か出来るのであれば問題無いが、氷の結晶を出す程度しか出来ない俺に学ぶ事があるのだろうか。
「対するワタルは魔力総量が低いので、体術を学んで欲しいのです。二人一組で行われる神種選定では、一人が接近、もう一人がデザイアによる遠距離となる事が多いらいしです」
古典的な戦術だろう。だが、極めて能力が高い二人が行えば全く隙が無い戦術。あくまでも二人共極めて高い能力を持っていればの話だ。
魔力総量が低いのは理解しているが、俺に接近戦など出来るのだろうか?出来なければ俺は全く使い物にならない役立たず勇者になる訳だが……出来る光景が浮かんでこない。
「ワタルが出来るようになるか分かりませんが、しないよりは断然マシでしょう。ある程度学んでいて損は無いと思います。アーニャとギルバードはどう思いますか?」
フィアナの後ろ立っていた二人に尋ねる。二人は少し考える素振りを見せてから口を開く。
「良いと思います。学院でしたら優秀な者も多くいるため、実戦経験を積むのにも最適でしょう。万が一に何か起こる可能性も低いと思います」
「私も良いと思う二ゃ!そもそも、学院で学ぶ事すら出来ずに神種選定を勝ち抜けるとは思えない二ゃ!」
二人はフィアナの意見に同意のようだ。言っている事も最もだと思う。各大陸から選ばれた者のみが集まる大会だ。学院で学ぶ事が出来ずに優勝出来るとは思えない。
実戦経験の積むのも賛成だ。俺たちは全くの素人で、何が出来て何が出来ないのかすらも把握していない。自分あった戦い方というものあるはずだ。そういうのを学ぶ事は決して損はしないだろう。
それに何より俺は何か見つけなければ問題だろう。このままでは物語を完結させる事が出来ないかもしれない。神種選定に出てくる人達がどれほどの強さなのかは想像できない。
今の俺たちよりは強いのは確実だろう。柊の魔力総量は高いかもしれない。だが、高いだけでは勝てず、二人一組という問題点もある。魔力総量が高く、扱いにも慣れたデザイア使いと、他者を圧倒するほどの剣の扱いをする者が相手なら対抗すう事も出来ない。俺がどこまで使えるようになるか、それが大きく結果を分けるだろう。
「わかった。俺は学院に行く事に賛成する。てか、負けるのは嫌だしな」
物語を完結させなければ、ここに居ない三人にも申し訳ない。失敗は許されない。常に全力をもって当たる方が良いだろう。
「我も賛成なのだ!魔術学院とか憧れだったのだ!ぜひ、一度通ってみたいのだ!」
「遊びに行く訳じゃないぞ……」
中二病の柊なら自分の能力が強くなる事に関しては手を抜かないだろう。その事に関しては心配していないが、遊び半分で行って、後が消えない怪我などしたら大変だ。女の子なのだから、気を付けた方良いだろう。
「わかってるのだ!」
満面の笑みを浮かべる柊が本当に理解しているのか把握できないが、俺たちの意見は同じだった。王立魔術学院に行く事は確定だ。
「わかりました……けど、一つだけ問題があるんです」
「何かあるのか?」
フィアナは言いづらそうに俺の方に視線を向ける。一体どうしたのだろうか?
「王立魔術学園に編入する試験はかなり厳しいです……」
「げ……」
全く文字が読めない俺たちが試験を乗り切れる訳が無く……一から勉強する必要があるという事だろう。
「試験と言っても、勉学の試験では無い。実技の試験がそれなりに厳しいのだ。王立なのだから、低いレベルの者が入学できる訳が無い」
勉学が無いという言葉で少し安心した。だが、フィアナが俺の方を見ていた理由は察した。柊の魔力総量なら問題無いが、俺が入学するのは難しいのだろう。だが、入学しなければ完結させる可能性が低くなるのなら、やる以外の選択肢は存在しない。
「私の力で入学させる事は出来なくも無いですが……」
歯切れが悪い所を見ると、あまり使いたくない手段なのだろう。それもそうか……権力の濫用になる訳だ。フィアナの評判に関わる可能性がある。
「それはダメだ。なんとかして見るよ」
自信は全く無いが、努力する他無いだろう。どのレベルに至れば入学出来るかは不明だが、どうにかして入学基準まで上げる必要がある。
「学院の試験は公開されていますので、広場で実践してしますか?お二人もその方が良いでしょうし」
「それが良い二ゃ!すぐに準備して貰う二ゃ!」
そう言うとアーニャは玉座の間から出ていく。
「私も準備に向かいます。終わり次第連絡しにきます」
ギルバードも同じように準備のため、玉座の間を後にする。俺と柊、フィアナの三人が残される。
「申し訳ありません……」
急に謝ってきたフィアナに、俺は軽く頭を撫でる。失礼かもしれないが、しょんぼりしているフィアナを見て居られなかった。
「ふふ、くすぐったいですよ」
気持ちを察してくれたのか、フィアナは少しだけ頬を赤くそめて、笑顔で言う。笑って居る方が何倍も可愛いので、その方が良い。
「航先輩は女の子なら誰にでも甘いのだ」
「そうなのですか?」
「そうなのだ!大体女の子には優しいのだ!男の子の頭を撫でてる所見た事が無いのだ!」
「それは良いのでは?むしろ、殿方の頭を撫でる方が問題なのでは?」
フィアナの正論に俺はほっとした。柊の言う事に賛同してくれなくて本当に良かったと。誰が好きで同性の頭を撫でなければ行けない。小さい子なら理解できるが。
それから暫くして、アーニャとギルバードが同時に玉座の間に到着し、王立魔術学院の試験を実践してため、玉座の間を後にした。




