文化祭当日
朝目を覚ますと、学校に行く準備をして、教室に向かう。文化祭当日のため、早めに学校に向かう。
クラスの出し物の準備をしなければいけない。部活の出し物よりも、先にそちらを優先させなければならない。
「航!おはよう!」
教室に着くと、彩が笑顔で迎えてくれた。どうやら俺よりも早く学校に到着した見たいだ。
「おはよう、彩」
「うん!」
文化祭のためか、いつもより楽しそうに笑っている。クラスメイトも同じように、笑顔が多い。
「彩は今日は接客をするんだよな?」
「そうだよ!自信なけど、頑張るよ!」
「彩なら絶対にうまく出来るよ」
「そうかな?」
「ああ、絶対に出来る」
俺は力強く言う。これは根拠が無い言葉ではなく、本心で思って居る。彩に笑顔で接客して貰える事を思うと、そう思わずにはいられない。
「航がそう言うなら頑張るよ!」
クラスの出し物は、クラスの半分つづで行われる。そうしなければ、文化祭を周る事が出来ないからだ。
俺は後半が文化祭を周る時間になる。ちなみに彩は前半に周るので、今日は劇の時以外顔を合わせる事は少ないだろう。
「今日は頑張ってね!あ、航も静奈さんと一緒に来てね!彩が待ってるよ!」
「そうだな、彩に接客してほしいから、静奈さんに聞いてみるよ」
「バッチこいだよ!」
静奈さんに言えば、確実に来てくれるだろう。それに、接客をする人は、制服ではなく、メイド服に着替える。人数も多く無いので、手芸部などが協力してくれたのだ。
「俺は準備してくるよ。彩も文化祭を楽しんでな」
「楽しむよ!今日はつかさと一緒に周るよ!」
俺は前半が出し物に居なくてはいけないので、準備をするために彩から離れる。
裏方の仕事になるので、さほど準備などは必要ないが、打ち合わせのような物があると、昨日言ってたので参加する。
打ち合わせが終わり、各自の仕事の役割を再度確認する。そして、粗方の準備が終わると、少し暇な時間が出来た。俺は部室に行く事にした。
劇をしている最中は、クラスの出し物に参加しなくていいようになっている。時間も少しあるのだが、一応確認のために部室に行く事にしたのだ。
この時間はどこもクラスの出し物で忙しいはずだ。誰も部室に居ないだろう。
しかし、部室の前に来ると、扉が開いている事に気が付いた。俺と同じ事を考えた人が居る見たいだ。
「あれ?航君??」
中に居たのは静奈さんだった。少し驚いた顔をして、俺の方を見ている。そういう俺も少しだけ驚いた。六花さんが居ると思って居たからだ。
六花さんなら、心配になって再度見に来ていたとしても何も可笑しくない。結構、そういう所はしっかりする人だからだ。
「一人ですか?」
「そうだよ♪六花は出し物の準備をしてるよ♪」
「そうなんですか」
静奈さんとは、文化祭の周る時間も合わせてある。事前にどこでどこで待ち合わせをするかなど、詳しい事も既に決めている。
静奈さんのおじいちゃんが、どこから見ているかは全く分からないが、今は大丈夫だろう。一般の人が学校に入れるようになるまで、もう少し時間がある。
「おじいちゃんも、いつ来るとか全く教えてくれないの。ごめんね?」
「大丈夫ですよ。逆に意識した方が、やりにくいかもしれないです」
「そうだね♪三人もカップルに見えた!って言ってたし、それを信じようか♪」
「そうですね。きっと大丈夫ですよ」
そんな会話をしながら、俺と静奈さんは劇の準備がしっかり終わっているかを確認する。
みんなで何度も確認したが、当日にあれが抜けてる!なんていう話は良くある。だからこそ、こうして確認しに来た訳だが……特に何か問題があるようには見えない。
そもそも、昨日の内に当日に持っていく事が出来ない物は、ほとんど体育館に移動させている。ここにあるのは、小道具などが主だ。
「大丈夫そうだね♪」
「そうですね、何度確認しても問題無いように思えます!」
後は本番でうまく行くかどうか……そこに限られてくる訳だが、練習もたくさんした。後はそれを信じるしか無いだろう。
こうして俺たちは、文化祭が始まる少し前まで、部室で話をしていた。
彩から『そろそろ戻ってきて!』と携帯に送られてきたので、俺たちは部室を後にした。
***************
文化祭が始まる放送と同時に、学校全体に大声が響き渡る。去年の事はほとんど覚えて居ないが、こんな感じだったのだろう。
誰もがこの日のために準備してきたのだ。楽しく過ごそうとしているに違いない。こういうなりげない日々を送っている俺だが、妹の花恋とも送れるようになりたいと思った。
そして、大忙しで進む文化祭。喫茶店を行っている場所は多くあるが、メイド服を着ている影響か、物凄く忙しい。
メイド服を着て接客を行っている場所はこのクラス以外無いはずだ。だからこそ、人気が出るのだろう。
教室の外には、順番を待っている人も多く居る。制服を着ている人から、私服で来ている人……一般の人と生徒が一丸となって楽しんでいる光景は、少し良いものだと思った。
裏方で仕事をしていても、教室の中の様子は見える。その中に彩と柊の姿も見えた。二人も笑顔で話しをしているようなので、楽しんでいるに違いない。
そうして、忙しい時間は過ぎ去り、前半の人の仕事が終了した。
放送でその事が告げられると、今まで文化祭を周って居た人達が、戻ってくる。そして、少しづつ交代していって、俺は着替えをする。
「航!絶対に頑張ってよ!」
「わかってるよ。バレないように頑張る」
「頑張って!あ!しっかり、劇の時間までには帰ってきてね!そうじゃないと、大ごとになるからね!」
「それはわかってるよ」
劇は開始は二時半ごろになっている。今は十二時半ぐらいだ。少し早めに体育館に着く事を考えても、時間は十分にあるだろう。
「それじゃ、行ってくるよ!」
「行ってらっしゃい!」
彩に見送られながら、俺は静奈さんと待ち合わせをしている場所に向う。人が大勢いるので、分かりやすい場所を待ち合わせに選んだ。
「航君!こっちだよ♪」
分かりやすい場所と言っても、ボランティア部の前だ。俺たちには一番馴染みがあり、分かりやすい場所になっている。
万が一にも迷う事も無いし、この辺は出し物などもほとんど無いので、人の数も他に比べると圧倒的に少ない。
「お待たせしまし……」
「むぅ……」
「遅くなってごめん」
「大丈夫だよ♪」
デートの練習をした時に、敬語を使わないのと、静奈と呼んで欲しいと言われた事を思い出した。
聞かれていたら違和感を抱かれる可能性も十分にあるので、注意した方がいいだろう。
「それじゃ、行こうか♪」
静奈さんは手を差し出す。俺はその手をゆっくりと握り、歩き出す。学校の中で手を繋いで歩くというのは、物凄く視線を感じる。
そもそも、この学校の生徒は静奈さんの事を知って居るので、余計に見られる。
しかも今日は文化祭だ。学校でのイベント時に手を繋いで歩いていれば、当然のようにそう思われる。だが、カップル(仮)だとしても、そればかりは仕方が無い。
全校生徒に説明などしている余裕は当然無いし、する必要性は無い。ボランティア部で毎日のように一緒に居るから、これが終わった後でも違和感を抱かれる事は無いはずだ。
「どこから行こうか?」
「そういえば、彩が来て欲しいって言ってた」
朝に彩が言っていた言葉をそのまま伝える。二人で居る時に他の女の子の話を持ち出すのはダメかもしれないが、仕方が無いと思っておく事にした。
「行こうか♪彩ちゃんが待ってるなら、行くしかないよ!」
予想通りに、静奈さんは笑顔でそう言った。という訳で、文化祭で一番初めに行く場所は、自分のクラスの出し物に決まった。
教室に行くと、順番待ちの列が出来ていた。しかも、俺が居た時よりも遥かに多い。
「航君のクラス凄いね……私の所はこんなに並んで無かったよ」
「いや、俺が居る時もここまでは……」
ちょうどお昼時というのも関係しているかもしれないが、ここまで並んでいなかった。とりあえず、列の一番後ろに並び、待っていると、列の理由がわかった。
「はい、かしこまりました!少しお待ちください!」
満面の笑みを浮かべている彩の姿が目に映った。それと同時に前の方から声が聞こえてきた。
「あの子物凄く可愛いよな……笑顔も良いし」
「あんな子に好かれたら、幸せだろうな……」
どうやら、列の原因は満面の笑みを浮かべて、接客をしている彩のようだ。女の子がメイド服を着ているので、男の人が多いが、ほとんどの人が彩の事を話している。
「航君♪幸せ者だね♪きっと、航君の事を伝えたら、物凄い嫉妬されるよ♪」
「絶対に辞めてくださいね……」
「流石にしないよ♪けど、幸せ者だと思うのは確かな事だよ♪彩ちゃん可愛いし、人気あるだろうし」
そんな事は言われなくても理解している。彩が俺に好意を抱いてくれている事も十分理解している。
きっと、俺は静奈さんが言う通り、幸せ者だろう。みんなと一緒に居れる事もそうだし、彩に好意を抱かれる事もそうだし……。穏やかな日常を送れているのもそうだ。
「まぁ、それは仕方ないよね♪男女の関係なんて、そういうものだし♪」
「そうだな」
話をしながら待っていると、俺たちは三十分ほどで中に入る事が出来た。
クラスメイトに案内され、席に着く。すると、彩が俺たちに気が付き、駆け寄ってくる。
「来てくれたんだ!」
「来たよ♪物凄く人気あるね♪」
「そうなんです!彩のおかげですね!」
「本当にそう思うよ♪待ってる間も、みんな可愛いって言ったよ♪」
「そんな事言われてたんだ……」
少し頬を赤く染める彩。自分が色々な人に可愛いと言われていた事を知って、恥ずかしがっているのだろう。
「メイド服物凄く似合ってるし♪航君もそう思うよね?」
「ああ、似合ってて、可愛い」
これは嘘偽りない言葉だった。彩のメイド服を見るのは、今回が初めてだが、似合って居て可愛い。話題になるのも頷ける。
「もう……恥ずかしいよ……」
先ほどよりもさらに頬を赤くして、もじもじする彩。その姿も可愛い。
いつもより、短いスカート。鮮やかな服に、白い太ももが眩しい。ニーソを履いているのもポイントが高い。
少し彩の事を凝視していると、人差し指で頬を刺してきた。そして、ぷにぷに突いてくる。どうしたのだろうか?
「そんなに彩の事見ないで!恥ずかしいよ!」
そう言うと、彩はスカートを翻し、他のお客の場所に行く。先ほどの彩の行動で、俺の方に視線が集まる。
「めっちゃ、見られてる」
「それは仕方が無いよ♪」
俺たちは、料理を頼み、食べ終わると、次の場所に向う事にした。
食べながら話した結果、次の柊の教室に向かう事になった。朝に彩が一緒に周ると言っていたので、今はクラスの出し物に居るはずだ。
「えっと……占い?」
「こんな事やってたのか……」
俺もそうだが、静奈さんも柊がどんな出し物としているか知らなかったようだ。それにしても、占いって……柊に出来るのだろうか?
占いの本を見ながら行うのだろうか?柊がそんな事をしている光景は想像が出来ない。
それより、物凄く怪しげな言葉を呟いて、相手を混乱させている光景しか浮かんでこないが……流石にそれは無いだろうと思いたい。
一応、一般の人も来ている。その人たちに俺たちと同じ対応をしたりしないだろう。
「あの子、物凄く個性的だったね!」
「何言ってるのかイマイチ分からなかったけど、楽しそうだったし、面白かったよ!」
柊の教室から出てきた二人組の女の人が、楽しそうに話ながら出てきた。俺の心配は、現実になったようだ。
「私、誰の事かなんとなく想像できたよ……」
「俺も想像できた……」
占いは順番待ちなどはなく、直ぐに入る事が出来た。教室の中は暗く、雰囲気が出ている。
仄かに淡い明りが付いており、中に入る個別になる。俺と静奈さんは一緒に場所に二人で入り、椅子に座る。
「そうこそ、我の館へ!今宵、我の力を求めし、矮小な人間がまた二人迷い込んだ。さぁ、願いを言え!」
柊は黒い衣装を着ており、三角帽子を被っている。机の上には水晶の変わりなのか、小さなビー玉が七つ並べている。心かしら、オレンジ色ばかりなのは気のせいだろうか?
「正体を教えて欲しいな♪」
「くくく、それは我の力を超えている。叶える事は出来ない。他の望みは無いか?」
柊はどうやら俺たちが来ている事を知って居て尚、このキャラで行くらしい。
「占いをしてほしい」
俺がそう言うと、柊は手を広げて、口を開く。
「くくく、お安い御用だ。我の力を行使すれば、実に容易い事よ!」
七つのビー玉に手をかざし、少しだけ無言になる。その間はずっと、手をかざしながら動かしている。
「見える!見えるぞ!我の力を持って、未来の結果が見える!」
この後も劇があるにも関わらず、物凄くノリノリの柊に俺たちは苦笑いを浮かべながら、顔を見合わせた。
「どんな未来なんだ?」
「辛い未来になるが……聞く覚悟はあるか?覚悟な無いのであれば……辞めておいた方が、お主のためになる」
「それじゃ、辞めておくよ」
「なるほど……わかった。お主に覚悟があるのなら、問題無い。未来を見せてやろう!」
「全く聞いてないね……」
俺は聞かないと言っているにも関わらず、無視して話を続ける柊。まぁ、適当に言っているだけだろうし、問題無いけど……。
「お主は二股をする。そして、一方の彼女が想像妊娠するのだ……そして、彼女を裏切り、もう一人の女と一緒になろうとして……刺される!」
「なんか、物凄く怖いんだけど!」
静奈さんの言う通り、物凄く怖い。それに、どこかで聞いた事がある話なのは気のせいだろうか?
「それから、お主を殺した想像妊娠の女は、もう一人の女にお腹を引き裂かれて……中に誰も居ませんよ、と一言呟くのだ!」
「…………」
「それから、首だけのお主を船の上で抱きしめながら……」
黙る俺たちは、それから柊の満足行くまで、占いを続けた。そして、終わると同時に俺たちはため息を吐く。
「占いっていうか……」
「なんか、私の知って居る占いとは違ってたよ♪」
「俺も知ってる占いとは違ってた……」
あの出て行った一般の人が言っていた事が何となく理解出来た。いきなりあんな風に言われたら、本当に訳が分からないだろう。
「けど、つかさちゃん、物凄く楽しそうだったね♪」
それには、激しく同感だった。見ているだけで、ノリノリなのがわかったぐらいだ。
「とりあえず、どうしようか?劇の時間を考えると、周れる箇所はそんなに多く無いけど……」
「六花さんのクラスに行きます?みんなの所だけ行って、行かないのは申し訳ないから……」
「うーん、六花は来て欲しくないって、言ってたよ♪」
「そうか…それなら行く辞めましょう」
そうして、俺たち劇が始まる時間まで、文化祭を満喫した。




