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意志の力

俺たち以外誰も居なかった公園に、突然声が聞こえた。


 振り返ると、そこには白い着物を着た女の子が居た……。


「花恋……!」


 そう、突然現れたのは俺の妹であり、こうして物語の世界に来ている理由そのものだった。相変わらず、容姿は八年前と全く同じだ。


 まだ、物語の世界の存在も知らなかった頃に、異世界で出会った時と何も変わっていない。八年間全く容姿の変化が無いのだから、そんな短期間で変化する事は考えられないが、こうして見ると違和感しかない。


「あの異世界の女の子なのだ!」


「航の妹……」


「どうして姿を見せたんだろ……」


 俺以外の三人も突然現れた花恋に驚いているようだった。一体どういう目的があって姿を見せたのかはわからないが、こうして姿を見れた俺は嬉しさが胸にあふれていた。


「今回は久しぶりに会って話をしたいと思って来たよ!」


 花恋は可愛らしい笑みを浮かべてそういった。そういう笑顔も昔と一切変化していない。


「お兄ちゃんたち、なんだか可愛らしくなったね!」


 俺たちの容姿について言っているのだろう。異世界で会った時は、俺はもう高校生だった。しかし、今は完全に小学生だ。それも七年前なら、まだ、花恋が居なくなってそう時間が経過していない。


「なんだか、少しだけ昔を思い出すよ……まだ、私たちが一緒に居た時の幸せな時……お兄ちゃんもそうでしょ?」


「そうだな……俺も似たような事を思ってたよ」


 あの時は幸せだった……今が幸せではないという事ではない。しかし、大切な妹と一緒に生活をしていた時も幸せだったのだ。こうして、物語の世界に来ているほどに大切で幸せな時間だった。


 俺が今一人で住んでいる家には笑い声が満ちていた。あの花恋が居なくなるまでは幸せな家庭だったのは間違いない。


「それなら良かったよ!けど、今日私が来たのはそういう話がしたかった訳じゃないんだよ」


「どういう話をしに来たんだ?」


 少し後ろに居る三人は黙って俺たちの話を聞いている。気を使っているのか……あるいは、昔の話をしているので、付いて行けないのか……多分だが、前者だろう。


 だが、異世界に居た花恋の話に興味が無い訳がない。それは直接、この物語の世界全体に繋がる物になる可能性が高いからだ。


 間違いなく、物語の世界について一番詳しいのは花恋だろう。俺たちは物語の世界に行って、完結させるのが役目であって、詳しい知識は無いに等しい。どういう基準で、物語が選ばれているのか?そういった事は何一つとしてわからない。


「ねぇ、お兄ちゃん……うんん、みんなにも聞きたい事なんだ」


 花恋は後ろに居る三人にそっと笑いかける。俺たち全員に聞かせたい話見たいだ。


「どんな話なの?」


「す、少し緊張するのだ!」


「そうだね……私たちにとっては、始まりの人物だもんね……」


 緊張している三人だが、そんな三人の様子を見て、花恋は再び笑みを浮かべて話をする。三人の様子と、花恋の様子は明らかに真逆だった。


「そんなに大した話じゃないよ。だから、聞き流す程度で聞いてほしいな」


「ああ……そうするよ」


 直接俺たちの前に出てきて話をする内容だ。どうでもいい内容を話に来たとは考えずらい。俺個人では花恋と話したい事が山ほどある。まぁ、それは物語を全て集めてからする事にする。


「率直な質問になるけど……過去って変える事が出来ると思う?」


 過去……現在よりも以前の事を指す言葉だ。意味を知って居るし、過去というのは生きている人間であれば、確実に存在するものだ。過去が存在しない者など、どこを探しても全く居ないだろう。


 仮に記憶喪失になり、その過去を全く覚えていない場合も、過去というのは等しく存在している。本人が覚えていようが、覚えてなかろうが、過去は確実に存在する。それは、自分以外の誰かが、その事を証明できてしまうからだ。


 周りの人達……家族や友達、近所の住民……誰でもいい。とにかく、生きている内は確実に誰かと接する。だからこそ、記憶を失っても過去は無くならない。


 だからこそ、俺の答えは一つだった。


「変える事は出来ない」


 そう、過去というのは生きている者であれば、確実に存在するものだ。そして、それは過去であるからこそ、過ぎ去った時間なのだ。今を生きる俺たちが、過去を改変するのは不可能だろう。


 もし過去を改変する事が出来るのであれば、全人類は過去を改変するだろう。人間は生きていれば必ず失敗を経験する。必ず挫折を経験する。遅いか早いかの違いだろう。だからこそ、そういうやり直したい時間というものは確実に存在する。


 きっと、静奈さんや彩、柊にだって存在する。俺にもやり直したい時間というのは存在する……しかし、やり直せないのが過去というものだ。人間は時間に縛られているからこそ、過去を変化させる事は出来ない。


「みんなはどう思う?」


 花恋は俺以外の意見も聞きたい見たいだった。しかし、なんとなく花恋も返事の予想はしているだろう。


「我は出来ないと思うのだ!」


「私も出来ないと思う」


「うーん、少なくとも、私にはできないかな……」


 過去を変える事は出来ないと確実には言えない。出来る人も探せば居る可能性は捨てきれない。しかし、それでもなお、俺は出来ないと断言しよう。


「そんな事出来るのは、神様ぐらいだろ」


「神様……か」


 花恋は俺の言葉に顔を下に向けた。想像ではあるが、神様になる事が出来れば、過去を改変する事は出来るのではないか……しかし、神様など存在するかどうか証明出来る者は存在しない。居るというのは簡単だが、証明するのは限りなく難しい。


「けどね、私は人間でも過去を改変する事が出来ると思ってるよ」


「…………」


 自分の妹ながら、何を言っているのか良くわからなかった。完全にできないとは否定する事は出来ない……あくまでも可能性での話だが。しかし、仮に出来るとすれば、それは人間ではないだろう。


 俺たちは物語の世界に行く事が出来る物凄く珍しい存在だろう。普通の人間には出来ない事らしい……しかし、俺たちは人間だ。過去を改変する事など言うまでもなく出来ない。それが出来てしまう存在は人間とは言わないだろう。


「過去は過ぎ去った物なのは認めるよ。けど、過去は変えられると思ってる……バカだと思うかもしれないけどね」


 花恋の様子は至って真剣だ。ふざけて居る様子など欠片も感じさせない。本気で言っているのだと俺にはわかる。


「勿論、タイムマシンがどうこうなんて言わないよ?私も現代の科学では難しい事ぐらいわかってるよ。特に過去に戻るのは難しい」


「親殺しのパラドックスだね……」


「そうだよ。それをどうにかしない限り、私たちは過去に戻る事は出来ない。まぁ、そんなのは置いておいても大丈夫だよ。全く関係無いもん」


「どういう事なのだ?」


 正直、静奈さんと花恋が話をしている内容は良くわからない。親殺しのパラドックスは聞いた事はあるが、どういう物なのかは知らない。


 多分だが、俺だけではなく、柊や彩も全く分かって居ないだろう。


「知らなくても大丈夫だよ……それと私の話は全く関係ないから」


「それならどうやって過去を改変するの?過去は決して改変する事は出来ない……改変しようとして、失敗すると思うけど……」


「意志の力だと私は思ってるよ」


「意志の力?」


「そう、意志の力……変えようとする想いと覚悟で過去は変化する。そういう強い想いは時に不可能も可能に変える……って、私は思ってる。普通の人が聞いたら夢物語だね」


 花恋が一体何を思って、そう言っているのかは俺には全く理解できないが、少なくとも花恋は冗談を言っているようには見えない。意志や変えたいという想いで過去が変わるなら、俺だって過去を改変する事が出来るだろう。


「それは、タイムトラベルして改変するより、難しそうだね……」


「そうだよ!意志で過去を変えれるなんて、想像も出来ないよ!」


「我も想像できないのだ!まだ、タイムマシンとかの方が信じれるのだ!」


 俺も全く想像が出来ない。大好きな妹の言う事なので、信じてあげたいが、流石にこれは肯定する事は出来ない。それなら、意志の力で全てを変える事が出来るという意味だ。


「私は想像出来るよ。出来ないのは覚悟と意志が足りないからだよ」


「…………」


 花恋の言葉に、俺たちは黙るしかない。言っている事は、信じる事は出来ないが、目が本気なのだ。嘘を付いて居る目ではない。自分の妹だからこそ、本気だと伝わってくるのだ。


「それはこの物語と関係ある話なのか?」


 花恋の話はちょうど、この物語と関係しているように思える。今は七年間で、俺たちからすれば過去に値する。今、突然出てきて、こういう話をするからには、関係があるのではと思っても不思議ではない。


「関係ないよ……とは言えないけど、この話をしてもしなくても、変わらないのは確かだよ。私がこの場に来たのは気まぐれだよ。ただ一度、みんなに聞いて欲しいと思っただけだよ」


「そうか……」


 俺たちはこの物語の完結方法すらわかって居ないので、少しでも完結させるヒントになればいいと思ったが、なりそうにない。


「お兄ちゃん、この物語を完結させても、過去はわからないよ?それだけは覚えておいてね」


「それは流石にわかってるよ」


 俺たちは物語の世界に来ているのであって、ここは現実ではない。仮に六花さんの家族が亡くならない方法にたどり着いても、現実での出来事では無いので、変わる事はないだろう。


「それなら良かった!流石にそんな事思ってないとは思ってたけどね!」


 花恋は急に明るくなる。まだ、一緒に暮らしていた時と同じ明るさだ。これが本来の花恋で、先ほどまでは真剣に話をしていたのだ。


「物語を完結させるの頑張ってね!私も応援してるよ!」


「ありがとうなのだ!」


 柊は笑顔で答える。花恋の笑顔を見れば、応援しているのが本当の事だというのが十分理解できるためだろう。


「後、さっきの話を聞いて思ったけど、この世界でみんなが暮らす場所を作るのを忘れてたよ!」


「それは忘れないで欲しいよ!」


 彩の言う通り、忘れないで欲しかった。雨が降ったりするのかはわからないが、色々困る事だらけだ。しかし、花恋の発言で、花恋が物語の世界を変化させることが出来るという事がわかった。


「という訳で、ここに向かって!ここが、寝床になるよ!」


 花恋は俺に近づいてくると、一枚の紙を渡してきた。その紙には手書きの地図が書かれており、ある場所を示しているようだ。


「それじゃ、またね!お兄ちゃん!」


 そう笑顔を告げると、花恋はまるでそこに居なかったかのように、姿を消した。


「姿が消えたのだ!」


「私も一回でいいからやってみたい!」


「羨ましいね♪」


 瞬間移動をしたようで、確かに少し憧れを抱いてしまうが、まぁ、出来るようになる事は無いだろう。


「とりあえず、ここに向かって見ますか?」


「そうだね♪他に行くアテなんてないしね♪」


「周りも暗くなってきたよ!」


「我の時間がやってきたのだ!漆黒の闇に包まれた我はまさに無敵なのだ!」


「それなら、つかさだけはずっと外に居てもいいよ?」


「我、やっぱり夜は怖いのだ」


「早いな……漆黒の闇はどうしたんだ」


 そんな話をしながら、俺たちは紙に書かれた場所に向かう事にした。どんな場所かはわからないが、変な物を用意している可能性は低いだろう。


「今回はお風呂とかあって欲しいね♪」


「桃太郎とシンデレラは無かったのだ!」


「あると本当に助かるよ!」


 確かに、今まで物語の世界にはお風呂という物が無かった。桃太郎の時は露天風呂があったが、出来れば毎日入りたい物だ。


「もうすぐ見たいだね♪」


 紙に書かれた場所は、公園からすぐ近くにあるみたいだ。地図に書かれている目印の場所が見えている


「ここかな?」


「多分……」


 少し歩くと、地図に書かれた場所にたどり着いた。そこは、木造の小屋のような場所だった。しかし、ドアもしっかり付いて居るので、雨漏りや風の心配はなさそうだ。


「せっかくだから、普通の家が良かったよ」


「少しがっかりなのだ」


「見た目は確かに……けど、中に入ればいいかもしれないよ♪」


 そういい、俺たちは中に入る。鍵は開いていたので、簡単に中には入ることが出来た。


「中も普通だね」


「そうですね」


 中も見た目通り、普通だった。しかし、キッチンもあり、何より、お風呂が付いて居る。数日暮らすだけなら十分ではないだろうか。


「それになんだろこれ……」


「何かのカード見たいなのだ!」


「何か書いてあるよ!」


 彩が近くに紙を置いてあるのを発見し、俺たちは紙に近づいて内容を読む事にした。


「えっと……お買い物無料券って書いてある」


「この世界の食べ物限定で全て無料になりますって書いてるのだ!」


「やったよ!おいしい物を食べれるね!」


「これで、ここでの生活には困らないね♪」


 それから俺たちは広くない小屋を散策した。他に目立ったものはないが、食事やお風呂……雨風も心配ないようだ。


 それからこの日は、お風呂に入り、寝る事にした。これからどうすればいいのかわからないが、どうにかして物語の完結方法を見つけるしかない。


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