楽しさの共有
「あの、すいません」
俺は追いついた六花さんのお父さんに声を掛けた。その声に振りかえると、俺の方を見て、優しい笑みを浮かべてくれた。
「どうかしたのかい?」
知らない子供に話しかけられたというのにも関わらず、笑顔で対応してくれた六花さんのお父さんはきっと、優しい方なのだろう。
「六花!!」
話しかけたはいいが、どう切り出そうかと悩んでいると、後ろから静奈さんが六花さんの名前を呼びながら、駆けだした。
「え……なにっ」
そして、静奈さんは子供の六花さんに抱き付いた。しかし、六花さんは困った顔を浮かべながら、お父さんの方を見ていた。
「えっと……誰ですか?」
「……っ」
やはり、この世界の六花さんは俺たちの事を知らないようだ。想像はしていた事だが、やはりこうして直面するとかなりきつそうだ。それは静奈さんの横顔を見ればすぐに理解できる。
「六花の知り合いじゃないのかい?」
「知らない……と思う」
「けど、流石に知らない人に抱き着かれたりしないと思うけど……」
「わ、私も急な事過ぎて驚いてる……」
静奈さんは辛そうな顔をしながら、六花さんから離れた。今までずっと一緒に居た二人だ。急に他人の対応になれば、どれぐらい辛いかなど、容易に想像できる。
「どこかで……出会った?」
「これから出会うんだよ♪」
「え……」
静奈さんは辛そうな顔から一変して、普段の顔に戻る。無理しているのは理解できるが、笑顔で言う静奈さんの言葉を六花さんは驚いた顔で見ている。
六花さんと出会ったのは、お父さんとお兄さんが亡くなった後だろう。この時に出会う事は不可能だ。だからこそ、笑みを浮かべてその言葉を言ったのだろう。
それを知って居る俺たちは理解出来るが、当然のように六花さんはそれ自体を知らないので、驚いた顔をするのは無理はない。
六花さんにしてみれば、意味がわからないかもしれないが、俺には物凄く響いた。
「先輩……」
彩も俺と同じように、響いたようだ。
「どういう事だい?今の笑顔を見る感じ、嘘言って居るようには見えないけど……」
そらそうだ。静奈さんの笑顔は普段の六花さんに向ける笑顔と何も変わりない。それを嘘だと思うのは、静奈さんを知らない人でも無理な事だろう。
「とりあえず、六花は遊んできなさい」
「え……どうして?」
お父さんの急な発言に六花さんは驚いた顔を浮かべていた。それを笑顔で見て、お父さんは再び口を開く。
「今は知らなくても、遊び終わった時には友達になってるだろ?だったら、遊べきだよ。六花はただでさえ、友達が居ないんだから」
「居ない訳じゃない……遊ばないだけ」
「それじゃ、今度連れてきてくれるかい?」
「…………」
六花さんはその言葉に、顔を下に向ける。静奈さんが言って居た通り、六花さんは幼い頃は今と全く真逆のようだ。
「それじゃ、後は任せてもいいかい?」
その言葉は俺たちに向けて言った言葉だった。相変わらず、優しい笑みと声色でそう言ってくれた。その返事は決まっている。
「任せてください♪」
「任せるのだ!」
「行きましょう!」
俺たちは笑顔で、六花さんのお父さんにそう答えた。不審に思われて、終わりかとおもったが、こうして声を掛けて少しだけ展開が変わった。
これが六花さんに関係ある物語なら、六花さんの近くに居るのが一番いいだろう。しかし、それ以上に、六花さんと一緒に居たいと思ったからこそ、こうして遊ぶ事を決めたのだ。
きっと、遊んでいる時間など存在しないだろう。物語の完結方法も全く分かって居ない……このままでは物語を完結出来るかどうかもわからないままだ。
このまま行けば間違いなく、現実で起こった通りに進んでいくだろう。しかし、俺たちは物語の主人公だ。六花さんが事故にあった時は、俺たちは居なかった。
だからこそ、俺たちと六花さんがこの時、この場所で遊ぶことは決して起こりえない事だったはずだ。だが、物語の世界で、不可能が可能になったのだ。この出来事で少しでも物語に変化が起こればいい。
現実で起こった事は、決して曲げる事は出来ない。この物語でうまく行っても、現実では一切変化はないだろう。しかし、物語の世界だからと言って、六花さんに辛い思いをしてほしくない。俺たちの手で、現実に起こった物語を変えるのだ。
「それじゃ、行こうか♪」
笑顔で手を差し出す静奈さん。なんとなくだが、初めて六花さんと静奈さんが出会った時も同じように、静奈さんが率先して六花さんを連れ出したのではないか?と思ってしまう。それは二人にしかわからないことだが。
そう、だからこそーーー六花さんは不安そうに顔をしながらお父さんの方を見てーーー静奈さんの手を取ったのだ。
「行くのだ!」
「行きましょう!」
「六花さん、きっと楽しいですよ」
そう、普段一緒に居る時間が楽しいと感じているのならば、それは必然だろう。同じメンバーが小さくなっただけだ。当然、楽しいに決まっている。
「そうだね……なぜかわからないけど、私もそんな気がして仕方がないよ!」
不安そうな顔を強く吹いた風がさらった。六花さんの笑顔を見ると同時に俺たちは駆けだした。
それと、同時に少し振り返った時に、視界には入った六花さんのお父さんは笑っていた。だが、その笑顔が妙に悲しそうに見えたには気のせいだろうか。
「航君、行くよ♪」
気になったが、静奈さんの言葉で俺は前を向いた。今の六花さんは友達が少ないと言っていた。だから、俺たちのような同年代の子と一緒に居る光景を見て、何か思ったのだろう。俺はそう結論づけた。
俺たちはこの辺に詳しくないにも関わらず、意味もなく笑いながら駆けだした。
***********
「いっぱい、遊んだね♪」
「久しぶりに鬼ごっことかしたのだ!」
「私もだよ!小学校以来だよ!」
「俺もそれぐらいかな」
「????今も小学生じゃないの?」
六花さんが不思議そうに聞いてきた。そういえば、今は物語の世界で、子供の姿になって居るのを忘れてた。六花さんからすれば、可笑しなことを言っていると思われても不思議ではない。
「なんでもないよ♪」
「そういうならいいけど……」
静奈さんが笑み浮かべながら言うと、不思議そうな顔をしては居たが、納得してくれた見たいだ。
「ところで、みんなの名前って、なんて言うの?」
「そういえば、自己紹介してなかったのだ!」
「普段通り過ぎて、それを忘れてたよ!」
六花さんと出会ったのは、昼頃だった。今は、空が夕日で赤く染まって居る。長い間、自己紹介もなく駆けていた。まるで、子供見たいに。その時間は懐かしくもあり、楽しかった。
「俺の名前は星野航です」
「私は仙道静奈だよ♪」
「我は、永遠の焔抱かれし者……ダークフレイムマスターなのだ!闇の炎に抱かれて死ね!なのだ!」
「この子の事は無視しても大丈夫です。あ、桜彩です!この痛い子が柊つかさです!」
「その子……かなり個性的ね」
「アホなだけです!」
「アホじゃないもん!」
彩と柊がいつも通りの言い合いをする。その光景を見ている六花さんは、小さく笑みを浮かべていた。
「私の名前は立花六花です。六花って呼んでください」
「ど、どうしたらいいのだ?現実では、先輩なのだ!」
「六花の言う通り、呼び捨てて良いと思うよ?」
柊は静奈さんに耳元で話しかけている。小さい声で話をしているつもりなのだが、俺と彩には普通に聞こえている。六花さんには聞こえていない見たいなので、問題はないが。
「よろしくね、六花♪」
「よろしくなのだ、六花!」
「よろしく、六花!」
彩も柊も六花さんが言った通りに、呼び捨てで呼ぶみたいだ。そうならば、俺も呼び捨てで呼ばせてもらう事にする。
「よろしく、六花……」
なんだが、物凄く違和感があるが……この物語の世界だけなので、問題はないだろう。流石に、現実で呼び捨てにする事は出来ない。
「よろしくね、みんな!」
そういう六花さんは、今日見た中で一番の笑顔を浮かべていた。その笑顔を見れただけで、今日一緒に遊べた事を良かったと思った。
小学校の頃の六花さんはきっと、こういう思いをしてこなかったのだろう。学校では誰かと話をしているかもしれない。しかし、こうして一緒に誰かと遊んだ経験は少ないのではないだろうか。
遊んでいる途中のどうしたらいいのか?少し戸惑った様子を浮かべていた六花さんを見ればわかる。だが、今見た笑顔はそれを感じさせなかった。
俺たちが物語の世界に居れる時間は物凄く短い。完結させる事が出来なかったとしても、それは変わらない。しかし、短い間だとしてもこうして、現実と同じように仲良くして行きたいと思った。
「次は何しようか♪」
静奈さんが笑顔でそういう。空は夕日で染まっているが、まだ明るい。六花さんと……みんなと遊ぶ事はまだ出来るだろう。
そう思って居ると、遠くから音楽が流れてきた。少し暖かく、そして寂しい気持ちにさせる音楽。それを聞いて六花さんは慌てて、周囲を見渡した。
「どうかしたのだ?」
「もう十七時だよ!帰らないと!」
この流れている音楽は十七時を告げる音楽だったみたいだ。時計がなくても、この音楽を聴くと、時間が変わるようになっているようだ。
「お父さんから言われてたのに!それじゃ!」
「ちょっとーーー」
静奈さんが呼び止めようとしたが、六花さんは聞かずに走り去った。どうやら門限があるみたいだ。小学生なのだから、門限があって当たり前だ。俺も小学生だった時は門限があった。
「どうしますか?」
「六花さんが居なくなったら、どうすればいいのかわからないよ」
「そうなのだ……」
俺たちだけで遊んだところで何の意味もない。それに、遊んでいる時間など全くない。六花さんが居たからこそ、遊んでいたのだ。
「結局、楽しんだだけで何もわからなかったね」
静奈さんの言う通り、六花さんとは楽しく遊んだだけで、何もわからなかった。六花さんが帰ってしまうと、物語を完結させる事に時間を使うべきだが……どうすればいいのか全く分からない。
依然として、状況は全く進んでいない。まだ、一日目だと言えば聞こえがいいが、一日経っても、物語の完結方法がわからないままなのだ。それは大いに問題だろう。
「とりあえず、これからどうします?」
「というか……私たちって、どこで寝泊まりするの?」
「…………」
彩の質問に俺たちは口を閉ざす。そうだ、どうしていままで気にならなかったのだろう。ここは、現実世界が設定の物語だ。そして、この街に俺たちの家は無い……という事は、寝る場所が無いという事だ。
「それはちょっとまずいね♪」
「そんなウインクしながら言う事じゃないのだ!」
「彩達、見た目は小学生ですよ!?夜遅くに外に居たら不審に思われるよ!」
「それか、警察とかに保護させるか……だな」
この物語に警察が居るかどうかは確認していないので、わからないが、スーパーの店員や、商店街で歩いている人も居たのだ。居ても全く不思議ではないだろう。
補導されるのも困るが……寝る場所が無いのはもっと困る。流石に野宿はしたくない。
「みんな、困ってる見たいだね!」
「え……」
突然、俺たち以外の声が聞こえてきた。
*************
門限を忘れていた事は初めてだ。いつもは、十七時には絶対に家に居る。というか遊びに行くことなど無いので、学校が終わっても家を出ないし、今は夏休みだ。
一日家に居るのは説明しなくてもわかるだろう。遊ぶ友達も居ないのに、外に出てもすることは無い。
一人でも遊べることはあるだろうが、一人で遊んでも楽しくない。誰かと楽しいを共有して、初めて本当の楽しさというものになる。
「だから今日は物凄く楽しかった」
時間にするとほんの数時間だ。だが、その数時間は物凄く早く過ぎ去り、胸の中は楽しいと、この時間が終わって欲しくないという思いで埋め尽くされていた。
それは、誰かと楽しいを共有したからだ。私の覚えている限りでは初めてではないだろうか?
こんなに時間が早く過ぎる事……こんなに誰かと楽しいという思いを共有した事……家族以外で感じたのは初めてだ。
「けど、初めてじゃない……」
そう、私は不思議な感覚に襲われていた。お父さんと一緒に居た時は、こんな感覚無かったが、五人で遊びだしてから不思議な感覚に襲われていたのだ。
いや、厳密には静奈に手を引かれた時だ。あの時、みんなと一緒に居れば楽しくなるという感覚があった。
それと、どう言葉にすればいいのかわからないが……一言で言えば、暖かさというのだろうか?それをあの瞬間に感じた。
居心地のよさ?暖かさ?懐かしさ?不思議と、みんなと出会ったのは初めてではないような感覚……初めて出会ったはずなのに、そんな感覚が私に胸の中にはあった。
もちろん、こんな感覚は今までに一度だって無い。それが不思議で仕方がなかったが……。
「不思議だけど、なぜか全然嫌じゃない……」
あれ?これ……なんか違う気がする。私はこんな話方だっけ?今の今までそんな事思わなかったのに……。
「おかしい……違う、おかしいわ」
そう、これだ。しっくりくる。こんな話方した記憶はないが、なぜだがしっくりくるのだ。
「今日はどうしたかしら……」
あの四人に出会ってから不思議な感覚でいっぱいだ。けど、全く嫌じゃない感覚……私はこの感覚を抱きしめるように、自分の肩を抱く。
「とにかく……早く帰らないといけないわ」
もう少しこの感覚について、考えたかったが、門限を過ぎているので、ゆっくりしていられない。
「けど、楽しい時間だったわ……」
思い出すだけで、その楽しいという思いが蘇ってくる。私も……みんなも笑顔で駆けまわった。あの瞬間は、本当に楽しいという思いを共有していたのだ。
一人では体験出来ない物……私は初めて家族以外で体験した。この不思議な感覚と共に……。
「いつか会えるかしら……」
今までそんな風に思った事はない。けど、そう思ってしまった。また、一緒に遊びたいと思ってしまったのだ。また、楽しさを共有したいと思った。
それと同時にこの夏休みは、今までの夏休みとは違う、大きな出来事が起きる気がした……みんなと一緒に居る夏休みは特別な物になるような気がした。
考えながら歩いていると、自分の家が見えてきた。お父さんも遊んでいた事を知って居るので、大丈夫だと思うが、もしかすると怒られるかもしれない。
そんな事を考えながら、私は家のドアを開けた。今日の夕飯の時は、みんなと遊んだ事と、この不思議な感覚をみんなに話そうと思いながら。




