楽しみに♪
異世界人生ゲームが中途半端に終わり、みんな何もすることが無い状態で部室に居た。
先ほどの人生ゲームの内容がなかなかもので疲れてしまったというもの理由の一つだ。もう二度とする機会はないだろう。
落ち着いた空気の中、静奈さんが携帯を見ながら口を開いた。
「そういえば、みんなは夏休みの予定とかあるの??」
急な質問に、俺たちは各自がしていたことをやめて、静奈さんの方を向く。夏休みになったからといって、何かすることがあると言えば嘘になる。
去年の夏休みもほとんど何もしていない。ただ、家に居たり……ときどき彩と会ったりなどもしていたが、ほとんどが一人でいた。
それに俺は去年まで、花恋のことでいっぱいだったので、そんなに自分が楽しむ事など考えられなかった。今はこうして、ボランティア部のみんなと一緒に居て、花恋と一緒に暮らす方法があることを知っているので、普通にしていられるが……。
「俺は特に予定は無いですよ。部室に来たり……宿題やったりぐらいですね」
自分で言っていて悲しいが、本当にそれぐらいしかすることが浮かんでこない。宿題はするのは嫌だが、部室に来てみんなと一緒に居ることは決して嫌では無いのでいいが。
「我も特にないのだ!!航先輩と一緒で、部活か宿題ぐらいしかないのだ!」
「彩も同じです!特にすることはないです!」
「私も同じくないわよ……みんな受験勉強とかしているはずだけど、私たちは物語を集めるまではこの学校に居る予定だから」
「そういえば、そんなことを初めの方に言ってましたね……」
物語の全て集めて、完結させるためだったら、留年する!とか出会った頃に聞いた気がする……まさか、本当に留年する気だとはあの時は本気で思ってはいなかったが、どうやら本気らしい。
「ええ、静奈もそのつもりよね」
「そうだよ!!許可も一応貰ったよ♪」
「すごいですね……」
どういう風に説明して、許可をもらったのか気になるが、聞かないことにした。物語の世界に行って、願いを叶えるため……流石にそんなこと説明して、許可を貰っているとは思わないので、何か別のことを言っているのだろう。
「とりあえず、みんな予定はないってことで大丈夫♪」
「そうみたいよ」
「それなら、お盆の時期なんだけど……みんなで行きたい場所があるの♪」
「どこに行こうと思って居るのかしら?」
「東京だよ!!」
その静奈さんの言葉に彩と柊は同時に立ち上がった。そして、二人同時に静奈さんに駆け寄った。
「「東京!!!!!」」
「そうだけど……そんなに驚いてどうしたの?」
言った本人も、こんな反応をされるとは思って居なかったようだ。二人の東京についての反応に静奈さんは少し驚いた顔をしていた。
「東京行きたい!!(のだ!)」
満面の笑みを浮かべる二人……本当にどうしたのだろうか。確かに東京に行ったことはないが……それでもそこまで楽しみになるということは無い。だが、二人はなぜか異常なほどに楽しみにしているように見える。
「良かった♪行く時期は八月十日から十五日までだよ♪新幹線で行くのが一番早いけど……」
「新幹線……」
「我はそんなにお金ないのだ……」
ここから東京までは車でおそよ八時間ほど掛かるはずだ。新幹線なら二時間ほどで着くが、流石に俺も新幹線で行き帰りするほどお金の持ち合わせがない。
「そうだよね……一応、大き目の車なら出せるけど……車で行くのは流石に疲れると思うし」
「彩は車でも全然大丈夫です!!」
「我も全然大丈夫なのだ!!」
「本当に??それなら車で行く?ちなみに、宿泊する場所も私の家の別荘……東京にある家だからお金掛からないよ♪使用人も東京に用事があって行くみたいだから、お金も貰わないよ♪」
満面の笑みを浮かべる静奈さん。そんな静奈さんを見て、二人は同時に口を開いた。
「神様だ……」
「神様なのだ!」
「大げさだよ♪」
キラキラした瞳で見つめる二人……こんなにキラキラした瞳を浮かべている二人を見たのはもしかしたら初めてかもしれない。
「二人はどう??」
静奈さんは返事をしていない俺と六花さんの方を向いて聞いてきた。俺はお盆も特に予定はない……両親が帰ってくる訳でもないので、まったく予定はない。
「俺は大丈夫ですよ」
「そっか♪六花はどうする??」
「私は……」
こういうイベント事なら真っ先に食いついてきそうな六花さんは、意外と乗り気ではなさそうだ……というか、申し訳なさそうな顔を浮かべている。
「私、お母さんが心配だから行けないわ。だから、四人で行って来ていいわ」
「あ……」
六花さんの言葉を聞いて、急に申し訳なさそうな顔になる静奈さん。そういえば、俺の歓迎会をしてくれた時にも、お母さんが理由で遅れていた。体調が良くないのだろうか。
「ごめんね……みんなで一緒に行けないなら無しにしよう」
「そうですね……」
「先輩だけ行けないのは可哀そうなのだ」
二人はあんだけ行きたそうにしていたのに、六花さんが行けないとわかると直ぐに諦める。本当にいい子なんだとわかる。
だからこそ、六花さんは、先ほどの申し訳なさそうな空気を吹き飛ばす元気な声で俺たちに行った。
「私の事はいいわ!!みんなが私に合わせる必要なんて全くないわ!!だから、気にしないで行ってきなさい!これは、部長命令よ!!」
一人だけ行けないのは悲しいはずなのに、俺たちに気を使って、そういう六花さんもまた、本当にいい人なのだろう。だからこそ、俺たちもそれに気が付かなくてはならない。
「わかりました。部長である六花さんがそう言うならそうします」
「そうしなさい!行かなかったら、逆に怒るわ!!」
六花さんの態度からみんなも察したのか、先ほどまで行かない雰囲気だったにも関わらず、その言葉にうなずいた。
何も予定が無かったのに、急遽、お盆に東京に行くことが決まった。東京は行ったことが無いが、人が多いイメージしかない。どんな場所なのかは全く知らない。
「それならいいわ!!みんな、お土産は買ってきてほしいわ!!」
「勿論、買ってくるよ♪」
「お土産話もいっぱい聞かせるのだ!!」
きっと無理して笑っているはずだが、それを感じさせない六花さんの笑顔を見て、俺は一つ提案した。
「それならみんなで夏祭りに行きましょう」
「そういえば、そろそろそんな時期だね♪」
「いいと思うのだ!」
「彩もいいと思う!というか、みんなで行きたいと思ってたよ!」
全てが東京に一緒に行けない六花さんのため……という訳でもないが、俺も夏祭りのチラシを見たときに、真っ先にみんなの顔が浮かんできた。遠出はできないかもしれないが、近場ならみんなで行けるだろう。
俺は六花さんの方に視線を向けた。結局のところ、六花さんが乗り気じゃなければ意味がない。俺個人としてもみんなで行きたいと思って居たが、一緒に行けない六花さんのためということもある。
理由があるにしても、一人だけ行けないのは決して嬉しい事ではないだろう。しかし、楽しみにしている柊と彩の事を思って笑顔で言ってくれた六花さんにも夏を楽しんでほしい。
「そうね!私もそれなら問題なく行けるから、みんなで行くことにしましょう!!」
当然と言えば当然だが、六花さんは笑顔でそう言ってくれた。こういう事に乗り気じゃない六花さんは六花さんじゃない。
「それならその予定を立てようか♪人もそれなりに多いし、集合場所とかも決めて置かないと見つからない可能性とかもあるし♪」
「そうなのだ!毎年、毎年、人が多いのではぐれないようにするのだ!」
「それなら夏祭りに行くのは決定ですね」
可能性は低いと思って居たが、もし万が一にも断られたらどうしようと思って居たので少しほっとした。穴埋めという訳ではないが、六花さんも楽しめたらいいと思う。もちろん、他のみんなもだが。
「???」
突然、ポケットに入れていた携帯が振動した。気になるので、机の下で携帯を取り出し、誰からか確認した。
(六花さんからだ)
グループではなく、個人でメッセージが送られて来ていた。目の前に居るのだから口で言えばいいのでは……と思ったが、中身を見て俺は静かに携帯をポケットに直した。
(ありがとう)
短い文字で送られてきていた。どうやら気を使った事はお見通しのようだった。
六花さんの方に視線を向けると、六花さんも俺の方を見ていた見たいで、目が合ってしまった。すると、頬を赤く染めて視線を逸らされてしまった。
その姿は可愛いと思うと同時に今まで見た事がない仕草で、驚いた。他のみんなに視線を向けたが、みんなは気が付いていないようだった。
「とりあえず!」
「何がとりあえずなのだ?」
六花さんが言った言葉に柊は首を傾げながら聞いた。彩と静奈さんも同じように首を傾げていたが、俺には六花さんが照れているのがわかった。
「そうですね」
深いところまで理解した訳ではないが、俺は同意しておいた。本当に理由は良くわからないが、そうしておいた方がいいような気がしたのだ。
「???まぁ、いいよ♪それで……夏祭りっていつだっけ♪」
「三日後じゃないですか?あんまり自信ないですけど……」
家に居る時にチラシで見ただけなので、あまり覚えてはない。毎年、行う日も違うので、良く見ておかないと間違える可能性もある。
「私も三日後だった気がするわ……同じく、詳しい事は覚えてないけど……」
「調べてみる!」
彩は携帯を取り出して、検索してくれているようだ。そして、三分ほど経過すると顔を上げて口を開いた。
「合ってます!三日後です!!」
「三日後か……流石に今からだと厳しいかな??いや、確か家に合った気がするな……」
顎に手を添えて、考えている静奈さんは、しばらく一人でぶつぶつ言っていた。そして、携帯を取り出し、誰かに連絡している。
少しすると、静奈さんは携帯を閉じて、手を叩いた。その音に反応して俺たちは静奈さんの方向に視線を送る。
「お母さん、ありがとう!」
「先輩がおかしくなったのだ!!」
「おかしくなってないよ♪そんなことより、航君以外この後暇??」
みんな顔を見合わせて、うなずいた。それにしても俺以外というのはどういう意味だろうか。流石に仲間外れにしようとしている訳ではないのは、考えなくてもわかる。
「それならみんなで今から私の家に来てほしい♪ちょっとした準備があるから♪」
全く訳がわからなさそうな顔をしている三人。俺に関してはさらに訳がわからないが……ここは何も言わないでおく。きっと、何かあるのだろう。
「ほら♪ほら♪みんな急いで♪」
「静奈、急にどうしたのかしら?」
「なんでもないよ♪気にしないでいいよ♪」
そういいながら準備が終わった四人の背中を押して、急いで帰ろうとする。本当に訳が分からない。
「航君、楽しみにしておいてね♪♪」
静奈さんはそう言って、みんなの背中を押して、部室を出て行った。部室には俺だけになり、俺も片づけをして家に帰ることにした。




