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突然の再会

普段あまり途中で目を覚ますことが少ないのだが、今日はなぜか目を覚ましてしまった。時刻は明日になる五分前程度だった。就寝してから約二時間程度しか経過してないようだ。


 外には夜空を照らす半分の月と、無数に見える小さな光に覆われていた。俺が住んでいる場所は住宅街で、周囲の光が邪魔をして星が綺麗に見えることは少ないが、今日はやけに綺麗に見えた。夕日もやけに綺麗に見えた今日は何か特別なことが起きるのだろうか。


「そんなアニメじゃあるまいし……俺も彩の事あまり言えないな」


 実際全てたまたまに違いない。花恋が急に姿を消したのも、決してそんな非科学的な出来事ではないはずだ。確かに、姿を消す当日は誰一人として姿を見ていないが、非科学的な出来事のほうが、よっほど怖い。


 夕日と星が綺麗に見えたことに少しだけ得をした気分になった俺は、もう一度寝ようと、再度布団を体に掛けると出来事は起こった。先ほどまでと違い、やけに部屋の中が明るくなった。それも、電気も付けていないも関わらず、電気が付いている時以上の明るさだった。


「な、何が起こっている……」


 つい、何分か前に否定した非科学的な出来事が自分の目の前で起こっていた。流石に自分の目で見たことを信じないほど、自分を疑っていない。完全に目は覚めているので、寝ぼけているということもないだろう。


 俺の目の前で、部屋の扉が光り輝いていたのだ。電灯の光よりも強い光が扉から発していた。普段俺の部屋の扉は決して光ることはない。生まれてから一度たりともそんな光景を見た記憶はない。仮にあったとしても忘れることは決してないだろう。


「本当にどうなっているんだ……」


 当然のようにどうなっているか気になる俺は自分の部屋の扉に近づく。まさか、彩に進められて見たアニメのように急に異世界に転生したりなどはしないだろう。そもそも、転生する場合のほとんどが死んでからだ。俺は生きているのでその心配はないだろう。


「とりあえず、開けてみないことには何も分からないな……」


 このままにしておくとどうなるか検討も付かない。一日中この光を発している可能性も考えられる。そうなると、寝ることも出来ない、近所から苦情が来てもおかしくない。そして何より一番の理由がある。


「俺はこの扉の奥に行きたい……」


 何が待っているかは全く検討が付かないが、それでも奥に自分と関わりがある何かがあることは間違いない。そうでなければ俺の部屋の扉が光り輝いたりする訳がない。


 扉の前に立ち、俺はドアノブに手を伸ばした。普通であれば見慣れた家の廊下に出るはずだが、どこにつながっているのだろか。ドアノブに触れ、手に力を込めて回し、扉の中に入った。


「ここは一体……」


 そこは予想を遥かに凌ぐ光景が目の前に浮かんでいた。


「空が三つに分かれている……?」


 こんな光景を見たことが無いのでうまく説明出来ないが、真っ先に出てきたのはその言葉だった。そう、空が三つに分かれているという言葉が一番しっくり来た言葉だった。


 昼、夕方、夜という三つの空がひとつの空に交わっているのだ。厳密には区切りが存在している可能性が高いが、太陽と夕日と月がひとつの空に存在しているのだ。決して普通では見ることが出来ない光景だ。


 そして、奥の方に目をやると、大量の本が並んでいる本棚が存在していた。タイトルまでは見えないが、とても分厚い本が多いのは見て分かる。一体何冊あるのかは検討もつかないが、大量の本が並んでいた。


 地面には短い草が生えており、草原のようだった。だが、その草に混じって多く生えているのが花びらが四枚ある白い花だった。仄かに光を放っているように見えるが、一体どうなっているかは分からない。


 そして、何より目を引くのは後ろに何もないはずなのに、扉が存在しているのだ。どういう原理か分からないが、俺の常識では測れない何かがあるのだろう。


「異世界もあながち間違いじゃないな……」


 俺は白い花を踏まないように奥に歩き出す。開いた扉のドアノブを離すと同時に砂のように消えた。もう、後ろに戻ることが出来ないということだろう。


「久しぶりだね、お兄ちゃん」


 歩いていると人の声が聞こえてきた……いや、とても聞き覚えがある声で、ずっと聞きたかった懐かしい声だった。声が聞こえた方に視線を向けると、人影が存在していた。


 さらに近づいてよく見ると、声を顔が完全に一致した。


「花恋……」


「久しぶりだね……お兄ちゃん」


 異世界のような場所に佇んでいるのは、八年間ずっと探し続けていた妹の花恋だった。八年という月日が経過しているにも関わらず、容姿は姿を消した当時と同じままだ。違うのは見た事のない服……白い着物のような服を着ているという点だけだ。


「花恋……一体いままでどこで何をしていたんだ。お母さんやお父さん、俺もどれだけ花恋の事探したと思っているんだ」


「ごめんね、お兄ちゃん……」


 そういう花恋は悲しげで、八年前には見ることが出来ない表情をしていた。体は全く成長していないが、心のほうは成長しているようだった。


「どうして、急に居なくなったんだ。どうして、八年も経っているのに体は子供のままなんだ?もう高校生の年のはずだろ??この空間は一体何だ??一体どうなっている??」


「そんな一度に聞かないでよ……無理もないね。急に居なくなった妹に八年ぶりに会えたんだから。私も逆の立場だったらきっと、お兄ちゃんのような反応していたよ」


 白く長い髪を掻き分けて、花恋は俺に近づいてくる。良く見るとその横には分厚い本が浮いていた。


「一体どうなっているんだ……」


 今までに経験したことが無い出来事ばかり混乱する。急に姿を見せた花恋に、異世界のような空間。それに真横に浮かぶ本など、全てが分からない出来事で、正直整理しようとしても頭がまだ付いて行かない。


「まずね、容姿の事を説明するね」


「あぁ……」


「容姿については正直な話私にも良く分からないの。ただ、この空間に居る間は現実の世界では全く時間が過ぎないのは確かだよ。だから現実の世界から来た私はこの空間の中では時間が経過しないって考えているよ」


「なぜ時間が経過しないのか聞いても分からないだろ??」


「そうだよ、しいていうなら現実世界じゃないからかな」


「なるほどな。分からないが納得はした」


 この空間は現実世界と全く異なる空間で、時間という概念が存在しない世界という訳か。だから、花恋の容姿は八年前と同じ状態だという訳か……謎が多すぎるが、今は考えないでおこう。もっと重要な内容を聞かなければらないからだ。


「どうして八年前、急に姿を消したんだ?それも誰も目撃証言が無いなんて絶対におかしい。小学校二年生の時なんて、家の近所以外移動しなかっただろう??」


「そうだね、けど、それは簡単なことだよ。だって私は八年前にこの世界にやってきたんだもん。現実世界に居る時にこの世界に来た……たぶん、周囲に居た人は記憶を消されている可能性があるよ。だから、誰も覚えていないし、私の姿を見てないんだよ」


「人の記憶を消した??」


 普通、そんなこと出来る訳がないのだが……花恋が嘘を付いているように見えない。だとすれば、信じられないことがだが、信じて話を聞いてみる他俺には出来ることはない。


「そうだよ……たぶんね。それでこの空間のことなんだけど、ここは中間の物語だよ。何かの比喩表現ではなく、本当にそのままの意味で、ここは中間の物語の世界だよ」


 そい言う花恋は白い着物の袖をはためかせ、ぐるりと一回してから再び口を開いた。


「お兄ちゃんは物語を知っている??」


「そりゃ知っているだろう……小さい頃読んでいた本だって物語だ」


「そうだよね、けどこの世界はそれと全く同じとは言えないけど、ほとんど同じなの。物語の狭間……物語が動き出すのに必要不可欠な場所なの。当然、普通の人はこの場所に入ることは出来ないよ。それも物語でしょ?」


 花恋はよく分からない事を言いながらゆっくりと歩きながら近づいてきた。そして、小さな手で俺の手を握り、ぎゅっと力を込めた。俺も八年ぶりに再会した妹の手を握りしめ、その感覚を大切にする。


 ずっと何年間も握りしめたかった花恋の手……今こうして非現実的な場所で再開出来た喜びと戸惑いがある。けれど、それよりも俺の大切な妹の手を放したくなかった。ずっと握って居たい気持ちだった。


「手……大きくなったね。八年前とは大違いだよ」


「八年経ったからな……長いようで短いようで……けど、花恋が居なくなってから俺の心の時間は止まったままだった。けど、また動きだせる」


 俺は小さな花恋の手を両手でやさしく包み込んだ。そして瞳を閉じて口を開いた。


「一緒に家に帰ろう。お母さん達もきっと喜ぶよ」


 笑みを浮かべて言う俺に花恋の表情は曇った。そして、手を振りほどき、駆けて離れて行く。俺の言葉に対しての回答は聞くまでもなく分かってしまった。


「私は帰らないよ。だって私は語り部だからね。物語を語らなきゃ行けない存在だから。だから、私は元の世界には戻ることは出来ない。うんん、やるべきことが終えるまでは戻るつもりはないよ。現実世界で何年、何十年経とうが、目的を果たすまでは戻らない」


「その目的って一体なんだ??俺に出来ることなら協力する」


 早く花恋に帰ってきて欲しい俺はこうするしかない。今すぐ連れて帰りたいが、花恋の瞳を見れば望んでいないことなど容易に理解出来る。何がなんでも目的を果たすまでは帰らないという意思が伝わってくる。


「当たり前だよ!お兄ちゃんは私の物語の主人公だもん!お兄ちゃんの意思関係なく関わってもらうよ。この物語の主人公として、語り部である私が語り終わるまでずっと関わってもらう」


「もちろん俺もそうするつもりだ。主人公でもなんでも、花恋のためらななってやる!」


 八年間全く手がかりが無かった花恋にやっと少し近づけたのだ。こんな場所でくじける訳には行かないだろう。何がなんでももう一度家族みんなで暮らすためらな何でもする。


「主人公のお兄ちゃんにはメインヒロインが必要だね」


「メインヒロイン??」


「そうだよ、けどもう大丈夫だよ。こうして今日私と接触したことで物語は動き出しているから。後はそこで聞いて」


「一体どこの話をしてるんだ??」


「明日分かるよ……たぶん、この世界で話した内容はほとんど持って行けないだろうけど、私と出会ったことは覚えているはずだよ。私は目的を果たすために語り部になったの……絶対に果たして見せる。だからお兄ちゃんは主人公としてがんばってね」


「ああ!分からないことだらけだが、がんばってみるよ」


「そのいきだよお兄ちゃん!!がんばってね、本当にがんばって。そして、もう一度一緒に暮らそうね」


「当たり前だ。必ず一緒に暮らそう」


「そうだね!それじゃ、私の主人公!語り部の私が語る物語についてきてね。途中で絶対諦めないでね。後この横の本には私が語る、結果が分からない物語が載っているの。誰にも結果が分からない物語がね……それは持っている私にも全く先が読めない。けど、だからこそ、本は面白いんだよ」


「そうだな……花恋が言うには俺は主人公なんだよな??」


「そうだよ、お兄ちゃんは私が語る物語の主人公だよ。誰にも変えられないとても大切な役割を担っている主人公なんだよ」


「だったら、俺が最高に面白い物語にしてやるよ!そしたらまた一緒に家族で暮らせるなら何でもしてやる」


 小さい頃、本当の幸せなんで全く分からなかった。いつか、大事な人を失うなんて思ってもしなかったし、考えてもなかった。だが、今なら本当の幸せが何かなんていうのは分からないが、幸せなんだと感じる瞬間は理解出来る。


「がんばろうね、お互いに」


 その言葉と同時に世界が歪む。異世界みたいな場所から現実世界に変わるのだと核心する。そんな歪む世界の中で、花恋は俺のほうを見て、涙を流しながら笑顔を向けてきて、歩き出す。


 その行動でまた暫くの間、花恋に会えなくなるのだと察した。だが、俺は悲しい気持ちは一切なく、花恋が生きて居たという事実だけで、嬉しさが爆発しそうだった。もう、会えないかも知れないという思いは少なからずあった。だが、もしかすると、一緒に暮らすことが出来るかもしれない。そんな思いが俺をやる気に満ち溢れさす。


「記憶は持ち帰れないって言ってたな……」


 このやる気や、聞いたことを忘れる可能性があるかもしれない。だが、今は花恋と出会えたという事実のほうが大切だ、少なくとも俺はそう思っている。


 歪む世界が眩い光を放つと同時に俺は目を開けていられなくなり、目を瞑ってしまった。暫く目を開くことが出来なかったが、少しすると目を開けるようになり、目を開いた。


 そこはいつも見慣れた家の廊下だった。


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