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三度目の正直

俺達は街から戻ると、そのまま仙女の下に向かう。


 時間的に仙女がシンデレラに魔法を掛けに行くまであまり時間は多くない。急いで行動しなければ何か起こった時に対応できなくなってしまう可能性がある。


 買ってきた封筒を隠して、仙女が居るであろう小屋をノックした。


 全員で話をしに行っても混乱させるだけなので、全てを知って居る俺が仙女に話すことになった。その方が色々話をしやすいからだ。


「どうしたの??」


「ちょっと話がありましてりまして……」


「今度はどんな話?みんな一緒だし……何か不便な所あった?」


「いえ、そういう訳では……」


 俺はみんなに視線を送ると、四人全員頷いて少し後ろに下がった。みんなをのけ者にしているようで嫌だが、仕方ないと割り切って俺は仙女と話をすることにする。


「とりあえず、中で話をしていいですか?」


「わかった!いいわよ」


 俺は一言だけ言ってから中に入る。今回で中に入るのは三回目になるが、誰も居ない時とほとんど同じ状態だった。


「みんなはいいの?」


「はい、俺が話をします」


 一番詳しい俺が頑張らないとこの物語を完結させることは難しいだろう。みんなにはある程度説明したが、やはり体験していないことを話すのは容易ではないはずだ。しっかり話せる俺が話をする方がいい。


「その前に私からいい?」


「大丈夫ですよ」


「私が居ない時に部屋に入った?」


「…………」


 なんとなくその話だろうとは予想していた。やはり、綺麗に直したとはいえ、どうしても違いというのはわかってしまう。


 それも毎日使っている部屋などは、物の配置は少し違うだけで簡単に気が付いてしまうだろう。二回目と違い、今回はかなり手掛かりを探すために漁った。


 仙女が気が付いてしまう可能性も少なからず存在している事は理解していたので落ち着いて対応出来た。


「はい、何か手掛かりが何かと思って、入りました」


「やっぱり……ところ所違う箇所があったから可笑しいと思っていたのよ」


「すいません……」


 手掛かりを探すためとはいえ、やはり人の部屋に勝手に入り、私物を漁ったのは悪い事だ。それも、良くしてくれる人に対してしたのであれば、当然罪悪感というのは残ってしまう。


「それは、別にいいわ。何か取るために入った訳ではないのは直ぐにわかったから!」


 仙女は入ったことを責めずに、笑顔でそう言った。しかし、すぐに戻り、俺を見据える。


「手掛かりってどういう意味?この物語を完結させるための手掛かりよね?」


「そうです。そうじゃなきゃ、勝手に入ったりしません」


「それはなんとなくわかる。けど、この物語は直ぐに完結出来るわよ?聞いた思うけど、私がシンデレラに魔法を掛ければうまく行くはずよ。だって、この物語はシンデレラだから」


 確かにこの物語はシンデレラで間違いないだろう。本来のシンデレラであれば仙女が言う通り、シンデレラに魔法を掛けて、王子と結ばれて完結だ。最も、有名な終わり方だろう。だがーーー。


「その方法だと物語は完結しません」


「……どういうことかしら?」


「そのままの意味です。シンデレラに魔法を掛けても舞踏会にたどり着くことは出来ません」


「詳しく話をして欲しいわ」


 仙女もこのシンデレラが繰り返して居るという事実を知らない。そうであれば当然俺の言っている事は理解出来ないだろう。


 だって、シンデレラの完結方法など、簡単に思い浮かぶものではそれ以外存在しないからだ。


 俺は全てを話した。このシンデレラが繰り返して居る事、魔法を掛けたシンデレラはお城にたどり着く前に亡くなったこと……大雑把に今まで見きをた展開を話した。


「信じられないわ……魔法がうまく行かなかったなんて……」


 そんな経験今まで体験したことがないのだろう。自分が使った魔法が自分と意思とは違うことを起こすなど……だが、それが仙女が恋しているという事実に結び付く。


 なぜなら、他人を好きになるというのは、自分の意思ではどうすることも出来ないものなど理解しているからだ。その自分ではどうすることも出来ない物が仙女の魔法を違う物に変えたのだろう。


「俺は、一つの仮説をたてました……もう、確信していますが」


「何かしら……」


 仙女は気まずそうな顔をして、視線を逸らす。多分だが、自分でも一つだけ心当たりがあるのではないだろうか。


「魔法がうまく行かない理由はなんとなくわかって居ると思います。俺はそれがこの物語を完結させる方法だと思って居ます」


「…………」


 俺は隠していた封筒を取り出す。すると、仙女は今まで見せたことがない驚いた表情をした。


「その封筒……」


「王子に書こうとしたラブレターを入れる封筒です」


 確信を持って言える。仙女が王子に手紙を書いて、送ろうとしていた事を。そして、まだ仙女が王子を好きだということ。


「……この世界って本当に残酷よね」


「どういうことですか?」


 仙女はここではないどこか遠くを見ながら口を開く。見ている場所は多分だが過去ではないだろうか。


「私と王子は両想いだったわ。それは間違いなく、私の一人よがりな思いではないと断言できる」


 俺は机の上にある写真に目を向けた。確かに、仙女の様子を見れば好きなのだというのは容易に想像できる。しかし、王子も仙女の肩を抱いている。仙女が言うことは多分本当の事なのだろう。


「けど、私たちは結ばれることは無くなったわ。それは今の現状を見れば想像できるでしょ?」


「はい」


 互いに好きなのであれば一緒に居ても何一つ問題はない。だが、今仙女は王子と会えない場所に居る。


 二回目の時に舞踏会に行かなかったのも、多分だがこの話が関係しているのではないだろうか。他に何かある可能性も捨てきれないが。


「この世界は理不尽よね。だって、わざわざ私を仙女に選ぶんだもの」


「仙女に選ばれた?」


「そうよ。元々は私だって普通の人間だったわ。生まれながら魔法が使えるなんてどこの世界の話よ」


「確かに……」


 世界に魔法があるという設定だったら、生まれながら魔法が使えても可笑しな話ではないが、この世界はそういうファンタジーな話ではない。


「私は他の女と好きな人を結ぶために選ばれたのよ。残酷よね本当に……出来るなら他の人に変わって欲しいわ。魔法なんて上げるから……この胸の痛みに比べたら全て軽いわ……


 仙女は自分の胸を押さえながら悲しそうな顔をしていた。どうにもならないと悟って居るようだ。


「私は物語に選ばれた。シンデレラという話を彩る仙女……シンデレラに魔法を掛けて、好きな男の下に向かわせるという呪いにも等しい存在に選ばれたのよ。どうすることも出来ないわ」


「けど、そうしなければ物語は完結しません……一生辛いままです」


 仮に仙女の意識が魔法に作用して、シンデレラがもう一度死んでしまったら仙女はどうなるのだろうか?当然、俺達は元の世界に戻るが、役目を果たせなかった仙女はどうなってしまうのだろう。


 そんなこと想像でしかないが、きっと良い残り方はしないだろう。その先に王子と結ばれる結果は存在しないはずだ。


「私は仙女よ。この感情は捨てないといけないのは十分理解しているわ。けど、簡単に捨てられる感情なら、始めから好きになんてなってないわ」


 どういう理由なのかはわからない。だが、仙女は物語に選ばれたのだ。


 シンデレラという物語で、好きな男に違う女を向かわせる橋になる存在に選ばれてしまった。そこに個人の意見など当然作用されないのだろう。


 無造作に、俺達が親や生まれ、見た目を決められないように、仙女もまた自分ではどうすることも出来ない物に選ばれた。そして、今に至る訳だ。


 シンデレラという物語は様々な人達が知り、見る物なのだろう。だからこそ、物語を変えることは出来ない……しかし、だからこそ、俺は強くこう言うことが出来る。


「このシンデレラは必ず、仙女が王子と結ばれる物語に変える事が出来るはずだ」


「……無理よ。私は無造作に選ばれた仙女……選ばれた設定はどうすることも出来ないわ。いかなる魔法を使っても、その部分だけは変えることは出来ない。みんなが、望んだシンデレラという物語にする使命があるわ」


「だったら、そんな物語俺達がどうにかする。物語っていうのは、登場人物が作っていく物だ。あらかじめ決まって居る物語なんて、何も面白くない。俺達でシンデレラの基本なんて壊してやろう!」


「…………」


「このシンデレラには俺達が居る。俺達は登場人物だ。だったら、このシンデレラの物語では仙女がシンデレラになればいい。そしたら、結ばれる。どのみち、魔法を掛けても完結しないんだから、一緒だろ」


「どういう理屈よ……」


 俺にも分からないが、このシンデレラでは仙女のシンデレラに変えることは絶対に出来る。桃太郎が、鬼を退治するだけではなく、鬼との共存を実現出来たように、俺達が居るから何かが変わるはずだ。


「だって、俺もシンデレラの登場人物だ。物語を作る権利は持っている。だったら、そういう物語を作る」


「どうするのよ……」


「仙女……シンデレラの下には行かないと何か起こるとかありますか?」


「何もないわ。ただ……王子は私の事を忘れているというだけよ。行っても行かなくても忘れているから一緒だけどね」


「それならいい方法がある。けど、王子と結ばれると思うが、覚悟が必要になるが……」


「いいわ。どうせ、私には何も出来ないのだからやってやるわよ。私だって、他の女と王子が結ばれるなんて嫌よ」


「わかった……」


 俺はみんなで考えた案を仙女に伝える。これはとても、倫理に反している行為になる。だが、シンデレラという物語にシンデレラ二人は必要ない。


「本当にやるのそれ……」


「やりますよ。魔法を使えば行けますよね?」


「行けるけど……あまりにもシンデレラが可哀そう……いえ、やりましょう。私は彼と結ばれたいわ」


「それならこの手で行きましょう。後は舞踏会が行われる時間になるだけですね」


「そうね……」


 他の物語に目的を同じとする主人公が二人存在しないのと同じで、この物語にもシンデレラが二人いる必要はない。だったら、やることは一つしかないだろう。


 これが失敗すればこの物語を完結することは出来なくなる。だが、これ以外方法が浮かんでこなかった。


 俺は物語を完結させるためだったらなんでもする。たとえ、シンデレラが二人存在させることが出来ないとしてもだ。


************


翌日、俺達は舞踏会が始まる一時間前ぐらいに行動を始める。


 始めにすることは至って簡単で、仙女が魔法で自分を着飾ることだった。舞踏会に行くのであれば、当然、そのままの恰好で行く訳には行かない。


 魔法で普通の恰好に見られていても、やはり見た目というのは自分の意識も変えてしまう物だ。綺麗な恰好をしている方が絶対に良い。


「それじゃ、俺達を街に送ってください」


「わかった……それと、魔法も使っておくわ」


「お願いします……」


 仙女は俺達に魔法を使い、街に送る。街に着くと多くの人がドレスを着て歩いており、大きな馬車に乗って居る人も多く居る。


 こうして、舞踏会が始まる前に街に来ることは初めての経験なので、大勢の人がお城に向かう光景を見るもの当然初めての事だ。


「本当にこの作戦でうまく行くかしら?」


「わかりません……ただ、うまくやるしかないと思います」


「そうだね♪このシンデレラという物語に主人公は二人もいらないもんね♪」


「そうだったら、やるしかないのだ!」


「ついに彩が魔法を使える時が来るんだね!」


 俺達は歩きながらシンデレラの家まで向かう。何度も行っている家なので、記憶がある俺は場所を把握している。先頭を歩いて、みんなと向かっているのだ。


 暫く歩くと、お城の方が一気に騒がしくなる。花火が打ちあがり、オーケストラの演奏のような音楽が流れる。それが、街まで聞こえてきているのだ。


「始まったみたいね……」


「それじゃ、行くよ!」


 シンデレラの家の前まで行くと、以前と同じようにシンデレラが泣いていた。今までは仙女が向かっていたが、今回は既に舞踏会に居る。初めてシンデレラの顔を見るのだ。


「大丈夫ですか?」


 少し古く、汚れた服を着ている女の子……シンデレラに俺は話掛ける。すると、シンデレラは泣きやみ、俺の方を向く。


「あなた誰?仙女はまだ来ないの?」


「仙女の事知って居るの!?」


 彩が驚いた声を上げた。どうやら、シンデレラ自体がこの場に仙女が来ることを知って居たみたいだ。だが、それでも作戦は何も変わらない。


「仙女は来ないわ」


「……どういうこと?それじゃ、私は王子と結婚出来ないわ!」


「そうなのだ!結婚するのはあなたじゃなくて、シンデレラなのだ!」


「……何言っているの?私がシンデレラよ!」


 元シンデレラは俺達が何を言っているのか理解出来ないようだ。だが、それもそのはずだ。だって、俺達が勝手に考えた物語なのだから。


「あなたはただの灰かぶりよ。シンデレラじゃないわ」


「そうだよ!もう、あなたが主役の物語は終わったよ!仙女は主役の物語になったよ!」


「意味がわからないわ。あなたたち本当に何言って居るの?シンデレラはこの私よ!物語に主役は一人で十分よ!」


「ああ、俺もそう思う。だから、今からシンデレラを一人にする……その意味が分かるか?」


 俺は少し声を低くしながら一歩前に踏み出した。わざと拳を握りながら。


「な、なにをするの?待って、ダメよ!あなた、まさか!」


 流石に気が付いたみたいだ。そう、この物語にシンデレラは一人で十分だ。二人居ると物語に矛盾が起こる。それなら簡単だ。


「一人にしてしまえばいい」


 主役が二人いる物語も存在するだろう。しかし、このシンデレラという物語に限って、主役は一人で十分だ。


 二人居ては絶対にうまく噛み合わない。だからこそ、一人にするのだ。シンデレラを。


「彩……頼む」


「わかったよ!」


 俺は一歩下がり、彩は仙女から一時的にかけて貰った魔法を発動する。シンデレラに手を翳すと、光が集まる。


「まって、分った!もういいから!」


「何も努力もせずに、他人の力で自分だけ幸せになるなんて、そんなことさせる訳ないだろ。色々考えて、迷って、努力して幸せというのは掴むものだろ」


 そう、今俺が花恋と一緒に暮らすために、物語を完結させようとしているのと同じようにだ。


「行くよ!」


 彩が光輝いている手を上にかざし、振りかざすと魔法を発動する。


 魔法を直接受けた元シンデレラは……その場で呼吸をしながら眠りに付いた。そう、俺達は仙女の魔法で眠らせたのだ。


「これで後はうまくやるだけだね!」


 シンデレラという物語では、シンデレラがシンデレラとしての出番が回って来るのは仙女に魔法を掛けてもらい、舞踏会に行き、王子と結婚する所までだ。


 当然、今はただの灰かぶりなのだ。魔法も掛けて貰えない、仙女にも会えないシンデレラはシンデレラになしえない。


 重要な人物であるのは間違いないのだが、今、この舞踏会が始まり、王子と出会わないシンデレラはシンデレラではないのだ。


 ただの重要な登場人物……だが、その登場人物が重要な場面で登場しない……それは物語的にもシンデレラはシンデレラにならないのだ。


 仙女が掛けた魔法は明日の朝まで解けない。この、シンデレラという物語では役目を終えてしまったのだ。だからこそ、物語を進めるには新しいシンデレラが必要不可欠になる。


 俺は二回目の時……シンデレラがお城に向かう途中で亡くなって居る時、物語が終わったことに違和感を覚えなかった。


 しかし、あの時、仙女は物語を完結させたと思って居たからこそ、その時、シンデレラが死んだ段階で物語は幕を下ろしたと考えている。


 しかし、今回は物語は続く。仙女が変わりのシンデレラになったからだ。だから、この場面で物語は終わらない。


 二人のシンデレラが居る物語は破綻してしまう。だからこそ、今の重要な場面で片一方のシンデレラを動けなくさせてしまえばいい。そうすれば、自然と二人居るシンデレラは一人になり、仙女がシンデレラとなるのだ。


「後は仙女次第ね……」


「そうだね。せっかくだから、幸せになって欲しいよ♪」


「ずっと好きだった相手ともう一度会えるのだ!絶対幸せになるのだ!」


「そうだといいね!」


「ああ、そうでないとこのシンデレラに申し訳が立たない」


 魔法で寝ている元シンデレラを見ながら俺を呟いた。こうして、無理やり魔法使った事に関して罪悪感はある。しかしこの方法以外浮かんでこなかったの事実だ。


「とりあえず、家の中に運ぶか……」


「そうね。このまま置いておく訳にも行かないわ」


「みんなで運ぼう♪」


 俺達はシンデレラを家の中まで運び、そっと仙女が居るお城を方を眺めた。


**************


 私は自分の魔法で作ったガラスの靴と、カボチャの馬車でお城ま出来た。こうして、ドレスを着たり着飾ったりするのはあの写真の時以来だと思いながら中に入る。


 お城の中は元から豪華なのもあるが、舞踏会ということもあり、さらに豪華に飾り付けをしてある。


 大勢の人が居る中、私は一人で王子が居るであろう場所に向かう。歩いているだけなのに、周囲から視線を感じるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 久しぶりに大好きな人に会うのだ。当然、王子は私の事を覚えていない。シンデレラの物語ではその方が都合がいいからだろう。


 けど、私は忘れなかった。ずっと、忘れないままシンデレラと王子を結ぶことだけを考えて居た。だって、そうする以外浮かばなかったからだ。


 相手は記憶を忘れ、さらに決められた婚約者が居る。その婚約者をお城に向かわせて、結ばせるのが私の役目だった。けど、今は違う。


 私がシンデレラになった。今、私がお城の中に入れたことが、何よりの証拠だと思う。なぜなら、一度試した時はお城に近づくことができなかったからだ。


 だが、元シンデレラが重要な場面で物語から外れたことにより、新しいシンデレラに移り変わった。代役だろう。だが、代役だろうが、シンデレラだという事実は一切揺るがない。それなら問題はない。


 後は私の覚悟だけで、この物語は完結するはずだ。なぜなら、シンデレラという物語は王子とシンデレラが結ばれて、完結するものだからだ。代役だろうがなんだろうが、そこは何も変わらない。


 人が違うだけで、シンデレラなのは違いないので、物語はうまく完結してくれるはずだ。


 私は王子が居るであろう広場に来た。そこには舞踏会に来た人達がダンスを踊って居る場所だ。


 大勢居る中で王子の姿を探す。


「ちょっといいかですか?」


「あ、はい。なんでしょう」


「私と踊って欲しいのです」


「……え」


 もしかすると何か問題があったのかと思ってしまったが、踊りの誘いのようだった。見た目も悪くなく、踊ってあげたいが、今は優先することがある。


「すいません……連れがいますので……」


「そうですか。それは失礼しました。さぞ、美しいのでついつい声をかけてしまいました」


「ありがとうございます」


 お辞儀をして、その場を後にする。だが、それから何度も声を掛けられては断るの繰り返して、王子は見つからない。


 少し疲れてしまい、バルコニーに逃げるようにして向かった。


「疲れたわ……」


 ただでさえ、誰も居ない森に居て、大勢の人が居る場所で動くことをしなかったので疲れてしまった。それに毎回断る申し訳なさと、言葉を考える事で疲れる。


「おっと、こんな場所に美しい女性が……来てラッキーでしたね」


 聞き覚えがある声だった。いや、間違えるはずの無い声……ずっと好きだった相手の声なのだから間違えるはずがない。


「わ、私ですか?」


「そうです、あなたです。ぜひ私と踊ってくれませんか?」


「はい」


 断る理由など存在しない。探していた相手が、自分から来てくれたのだから。それに好きな相手に誘われて断ることなど絶対にしない。


 再び中に戻り、ダンスを踊る。踊って居る最中、高鳴った心臓が相手に聞こえないか心配で仕方が無かった。


 ダンスに誘ってくれた人と目があったが、踊って居る相手が王子だと分かると何も言わずに視線を逸らす。いかなる相手でも流石に王子のお誘いを断れるわけがないからだ。


 それから数分間踊り続けた。そろそろ、一曲目が終わりを迎える。そうすれば終わりだ。この夢のような時間が終わってしまう。


 一度はあきらめた時間。何度も仙女に選ばれた事を恨んだ。色々な思いが積み重なり、涙を流した日も少なくない。


 だが、それでもずっと好きだった相手。この時間を終わらせたくない。だが、王子には私との記憶が無い。どうすればいいのか分からなかった。


「ありがとうございました。あなたほどの綺麗な人、見たことがありません。ぜひ、名前教えてください」


 わかっていたことだが、やはり記憶はない。だが、名前だけでも憶えて貰おうとして名前を口にする。


「マーガレットよ。マーガレット・レニーよ。」


「マーガレット・レニー……どこかで聞いたことがある……いや、違う、なんだこれは、私は……」


 王子は少し頭を抱えて、苦しそうな表情を浮かべる。名前を聞いて何か違和感があるのだとすぐに気が付いた。


「私はあなたに……いや、会ったことないはずだ。だが、会った気がしてならない……なぜだ」


 ここだと思った。そして、何より、記憶を消されたにも関わらず、名前を聞いただけで何かを思い出そうとしている姿に愛おしさがあふれた。


 私はそっと、王子の唇にキスをしたーーーー。


 記憶を消される前、一度だけしたことがあるキス。その時は両想いだったからこそ、違和感なくすることが出来た。だが、今は赤の他人。王子に無断でキスをするなどしてはならない。


 あまりの出来事に会場中の時間が止まった。一般人の私と王子がキスをしているのだから仕方がない。


 警備の人も大勢駆けつけているのは視界に映る。終わったと思った。物語は私の判断で完結しないと心から思った。


 だが、その行動は……一度だけしたことがあるキスが一つの奇跡を生む。


 王子が近づいてくる警備の人を止めたのだ。そして、私の方を見て、一番言って欲しい言葉を口にする。


「思い出したぞ、マーレ。どうして忘れていたのだ」


「え……」


 それはあまりに衝撃的であり得ない言葉だった。その言葉は、記憶を忘れる前に私を読んでいた名前だったのだ。あだ名見たいな物だ。


「嘘……ありえない。だって……」


「けど、私が確かに思い出した。愛おしくてたまらない一人の女性との思い出を思い出した」


 私は今まで我慢していた涙を抑えることが出来なかった。


「あぁぁ……」


 その瞬間、止まっていた世界が……仙女ーーーマーガレットの時間と王子の時間が動き出す。


***********


 シンデレラの家の前に居た俺達は扉が出てくるのを待っていた。もし、物語が終わるのであれば必ず扉が出てくるはずだ。


「うまく行ってるかしら……」


「それはわかりません……けど、仙女を信じるしかないですよ」


「そうだね♪私たちに出来ることは信じて待つことだけだよ」


 そんな会話をしながら数分が経過すると、彩が指を指して「見てあれ!」と叫んだ。


 周囲に居る人が俺達の方を見てくるが、そんなこと気にならなかった。なぜならそこにはーーー。


「扉があるわ!」


「ほんとだ!仙女うまく行ったのかな!!」


「きっとそうなのだ!!やったのだ!!」


 まだ、うまく行かずに完結していない可能性も少なからずは存在する。だが、俺はその可能性は無いと確信していた。


「帰りましょうか」


「そうですね」


 色々あったシンデレラの物語。結局、三度繰り返してようやく完結させることが出来たのだ。三度目の正直というやつだ。


 今回の物語では色々な事を学ぶことが出来た。俺はそれを大事にしながらみんなと一緒に物語を集めて行こうと思って居る。


「開けるのだ!」


 柊が扉を開けると、光に包まれる。そして、光が無くなると俺達はシンデレラの街から部室に戻っていた。


「どうやら、うまく行ったようですね……」


「そうね。本当に良かったわ」


「そんなことよりも、本を見ようよ♪」


「くくく、我が持ってくるのだ!」


 柊が駆け足で本を持ってきた。そして、俺達はその中身を確認したーーー。 


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