物語の正体
六花さんの靴飛ばしから一時間程度が経過した。桃太郎の時と全く同じで、深い森を抜ける様子もなく、元居た場所よりもさらに深くなり、空はまだ明るいにも関わらず、俺達が見ている風景は暗い。
葉に覆われた木が、歩くにつれて太陽の光を遮断していく。当然、ボランティア部全員がまた間違えていると理解していながらも、ずっと同じような光景が広がるこの森で、戻るという選択肢は当然出来ない。同じ方向に進むしか出来ず、戻った所で迷うだけだ。
はじめに進んだ方向すらも分らなくなり、俺達に出来ることは一切無くなる。何も分からないまま森の中を彷徨う以外出来なくなってしまう。
「私はまた間違えたのね……」
「そんなアニメのキャラ見たいなセリフ言わないで欲しいのだ」
六花さんも流石に今回の靴飛ばしで自分に運が無いことは十分理解してくれただろう。もう、物語の世界に行くことになっても、靴飛ばしだけはしないはずだ。
「まぁ、やる前から分かってたけどね♪」
「そうですね。彩もこんな風になると分かってました」
「そう言われると少し申し訳なくなるわね」
「いいじゃないですか。結局、靴飛ばしをしてもしなくても同じ結果になっていたかもしれませんし」
「そんなこと言ったらキリが無いのだ」
そんな意味なも無い会話をしながら俺達は森を進む。だが、六花さんが靴飛ばしをしてもしなくても結果が大して変化は無かっただろう。この森を抜ける方法は無い可能性も十分高い。桃太郎の時も同じ事を思ったが……。
しかし、この森を抜けれる気が全くしないのだ。ずっと同じ風景が広がる森を戻るという選択肢は存在しない。仮に戻る事を選んでも絶対に元の場所には戻れないし、俺達は進んで居る方向すらも見失うことになる。
そうなってしまうと、今でもほとんど理解出来て居ない森だが、本当に何も分らなくなってしまう。そう言った状況に陥ることはどうしても避けたい。今とあまり変化はないが、俺はそう思って居た。
「この深い森だけでは全く物語が分からないな」
「そうね、正直、木と草以外ほとんど何も見て居ないわ。これでわかる方がすごいわよ」
「そもそも、私たち自身がそんなに詳しくないからね♪」
「そうですよね……実際に目印になりそうな物があっても、俺達が分かる保証はないです」
本当に分かりやすい物語……そんな物が実際にあるのかは全く不明だが、詳しい人ならこの状況でも分る人は居るのかもしれない。しかし、生憎俺達でわかる者は誰も居ない。
「さっきから風景が変わらないから疲れてきたよ……」
彩がため息交じりでそういうが、俺も同じだった。風景が変わらないと思った以上にきつい。同じ光景の写真を長い時間見続けるのがしんどいように、歩きながらほとんど風景が変化しないのは、思って居る以上にきつい。
「魔法の世界かもしれないし、唱えてみるのだ!!エクスプ……」
「もし、成功したら俺達まる焼けになるぞ」
ほとんど可能性的には少ないだろうが、可能性が低いだけで決して無い訳ではない。注意して悪い方向に進むことは決してないだろう。桃太郎の時も同じような光景を見た気がするが……。
「我が焔は全てを焼き尽くす!」
「つかさ、そろそろやめようね??お尻叩くよ??
「扱いが子供なのだ!」
柊が言って居る事は少なくとも間違いではないと思う。発症しているのは中二病だし。
それからさらに三十分程度い歩くが、全く森を抜けれる気がしない。先ほどから全く森の様子は変わらず、本当に進んで居るのかさえ分からなくなるほどだった。
まるで、同じ所をずっと繰り返し回って居るかのような感覚に陥る……ちょっと待て。
「つかさ!あれって……」
「どうしたのだ!何かあったのか?」
「あれってさっきも見なかった??」
「そういえば……言われてみたらそんな気がするのだ」
二人の会話に俺はある可能性が高いと感じてきた。確かに始めは進んで居たのは間違いないだろう。森の深くなり、少しだけ様子が変化していたのが目で見て理解出来ていた。だからこそ、進んで居ると自信をもって言えた。しかし、この三十分程度は全く風景が変化しなかった。だからこそ、進んで居るという確信が持てない。
だが、もし本当に進んで居ないとすれば……それは確信が持てなくて当然の事だ。だって、進んで居ないのだから確信が持てなくて当然だ。
「そういえば、私もこの風景見たことあるわ。それも二回ぐらい」
「そう言われればそんな気がするよ……」
静奈さんと六花さんも同じような感覚に陥っているようだ。全員が同じように感じているのであれば、思い込みや偶然ではないだろう。かなり確率的に高くなってくる。
「一回、目印を付けますか??」
「そうね、もし本当にそうだとしたら同じ場所に戻って来るはずだもの」
俺達は地面に落ちている石で木に印をつけることにした。出来るだけわかりやすいように書き、一度通っても見落とさないように大きく書くことが重要だろう。
いくら探しても見つからないような印ではつけた本人たちが見落としてしまう可能性が高い。
「私が書くよ♪」
静奈さんが石を手に持ち、木に印を付ける……。
「出来たよ!」
完成した印は顔だった。石で木を少し削り、少し斜めの目を二つ。そして、大きく開いた口に尖った歯……確かに分かりやすいが、なかなか絵心が無いように見える。真夜中に見たら驚くだろう。
「じんめんじゅ見たいだね!!」
「言われてみたら確かにそうかもな」
日本で超有名なRPGに出てくる木に顔が書いているモンスターだ。そんなに覚えて居ないが、こんな顔をしていた気がする。静奈さんはわかって書いたのだろうか?
「じんめんじゅって何?」
わかって居ないようだ。初めて聞いた名前で不思議そうに首を傾げている。
「モンスターだよ!」
「モンスター……」
あれ、なんだか少し落ち込んでいる気がする。
「静奈はうまく書けたと思って居るのよ。そっとするのが一番いいわ」
六花さんは俺と彩にそういうと歩き始めた。確かにじんめんじゅとしてはうまく書けているが、知らない人からしたらただの化け物に見える。そっとしておくことにした。
それから十分ほど歩くと、俺達は再び同じ場所に出た。
「じんめんじゅだよ!」
まっすぐ歩いていたはずなのに、俺達は静奈さんが書いたじんめんじゅに遭遇した。本人はそんな気が無いだろうが、本当に良く書けている。
「けど、これで同じ場所を繰り返して歩いていることはわかったわね」
「そうですね。十分ぐらいで一周周る見たいです」
同じ場所を繰り返し歩いているという事はわかったが、ここからどうすればいいのかは分からない。違う方向に再度歩いてみたが、十分程度で戻って来る。方向は関係なく、繰り返しているようだ。
どうすればここから抜け出せるのかは全く分からない。しかし、ここにずっと居ては物語を完結させることなど当然出来るはずもない。そもそも森のループする物語なんて聞いたことが無い。全く無名の話だと完結させるのは至難の業ではないだろうか。
自分たちが知って居る話であるか、そうではないか……かなり大きな違いが出てくる。そして、森のループする話など全く知らない。多分、他のみんなも同じではないだろうか。
「とりえず、このじんめんじゅの下で休もうよ!結構歩いたし、休みながらこれからどうするか考えるべきだよ!」
「そうね……桜さんの言う通りだわ。とりあえず、休憩しながらここを抜け出す方法を考えましょうか」
俺達は静奈さんが書いたじんめんじゅの下に座った。地面は少し凹凸があるが、普通に座るだけなら問題ないだろう。
「これからどうするのだ??」
「どうするって言っても、こんな森どうやって抜けるの??」
「そうだね、どうなっているか全く分からないね。こんな経験する機会今まで無かったし、どう対処したらいいのかな……」
「どうにかしないと前に進めませんよ?まぁ、解決策なんて全くないですが……」
「そうね……どうしようかしら……」
実際、休憩しながら考えて居るが、何かいい案など思いつくはずもない。今起きている事がどういう仕組みになって居るのかは誰にも分からない。分かって居るのは、同じ所を繰り返し進んで居るということだ。どこから繰り返しているのかさえ誰も分からない。
現状俺達に出来ることは皆無だろう。進んでも同じ場所を繰り返すだけ、考えても全く解決策が分からない……完全に俺達は詰んでいた。八方塞がりだ。
「これこそ、魔法の力みたいなのだ」
「魔法……確かにそうかもな。けど、魔法が存在していると仮定したら、俺達も魔法が使えるということだぞ??」
「……魔力は感じられないのだ」
「そもそも、魔力なんて経験したことが無いんだから、感じれる訳ないよ」
「けど、そういった物って、感じられなくても体は理解してる!見たいな感じになると思うのだ!」
「確かにそうだけど……」
魔法が存在しているかは分からないが、森自体に不思議な力が働いているのは間違いないだろう。だとすれば、この森を抜けるのはますます厳しいということになる。
意図してループされているのだとすれば、抜け出すことは容易ではない。最悪ここでこのまま……いや、悪い方には考えない方がいい。花恋と一緒に生活するために、なんとしてでも抜け出すのだ。
「ウォタガ!!!」
「…………」
彩が急に手を正面に掲げ、唱えた。しかし、何も起きなかった。
「どうしたのだ??ついに彩も中二病に目覚めだ!」
「ち、違うよ!魔法があるんだったら、何か起きるかなって……だから中二病に目覚めたとかじゃないよ!」
頬を赤く染めながら否定する彩は本当に恥ずかしそうだった。
「失敗したよ……言うじゃなかったよ」
「いいじゃないか、中二病。俺はどんな彩でも好きだよ」
「……航?そんな違う方向いて言われても嬉しくないよ!」
「あなたたち元気ね……」
そこで、今まで何も居なかった視界に黒い何かが走った。
「今、何か居なかった??」
「俺も見ました」
「私も見たよ♪何か全く分からなかったけど」
三人が同じタイミングで見ているのだ。偶然ではなく、確かに黒い何かが正面に居たのだろう。ただ、肝心の何かが全く分からなかった。
「見て!あれじゃない?」
彩が指を指すと、そこには小さな四足歩行の動物が居た。心なしか、俺達の方をじっと見ているような気がする。
「リスかな??」
「あれは……フェレットじゃないかしら」
「「ユーノ君!!」」
某魔法少女アニメを思い出させる毛並みと小さなフェレット……実は男の子が変身しているなんていうことは無いだろうが……とにかく似たフェレットが目の前に居た。
フェレットは俺達を見て、長い尾を振って居る。そして、尾を二度大きく振り、首だけを前に動かした。
「ついて来いって言ってる見たいだね♪」
確かにそう言われれば見えなくもない。しかし、急に現れたフェレットだ。何か危険な事が起きる可能性も十分に考えられる。
「きっと、ロストロギアが見つかったんだよ!!」
「そんな訳ないだろ……」
しかし、危険だと理解していても、このままループする森を抜け出せなければ同じことだ。危険があると理解していながら俺達には選択肢は無いに等しい。付いて行く以外にここから抜け出せる方法が存在しないのだ。
「行きましょうか……このまま居ても何も変わらないわ」
六花さんも同じ考えのようで、付いて行くことを決めたようだ。物語が分からない以上、この森を抜け出せる方法は存在しない……あのフェレットが何か意味があるのは確かなことだろう。
俺達が動き出すのを待つようにこちらを見続けるフェレット。付いてくるまで、ずっと見て居そうだ。
「行くのだ!」
柊がそういうと、俺達は歩きだした。それと同時にフェレットも前に進み、一定の距離を取りながら後を付いて行く。
暫くすると、先ほどまで居た場所と変化が出てきた。木の葉で遮断されていた太陽の光が少しづつ俺達に当たるようになり、周囲が明るくなった。明らかに森の出口に向かっているということが分かる。
それからフェレットを見失わないように無言で付いて行く。それから十分程度歩いたころ……何か体が包まれるような感覚を感じた。
「……何かしら今の」
「なんか変な感覚だったよ!」
みんなも同じような感覚を感じたということは気のせいではないということだ。今までに感じたことが無い感覚……何か柔らかに物に包まれたような感覚が全身を覆ったのだ。
その感覚を感じたと同時に周囲の風景にも変化が訪れた。木の数が少しづつ減ってきて、動物の声が聞こえるようになったのだ。この世界に来た時と同じ雰囲気に変化した。
そして、さらに十分程度経過しただろうか。拓けた森の中に木造の建物が二つ姿を現したのだ。さすがに驚いた俺達は目を見開いた。
「ここまで来れば安心です」
「!?」
なんとフレットが言葉を発したのだ。動物であるフェレットは本来人間の言葉を話すことなど不可能のはずだが……考えても俺の知識ではたどり着くことが出来ないので、考える事をやめた。
「この小屋の中に入ってください」
「わ、わかった」
俺は返事をして、先頭で小屋の中に入る。扉を開けるとその中には一人の女の人が椅子に座って居た。見た目は若く、二十代前半と言った所だろうか。身長もそれなりに高く、足も長い。スタイルは整っており、可愛いより美人が似合うタイプの女性……しかし、服装がそれをかき消している。
「か、かっこいいのだ!」
柊が興奮気味なのは理解出来ないが、仕方ないと言える。その女性は黒い大きなトンガリ帽子をかぶり、黒く長い服を着てる。スカートも黒くて長い……見た目はまるでゲームに出てくる黒魔導士のようだ。
「ようこそ、私の家に!」
黒魔導士は笑みを浮かべながら俺達を歓迎してくれた。実際はどうか分からないが……危険な空気ではないのは察することが出来る。
「ありがとうございます……」
フェレットが言葉を発しているということも異常だが、今の状況が全く読めない。この女性はどういう存在なのか?俺達にどういう要件なのか……それが一切見えてこない。
「ご主人様。説明しないと全く付いてこれないと思いますが……」
「そうだな!!しかし、どう説明したらいいか……」
見た目と反して可愛らしい声をしている黒魔導士は、顎に手を添えて考え始めた。そして、三十秒ほど経過すると、何か浮かんだように顔が満面の笑みに変わった。表情が豊かな人だ。
「まずは、ようこそ物語の世界へ!と言っておく!!」
「それって……」
物語の世界へ……その言い方はもしかして俺達の事を知って居る??
「そうだな、知っては居ないが、理解だけはしている!この世界ではなく別の世界から来たということもな」
「…………」
やはり、この女性は俺達の事を知って居る。別の世界から来たという事実を知って居るということは、この物語において中核を補う人物なのだろう。しかし、桃太郎の世界でカレンすら俺達の事を知らなかった。物語の中核だから知って居るという訳ではないのだろう。
「どうだ!私はだからこそ知って居るのだ!ある意味理から外れた存在だから!」
「どういうことかしら??」
「ご主人様?そろそろ本題に入らないと、怒りますよ??皆様混乱してますし」
「うぅ!全く……どうして私が作った存在なのに私に説教するんだ!」
「ご主人様??」
「……ごめんなさい」
黒魔導士は落ち込んだ様子で俺達の方に再び視線を向けた。どちらがご主人様なのか……と思いたくなる光景だが、今は重要なことじゃない。
「私は仙女と呼ばれる存在だ!そしてこれが魔法の杖!」
仙女が手をかざすと光と共に虚空から杖が姿を現した。黒い杖で、上には赤い球体が乗って居る。いかにも黒魔導士が使いそうな杖だった。
「ちょっと待って?仙女って……」
静奈さんが女性が言った仙女という言葉で考え始めた。何か意味があるのだろうか。
「静奈、もしかして……」
六花さんも何かピンと来たようだ。俺と彩と柊は全く何も分からなかった。
「おお!私の存在を知って居るのか!正解だ!この物語はシンデレラだ!!」
女性は楽しそうに笑い、物語の内容を教えてくれる。その言葉に俺は息を吸った。




