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プロローグ

目覚ましの音が鳴り響くと同時に俺は目を覚ました。甲高い音で鳴り響く目覚ましを止め、布団から起き上がる。カーテンを開けると眩しい朝日が部屋中に照りつける。眩しさのあまり視線を逸らした俺は毎日の恒例行事である挨拶をする。


「おはよう、花恋かれん


「……」


 返事は当然ない。この行事を始めてから挨拶が返ってきたことは一度もない。それもそのはずだ。俺は棚に飾ってある写真に向けて挨拶をしているのだから返事が返ってくることなど永遠にない。返事があったら逆に驚くだろう。


「今日も一日がんばろうな」


 だが、この恒例行事を辞めてしまうと認めてしまうことになってしまう。そういうのは自分の意識も問題なんだろうが、少なくとも俺はそう思っていて、自分は絶対に諦めないという心の中の意識に伝えるためにやっているだけだ。誰かに言われた訳でもなく自分の意思でやっている行為なのだ。


 妹の写真……花恋が居なくなってから八年という月日が経過してしまった。短いようでとてつもなく長い時間が経過したにも関わらず、俺は全く諦める気がない。当然、俺の両親だってそうだ。今は二人とも家に居ないが、たまに手紙が来るので生きている。


 花恋が居なくなったのは本当に急なことだった。原因は一切は分かっていない。だが、病気や事故などではないのは確かなことだが、全く花恋に対しての情報がない。ただ、八年前のある日、突然姿を消し、それから一切連絡がない。


 警察が動いていたが、花恋に関することは一切わからなかった。姿だけが消えてしまい、そのまま消息不明……目撃者が居るわけでもなく、近所で事故があった訳でもない。誘拐された可能性も考えられるが、目撃証言が無いためわからない。


 ただ、生きてどこかで元気にしていると信じる以外俺たちには出来ない。特に高校生である俺に出来ることなど一切ない。ただ、大人に任せて、学校に通う以外存在しない。


「準備終わったし、少し早めに学校に行くか……」


 制服に着替え、身支度を終わらせた俺は通い慣れた学校に向かうことにした。俺……星野航ほしのわたるは南坂高校に通う二年生だ。家から一番近い高校で、どこにでもある普通の高校だろう。他に通ったことないから分からないが、中学校とあまり変化が無いので、変わらないと思っている。


 いつも花恋と手を繋ぎながら歩いた道を一人で歩く。こんな生活を八年も過ごしている。初めは寂しさで胸が痛かったが、流石に八年もすれば心が慣れてしまう。花恋が隣に居ない痛みに。


「ここは良く遊んだよな……」


 誰にも聞こえない声で呟いた。つい、思ったことが声にでてしまった。そこは花恋と良く遊んだ公園だった。小さい頃は広く感じた公園だが、今見るとあまり広くない公園だ。だが、今でもこの周囲に住む子供達はここで遊ぶ者がほとんどだ。


 二人でブランコに乗ったり、滑り台で遊んだり、砂場で山を作り、穴を掘って手が届いたとかやった記憶が蘇る。花恋はいつも笑顔だった。


 そんな花恋のことを考えながら学校に到着した。始めは見慣れなかった光景も、一年立てばそれが当たり前に変わる。人間の対応力は本当にすごいと思ってしまう。


「おはよう!航!!」 


「おはよう、彩」


 教室に入ると可愛らしい声が聞こえてきた。ピンクのショートヘヤーで、笑うと桜が咲いたような笑顔を見せる女の子、桜彩さくらあやだ。一年生の時にふとしたきっかけで話すようになり、今では友達だ。俺の唯一の女友達を言っても過言ではない彩は、とにかく可愛い。


 いつも元気が良く、落ち込んでいる所など滅多に見ない。笑うと桜が咲いているかのような可愛い笑顔で笑い、男子からの人気もかなり高い。何度が呼び出されて告白されている所を見たことがあるが、全て断っているようだった。


 学年問わず誰とでも仲良く出来る性格だ。唯一、俺だけ名前で呼んでくるので、他の男子から嫌味を言われることが多いが、彩といると、小さなことで悩んでいるのが馬鹿らしくなる。


「今日はいつもより早いね!」


「少しだけ早く家を出たからな」


 彩がいつも通りの可愛い笑顔を向けてくる。あまりの可愛さで頭を撫でたくなる衝動に駆られるが、手に力をこめて堪える。教室でそんなことをしたら周りの視線が鋭くなる。特に男子の視線が。


「珍しいね、いつもゆっくりの航が早くでるなんて……もしかして雪が降るんじゃ」


「そんな訳ないだろ。今は六月だぞ?降るなら雨だろ」


「そんなまじめに返さなくても……航の馬鹿」


 彩が冗談で言っていることを理解しながらもまじめに返す俺は、いつもと違う違和感に気が付いた。いつも通りの彩なのだが、どこか少しだけ違うような気がしてならない。


「もしかして、少しだけ髪の毛短くなった??」


 良く見ると昨日より髪の毛が短くなっている。ほんの小さな違いだが、学校に居る間、毎日のように顔を合わして会話しているだけに気が付いた。たぶん、ほとんどの人が気が付いていないだろう。


「良く気が付いたよ!本当に少ししか切ってないのに……もしかして、ずっと私の事見てる??」


「見てると言えば見ているな。彩とは会話する機会が多いし、席も隣同士だからな」


「そういう意味で言った訳じゃなにもん!!航は知っててそういう反応するから駄目だよ!!」


「じゃあどういう反応すれば正解なんだ??」


「そこはほら……アニメみたいな鈍感主人公だよ!!見てる訳ないだろ??席が隣同士で、会話も良くするから気が付いたんだよって言うんだよ!!」


「何が違うんだ……まぁ、いいじゃないか。それに鈍感すぎると困るだろ??本当に向けられた好意を汲み取ってくれないとかさ。やっぱり今は鈍感主人公より、俺みたいじゃないとな」


「あまり敏感すぎるともっと困るよ……」


 いい忘れてたが、彩は深夜アニメを見たりする。美少女ゲームやBLゲーをしているというのは聞いたことがなにのでしていないだろう。俺も何度か彩に進められてアニメを見たことがあるが、彩がハマってしまう理由も分からなくはない。


 数作しか見ていないが、作品によって良さがあり、非常に面白かった。中には時間を忘れて見てしまう作品もあり、ずっとPCと睨めっこしていたこともあった。


「ところで航。この前オススメしたアニメ見た??」


 笑顔で聞いてくる彩に、俺は一瞬何のことは分からなかった。それが、顔に出ていたのか笑顔だった顔を頬を膨らませて不機嫌そうな顔になる。


「三日ぐらい前に言ったじゃん!!なんで見てないの!!この前見たんだけど本当に面白かったんだよ!!航、ロボット物結構好きでしょ??それと戦略を取り入れた作品なんだけど、十年前ぐらいに放送していた作品なの!本当に面白いから見てみて!!きっと航もル○ーシュのギアスにかかるよ。本当にかっこいい……」


「おーい、彩。頼むから自分の世界に入るのは辞めてくれ。全く知らない俺は置いてきぼりだ。忘れてたのは悪いが、現実に帰ってきてくれ」


「あの、聖天八極式の初陣もカッコよかったし、それでも俺は明日がほしい!も最高だったし、ゼロレクイエムも最高だった。はぁールルー○ュ様。私にもギアスかけてください!!」


 帰ってこない彩の頬を突いた。このままほって置けばいつまでも話が進まない気がする。先生が来るまでずっとこの調子でネタばれされそうだ。彩がここまで好きなのだから本当に面白いのだろう。今度見てみるか。


「は!私一体何をしてたの……」


「またアニメの世界に行ってたよ。良くあることだから俺もなれたし、周りも何も言わなくなってるよ」


「確かに私アニメの世界に行ってたかも……さっきまで、ス○クとCCとル○ーシュが私の傍に居たもん」


「本当に大丈夫か??病院行くか??」


「大丈夫だもん!!アニメ見てる人はみんな独自の世界に、お気に入りのキャラクターが居るから!!」


「俺には居ないんだが……」


「航はまだまだひよっこだからね!!独自の世界を拓けるようにいっぱいアニメ見ようね!!」


 満面の笑みを浮かべる彩は席に座る。時計を見るとそろそろHRが始める時間だ。周りのみんなも席に付き始めてる。


「ほら、席に座れー。今からめんどくさいがHRを始めるぞ」


 担任の先生が教室に来ると同時におなじみのチャイムが鳴り響く。






**********






 教室の窓から今日はやけに早めの夕日が姿を見せる。昨日のこの時間は姿を見せなかったが、紅く綺麗な夕日を見るのは悪い気分ではないが、どうしてもあの日を思い出してしまう。もちろん花恋が居なくなった日のことだ。


 その日もこんな風に夕日がやけに綺麗な日だった。学校帰りにそんなことを思いながら帰宅していた記憶がある。そして、その日いつも俺より早く帰宅している花恋はいつまで経っても帰ってこなかった。


 夕日は良く花恋が見ていた記憶がある。まだ、幼い頃の記憶だが鮮明に覚えている。部屋から見ていたことも何度もだったが、俺はさほど興味が無かったので、一緒に見ていなかったことが多かった。


「こんなことになるんだったら、しっかり見てればよかったな……」


 今更後悔しても遅いのは十分承知しているが、急に居なくなるこを知っていればもっと花恋との時間を大切にしていただろう。年を取り、老人になれば別れが来ることは仕方がないことだが、まさか小学生の内から別れる事になるなど全く想像していなかった。まだ、全然諦めて居ないが、そう後悔せずには居られなかった。


「どうしたの航。夕日を見ながら一人ごとなんて珍しい。もしかして考え事??」


「今HR中だぞ。あまり大きな声で話さないほうがいいぞ」


「何言っているの??もう終わってるよ?みんなも帰り始めてるでしょ??」


 彩の言う通り周囲を見れば、クラスメイトの半分ほどが教室には居なかった。夕日を見て花恋のことを思い出している内に終わっていたようだ。だからこそ、彩が心配そうな顔をしているのだろう。


「大丈夫だよ。ただ、ボッーとしていただけだから」


「そう??それならいいんだけど、あんまり自分で深く考えないで相談とかしてみるのもいいよ。私でよければ話ぐらい聞くよ!」


 彩には俺に妹が居ることは話していない。いや、この高校に通っている人はほとんどが知らないだろう。もしかすると近所に住んでいる人が知っているかもしれないが、こうして一年以上経った今でも話題ならないということは知らないのであろう。


「ありがとう。その時は頼むよ」


「任せて!!それじゃ私帰るね!!」


「ああ、また明日な」


「うん!また明日ね!!」


 満面の笑みを浮かべて、部活に行くために教室を出て行った彩。俺は鞄に教科書などを詰め込んで、教室を後にする。学校を出た俺は、一人暮らしのため、学校帰りに近くのスーパーに寄り、適当に食材を買う。


 作る物は特に決まって居ないが、俺が作れる料理など、お肉を焼くか、ご飯を炒めるか、卵を焼くか、お湯を入れるぐらいしか出来ない。そして圧倒的楽さと、おいしさでお湯を入れることがほとんどだ。たまにレンジで温める事もするが、基本お湯を入れるほうを選択する。


 買出しが終わり、見慣れた道を通り自宅に着くと、制服を脱ぎ、部屋に入る。自分以外住んでいないのだからどの部屋を使っても問題ないのだが、一応両親の部屋と、居なくなった当時と同じ状態である花恋の部屋がある。


 だが、使う人が居ないので埃がたまりやすい。たまに掃除をしたりするが、気が向いた時だけなので、埃がたまっている。だが、毎日妹である花恋の部屋は見るようにしている。


 変化がある訳でないが、急に居なくなったのであれば急に帰ってくる可能性もあるのではないか?そんな子供染みた考えで毎日見るようにしている。だが今の俺に出来ることなど、帰って来る事を期待して待つ以外に方法はないのだ。


 非科学的なことを信じて、花恋が一日でも早く帰って来る事を期待して待つ以外無い。俺はあまりに無力だ。


「ご飯食べて、さっさと寝るか」


 結局、彩がオススメして来たアニメのタイトルを聞きそびれた俺は、寝る以外にすることはなかった。しかし、なぜか今日は無性に早く寝なければ駄目だという気持ちがあった。


 理由は分からない。だが、体全身がそう言っているかのような感覚だった。普段は全く眠くならない時間に欠伸をし、俺は早めに就寝することにする。


今回が始まりになります!!

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