友達に
俺達は海鳥さんと別れて、部室に戻ることにした。話している時間はあまり長くなかったので、昼休みは半分程度残って居る。急な展開になってしまったが、いい方向に進んだのは間違いないだろう。
だが、俺達だけで判断していいことではないので、六花さんたちに聞いてから返事をすることにした。明日も昼休みは図書室に居ると言っていたので、明日伺うことにしたのだ。
海鳥さんにはキリト君の事は伝えていないが、本人から提案してくれた案だ。相手が誰であろうと、急に断ったりはしないだろう。キリト君が暴言を言われている所を助けた張本人なのだから、キリト君の事を覚えている可能性も高い。
「戻りました」
「ただいま!」
部室に戻った俺達は自分の席に座った。
「おかえりなさい。どうだった??」
「えっとですね……」
俺と彩は一度顔を見合わせてから頷き、俺が説明することにした。
「海鳥さんから、今度俺と彩、キリト君を交えて遊びに行こうという提案をされました」
「??それは一体どういう展開なの♪超展開だね!」
「俺も同じこと思いました……」
「私も同じ事を思ったわ。どうしてそうなったか聞いていい?」
「はい、大丈夫です」
俺は海鳥さんにボランティア部に依頼があった事がバレてしまった事、そして俺がキリト君の名前を伏せてある程度のことを話したこと。そして、先ほど言った海鳥さん本人からそういう提案があったことをみんなに説明した。
「始めは普通に聞き出そうとしてたんですが……すいません」
結果がどうであれ、バレてしまったのは俺達の責任だ。海鳥さんに感づかれないようにしながらキリト君と友達になってもらうという計画が無しになってしまった。六花さんのことだ、これからどうして行くかも考えて居たはずだ。
「いえ、最高の展開だと思うわ!」
「私もそう思うな♪そこで、キリト君が海鳥さんと仲良くなれば私たちの依頼も達成になるよ♪」
「そうなのだ!我は全く何もしてないから逆に申し訳ないのだ」
「それもそうね」
「そうだけど、ひどいのだ!」
柊が涙目になりながら六花さんの方を見ている。今日も六花さんは元気そうだ。
「けど、私たちも無いもしていないわ。結局、二人が海鳥さんに会いに行った結果がこれだもの。まだ、友達になれるかはわからないけど、大きな進展よ!一緒に遊びに行けるのだから、友達になるのは容易いわ!」
確かに、今まで見ているだけだったキリト君がイキナリ意中の相手と遊びに行けるのはかなりの進展だと言えるのではないか?地道に友達になれるように進めて行くより、大きな進展が望まれる。
「私は良いと思うけど、キリト君に聞かなければ結論は出ないわね」
「そうですね、キリト君が行かないと言えば、俺達に強要は出来ないですからね」
「流石に行かないってことは無いと思うけど……聞いてみないと分からないね♪」
俺達は良い展開になったと思うが、当の本人がそれをどう思うかだ。せっかく、好意を寄せている相手が、四人でだけど遊びに行っても良いと言ってくれたのだから、この機を逃すのは惜しいだろう。
「とりあえず、連絡しないと始まらないですね……どうしますか?今から来てもらいますか??」
「今からは時間が無いと思うのだ!集まって話をするなら放課後が良いと思うのだ!」
「つかさの言う通りだよ!場合によっては長くなるかもだし!」
「そうね……確かに直ぐに話をしたいけど、時間が無いのも問題ね。放課後にしましょうか!放課後、話があるから前と同じ場所に来て!って送っておいて!」
「わかりました」
俺は携帯を取り出し、キリト君に六花さんの言葉をそのまま送る。すると、三十秒ほどで「了解したでござる」と返信が返ってきた。海鳥さん関係なのは直ぐわかるはずなので、絶対に来てくれるだろう。
「とりあえず、昼休みに出来ることは終わったけど……どうする?ここで解散してもいいし、昼休み終わるまで部室に居るのもいいわよ」
「私はみんなに任せるよ♪」
「私たちも任せますよ!つかさはどうするの?」
「我もどっちでもいいのだ!」
全員これから用事は無いみたいだ……それなら少し時間が空いているので、今日行った世界の話をするにはもってこいの状態ではないだろうか。放課後も話す暇なさそうなので、言うとこにした。
「聞いてほしいことがあります」
「どんなことなの?」
彩が首を傾げて聞いてきた。他のみんなも同じく、俺の方をみながら口を開くのを待っている。
「今日、何か変なことがありませんでしたか?」
「私は特に何も無かったわ?みんなはどう?」
六花さんの問いに全員が首を振る。やはり、今日の出来事は俺だけが体験していることのようだ。
「昨日、静奈さんと六花さんと商店街に行った帰りに、変な場所に居ました」
「どういうことかしら?道に迷ったとか?」
「違います。いつも通りに帰っていると、誰も居ない場所に行きました。物語の世界に行ったような感覚も無かったんですけど、住宅街なのに誰も人が居ない状態だったんです」
俺は昨日体験したことを詳しく、自分に出来る限り分かりやすく説明した。普段誰かいるはずの場所なのに、誰一人いなかったこと、外灯がついて居なかったこと、そして、昨日まで誰かが住んでいた家が空になっていたこと。
俺の部屋が昔のままだったことと、居なくなった花恋の部屋の扉が光り輝いていたこと……嫌な予感がしたから扉を開けなかったこと……体験したことを体験した順に話をした。
「何か心当たりはない??正直なところ、私はそんな体験したことが無いから全く参考にならないわ。たぶん、他の人も体験したことないはずよ」
六花さんはみんなを見ながらそう言った。みんなも全員頷いている。今まで一度も体験したことが無いということは、必ず花恋が関わっているだろう。
物語の世界に行ける者が体験することであれば、静奈さんや六花さんが体験していないのはおかしいだろう。物語の世界に行けるようになってから数年は経っているはずだ。数ヶ月の俺が体験して、二人が出来ていないのは不思議な話だろう。
ということは、異世界に居た花恋が関係しているということになる。偶然俺だけが行ったという可能性も少なからず存在するが、アテにはならないだろう。
「何もないですね……花恋が関係しているとの確実だと思いますけど……」
実際にあの体験をして理解出来たことは一切ない。行っただけでその他の物は持ち帰って来ていないのだ。俺自身も一体何がどうなっていたか一切理解出来ない状態なのだ。
「航君の妹さんの部屋が光っていたんだよね?それなら確率は高いと思うよ」
「というか、それ以外考えられないでしょう。もし、物語の世界だとすれば、私たちに眩暈が来ているはずだもの。来ていないということはこの扉は関係ない可能性が高いわ」
「そうですね……一切そんな空気無かったので、物語の世界では無いと思います」
「航にも眩暈とか無かったの??」
「無かったよ。普通に歩いていただけだ」
なんも変な事はしていない。普通に家に向かって歩いている途中で誰も居ない場所に居たのだ。原因は一切分からないし、どこからその場所に居たのかもわからない状態だった。
「とりあえず、またそういうことが起こったら報告してほしいわ。そこから何が起こるか分からないからね」
「わかりました」
自分一人でため込むより、みんなで情報を共用している方が絶対に良いだろう。もし、万が一の時に対応できる可能性が少しだけ増すからだ。一人だと何も分からないままの可能性が高い。
「みんなも、もし航見たいにな出来事を体験したらメールでもなんでもいいから直ぐに報告してほしいわ」
「わかった♪」
「わかりました」
「報告するのだ!」
放課後する予定だった話は終わりだ。実際に俺達全員の持っている知識を広げても何一つ分からない。これから少しでも分るようになればいいと願うこと以外出来ない。
「時間も少ないし解散しましょうか。航が体験した事は気になるけど、私たちじゃ何もわからないわ。だから、とりあえず、キリト君がうまく行くように頑張りましょう」
「そうですね!結局何分からないんだし、考えても仕方ないですよ!」
「彩の言う通りなのだ!」
俺達はまた、放課後に集まる約束をして、各自の教室に足を向けた。
********
授業が終わり、放課後になった。俺と彩は直ぐに変える支度をして、部室の方に向かう。キリト君が来るので、部室の外で待ち、前と同じ教室で話をすることになっている。
到着するとまだ誰も来ていなかった。しかし、一分程度でキリト君と柊の姿が見え、そのすぐ後に静奈さんと六花さんの姿が見えた。
「全員集まったみたいね」
六花さんが教室のドアを開けて、俺達は中に入る。前回と同じ配置に座り、俺は口を開く。
「海鳥さんのことなんだが……」
「どうしたでござるか?まさか、ダメだってでござるか?」
キリト君は心配そうな顔で聞いてきた。集まって話をしているので、悪いことでもあったのかと勘違いしているようだった。
「いや、良い展開になったと言っていいと思う……けど、キリト君次第だな」
「どういうことでござるか?」
俺はみんなに話した内容をキリト君に説明する。キリト君の事を隠して全て話したところ、海鳥さん本人から、俺と彩とキリト君と海鳥さんで出かけようと言われたこと。
その話を聞くと目を大きく見開き、深いため息を吐いた。
「良かったでござる……とりあえず、最悪だった会いたくないとういう状況は逃れたのでござる」
「そんな事を考えて居たのか……けど、それもまだ安心できないぞ」
「どういうことでござる?」
「だって、海鳥さんにはキリト君の事を全く何も話してないんだ……話をしたら急に意見が変化する可能性も少なからず存在している……」
「そうでござるね。けど、その可能性は低いでござるよ」
「私もそう思うな!海鳥さんすごくいい人そうだったよ!」
「ああ、それは俺も同感だ」
いい人でなければ俺達が初めに話をした段階で一切取り合ってもらえなかっただろう。海鳥さんはそんな俺達の話を聞いて、一緒に出掛けようと提案してくれたのだ。間違いなく良い人なのは違いないだろう。
「拙者は嬉しいでござるよ!今まで見ているだけだった人とどこかに行けるなんて、夢みたいでござる!けど、海鳥さんは拙者の事を覚えているのか不安でござるが……」
「覚えていると思うぞ。一切関わりの無い、俺の事すら知って居たんだからな」
「星野殿はボランティア部入部で一躍有名人になったでござるよ。知って居ても可笑しなことではないでござる」
「それもそうね。けど、悩んでいても仕方ないわ。覚えて居なかったら、その日にしっかりとキリト君の事を覚えていもらいましょう!」
「そうでござるね!逆にあの時の事を覚えているもの少し恥ずかしいでござる。だから、どちらでも少しでも仲良くなることが優先でござるね!」
キリト君はあ笑顔で右手の拳を胸の前で握りしめる。気合は十分入っているみたいだ。様子を見り限り大丈夫そうだ。
「それなら俺らから返事しておくから、日程とか決まったら連絡するよ」
「わかったでござる!感謝するのでござるよ!」
俺達は要件だけを伝えて、教室を後にした。後は、海鳥さんに言うだけだった。
************
翌日の昼休み。俺と彩は再び海鳥さんを訪ねるために図書室に足を運んだ。大勢で押し掛けるもの迷惑になるので、今回も二人だけできた。図書室なので、静かにした方がいいという意味もある。
「こんにちわ。来てくれたんですね」
「来たよ!」
昨日と同じで、図書室はあまり人が居ない。海鳥さんを除けば二人……その二人も静かに本を読んでいる。あまり、大きな声で話すのはやめた方が良さそうだろう。
「彩、少し静かにな」
「う……わかったよ」
彩は少し不満そうだったが、俺達以外に人が居るのが分かったようで、納得してくれた。
「それで、どうでしたか??」
「大丈夫だったよ。みんなも賛成してくれたし、本人も行きたいって」
「そうですか。良かったです」
海鳥さんは笑顔を浮かべながら安心したように少し息を吐いた。断られる可能性も考えて居たのだろうか。
「どうする??どこに行くとか、いつ行くとか……」
行くにしても日程を決めないと、どうすることも出来ない。俺は大丈夫だが、彩や海鳥さん。キリト君にも予定があるはずだ。全員に予定があう日に行くのが望ましいだろう。
「私は基本的に暇なので、いつでもいいですよ?二人は希望ありますか??」
「俺は大丈夫だ」
「私も大丈夫だよ。予定一切ないし!」
「もう一人の方も大丈夫でしょうか?」
そういえばキリト君に予定聞くのを忘れていた。昨日会ったのだから駄目な日を聞いておけば良かった。けど、流石に断りはしないだろう。
「大丈夫だと思う……確定ではないけど」
「そうですか……わかりました。それで、どこか行きたい場所ありますか??」
「特にないな……」
「私もないよ!」
「良かったです!実は私行きたい場所があるんです!」
海鳥さんは嬉しそうな笑みを浮かべながらそう言った。俺達はおまけ見たいなものなので、海鳥さんが行きたい場所があるのであれば、そこを優先するべきだろう。キリト君も絶対に否定はしないはずだ。
そもそも、普通であれば断られるような状況なのに、こうして事情を話したうえで、出かける提案をしてくれたのだ。断ることなど出来ないだろう。
「どこに行きたいの??」
「あそこです!この前オープンした屋内プールです」
「屋内プール……」
そういえば、少し前に比較的近場に大きな屋内プールが出来たという話を聞いたことがある。屋内であるため、四季に関わらず遊べ、屋内に様々な施設も兼ね添わっており、遊具もあるらしい。立地も良くて人も多いはずだ。しかし、噂ではかなり大きいと聞いているので、大丈夫だろう。昼食なども困ったりしなさそうだ。
友達などあまり居ない俺は行く機会が無いだろうと思い、さほど興味もわかなかったが、海鳥さんはどうやら、プールに行きたいみたいだ。人が多いだろうが、行くのであれば少し興味がわく。
「俺は全然大丈夫だぞ」
「私も問題ないよ!」
「良かったです!私、どうしても一回行って見たかったんですよ」
「海鳥さんなら、誘われそうだけどな」
一人からしか聞いていないが、かなり評価は良かったはずだ。いい人には人も集まるだろう。友達などに誘われる機会はかなり多いはずだ。
「そんなことなですよ……特別仲の良い人などは居ないので……けど、行けそうで嬉しいです!」
「もう一人にも俺達から話しておくよ。それでいつ行く??」
「次の土曜日でどうでしょうか??」
「わかった」
「大丈夫だよ!」
「ありがとうございます!」
海鳥さんは嬉しそうに笑う。少し可愛いと思ってしまった。無事に進んで、プールに出掛けることが決まって良かった。海鳥さんも嬉しいのなら無理しているという訳でもないだろう。
「ところで、気になってたんだけど、その本って……」
「この本ですか??」
「それってラノベだよね??」
「そうですか……変ですか??私、実は一般的にはオタクと呼ばれる見たいなんですよ。私自身そんな自覚無いんですが……普通にアニメ見たり、ラノベ読んだりするぐらいだし」
「そうなんだ!私も良くオタクって言われるよ!ラノベも読むしアニメを見るし!」
「そうなんですか!嬉しいです!女の子でそういうの興味ある人中々居なくて……」
「ボランティア部にはもう一人居るよ!」
「そうなんですか!羨ましいですね……そういう友達欲しいですよ」
「それなら、私と友達になろうよ!そしたら、話も出来るし、もう一人……つかさも紹介するよ!好きな物は誰かに話したくなるものだし!私も同じだからわかるよ!」
彩の言葉に海鳥さんは驚いていた。だが、すぐに満面の笑みに変わり、彩の言葉がすごく嬉しいかったのだと分かってしまった。彩をすごいと思った……同じ立場なら絶対に同じことは言えないだろう。
「ありがとうございます!ぜひ、友達になってください!」
図書室に居た他の二人が俺達を見てくるが、今は声が大きいとかそういうことは言わないことにした。嬉しそうに笑って居る二人を見て、水を差すことは言えない。
それから二人は連絡先を交換して、友達になった。ついでに、俺とも連絡先を交換した海鳥さんは笑顔で、図書室を去って行った。俺は、今回のお出かけは成功する気しかしなかった。それと同時に楽しみになってきた。