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好都合な展開

俺は静奈さんと六花さんと商店街に行った帰りに不思議な体験をした。普通に歩いているだけだったのだが、普段は人が居る自宅周辺に全く人の姿が無かった。


 今日は人が少ないと思いながら歩いていると、ある違和感に気が付いてしまった。


「なんか暗いな……」


 日も落ちて、時間帯的に暗いのは仕方が無いことなのだが、どうにもいつもより暗いのだ。星の輝きはいつも通りに出ているのだが、それでも普段よりも全く足りない。森の中でも歩いている気分だった。

 

 暫く周囲を見ながら歩いていると俺はその暗い理由に気が付いてしまった。


「どうなってるんだ??」


 なんと、普段であれば外灯に光が灯っているのだが、その外灯が暗いままなのだ。極めつけは、周囲にある家の灯りが付いておらず、暗いままなのだ。


 暗いからといって、時間的には遅くはない。夕食を食べたり、リビングでテレビを見たり、家族で話をしたりするような時間に灯りが一切ないのは不自然ではないだろうか。


 どの家にも今日は人が誰も居ない……そんなことは絶対にありえないだろう。明日も平日で学校や仕事も普通にある。俺だって明日は学校に行かなくてはならない。


 多くの社会人が居るであろうこの周辺で、全員が居ないことなどありえない……一体どうなっているのだろうか?全くわからない。


 ふいに俺はスマホを手に取って画面を見た。


「電波が届いてない……」


 普段であればそんなことありえないことなのだが……どうにも気になって仕方がない。俺は本当に誰も居ないのか確かめることにした。


 一番近くにあった家のインターフォンを押す。音が鳴り、一分程度経過しても誰も出てこない。俺はその場を後にして違う家のインターフォンを押した。同じく全く反応が無かった。


 数件押して回ったが、反応が無かったので、俺は悪いと思いながら他人の家の庭に回り込む。そして、カーテンが開いている場所を探して中を覗き込んだ。


「どうなっている……」


 その家の中には一切の家具が無く、元から誰も住んでいないかのようになっていた。昨日までは灯りが灯り、人が住んでいたにも関わらずだ。


「もう数件確かめてみるか」


 俺は数件回ってみたが、結果は同じだった。どこの家も誰も住んでいないかのうように家具が一切なくなっている。何件も家具が無い家などありえないだろう。


俺は中に入って確かめたかったが、鍵が閉まっており確かめることが出来ない。窓を割って入ってはもし、普通に戻った時にこの家の人は窓が割れたままになるのではないか?そういう可能性もあるので割る訳にはいかない。


「家に帰るか……」


 今出来ることは何もない。人が全く居ないのが確認できたからといって、俺に出来ることなど何一つ存在しない。実際に確認したが、何がどうなっているのかはさっぱり分からない。


 唯一心当たりがあるといすれば、物語の世界だということだが……。


「普通に歩いていただけで扉を開けていないし、あの急激な眩暈も経験していない……」


 本当に全ての物語に行く時に眩暈を経験するかは定かではないが、非現実が起こるのであれば扉をくぐる事をしなければならないだろう。花恋が居た世界に行く時もそうだったし、桃太郎に行く時もそうだった。そうなればここが物語の世界である可能性は少なくなるが……。


「そうでなければ説明が出来ないもの事実だしな……」


 家まではもうすぐだが、ここに至るまで誰とも会っていない。当然全ての灯りは消えており、全く人の気配は感じられない。だが、それ以外は全く現実と変化はない。


「どうなっているんだ……」


 俺は家に帰り、鍵を開けて中に入った。中には見てきた家とは違い出る時と何一つ変わらない様子だった。そして、確かめるべく、俺は自分の部屋に入った。


「……何かおかしいな」


 部屋の中には物はあるのだが、どうにもなつかしさを感じる光景だった。


「小さい頃の部屋だ……」


 そう、そこには小さい頃に花恋と一緒に遊んだりした部屋のままになっていた。当然、今まで成長してきているのだから部屋は変化する。要らないオモチャなどは捨てたりもした。整理もして綺麗にしている。


 しかし、そこにはそんな今日家を出るまでの部屋ではなく、何年も前の部屋に変化していた。


「どうなっているかは全く分からない……けど、とりあえず他の部屋も見てみるか……」


 俺は部屋を出て、次に花恋の部屋を見ることにした。花恋の部屋は居なくなった幼い頃の状態からほとんど変わって居ない。俺達がいつ帰って来てもいいように変えないようにしていた。俺の部屋が幼い頃に戻っているということは花恋の部屋はそのままである可能性は十分高い。


 廊下を歩き、花恋の部屋の前で立つ。そして、ドアノブに触れようとした瞬間に驚きの出来事が起こった。


「なんだ!?」


 突然、扉が光輝いたのだ。花恋が居た異世界に行った時と同じような輝きが廊下全体を光に染めている。光景はあの時と全く同じ光景だ。だからこそ、当然のように扉を開けたらまた花恋に会えるのでは?という考えが頭に過ぎった。


ドアノブに触れて、回して扉を開けようとした瞬間に、俺は手を離した。なぜだかは分からない。花恋に会いたくない訳ではないのは絶対だ。しかし、あの時、花恋に会った時に感じた感覚が無いのだ。


「この先に行きたいという感覚が全くない……それどころか……」


 なぜだか全く理解できないが、俺はこの扉の奥に行きたくないと思って居る。花恋に会える可能性が高いにも関わらずに俺の体は奥に行く事を拒んでいる。心の底から奥には進みたくないと思って居るのだ。



「…………」


 俺はこの感覚を信じて奥に行くことをやめる。廊下にある窓から隣の家を見ると、依然として灯りとついておらず、外には人の気配というのが全く感じられない。この世界から出るのは間違いなく今も輝いている扉の奥に行かなくてはならないだろう……しかし、俺は扉から遠ざかり、自分の部屋に戻る事を決めた。


 とりあえず、戻らなくても今日一日待って見るという選択をする事を決めた。仮に朝になってもこの世界であるのならば花恋の部屋の中に入ってみる。朝に戻っているのであれば何も心配することはない。


 光り輝いている扉に背を向けて俺は自分の部屋に戻った。扉を開けるとそこは、幼い俺の部屋ではなく、今日朝の見た部屋の光景に戻っていた。


「なんだったんだ……」


 朝のままである部屋を見て、少し安心する。しかし、それだけではなく、部屋の窓から明かりが入って来ているのだ。俺は急いでカーテンを開けて、隣の家の様子を見る。


 そこには先ほど暗かった家に灯りが灯っており、人が居る気配がする。どうやら元の世界に戻ったみたいだ。しかし、確定とは言えない。


「一応確認してみるか……」


 俺は部屋を出て、花恋の部屋に行く。当然、扉は光り輝いて居ない。中を見てみるが、どこにも変化は見当たらない。これで本当に元の世界に戻ったと確信する。


 再び部屋に戻り、俺は電気をつけて私服に着替える。変な世界に居たことは間違いないが、不思議と驚いていない自分が居るのが一番不思議だった。


 花恋と異世界で出会って、ボランティア部のみんなで桃太郎の世界に行って……そういった経験をしてきて耐性が出来てきたのだろうか?しかし、自分の事なのに全く分からない。


「考えても仕方ないか……」


 今考えても答えは絶対に出ないと自分でもわかっているので考えることをやめた。答えが出ない不思議な出来事をどう考えても合理的にまとめることなど不可能だろう。


「とりあえず、お風呂入るか……」


 今日は簡単にシャワーで済ませよう、と考えながら俺は一階に足を運んだ。





************





 翌日の昼休みに俺達は部室に集合していた。今日の不思議な世界に行った話はまだ誰にもしていない。今こうして顔を合わせても誰も言ってこないということはあの世界に行って居たのは俺だけということになる。


 花恋の部屋の扉が光輝いていた事から花恋関係だと思われる。あくまでも推測だが、そうでなければ俺だけあの世界に行くのはおかしい。ここに居る五人は全員物語の世界に行くことが出来る。


 あの世界が何か別の意図がなければ全員行って居るはずだ。しかし、俺だけしか行って居ないということは花恋が故意にした可能性が高くなるだろう。


 当然、話をした方がいいのだろうが、昼休みはキリト君の手伝いのために使うと決めている。無理に今その話をしてしまうと、支障が出てしまう可能性がある。


 なので、昼休みはキリト君の手伝いを優先して、放課後再度集まる可能性が高いので、そこで話をする方が良いと思ったのだ。


 どちらにせよ、何かわかる可能性は限りなく低いだろう。だったら、依頼の方を優先させる方が賢いのではないかと思ったのだ。


「それで、今日はどうするの??」


 六花先輩が口元に指を添えながら言った。海鳥さんに話を聞きに行くのは知っているのだが、結局夜に連絡は来なかったので詳しいことは聞かされていない。どうやら静奈さんにも話しをしていないようだった。


「確かに俺達はどうすればいいんですか?六花さんは数人に分けて聞きに行くって言ってたけど……」


「そうね!それが一番いいと思うわ!大勢で行くのは流石に迷惑になるわ!今日は連絡入れる暇が無かっただけで、しっかり考えてきているわ!」


 六花さんはいつも無いかある時は連絡を入れてくれる人なので、決まって居ないかと思って居た。用事があった見たいなので、連絡を入れられないのは仕方ないだろう。


「それは私は心配してなかったんだけど……ちょっといいですか??」


「どうしたの??」


 六花さんは彩の事を不思議そうに見ている。六花さんの話を聞く限り、質問するような事は無かった気がするが……あ、なんとなくわかってしまった。


「いつも間に名前で呼ぶ関係になったんですか!昨日の放課後は立花さんって呼んでいたのに!」


 彩は大声で俺に指を刺しながら言った。やっぱり、そこだよな……。


「色々あったのよ!そうでしょ、航!」


 六花さんはにやにやしながら彩の方を見ながら言った。露骨に楽しんでいるのが見ていてわかるが……彩は不機嫌そうな顔をしながら口を開く。


「立花先輩も星野君から航に変わってる!まさか二人……」


 怒っていたと思えば急に涙目に変わる彩。俺達を交互に見ながら右手で涙をふく。様子を見ていればわかるが、完全に誤解している。どう誤解しているのかは様子を見ればすぐにわかる。


「彩が考えていることは違うから泣かないでくれ」


 俺はそっと頭を撫でる。呼び方が変わっただけでそんなに距離が急に縮まるなどありえないだろう。だけど、彩の泣いている姿を見るとそんなことを言うのも嫌になってくる。


「本当に??」


「本当だよ。呼び方がわかっただけだよ」


「……そっか。航が言うなら信じるね」


 彩はもう一度涙を拭き、笑顔に戻った。やはり、彩は笑顔が一番良く似合っている。泣き顔は見たくない。


「そういうことよ!心配しなくても桜さんのを取ったりしないわ!」


「たぶんだけどね♪」


「……静奈。まぁ、いいわ!話を戻しましょう!今から海鳥さんに声を掛けに行くのは航と、桜さんよ!先陣は二人が良いと思ってたのよ!」


 六花さんは立ち上がり、腰に手を添えて胸を張る。俺は見ないようにそっと視線を外して、六花さんの話に耳を傾ける。


「聞いてほしいことはわかっているわよね??それなら今からお願い!!」


「わ、わかりました!」


 彩は力みながら返事をした。海鳥さんには初めて会うので、話を聞きにくだけでも大変そうだ。


「教室に居なかったら、図書室に居る可能性があるわ!そこにも居なかったら連絡をして!」


「わかりました」


 俺達は部室から出て、二年四組に向かう。昼休みなので騒がしく、廊下には大勢の生徒がいる。すれ違う中に海鳥さんが居るかもしれないが、どんな人かわからないので探す手立てはない。


 四組の前に行くと教室の中をのぞく。教室の中には半分ぐらいの生徒が居るように見える。全て四組の生徒であるかは分からないが、あまり目立つことはしたく無い。


「人、結構多いね」


「そうだな……けど、誰かに聞いてみないとわからないか」


 俺は近くに居る人に声を掛けようと思った瞬間、見たことがある女の子と目が合った。その子はオサゲ風の髪形で、俺が一度海鳥さんの話を聞いた人だった。


「今回はどうしんですか??」


 近づいてきたその子に話しかけられた。彩は目を大きく開いて俺の方を見ていた。誰?見たいな顔をしている。


「この前はありがとう。海鳥さんって教室に居ますか??」


 一度聞いた相手ならば話やすい内容だ。海鳥さんの事を聞いていたのであれば、俺が海鳥さんを訪ねてきてもおかしなことは無い一つない。


 それに、俺一人ならば不審に思われる可能性も少なからず存在するが、隣に彩が居ることでその可能性もほぼゼロに変わる。ランキング上位の彩は学校でも有名だ。そんな人が一緒なら不審に思われることも少なくなるはずだ。


「海鳥さん??そうですね……」


 女の子は教室を覗き込み、見渡す。しかし、すぐに視線を戻り、首を横に振る。


「今、教室には今せんね……」


「わかりました。ありがとうございます」


「大丈夫です。それにしてもどうしたんですか??海鳥さんに何か用でもあるんですか??」


「彩が海鳥さんに用事があるんですよ」


「桜さんが??」


 急に話に入れられた彩は一瞬、驚いた顔になったが、すぐに理解をしてくれて、俺に合わせるように口を開いた。


「そうなんだよ!彩が海鳥さんに用事があるの!」


「そうなんですか。見つかるといいですね」


 俺達はその子と別れて図書室に向かうことにした。教室にいないのであれば図書室に居る可能性があると六花さんが言って居たからだ。確かに図書部は良く図書室に居ると聞いたことがある。


 もしかしたら昼休みである今も図書室に居る可能性は十分にある。図書室はあまり広くないので、居るのであれば探すのも容易いだろう。


 少し歩いて図書室にやってきた俺と彩。扉を開けると小さいが、多くの本が置いてある普通の図書室だ。俺も一度だけ足を運んだことがあるが、その時は人が多く無かったが、今は一人しか利用していなかった。


 図書室の端で本を読んでいる女の子……その子が海鳥さんかは分からないが、聞いてみないと動かないので聞くことにした。しかし、初対面で急に男子の俺に話しかけられるのも少し恐怖を与えてしまう可能性があるので、彩に行ってもらうことにした。


「彩、頼むぞ」


「わかった、行ってくるね」


 俺は少し離れた場所で本を見ているふりをすることに決めた。彩も聞く内容は理解しているので、一緒に行かなくてもうまくやってくれるだろう。


 それに静かな図書室では、声も響く。少し離れている俺にも十分に声は届き、聞くことが出来るはずだ。


「あの……すいません」


 静かに本を読んでいる女の子に声を掛ける彩。その子は彩の声に気が付き、読んでいた本を置いて彩の方に視線を向けた。


「どうしたんですか?」


「あの、海鳥涼花さんですか??」


「そうですが……何か用ですか??」


 どうやらあの子がキリト君が好きな海鳥さんで間違いないみたいだ。本人がそう言っているのだから、疑いの余地もないだろう。


 キリト君が言っていた通り、可愛らしい女の子だった。可愛いという表現をするより綺麗といった方が正しいかもしれないが、誰から見ても容姿は良いだろう。


 黒髪のロングヘヤーで、瞳も大きく、身長は彩より一回り大きいぐらいだ。全体もバランスも良く、全てが綺麗に均等が取れているように感じる。遠目から見ても可愛いとはっきりと言えるだろう。


「あの、聞きたい聞きたいことがあるんです!」


「どんなことですか?後、同級生なんですから敬語じゃなくても大丈夫ですよ??」


「わかった!ありがとう!」


 彩は満面の笑みを浮かべて海鳥さんを見た。海鳥さんもそれに合わせて少し笑みを浮かべて、隣にあった椅子を引いた。


「私の場所じゃないですけど、座ってください。立ちながらではなんですので」


「ありがとう!!それでね、私は桜彩っていうの!」


「知ってますよ。可愛いと学校では有名ですから。後、ボランティア部に入っていることも知ってます」


「良かった!それで、聞きたいことがあるの!」


「はい、なんでしょか?」


「好きな男の子のタイプが聞きたい!」


 彩の言葉に不思議そうに首をかしげる海鳥さん。しかし、嫌そうな顔を一切しないので、おさげの子に聞いた話は本当のようだ。急に面識のない彩が話しかけてきたら何かしら顔に出るはずだが、一切出ない。いい子なのだろう。


「好きな男性のタイプですか……別にいいですけど、なんで聞きたいんですか?」


「え……えっと……」


 彩は露骨に視線を逸らす。流石にボランティア部に依頼があったとは言えないはずだ。しかし、それ以外面識が無かった海鳥さんに好きなタイプを聞く理由などそうそうないだろう。海鳥さんもなぜ聞かれているのだろうと思って居るはずだ。


 依頼があったと言えば、どんな内容か話をしなくてはならなくなる。そうするとキリト君がいざ話掛ける時、海鳥さんはキリト君が好意を持っているということを知っている事になる。


 話しかけるだけでも大変な事のはずなのに、相手が自分の気持ちを知っているという状態はキリト君からしてもかなりきつい状態になってしまう。


「まぁ、いいです。別に教えて困るものではありませんし……」


「ありがとう!」


「そうですね……面白い人が好きですよ。顔とかはあまり気にしませんね……あ、優しい人が良いです。誰にでも優しく出来る人とか」


「優しい人いいよね!私も優しい人が好き」


「優しく無かったら顔がどんだけ良くても無しですよね。後、一緒に居て楽しい人だったら最高です!」


「そうだよね!一緒に居たくなる人がいいよね!」


 彩と海鳥さんは楽しそうに笑顔で話しをしている。女の子はやっぱりこういう恋愛関係の話は好きなんだなっと思ってしまう。二人の様子を見ていれば誰だってわかってしまうだろう。


「でも、私はそれぐらいでいいですね!欲張りすぎるとダメなんですよ。だから、優しくて、楽しい人が好きなタイプですね」


「その二つは絶対に無かったらダメだよね!」


 一瞬、彩が俺の方に視線を向けてきて、目が合ってしまった。すると、急激に頬を赤く染めて、視線を逸らされてしまった。


 その様子を近くで見ていた海鳥さんは、背後を振り返った。今度は海鳥さんとばっちり目が合ってしまい、海鳥さんは頬を赤く染めて、両手で顔を隠した。


「恥ずかしいです……さっきの話人に聞かれていたなんて……ありえないありえないありえないありえない……もう、お嫁にいけない……聞かれた以上もう殺るしか……」


 なぜだか分からないが、恐ろしい事を口に出した海鳥さん。俺はゆっくり近づいて、彩の隣に立った。


「ごめん……居るって言えばよかった」


 先ほど彩に敬語を使わなくてもいいと言っていたので、俺も敬語を使わないで話す。海鳥さんの様子なら、俺が敬語だとまた、同じ事を言うだろう。


「だ、大丈夫ですよ!私も気が付かなかったので……」


 今だに頬を赤く染めている海鳥さん。その様子は可愛らしく、個人的には彩に負けないほどだ。キリト君が惚れたのも理解出来る。


「ごめんね……航」


「気にしてないよ」


 俺は落ち込んでいる彩の頭を優しくなでる。すると、頬を染めて「へへへ」と笑顔に変わる。相変わらず可愛い。


「ふーん、二人はそういう関係なんですね?」


「ち、違うよ!まだ違うよ!!」


「まだということは、桜さんには恋人同士になるつもりがあるんですね!」


「はぅ……」


 今までで一番頬を赤く染めている彩。一瞬で海鳥さんにバレてしまったようだ。


「それで、ボランティア部の二人がどうしたんですか??」


「俺の事知ってるのか??」


「知ってますよ、星野航さん……この前ボランティア部に入部されたことも」


「そうか……」


 これは非常にまずい状態ではないだろうか。俺の事は知らない前提だったので、俺もボランティア部に所属していると分かってしまえば、急にボランティア部二人が押し寄せたという形になる。


 ボランティア部がどういう活動をしているのかは知って居るはずだ。そうなれば、海鳥さんは俺達がどういう目的で近づいてきているのかを知ってしまった可能性が高い。


「私に関して調べてほしい……とかですか??私なんかどうして」


 誤魔化すことは出来ないだろう。仮にここで誤魔化して、不信感を抱かれると、これから会話すらあまりしてくれなくなる可能性が高い。そうなると、キリト君が一人で頑張る他なくなる。


「正直に言うのが一番か……」


「いいの?立花先輩に何か言われない?」


「六花さんなら大丈夫だろ……たぶん」


「やっぱり何か部活の活動だったんですね」


「俺が話すよ」


 あくまで話すのは、キリト君の事を除いた話だ。ボランティア部に手紙が届いて、海鳥さんと仲良くなりたいという内容だった事。嘘を交えてしまうが、キリト君が友達からでいいと言っていたので問題ないだろう。


 そして、仲良くなってもらうために海鳥さんに聞きに来たこと。その相手は男子であること……話していいのはここまでだろう。これ以上はキリト君だというのがバレてしまう可能性がある。


「こんな感じだ」


「私と仲良くなりたい男の子ですか……いいですよ?」


「そうだよね……ごめんね。急にそんな事言われたら困るよね……え??」


「いいのか??」


「はい、全然大丈夫ですよ!誰かは全く分かりませんが……どんな人か会ってみたいですね。さすがにいきなり二人きりは難しいですけど……そうだ!今度、星野さん、桜さん、私、そしてその人で出かけましょう!」


「…………」


 あまりの急展開に俺達二人は空いた口がふさがらなかった。けど、これはかなり好都合な展開ではないだろうか?予想外の展開だが、こちらからしたら好都合だ。


 海鳥さんの話を聞いて、少しづつキリト君に話して、キリト君と海鳥さんの距離を縮めていくよりも、一緒に話をしたりして縮めていく方が確実に早く、そしてそっちの方が絶対に良い。


 これは俺達ボランティア部からしたらキリト君と海鳥さんの距離を縮める最大のイベントになるのではないだろうか?そんなことを思いながら俺は海鳥さんの話を受けることにした。


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