先輩二人と
学校から出ると、彩の柊。俺と先輩二人で別れた。彩達は本屋に行くと言っていたが、俺は立花先輩に誘われただけなので、どこに行くのか全く分からない。
行先を言われないまま歩いて十分程度経過した。さすがにどこに行くのか分からなかったので、聞くことにした。
「立花先輩、どこに行くんですか??」
「??行先言ってなかったけ??」
「そういえばそうだね♪そりゃ、言ってなかったら気になるよね♪」
歩きながら俺達は会話をする。先輩達はどうやら行先を言っているつもりだった見たいだ。当然言われていないので、どこに行くのか全く見当が付かない。家の反対側なので、そんなに行くことが少ないので何があるのかもイマイチ把握していない。
「商店街に行くのよ!」
「商店街ですか??」
「航君はあんまり行ったことない??」
「そうですね……小さいころ何回か行った記憶がありますけど……正直どんな場所か全く覚えていないです」
小さい頃と言っても本当に小さい頃だ。記憶の中ではまだ花恋が隣に居るので、少なくとも八年以上前の記憶になる。何度か家族で行った記憶があるが、回数はあまり多くない。特に用事が無ければ足を運ばない場所だろう。
「そうなんだ♪それじゃ、大分変わっていると思うから楽しみにしておいてね♪」
「昔はこじんまりとした商店街だったけど、お店も増えて人も結構来ている場所よ」
「そうなんですか」
二人がそこまで言うのであれば少し楽しみになってきた。家に足りない物が少しあるので、あれば購入していくのも手ではないだろうか。
行って見て良い場所であればこれからも活用する回数が増えるかもしれない。何より、こうして先輩二人に誘われて行く場所なので、思い出に残りそうだ。
それからしばらく歩くと、商店街らしき所が視界に入った。作られた門があり、遠目でも中にはお店が立ち並んでいるのが分かる。記憶の中の商店街よりも人が多く居るのも見ていればわかる。
「結構変わったでしょ??私はたまにここに買い物に来るの」
「私も六花に付いてきて買い物する時があるよ♪」
仲の良い二人は良く一緒に商店街に来る見たいだった。なんとなく、二人が楽しそうに買い物して居る光景が想像できてしまう。
「それで、今日はどうして俺も居るんですか??」
素朴な疑問だった。誘ってくれたのは本当に嬉しいが、普段二人で来ているのなら今日も二人で来ればいいだろう。今日に限ってどうして俺を誘ってくれたのだろうか。
淡い青春なんて全く期待していない。何か理由があるのだと思って居る。だが、二人の様子を見ていれば大した理由では無いのは理解出来る。
「特に理由はないわ!ただ、暇そうだから一緒に行こうかなって思っただけよ!」
「そういいながら六花は航君の事気に入ってるんだよ♪六花が男の子を誘うのなんて初めての事だからね?」
「ちょ、何言ってるのよ!そんな事言ったら静奈だって!」
「あの話はダメだよ!絶対に言ったらダメだからね!」
「わかった、わかった。落ち着きなさいよ」
「すごく気になるんですけど……」
「航君は気にしなくてもいいよ!全然関係ない話だからね!!」
少し頬を赤らめて胸の前で両手を振る静奈さん。何かあるのは間違いないが、本人が話してくれなければ分からないし、言いたくないようなので無理には聞かない。
だけど、こうして二人が俺の事を気に入ってくれているかは分からないが、誘ってくれたことや仲良くしてくれる事は純粋に嬉しい。部活に男一人という状況はやはり孤立しやすいだろう。けど、みんなが仲良くしてくれているおかげで、孤立どころか、楽しい毎日を送れている。
「とにかく今日は特に何もないわ!しいて言えば、キリト君が個人に海鳥さんとは商店街でデートしたいとか言っていたぐらいかしら」
「けど、それは関係ないからね♪純粋に航君と商店街を見たかったんだよ♪」
「ありがとうございます!なんだか少し照れますね」
こうして可愛い女の子と一緒に歩くことなどそうそう無い経験だ。しかも、二人に挟まれて歩いている光景はかなり周囲から浮いてしまうだろう。先ほどから視線を感じるが、それも仕方が無い事なのだろう。
俺だって逆の立場であれば、どうしても視線を向けてしまうだろう。それだけ二人の容姿は良く、すれ違う人が二度見するぐらいだ。
「今日はどこに行くの♪私は特に用事ないから六花と航君の好きな所言ってもいいよ♪」
「私も特別用事は無いわ。けど、一応見ておきたい物があるからいいかしら?時間も遅いし、長くは入れないから時間はかけないわ」
「俺も特別重要な事はありません。ただ、立花先輩と同じで、少し見たい物があるぐらいです」
家に置いてあるカップラーメンが少ないのと、歯磨き粉が無かったので、それを買いに行きたい。やはり、コンビニで買ったりするよりも、こっちで買った方が確実に安いだろう。
普段はめんどくさいので、帰り道にあるコンビニで済ませるが、今日は商店街に来ているのだから安めの物を買って帰ってもいいだろう。
「わかったわ!買い物終わった少し座れる場所に入りましょう!!」
「わかりました!」
「今日はご飯要らないって言ってあるから大丈夫だよ!」
俺は近くにあったお店で買い物をして、次に立花先輩の買い物に付き合う。何か日用品でも買いにくのかと思い、付いて行っていると、立花先輩が立ち止まったのは想像していない場所だった。
「あの……俺は入口で待っていていいですか??」
「何言っているのよ?ダメに決まっているじゃない」
「そうだよ♪一緒に見るんだよ??」
「流石にそれは……」
「私たちも一緒だから大丈夫よ!」
「早くいくよ♪」
俺は二人に背中を押されて、入ったことが無いお店……女性専用の下着売り場だった。歩いている時に視界に入ることは今まで何度もあったが、中に入ることなど初めての事だ。
中は色鮮やかな下着が並んでおり、男性用の下着とは全然違うフリフリした物もある。女性専用というだけあって、中には当然のように女性しか居ない。二人に連れられて入ると一斉に視線を集めた。
店員も俺の方に視線を向けているが、先輩二人が隣に居るおかげで、声を掛けられることは無かった。明らかに怪しんでいたのは間違いないだろう。
「そんなにビクビクしなくて大丈夫よ。店員さんも何も言ってこなかったでしょ??たまにだけど、男の人が居ることもあるわ」
「そうだよ♪私たちは見たことないけどね!」
「……外で待ってていいですか??」
一言で言えば気まずい。別に何か悪いことをしている訳でも、する訳でも無いのに、罪悪感がのしかかってくる。どうしてこうなったのか?と自分の胸で言い聞かせる。
「ダメだよ♪」
当然、楽しそうに笑って居る二人は俺を逃がしてはくれない。完全に俺の反応を見て楽しんでいる……俺は気まずい思いをしているのに。周囲の視線がさらに気まずさを加速させる。
「静奈さん恥ずかしくないんですか??」
静奈さんは一度、静奈と呼んで頬を真っ赤にしていた事がある。恥ずかしがりやなのは間違いないはずだ。立花先輩に合わせて居るだけかもしれない。
「恥ずかしくないよ♪だって、私の下着を見られている訳じゃないもん♪」
楽しそうに笑う静奈さんに俺はついにここから出るのを諦める。当然、立花先輩が逃がしてくれる訳がなにので、静奈さんに可能性を賭けてみたが無駄に終わった。
「大丈夫よ!もし、誰かが警察とか呼んでたら私が言ってあげるわ!」
「何をですか??」
「いつかやると思ってました!って!」
「……絶対に言わないでください」
いつかやると思ってましたって……俺はそんな風に思われているのだろうか?いや、そんなはずはない。ないはずだ……自分でも確証をもって言えないのが問題だ。
暫くすると周囲からの視線もなくなり、入った直前よりは気まずさはなくなった。しかし、視界全体に女の子の下着は移っているとどうしても居心地が悪くなる。
こんなに長い時間女の子の下着を見る機会など今まで一度も無かったので、正直に言うと恥ずかしい。偉大な偉人は履いていないパンツはただの布と言ったが、履いていようが履いてなかろうが、下着だ。そこに大きな変化はない。確かに履いている方がいいのは認めるが……。
「星野君、見て!」
「どうしたんですか??」
「これ静奈が……」
「六花??何言おうとしているの??」
立花先輩は白いフリルが付いた可愛らしい下着を持っていた。だが、そんな立花先輩の肩をつかみ、今まで見たことが無い満面の笑みを浮かべていた……正直怖い。明らかに目が笑って居ない。声も心なしかいつもより低い。
「ご、ごめんなさい……」
静奈さんの迫力に立花先輩が苦笑いを浮かべながら謝罪した。今の静奈さんには立花先輩も歯向かうことが出来ないのだろう。見ているだけの俺でも怖い。
言葉から察するに、静奈さんこの白い下着を……。
「航君?何か変な事考えてない??」
「いえ、考えてません」
そう、俺は何も考えていない。決して、静奈さんが白いフリルの付いた下着を履いている光景を想像などしていない。
「そっか♪それなら良かったよ!」
いつも通りの静奈さんに戻り、俺は深く息を吐いた。そして、立花先輩が近くに寄ってきて、耳元で言う。
「静奈を怒らせない方がいいわよ」
「はい……さっきので良くわかりました」
俺は静奈さんを怒らせるような事は絶対にしないと心の中で決めた。
*******
下着売り場から出た俺達は近くにあったガ〇トに入った。安くて美味しい庶民の味方、俺もたまに行ったりするが、やはりおいしい。好きな物が多いから俺はサイ〇リアよりガ〇ト派だ。
席に座り、商品を頼むと、立花先輩が口を開いた。
「私、ずっと思って居たことがあったのよ」
「どうしたんですか??」
立花先輩は俺の方に顔を向けて真剣な顔つきで見てくる。可愛らしい顔がずっと俺を見てくるので、内心ドキマギしていた。
「静奈の事は静奈さんなのに、どうして私だけ、立花先輩なのかしら??」
「どういうことですか??」
言いたいことはわかるが、どうして急にそんな事を言ったのかという方が気になる。今まで特に何も言われなかったので余計に気になってしまう。
「六花……もしかして、名前で呼んで欲しいの??」
「そ、そういう訳じゃないわ!ただ、どうしてなのかと気になっただけよ」
「どうしてって言われても……」
静奈さんは本人からそう呼んで欲しいと言われたから呼んでいる。本来なら仙道先輩と呼ぶのが普通なのだろう。しかし、本人に言われると俺も断る理由はなくなる。だから今の静奈さんと呼んでいるのだ。
けれど、立花先輩には特に何も言われていないので、立花先輩と呼ぶのが普通に良い気がしたからだ。急に何も言われていないのに六花とか六花さんとか呼ぶことは出来ないだろう。
「まぁ、私たち先輩だしね一応♪普通の人はそうやって呼ぶと思うよ♪」
「そういうものかしら……でもそうね、柊さんや桜さんも立花先輩って呼ぶわ」
「それを言ったら私も仙道先輩って呼ばれるよ♪普通に静奈とかでいいのにね?」
「そうね、これから物語を集めていくのだから長い付き合いになるのは間違いないわ。だから早い段階から距離を縮めて置くのは悪いことじゃないと思うわ」
「そうだね♪だって、航君♪」
「ここで俺に来るんですか?」
水を飲みながら二人の話を聞いていた俺に話が振られてきた。その流れからするに、そういうことだろうか??
「だって、私は六花の事六花って呼んでるし、今更距離縮めるような仲でもないしね♪」
「そうね、付き合い長いから今更だわ」
「けど、星野君は違うでしょ??だったら星野君に言ってもらわないと♪」
「なんて言えばいいんですか??」
「六花でいいわ!」
「呼び捨ては流石に……六花さんでいいですか??」
「そうね、無理に強要したくないからそれでいいわ!!それなら私はこれから星野君の事、航と呼ぶわ!」
「わかりました。俺も六花さんって呼びます」
「うん!それで行きましょう!」
立花先輩……六花さんがそれでいいと言うのであれば問題はない。俺だって仲良くなりたくない訳ではない。言っていたが物語を集めるのであれば付き合いは自然と長くなる。距離を縮めるもの悪くはない。
今まで先輩と呼んでいたが、こうして六花さんの方から歩み寄ってくれたので、俺からそれを断る理由は一切ない。むしろ、ありがたいことことなのは間違いないだろう。
「よかったね、六花♪」
「……何か変な勘違いしてそうで怖いわ」
「そんな事ないよ♪」
「本当かしら……」
六花さんに静奈さんをジト目で見ながらつぶやいた。俺から見てもそんな事ありそうな顔をしているので、六花さんは間違いなく気が付いているだろう。
「まぁいいわ!」
「お待たせしました~~」
ちょうどいいタイミングで、頼んでいた物が届いた。ガ〇トにはラーメンが無いのが残念だが、そういったお店ではないので仕方にだろう。
俺達は、それから部活の事や、私生活のことなどを話しながら食べる。そして、全員が食べ終わるとガ〇トを後にして帰路に就く。
来た時とは違い、周囲は暗くなっている。人の数も来た時よりも明らかに多くなっていた。買い物や、仕事終わりのサラリーマンと思われる人が多く居る。
「送っていきますよ」
暗くなると危険が増える。当然、女の子をほって帰る訳にはいかない。
「大丈夫だよ♪途中まで六花と一緒だしね!」
「そうね、それにまた送り狼されると困るわ!」
「またってなんですか!一度もしたことないですよ!」
「今日が初めてになる予定だったのかしら??」
「そんな予定ありません!」
結局、六花さんと静奈さんに断られてしまい、俺は途中まで二人と帰り、道が分かれるので一人で家に帰った。送り狼になるつもりはないが、送って行った方が良かったのではないか?と家に付いてから思った。