本格的に
俺達は昼休みに部室に集まって居た。
キリト君は扉があるので部室には呼べないので呼んでいない。あくまで、これからどう依頼を進めていくかという話し合いをするために集まって居る。キリト君にはこれから行う行動が決まってから伝えることにする。
何をどうすべきなのかをみんなが共有できなければ行動を起こすことは当然出来ない。何も決まっても居ない段階からキリト君を呼んでも意味がないだだろう。話し合って、決まってから伝えて、それでいいかの確認を取る。そうすれば、無断な行動なども無くなる可能性が高い。
「手伝うと決めたのはいいけど、実際どう動くべきかしら……」
俺達はいつも通りの場所に座り、持ってきた昼食を広げて話を始める。昼休みは長くはないので、どう動きべきかを直ぐに決めて、放課後には動けるようにするべきだろう。
「友達になるのが目的なら、友達になってください!って直接言うのが一番だよ」
「それが一番早いのは確かだと思うけど、そんなに簡単に出来るならこうしてボランティア部に依頼なんてしてこないだろう?出来ないからこうして俺達が手伝う事になってる」
「彩ちゃんも自分が好きな相手に初対面同然で急に友達になってください!なんて言えないでしょ♪」
「う……そうですね。その通りだと思います」
実際に彩と友達になったのは話をしだしてから少し経ったぐらいだった気がする。いつも元気で基本的に誰かも好かれる彩でも難しいのなら、かなり難易度高いだろう。俺も同じ立場ならきっと出来ない気がする。
下からちょくちょく話をする相手などであればそういった言葉を言うのも少しは楽になるかもしれないが、今回に限ってはそうではない。助けてもらって、それで好きになった。相手とは話をした経験が無い……言うなれば他人同然だ。同じ学校じゃなかったら関わりすらない可能性が高い。
「そうね……こういった恋愛はした経験が全く無いから分からないことが多いわ……私の知っている知識なんて一般的な知識より少ない可能性が高いわ」
「私も同じだよ♪そんな経験したことがないし、ドラマで見たり、話で聞いたりするぐらいだね♪」
「我も同じなのだ!アニメの恋愛物ぐらいなのだ!!」
そういう三人が一斉に彩の方に視線を向ける。それに気が付いた彩は視線を逸らし、何事も無かったかのように携帯を取り出して、スクロールし始める。
「私、ずっと気になってたのよね。恋愛するってことがどんな気分なのか」
「私知りたいな♪今回の事に役立つ可能性もあるし♪」
「そうなのだ!我もヒロイン達がどんな風に感じていたか知りたいのだ!」
さらに強い視線で彩を見つける三人。さすがに無視できないのか、携帯を直して立ち上がり、俺の傍に駆け寄ってきた。
「航、助けてよぅ……」
泣きそうな顔で俺に助けを求めてくる彩。さすがに今回の依頼に役立つ可能性があるからといって、嫌がっている彩に無理やり聞くのは良くない。
「流石に可愛そうですよ」
俺がそう言うと彩は嬉しそうな顔をしていた。そう言った感情はきっと、口で聞くだけでは理解出来ない物なのだろう。
「そうね……ごめんなさい桜さん」
「いえ、全然大丈夫です!」
彩自身も恥ずかしさなどが大きかったに違いない。自分が思っている感情を人に伝えるというのは恥ずかしい物なのだろう。彩が俺に好意を向けてくれているのだとしたら本人が居るのだから恥ずかしさも増えるはずだ。
「あろがとう航!」
桜が咲いているかのような満面の笑みを浮かべる彩の姿を見た俺は、無意識に彩の頭に手を伸ばしていた。そして、頭を優しく何度か撫でた。
「へへへ♪」
嬉しそうな顔に頬が緩むのを感じた俺は、そっと頭から放し、みんなの方に視線を向けると、なんだかじーっと俺の方を見ていた。
「どうしたんですか??」
何かまずいことでもしただろうか?彩の頭を撫でることは今までも何度かあったはずだ。今更驚きなどしないはずだが……どうしたのだろうか。
「私なんだかわかった気がするわ」
「私も二人の様子を見てわかった気がする♪」
「???何がなのだ?」
柊だけ理解していない様子だったが、先輩二人は一体何が分かったのだろうか。
「好きって気持ちは相手と一緒に居る時間が幸せに感じたり、楽しくなったりするものなのね!」
「知識とかでは知っているけど、こうして見るとやっぱり良いものなんだね♪」
「私もそう思ったわ。キリト君が抱いている気持ちもきっと桜さんが抱いているのと同じような気持ちなのね」
「それは分からないですけど……けど、凄く良いものですよ!辛いこともあるだろうけど、私はそう思います!」
「そうだね♪そう考えると何かいい案が浮かんできそうだね♪」
三人は笑顔で共用しているが、柊だけが頭にハテナマークが浮かんでいるようだった。結局、相手の傍に居たい、色々しりたい、そう言った思いをキリト君も抱いているのだろう。
「そうなれば、一番初めに起こす行動はこれしかないと思うわ!」
「一体何なのだ?」
「海鳥さんの事を詳しく調べるよ!キリト君はきっと海鳥さんの事を何も知らないと思うわ。けど、何か好きな事や好きな食べ物、嫌いな事や嫌いな食べ物……相手の事を理解して居ないと何も始まらないわ!」
「そうだね!お互いの事を良く知ってからじゃないと無いも始まらないね♪相手を理解して、初めて自分がどうすれば相手にとって友達であれるか、友達以上に進みたいのであれば、当然それ以上の事が求められるだよ♪」
「そうですね!やっぱり、相手の事を理解して居なければ何もわかりません!何をされたら嫌とかは特に大きいと思います!」
「それなら始めは海鳥さんの性格や、男の人のタイプ。趣味や嫌いなタイプなど聞いて行きましょう!!」
「俺はいいと思います。趣味は特に相手との話題を作るきっかけになると思いますし」
相手が何が好きで何嫌いか……相手の趣味などを理解して居れば話掛ける時の話題になる。もし、仮に同じ趣味や自分に興味がある事であれば、そこから仲良くなる事も可能だ。実際にそうやって仲良くなった人は何人も居るだろう。
同じ話題が存在すれば話す機会は必然的に増えていくものだろう。それは同性でも同じだろうし、異性でも代わり映えはしないだろう。まずは相手を知って、理解してから話しかける……友達になるにはそれが一番だろう。
「それなら、今日の放課後からさっそく行動しましょうか!」
「そうですね!キリト君も待っているだろうし、何か少しでも海鳥さんについて分ればいいですね!」
彩の言う通り、一番俺達の結果を待っているのは他ならぬキリト君だろう。あまり長時間何事も分からない状態が続くのも可哀そうなので、行動は早めを意識した方がいいだろう。
「海鳥さんの事を知る!それで行きましょう!キリト君も知りたがってるだろうし、私たちも知らなければ出来ないことももあると思うわ!」
「そうだね♪私たちも海鳥さんについて知らないとね!」
俺達は、キリト君の好きな人である海鳥さんについて知るということに決めた。キリト君も海鳥さんの事を深く知りたいだろうし、当然、手伝う身とすれば俺達も知っておかなければ行けないだろう。
俺達が不快な思いをさせてしまうと、キリト君も海鳥さんと仲良くなる機会が減ってしまうかもしれない。そういった意味では嫌いな事を知ることは重要なことではないだろうか。
イキナリ恋人になりたいというのであれば難しいが、友達でも良いと言われているので、まずは不快な思いを海鳥さんにさせないで、相手の趣味の話から行けば友達にはなれるのではないだろうか。
「それじゃ、次にだけどどうやって話を聞けばいいと思う??」
「どういう意味なのだ??普通に話しかければいのだ!!」
「それはそうだけど……つかさは海鳥さんの顔とか知ってる??確かキリト君はクラスは四組って言ってたけど、流石にそれだけじゃ分からないよ」
「言われてみればそうなのだ……どんな人か分からないなら話しかけられないのだ」
「そういうことよ。同じクラスの桜さんと星野君が知らないなら、私たちが知っているはずないわ」
「そうだよね……クラスの人に聞く??」
「それしかないわよね……けど、不審に思われないかしら?とりあえず、海鳥さんが誰か分からないと難しいわね。話か掛けられるのが嫌いな人かもしれないわ」
「確かに否定はできませんね……みんなは学校ではそこそこ有名だから俺がクラスメイトに聞きましょうか?」
四人はボランティア部だということを当然全校生徒が知っている。当然、俺も初めて男がボランティア部に入部したのだから名前だけは知られているだろう。入部当初はすごい勢いで広まった。しかし、顔を覚えている人は少ないのではないだろうか。今では誰からも何も言われないので、その可能性は十分に高い。
物珍しさで広まった可能性もあるだろう。既に全校生徒に顔が割れている四人ではなく、そういった行動をするのは俺が一番良いだろう。何かあっても大してダメージも無いし。
「お願いしてもいいかしら??私が行きたいけど、どうしても目立つわ」
「そりゃそうですよ。気にしないでください。直接聞くのではなく、クラスメイトに尋ねるだけなので、難しくはないですよ」
もし、俺の顔が割れていた場合だが……そんなに心配しなくても大丈夫だろう。海鳥さんの事が好きなんだろうか?ぐらいしか思われない。男が女の子の事聞くときは対外がそんなもんだろう。
「教室に居るかどうかわからないですけど、とりあえず、放課後四組に行って聞いてきます」
「待っているわ!私たちは放課後は部室に集合して、星野君を待ちましょう!」
「それが一番いいよね♪」
そして、俺達は昼食を取りながら、依頼の事を少し話して昼休みを終えた。
******
放課後になると俺は立ち上がり、彩に行ってくるとだけ伝え、教室を後にする。廊下を走らないように早歩きで四組まで行き、教師の中に視線を向ける。
教室の中には半分ほど生徒が残って居た。この中に海鳥さんが居るかどうかわからないが、教室の外で待機して、一人で出てくる生徒に話しかけた。大勢で居る人の場合、広まりそうで怖いからだ。
「あの……」
「はい?どうかしました??」
眼鏡を掛けたオサゲ風な髪形の女の子に声を掛けた。物静かそうな雰囲気を持っており、他人に海鳥さんの事を聞けれたと言いふらさなさそうだ。
「この組の海鳥さんってどの人??」
「海鳥さんですか??えっと……」
大人しそうな人に話しかけたのは俺の事を知っている可能性も少ないと踏んだからだ。その作戦は成功だったみたいで、眼鏡の少女に何も聞かれなかった。
女の子は周囲を見渡し、海鳥さんを探している。一通り探し終わると、女の子をこちらに視線を向けて口を開いた。
「今はいませんね……確か部活動をやっていたはずだから、部室に居るかもしれないですよ」
「何部かとかわかります??」
「流石に何部かはわかりません……そこまで親しい仲ではないので……」
「そうですか……」
教室に居ないのであれば意味がないか……けれど、部活をやっているということが分かれば何かわかることがあるかもしれない。キリト君が運動を好き好んでしているようには見えないので、運動部だと会話が合わないかもしれないが、小さな問題だろう。
「最後に一ついいですか??」
「なんですか??」
もう話が終わったと判断して、帰ろうとしていた女の子を止める。周りから見たら不審かもしれないが、放課後で生徒も少なくなっているので大丈夫だろう。俺達を見ている人は周りにほとんど居ない。
「海鳥さんってどんな人ですか??あなたが思っている感想でいいので教えてください」
親しい仲ではないと言っていたので、聞くことにした。親しい仲だとどうしても本音が言えなくなったりするものだが、あまり関わりが無ければ遠目から見て、自分がどう思って居るかを正直に言ってくれるような気がしたからだ。
悪い印象でも、良い印象でもどちらでも構わない。本音が聞ければキリト君も助かるだろうし、俺達も動きやすくなり、助かる。
「いい人ですよ、誰にでも優しくて。物静かなのは私と同じですけど、誰とでも仲良くしている印象があります。見た目も可愛らしいですし、いつも笑って居ます」
「そうですか……ありがとうございます」
俺は女の子にお礼を言って、分れる。他の人にも聞いてみようと思ったが、教室の仲には誰もおらず、諦めて部室に戻ることに決めた。
廊下を暫く歩いていると、背後から視線を感じたので、振り向く。しかし、そこには誰も居ない。
「気のせいかな」
誰も居ないということは俺の気のせいだと思い、部室の扉を開ける。
「おかえり、航!」
部室の中には四人揃っており、彩が笑顔で駆け寄って来る。
「ただいま、彩」
「うん!!」
「なんだか、夫婦みたいなやり取りね」
笑う立花先輩は人をからかっている時の顔をしていた。物凄く楽しそうな顔で、俺達二人の様子を見ていた。
「ふ、夫婦って……」
頬を赤らめて、両手で顔覆い隠して呟いた。指を間から真っ赤になった頬を見えており、チラチラ俺の方に視線を向けてきている。
「彩と夫婦になれば毎日楽しそうですね」
そんな事を言いながら真っ赤になって居る彩の頭を撫でて、俺は席に座る。冗談のように言ったが、紛いもなく俺の本心なのは言うまでもない。
「よかったね彩ちゃん♪」
「そ、そんことないですよ!!」
そういいながら席に座り、真っ赤な顔で俺の方を見てくる。そんな彩の様子を見ながら俺は視線を逸らし、立花先輩の方に向ける。
「それで、どうだったの??」
「教室には居なかったですね。けど、聞いた話では優しくて、良い人って言ってました。交流関係もありそうなので、クラスメイトに聞けばすぐにわかると思います。後、部活もやっているみたいですよ。何部かはわかりません」
俺は四組の前で聞いた話を詳しくみんなに話す。当然得られる情報は少ないが、キリト君が言っていた通り良い人見たいなので、良かった。
部活動をやっているということもあり、交流関係も広いだろう。いい人には他の人も集まりやすいだろう。
「ありがとう。部活をやっているらな何部か調べることが出来るわ!後は本人の姿を見に行くだけね」
「私たちなら先生に聞けば教えて貰えそうだね♪」
「そうね、さっそく職員室に行きましょうか」
先輩二人は立ち上がり部室を後にした。俺と彩、柊は職員室に行っても役に立たないので、部室で待つことに決めた。聞いて帰って来るだけなので、大勢で行っても何も変化はないだろう。
逆に大勢行くことによって目立つ可能性もあるので、待つのが良いと思う。部活が分かったらキリト君に報告してあげるのが良いだろう。知っている可能性もあるが、知らない可能性もある。
暫く部室で雑談をしていると、先輩達が帰ってきた。職員室に行って帰ってくるだけにも関わらず、それなりに時間が掛かった気がする。何かあったのでろうか。
「お待たせ♪」
「何かあったんですか??妙に帰ってくるのが遅かったです」
「ごめんなさいね、部活を聞いてどんな子か見に行ったのよ。先生に聞いたら今は入っても大丈夫な場所に居たからついでにね」
「そうなんですか!何かあったのかと思いました!」
「彩ちゃんは心配症だね♪」
先輩達が席に座ると、口を開く。
「それで、部活なんだけど、文科系の部活だったわよ。図書部だったわ」
「図書部なんて聞いたことないのだ」
「そんなに公に活動している部活じゃないからね♪人数も最低人数しかいないし、やることと言えば本を読んだりするぐらいかな?たまに小さい子達に読み聞かせしたりしてるみたいだけどね」
「人数が少ないから、先生からどんな子か聞いたから直ぐにこの子だってわかったわ!だから、明日から話しを聞きに行くことが出来るわ!」
「それは大きいです。とりあえず、キリト君に連絡しときます」
「お願いするわ!」
俺は携帯を取り出して、キリト君に今の話を連絡する。海鳥さんが図書部だということと、明日から本人に趣味や嫌いなことや好きな事を聞くこと。聞いてからどうすれば友達になれるか、ということを考えることなど、決まった話を全て伝えた。
キリト君の返信は早く、伝えてから一分満たない間に返った。
「大丈夫みたいです」
キリト君は海鳥さんが図書部であることも知らない見たいだったので、知れて嬉しそうな感じだった。文を通りてそれが伝わてくる。
「これで、方針は決まりね!明日の昼ぐらいから人数分けて聞いて行きましょ!一度に行くと流石に不安がられるし、帰宅してから組み合わせも決めるわ!」
「とりあえず、今日は解散しましょう!動けるのは明日からだろうし!」
「そうですね。それが良いと思います」
みんな帰る支度をしている途中に、柊が彩の方に寄って行った。ないやら用事があるみたいだ。
「そうしたのつかさ?」
「今から暇なのだ??」
「帰るだけだけど、どうしたの??」
「それなら一緒に本屋に行こうなのだ!買いたい本があるのだ!」
柊が彩を誘っている所を初めて見た俺は驚いた。
「いいよ!行こっか!」
だけど、彩の様子を見る限り別に珍しい光景ではないように見える。普段から俺が知らないだけで、一緒に買い物とかも行って居るのかもしれない。
「それなら、星野君この後いいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ」
「少し付き合って欲しい場所があるの!静奈もいい??」
「いいよ♪時間はまだ大丈夫だろうし、一応連絡だけは入れておくね♪」
「わかったわ!」
静奈さんは携帯で連絡を入れて、俺達五人は部室を後にした。