ユニークな話し方
職員室をノックし、扉を開ける立花先輩。
「失礼します」
「立花か、どうしたんだ??」
立花先輩だけ、職員室の前に立ち、俺達四人は邪魔にならないのうに少し後ろに移動する。何をするのか分からない俺達が大勢居た所で邪魔になるだけだろう。
「放送室の鍵を貸してください」
「別に構わないが……何に使うんだ??立花の事だから変なことには使わないとか分かってい居るが、理由は一応聞いておかないとな」
「部活動で使います。詳しいことは言えませんが」
「なるほどね。放送して来てもらうんだね♪」
静奈さんが俺達にだけ聞こえる声で呟いた。
「放送だと学校全体に流れますし、いいですね。けど、本当にバレる可能性がありますね」
「だから、放課後の今を選んだんだと思うよ♪人少なくなっているしね!」
確かに放課後である今なら聞いている人も少ないだろう。だが、聞いている人が少ないとはいえ、学校に残っている人は少なくない。それに、依頼者が残って居なければ全く意味がなくなるが……そこは残っている可能性に掛ける以外ないのだろう。
「部活か……わかった。けど、放送を流すならなるべく短くしてくれよ。後、流し終わったらすぐに鍵を返しにくるようにな」
「わかりました。ありがとうございます」
立花先輩は先生から鍵を預かり、礼をして扉を閉めた。
「ふぅ……やっぱり、息が詰まる話し方は苦手だわ」
溜息を吐いて、普段の話し方に戻る立花先輩。そして、鍵を指で回しながら口を開いた。
「それじゃ、残っているかわからないけど、放送室に行きましょうか」
「そうですね。私、放送室に入るの初めてです!」
「我もなのだ!!」
初めて行く放送室に楽しそうな彩と柊。俺も放送室に入るのは初めてだが、あの二人見たいに楽しみだとかそういう気持ちにはならない。
「出来れば、依頼者は残って居て、好きな女の子の方は帰ってくれていると助かるわ」
「そうだね♪そうじゃないと、私たちが動いている時にバレちゃう可能性があるもんね♪」
「それは依頼者が可哀そうですね。俺だったら片思いがバレるの嫌だから、バレないに越したことはないですね」
今まで誰かを好きになったりしたことないが、もし、同じ立場であれば俺は嫌だと思う。伝える前から気持ちがバレる……それもボランティア部に依頼したとなるともっと嫌だろう。
「それに女の子の方にバレちゃうと私たちは全く動けなくなるわ。だから、運任せね」
話しながら歩いていると放送室に到着した。鍵を開けて中に入ると、思った以上に狭い部屋の中に様々な機具が置いてある。何がどうなっているのかは分からないが、マイクがあるので、そこから放送が流れるというのは理解出来る。
立花先輩は慣れた手付きで、電源を入れて音量を調節する。ボタンを押して、放送を流す場所を決めてから音がしっかり入っているかの確認をする。確認が終わると、先輩は俺達の方を見て、指を立てて、「しっー」と静かにとジェスチャーで示した。
「放送です。私はボランティア部の部長、立花六花です。探している人が居ます。心当たりがある人は部室前まで来てください。繰り返します、ボランティア部は探している人が居ます、心当たりがある人は部室前まで来てください」
立花先輩は言い終わると、電源を落として、立ち上がった。放送は終わりということだろう。
「これで本当に来てくれるのか??」
「わからない……けど、部室に入れる訳にもいかないし、しばらく部室前で待ちましょう。来なかったら解散したらいいのだし」
「そうですね!私は用事特にないので、遅くなっても大丈夫ですよ!」
「桜さん、ありがとう。けど、そんなに長くは待たないわ。名前書いてない向こうが悪いんだし……それに本当に手伝って欲しいなら再度お願いしてくるはずよ」
「それもそうですね。出来ることなら来て欲しいですけどね」
放送室を出て、先に職員室に鍵を返しに行く。立花先輩が再びお礼を言い、職員室を後にして、俺達は部室に戻る。歩いて数分かけて部室に戻るため、階段を上り終え、部室の方に視線を向けると、一人の男子生徒が立っていた。
近づくと、男子生徒も俺達の存在に気が付き、こちらに視線を向ける。制服を見る限り、俺と彩と同じ二年生のようだ。しかし、交流関係が狭い俺には全く見覚えのない生徒だ。体型は痩せているとは言えないが、特別太っている訳でもない。どちらよりと言えば後者なのは間違いないが。
一つ気になるのが、学校指定の鞄を持たずに、軽そうなトートバックを持っている。どう見ても中に何も入って居ないのうに見える……教科書などはどうしているのだろうか。
「あなたが、そうなの??」
立花先輩が正面に居る男子生徒に聞く。イタズラで来ている生徒の可能性も捨てきれなくはないが、一人でいるあたりその線は少ないだろう。
「そうでござる!拙者がボランティア部に手紙をだしたござる!」
「……ござる??」
手紙の事を知っているということは本人であるのは間違いないのだが……語尾がユニークな男子生徒だった。
「拙者の顔に何かついているでござるか??みんな揃って拙者の顔を見つめておるでござる……」
ユニークな語尾に驚いている俺達を不安そうな顔で見る男子生徒。自分の事を拙者と呼ぶのも斬新すぎるだろう。どうしてこんなに話し方の同学年を知らないのだと思ってしまうほどだった。
「いえ……顔には何もついて居ないわ。それよりも今回の依頼について話したいから、こっちに来てくれる??立ち話もなんだし……」
立花先輩は部室のある隣の部屋に入り、全員分の椅子があることを確認して、椅子に座る。俺達もそれに習い、会議するような並びで座った。
「まず、名前を聞いてもいいかしら……名前を知らないというのは不便でしょ??」
「確かにそうでござるな……それでは、キリト君と呼んで欲しいでござる!」
「二刀流がうまそうなのだ!」
「お、お主オタクでござるか!」
「オタクじゃないのだ!!アニメ見てるぐらいなのだ!!」
「同じでござるな!アニメは日本の文化でござる!その文化に朝も夜も関係ないでござる!!全てはアニメの中にあり、深夜アニメは話数も少なく、一話の進みも早いでござる!テンポ良く見れて、何よりキャラが可愛いでござる!!拙者とは真逆でかっこいいキャラも多いでござる!」
「つかさ!この人分かってるよ!!」
「そうなのだ!仲間なのだ!!」
本題に入りたいであろう立花先輩は頭を抱えながら三人の様子を見ていた。キリト君??もオタクらしく、柊と彩と三人で盛り上がっていた。
なんだか、この三人はアニメを通してとても仲良くなれそうな気がする。
「しかし、拙者はアニメよりもエロゲを生き様にしているでござるよ!!え??高校生でエロゲは買ってはいけない??NO!でござる!!今は高校生でも十八歳以上になるので大丈夫でござる!!拙者は十八歳以上でござる!!例え、小学生であろうと中学生であろうと登場人物は十八歳以上になるので大丈夫でござるよ!!」
「航君♪この人頭大丈夫かな??」
静奈さんはキリト君の言っていることが訳がわからないようだった。俺も聞いた話だが、エロゲの登場人物は全て十八歳以上という設定になっているらしい。それが、言いたいのではないかと思う。
「大丈夫ではないと思います」
「星野君、どうすれば話が進むと思う??」
「それはわかりません……」
そんな立花先輩の気持ちを全く理解していないであろう三人はさらに話を続ける。同じ趣味の人と話す時はどうしても楽しくなってしまうものなのだろう。この三人はアニメで繋がっている。
「どんなアニメが好きでござるか??」
「私はコード〇アスだよ!!」
「いいでござるね!!拙者も物凄く好きでござる!!ルルーシュがかっこよすぎでござるよ!!我に従え!でござるね!」
「我は一番好きなのとかはないのだ!アニメは一つ一つに良さがあるのだ!最近はSHIROBAKOを見ているのだ!!」
「SHIROBAKOも面白いでござる!拙者達が見ているアニメがどう作られているとか、一人一人の成長や失敗が描かれていたりするでござる!万策尽きた!!」
「万策尽きた!!のだ!」
俺、静奈さん、立花先輩が全く分からない話を笑顔で続ける三人。静奈さんは笑顔でその様子を見つめ、俺も諦めて参院の様子を見ている。立花先輩も溜息を吐き、俺達と同じで話が終わるのを待つつもりだ。今、話を途切れさせてもあまり意味は無いように感じる。
話が進まないのは問題だが、この空気では真面目な話が出来ないだろう。今、話を中断させても彩と柊はそんな気分ではなく、依頼者であるキリト君が真面目に話せるか分からない。ひと段落着くのを待った方がよさそうだ。しかし、俺達参院は知っていた。好きな物を語る時、彩と柊は中々終わらない。
「拙者はバトル物が好きでござる。SA〇や、イン〇ックスなどなど、最近の有名所や、灼眼〇シャナなども好きでござるよ!アニメというのは奥が深くて、見るのをやめられないでござる!勿論、恋愛物も好きでござるよ!おススメはと〇ドラでござる!大河たんかわゆいでござる!!」
「面白いよね!私も大好きだよ!」
「我も大好きなのだ!!」
黙ってみている俺達三人が待つこと、三十分程度経過すると、学校全体にチャイムが鳴り響いた。一瞬そこで話が途切れた。そのタイミングを立花先輩が見逃すわけもなく口を開く。
「あの……流石に本題に入りたいわ」
「おっと、アニメ好きな女の子なんて久しぶりだったもので、つい、話過ぎたでござる。すまないでござる」
「大丈夫よ。それで詳しい話を聞かせてもらえるかしらキリト君」
「了解したでござる」
キリト君は一度深呼吸をして、口を開いた。
「あれはそうでござるね……拙者が一年生の時でござる」
思い出すように目をつぶり、口を開く。何か始まりそうだった。
「ある、晴天の日でござる。拙者はオタクで、見た目も悪い言わばキモオタと呼ばれる存在でござる。別にそのことに不満もなければ自覚もあるので問題は無いでござる……しかし、拙者を避ける人は少なくないでござる。主に女の子がほとんどでござるが……」
黙ってキリト君の話を聞く俺。柊と彩は話過ぎたことを先輩二人に小声で謝罪していた。
「当然、オタクであることを隠さずに、エロゲもプレイしていると公開しているのだから、引かれてもおかしな所はないでござる……別に気に病んでいないでござるが、ある日、「キモイ!近づくな!」と直接言われたのでござる」
「それは最低だね……」
静奈さんが言う通り最低の行為だろう。別に俺自身は他人をキモイと思うことについては別に悪いと思っては居ない。ただ、本人を前にして言うのであれば話は別だ。そこには他人を傷つける悪意しかなく、傷つくと分かっていてやっている行為になる。それはあまりにも最低の行為だろう。
思うだけであれば別に問題はない……人それぞれ好き嫌いというのは必ず存在している。それは俺自身も同じだし、他の人も同じだろう。だけど、大体の人はそれを隠して、うまくやっている。それを言うのはしてはいけない行為だろう。
「拙者もキモイと思われているのは知ってたでござる。けど、直接言われると傷つくでござる」
キリト君は悲しそうに瞳を閉じて溜息を吐いた。その時の光景を思い出しているのだろうか。
「けど、そんな様子を見ていた女の子が、立ち上がってくれたでござる。その子は「そんなこと言ったら可哀そうだよ。謝ってあげで!」と拙者の目の前に立って行ってくれたでござる!」
悲しそうにしていたのが嘘であるかのように、笑顔になり言う。
「結局、キモイと言ってきた女の子は謝ってくれて、それ以降言われることもなくなったでござる!」
「その子の事が好きなのね??」
「そうでござる!普段は大人しく、あんまり目立たない子なのにみんなの前で言ってくれて嬉しかったでござる!それ以降、ずっと目で追いかけるようになって、気が付いたら好きになっていたでござる!だからお願いするでござる。急に仲良くなろうなんて考えてないでござる!友達にはなりたいでござる!!手伝ってほしいでござる!」
言い終わるとキリト君は机に頭をつけてお願いしてきた。その様子を見ているだけで、その子の事が本当に好きなのだと理解出来てしまう。これはもう決まりだった。
「すごくいい子だね♪私が男の子らなきっと好きになってる!」
「なんか、アニメとかでありそうな話だね!」
「すごくいいのだ!!喜んで手伝うのだ!」
「ああ、俺もすごくいいと思う。本気なのも伝わってくる」
俺は立花先輩の方に視線を向けると、先輩も頷いていた。元々手伝う気だっただろうが、話を聞いてさらに手伝いたいと思ったのだろう。俺も話を聞いてから真剣に手伝いたいと思った。
「あなたの想いし十分分かったわ!ボランティア部が出来る限り手伝うわ!!」
「あろがとうでござる!!」
再度頭を机に付けてお礼を言うキリト君。本当に嬉しそうな笑みを浮かべている。先ほどアニメの話をしていた時以上に輝いて見える。
「その子の名前はなんて言うの??」
「名前は海鳥涼花というでござる!クラスは二年四組でござる!」
「海鳥さんね……分ったわ!明日から行動を開始するわよ!その前にあなたの連絡先を教えてもらえるかしら」
「わかったでござる!」
携帯を取り出して、連絡先を交換する。そして、アプリでグループを作る。
「何かわかったり、連絡事項がある時はここで情報を交換するわ!あなたも何か進展があったりしたらここで私たちに伝えてほしいわ!」
「了解したでござる!」
「とりあえず今日は時間も遅いし解散しましょう!久しぶりの真面目な依頼だから頑張るわよ!」
「頑張るのだ!!」
直接話を聞いて、正式に依頼を受けることに決めた俺達は明日から動き出す事を決めて、解散することになった。立花先輩から、「帰宅したらどうしたらいいか案を考えてきて!」と言われたので、帰宅したら案を考えてみる。
ずっと気になって居たのだが、キリト君の本名を調べるために、グループ欄から見てみると、そこにもキリト君と書かれていた。それほどまでキリト君と呼ばれたいのか、本名がキリトなのかどっちにしても、キリト君の本名は分からないままに終わった。