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自分の手で

「これから戦いが始まるのね……」


「そうですね……無事に終わればいいですね」


「こんなこと初めてだから緊張するよね」


「なのだ!けど、なんとなくだけど大丈夫な気がするのだ!」


「つかさは軽すぎるよ!けど、私も大丈夫な気がする!」


 俺達はついにここまでやってきた。視線を先に見えるのは鬼の形をした島……鬼ヶ島だろう。遠目では自然が多い島に見えるが、行ってみないと実際にはわからないだろう。多くの鬼が住んでいる島なのだ、当然警戒を怠ればただではすまないだろう。何もしていない俺達にどこまで鬼に通用するか全くわからない。だが、ここまで来た以上やる以外選択肢はない。


「鬼ヶ島の前まで来たことはあるのじゃが、乗り込むのは初めてなのじゃ!油断せずに鬼と共存できる未来を創るために頑張るのじゃ!」


 俺達は鬼ヶ島に行くために船に乗る。当然持ってきた訳ではなく、誰かを誘い込むかのように全員乗れるであろう木製の船が停めてあった。もしかすると俺達が向かっているという情報を誰かから得たのかもしれない。


「誘い込まれている可能性があるのじゃ!みんな警戒していくのじゃ!」


「そうね!ここまで頑張ってきたのよ!みんな怪我無く、カレンの願いも叶ってほしいわ!」


「そうだね!けど、きっと私たちは邪魔になるだろうから、四人で一体相手に出来ればいいね♪」


「そうですね……流石に何か出来る訳でもないですし……それぐらいが良いと思います!」


「我も頑張るのだ!!」


 俺は多少怪我をしててでも前に出て戦うが、他のみんなは隠れていた方がいいだろう。だが、そんなこと言ってもみんなのやる気に水を差すことになるので言わない。怪我をしないように俺が頑張ればいい。


 停めてあった船に全員が乗り込み、鬼ヶ島に向かう。途中に何かあるかも知れないと警戒していたカレンだったが、特に異変もなく俺達は鬼ヶ島に上陸することが出来た。


 それほど距離が離れている訳でもなかったので、十五分程度で着いた。そして、警戒するように周囲を見渡すが、敵地だというのに、特に異変は見られない。自然が多いだけの島のようだ。


「航!静かすぎない??」


「確かにな……鬼が大勢居る島には見えないな」


「うむ……どこかに隠れている気配もないのじゃ……一体どうなっているのじゃ」


 船が停めてあったので、待ち伏せされている可能性も十分にあった。しかし、待ち伏せ所か、何かが居る気配すらあまりない……本当に鬼が住んでいるのかと疑わせるぐらいだ。


だが、しばらく歩くと、大きな爪痕や倒れている大木があり、ここが鬼ヶ島であることを物語っている。当然、鬼達も住んでいるのだろう。


 歩き続けて十分ほどすると、視線の先に拓いた場所があるのが見えた。そこから先は木がなく、明らかに人工的に作られた場所だろう。


「止まるのじゃ。大勢の気配を感じるのじゃ」


 カレンの言葉で歩みを止め、カレンを先頭にゆっくりと歩みを進めていく。そして、近づき木の後ろに隠れてどうなっているか様子を見ると、そこには人間よりも二周り大きな鬼が大勢居るのを確認できた。


 目で見える限り、何十頭は居るように見える。それに鬼によって色が違うのも確認出来る……赤、緑、青……他にも様々な色をした鬼の姿が見える。


「隠れてないで出でて来いよ、人間ども!」


 太い声が響くと、俺達は居場所がバレていることを察し、鬼の目の前に姿を現した。そして、どうして俺達が鬼ヶ島に向かって来ているという情報が洩れていたのか理解出来た。


「あいつらはきびだんごの!!」


 鬼の横には犬、猿、雉がきびだんごを食べながら俺達を見ていた。


「こいつらが桃太郎が来ているという情報を教えてくれたのだ!!きびだんごと交換でな!!」


 犬、猿、雉は申し訳なさそうな顔をしながら口を開いた。


「もともとはあなたのお仲間になる予定だったワン」


「けれど、大量のきびだんごと交換と言われたモンキー」


「きびだんご一つでは足りないキジ」


 そういいながら再び鬼から渡させたきびだんごを嬉しそうに貰い、口に入れる。三匹はどんだけきびだんごが好きなのだろうか……。


「なぜじゃ……理由はわからぬが、悲しい気分なのじゃ……我はきびだんごより下なのか……」


「そういうことモンキー!」


「話し方に癖がありすぎるのだ……」


「それは言えてるわね」


 俺達は警戒しながら鬼との距離を一定に保ちながら話をする。いつ戦いが始まってもおかしくはないだろう。


「あ……出るワン」


 犬がそういうと、カレンがきびだんごを奪われた時と同じで、糞をした。ちょうど、その下に鬼の足があり、糞が直接ついてしまった。


「…………」


 機嫌が良さそうだった鬼が急に口を閉じ、無言になる。そして、額に血管が浮き出るほど右手に力を、握りこぶしを作り大声で叫んだ。


「何するんだ人間共!!やれ!!」


 先頭に居る鬼が指示を出すと後ろに居た鬼達が「うおおおお!」と声を上げ、襲い掛かってくる。


「我ら関係ないのだ!!」


 柊はごもっともな事を言いながら彩と立花先輩、そして静奈さんと共に森の中に走っていった。武器も何も持たない四人は拓けた場所に居るより、森の中に逃げた方が安全だと判断したのだろう。


「ワタルやるのじゃ!!」


「ああ!!」


 俺は木刀を構え、鬼達の動きをよく見る。数はおおよそ五十程度だと思われる。一体づつ色は違うが、大きさなどに大きな変化はない。走る速度も大体同じぐらいだろう。当然、色によって何か特殊な能力があったりなどはあり得ないだろう。色が違うだけで、大きな変化はないと思ってよさそうだ。


正面から襲い掛かってくる大勢の鬼に対して、俺達は二人だけだ。他の四人は作戦などを決めているのだろう。俺に何か報告なども無かったので、四人で決めたことなのだろうと思う。


 赤鬼が俺の正面で立ち止まり、少し笑みを浮かべると、右手を殴りかかってきた。俺はなぜか、攻撃してくる軌道を読めてしまい、大きくバックステップをして回避する。攻撃した場所は地面大きく陥没し、鈍い音が鳴る。さらに鬼は重心をそらし、俺に向かって蹴りをしてくるが、それも体を逸らすことで回避し、大振りに蹴りをしてきた鬼の懐に入り込み、一撃で意識を落とすために、首の後ろを木刀で殴る。


「うっ!」


 倒れ込み、動かなくなった鬼を目の前に、俺は不思議な感覚に陥っていた。俺はなぜ、こんな動きが出来てしまったのだろうか?得に何かをしていた訳でもないし、カレンに何度か見てもらっているが、こんな動き出来たことなど一度もない。本番に強い……などという理由では決してないだろう。


「ワタルやるのじゃ!!いつも間にそんな動けるようになっていたのじゃ!!」


「わからない!けど、どうにかなりそうだ!!」


 青鬼の攻撃を回避すると、俺達は二手に分かれた。同じ場所に二人留まっていると、互いにピンチの時に助けることが出来るが、鬼が同じ場所に集結してしまう。それを防ぐために別れることにしたのだ。


 鬼達が二手に分かれ、互いに近い方を攻撃するようになった。鬼が拳を振り上げると、俺は木刀で鬼の力を殺すようにして、木刀で流し、片足を攻撃することにより、態勢を崩す。すかさず、首の後ろに攻撃をして、意識を落とす。


さらに正面に居た赤鬼に接近して懐に入る。ニヤリと笑みを浮かべている鬼だが、俺はそれを警戒せずに木刀を構えて鬼の攻撃を受け流す。二本の腕で交互に攻撃してくるが、うまく受け流して隙を見つけると一歩踏み込む。


 振り上げた拳が地面に叩つけられた瞬間に鬼の腕に飛び乗り、右足に力を入れて飛び上がり、上から背後に回り、木刀で後ろを攻撃し、意識を落とす。


「一体どうなってるんだ本当に……」


 俺には鬼の攻撃全てが手に取るように分かり、そしてどうすればそれを回避できるか、どうすれば最善の行動が出来るのかなど全てが分かってしまう。咄嗟の判断や行動が自分の選択を広げたり、狭くしたりするのは理解しているが、その全てがいい方向にしか進んで居ないのだ。


鬼の拳は俺達人間からしたら出せる威力ではない。だが、それすらもうまく受け流し、次の攻撃パターンを考え、そしてどうするべきなのか?それを知っているかのように頭に浮かんでくる。そして、その行動に体が付いてくるのだ。普通では絶対に出来ない。


(それはそうだよ!お兄ちゃんは全て完全にこなす完璧な人間じゃないんだよ!!)


「!?」


 突然、頭の中に声が聞こえてきた。それもここには居ない花恋の声だ。周囲を見渡すが、花恋の姿は見えず、誰も声に反応もしていないので、俺だけしか聞こえていないのだろう。


(けどね!お兄ちゃんは主人公なんだよ!!現実では出来ないかもしれない……けど、ここは物語の世界だよ!!主人公であるお兄ちゃんには当然出来ることなんだよ!!)


「どういうことだ!」


 鬼が二体迫って来ているのが視界に映る。左右から挟み込まれているという事実に嫌な予感がしそうだが……俺はそれすらも大丈夫と自信をもって行動する。


 片一方に全力で走りだし、二体相手にするという事を避ける。振り上げてくる拳をかわし全力で駆け出して背後に回る。だが、鬼もそれに気が付き、体を逸らして首元を攻撃させないように行動する……それすらも俺の頭は読んでいて、逆に走りだし背後を取る。一体意識を失わせ、迫ってくる鬼に対峙する。


(お兄ちゃんは物語の主人公だよ!!桃太郎の主人公はカレンじゃないよ!題名になっているからって、一体誰が主人公って決めたの!主人公は自分自身で決めるものだよ!あの日からお兄ちゃんは主人公だったんだよ!)


 花恋の言っていることは正直全く理解できなかった。確かにカレンが主人公なんて誰が決めたのかわからない。桃太郎の原作者は桃太郎を主人公としただろう。この物語は桃太郎であって桃太郎ではない……犬、猿、雉は鬼の仲間で、全く関係ない俺達がカレンの仲間になった。


(そうだよ!この物語は決して桃太郎じゃない!桃太郎の原作者が誰かなんて知らないけど、この物語を語っているのは私だよ!!そして、主人公はお兄ちゃんだよ!!そして、主人公っていうのは総じて、主人公補正っていうのがあるよ!今はそれが起きてるんだよ!)


 主人公補正……主人公は死なないとか、ピンチになると覚醒するとか、やたらと女の子にモテるとか……いろいろ主人公を優遇する出来事が起こる事を言う。花恋が言う通り、もし俺が主人公であるのなら間違いなくそれが起きているのだろう。俺の能力に余ったことが起きているのだから。


(そうだよ……お兄ちゃんはあの日から主人公になったんだよ!だから大丈夫だよ!きっと、主人公のようにどうにかなるようになってるよ!そうでなきゃ、私が困るもん……)


「どういうことだ??」


 最後の方、悲しそうな花恋の声が耳に残る。そんな声を聞いたのは初めてかもしれない。悲しみと絶望……だけど、希望を捨てていないような声……どう表現すればいいのか分からないが、そんな感じの声だった。


(うんん!なんでもないよ!頑張ってね!!そして物語を十話集めてね!けど、忘れないでね。この物語の世界で起こってることは私が筋書きしている訳じゃないから!物語はいつも、どの世界でも物語の中の人たちが作るんだよ!!だから、お兄ちゃん達がしたいようにしてね!!)


 対峙していた鬼の意識を奪い、俺は駆け出す。カレンの方に目を向けると、順調に鬼の意識を奪っている見たいだった。このままいけば勝てそうだった。


(私は私の物語を続けるから……決して諦めたりしないよ。もう、二度とこんな思いしたくないもん……)


「何か言ったか??」


(何も言ってないよ!じゃあねお兄ちゃん!!)


花恋が離れたような感覚があり、俺は再び戦いに意識を向ける。鬼の数はカレンと合わせて十数体倒れている。今居る鬼の半分ぐらいだろう。明らかに減っている自分たちの仲間に戸惑っている鬼の姿も目に映る。


 だが、何か少し違和感を感じる部分があった。これが花恋が言っていた主人公補正だとすれば、見逃せる感覚ではないだろう。


 俺はカレンの下に行こうとすると、鬼が木を持って向かってきた。鬼の後ろには木を抜いたような跡があり、無理やり抜いたのだと理解した。


「馬鹿力過ぎるだろ!!」


 さすがに危険を感じた俺は鬼から遠ざかることを決めた。近くには森があるので、そこに入り、木を有効に使えないようにするという作戦だ。拓けた場所から力で押させる可能性が存在するからだ。仮に、木を俊敏に振り回せる力があるとすれば木刀では歯が立たない。


「こっちこいよ!!」


 森の方に走りながら背後に居る鬼を挑発する。走る速さは間違いなく鬼の方が早い……歩幅の大きさや足の力の差が出ているのだろう。だが、良かったことと言えば、少し鬼と距離が離れていたということだった。


森の中に入れるという直前に背後が影で覆われた。鬼が直ぐ後ろに居るのかと思い降り返ろうとした瞬間に俺は大きく前に飛び出した。バランスを崩し、地面を転がるようにして着地すると同時に地面を震わすほどの騒音が聞こえた。後ろを振り向くとそこには先ほど鬼が持っていた木が転がっていた。


「飛び出さなかったら死んでたな……」


 カレンが鬼が人間を殺さないと言っていたので、当たらないように投げられたのかもしれないが、それでも危険過ぎる攻撃だった。だが、危機はそれだけには収まらなかった。


 鬼が俺に向かって近づいてきている。立ち上がり、木刀を構えようとした瞬間に気が付く、木刀が無いことに。


「どこに行った!?」


 周囲を見渡すと離れた所に木刀が転がっていた。転がった時に手から離れていたみたいだ。取りに行こうとした時には鬼は俺の目の前に居た。


「やっと捕まえられそうだ……」


「捕まえてみろよ」


 威勢を張ってみたが、木刀無しに鬼と戦うのは危険だろう。今主人公補正で鬼の攻撃を回避することは可能だが、鬼の意識を奪うためにはどうしても木刀が必要だ。素手では確実に無理だろう。


「それじゃ、やってやるよ!!」


 鬼が襲い掛かってくる!という瞬間に鈍い音が聞こえ、鬼はそのまま俺の方に倒れてきた。それをなんとか回避して、下敷きになることは防いだ。カレンかと思ったが、鬼の背後に居たのは、彩と柊の姿だった。


 体が小さな二人が、体に合わない大きめな木の棒を二人で抱えていた。どうやらそれで鬼の意識を奪ったらしい。


「彩やったのだ!!」


「やったねつかさ!!」


 二人は棒から手を放し、手を合わせて喜んでいた。


「ありがとうな。助かった」


「全然いいよ!!」


「そうなのだ!我らだけ隠れている訳にも行かないのだ!!」


「先輩達は??」


「二人なら森に鬼を誘きよせて、一体倒してたよ!」


「そうか!それはよかった」


 全員怪我もなさそうで本当に良かった。誰か怪我をしてしまったせっかく物語を完結させても後味が悪いだろう。


「俺は戦うけど、二人共怪我をしないようにな」


「わかった!!」


 俺は木刀を拾い、カレンが居る場所に視線を向ける。カレンは全く隙の無い動きで鬼と対峙していた。あの調子なら怪我もしてないだろう。


 俺は直ぐに違和感を感じている事伝えるため駆け出した。鬼の数もかなり少なくなっている。十体も居るか居ないか程度までに減っている。順調なのには変わりないのに、なぜか違和感が付き纏う。ふと、視界に奥に走って逃げていく鬼の姿を確認した。それを見て俺は確信した。


「カレン!!」


「どうしたのじゃ?」


 近くの鬼を一体意識を奪うタイミングで俺はカレンに声をかけた。鬼の数もかなり少なくなっている。戸惑って立ち止まっている鬼も居れば、闘争心剥き出しの鬼も居る。だが、確実に数が減って居るので、少しだけなら会話する時間も存在する。


「確信を持って言うが、奥に鬼のボス的な奴が居るんじゃないか??さっき、向こうに走っていく鬼の姿を見かけて、思ったんだ」


「うむ……可能性はあるのじゃ。もしそうだとしたらそいつを倒さない限りは絶対に鬼との共存は出来ないのじゃ。それに逃げていった鬼も気になるのじゃ……」


 カレンは鬼が逃げていった方向を見ながらそう言った。ボスが居るのであればそいつを倒さない限りカレンの目標を果たすことは出来ないだろう。


「カレンは奥に行ってくれ。ここは俺がなんとかするから」


「任せてもいいのか??一緒にここに居る鬼を退治してからっていう手もあるのじゃ」


 カレンは俺の事を心配しているのだろう。今どうにか戦えているが、もし何かあった時に打開する手がなくなってしまう。部員のみんなが残っているが、ここに居る鬼を全員相手することは不可能だろう。


「大丈夫だ。それにカレンが望んだことだろ??鬼と人間の共存……その夢を自分の手でかなえて来いよ」


「わかったのじゃ!我の手で必ず鬼のボスを退治して、人間と鬼の共存をして見せるのじゃ!!」


 力強い声でそういうカレン。鬼と人間の共存を誰よりも出来ると信じ、望んでいる本人だ。もし、鬼のボスが居るのであればカレン一人で退治するべきだ。俺達はこの世界にずっといられない。カレンが鬼を退治すればきっと消えてしまうだろう。そんな姿を見られるのも、見る方も嫌だろう。


 俺達が出来るのはあくまでも鬼退治を手伝う事までだ。この先は人間の代表として鬼と人間の共存を進めていかなければならない身になる。そうすれば、必ずいざこざや否定させることも多くあるはずだ。


 だが、カレンが鬼のボスを一人で倒すということはそういった出来事を減らす可能性がある。なんせ、人間相手に一人で負けたという事実は鬼のボスからしても穏やかではないだろう。約束を取り付ければ少しだけでもいざこざは消えるかもしれない。


「ワタル、ボスは強いかもしれないのだ。だからこれを持っていて欲しいのだ」


「木刀をもう一本??」


「これは我が必死で稽古していた時に、見ていてくれた人の形見なのだ」


「そんな物俺が持っていていいのか??」


「ワタルに持っていて欲しいのだ!一緒に戦った仲間に持っていて欲しいのじゃ!!」


 そういいながら木刀を無理やり渡してきて、俺はそれを受け取ると同時にカレンは走り出した。俺は受け取った木刀を少しだけ見ると、確かに傷だらけだが、今でも十分使えそうだった。


「もうちょっと頑張るか!」


 俺は鬼に向かって走り出す。残っているのは八体程度だ。一人で全て倒せるか分からないが、それでもやる以外の選択肢は残されていないだろう。


 四方を鬼に囲まれるという展開だけはどうしても避けたい俺は、自分から強気に行動に出ることにした。今はまだ、一体一体が少し離れた場所に居るので、そこを狙って行動したのだ。集まられるのは時間の問題だが、それだでに一体でも多く意識を落とそうと思った。


 俺の接近に気が付いた鬼だが、遅かった。正面から一気に懐に入り、両足に攻撃してからさらに腕に一太刀、態勢を崩した鬼の背後に回り込み、意識を落とす。


 近くに一体居たので、そこまで全力で駆け出し、振り下ろす拳を躱し背後に回る。周った瞬間に鬼が後ろに足を振り上げたが、俺はそれを右足の軸を左に体重かけるようにして、飛んだ。足が届く範囲から脱した俺は、すぐに近づき鬼の意識を落とす。


 だが、予想通りに鬼が集団を作る。一人ではできないことでも、集団になればそれを補える……それは人間でも鬼でも同じなのではないだろうか。となれば今までより厄介になる。


 俺を囲むように散らばった鬼は初めに左右で挟み込むように迫ってきた。前回は一点突破を仕掛けていたが、鬼の配置がそれを許さない。上下に鬼を配置することによって、一点突破しても四方挟まれているので、次の行動が制限されてしまう。危険が大きくなるのだ。


 だが、左右二体を相手するのは今までやったことだ。出来るかと聞かれれば不安しかないが、やる以外ないだろう。俺はふと、カレンから渡された木刀を手に取った。


 二刀流……やったことはないし、出来る自身もないが、花恋が言っていた主人公補正というのを信じるしかないだろう。左右からの同時攻撃をどう頑張っても一本の木刀では防ぐことが出来ない。これが最善だと信じる。


「航!!わかってるよね!!!」


 ふいに聞こえた彩の声に振り向くと、彩と柊がこっちを見ながら立っていた。戦っている場所から少し離れているため、鬼達も気に留めなかったみたいだ。


「二刀流と言えばあれなのだ!!彩から聞いたのだ!見ていたのだったらあの技名わかるのだ!!叫ぶのだ!!」


「もしかして……」


 二刀流で活躍していたアニメを思い出す……そういえばあのアニメも大体同じような展開だったような気がする……敵は一体で、ミノタウルスだった気がするが。


 彩と柊は目を見開ききらきらした瞳で俺を見ていた。俺が言うのを楽しみにしているのが目に見てわかる。言わなかったら悲しそうな顔をするだろうな、と考えると俺は叫んでいた。


「スターバースト・スト……!」


「「きあゃゃゃゃ!!!」」


 彩と柊の嬉しそうな声を聞くと俺は戦いに集中する。鬼達は直ぐ目の間に迫って来ており、緊張が走る。だが、今の俺なら行けると確信があった。これが主人公補正なのか……黒ずくめの剣士も同じ思いだったのかもしれない。


 左右から拳が振り下ろされるが、俺は両手に持っている木刀で威力を殺し、受け流す。さらに二発、三発と来るが全て受け流す。だが、攻撃をいなすだけでは打開策は見つからない。攻撃を躱したり、受け流している様子を見ているだけの鬼が笑みを浮かべながら近づいてきた。数で押し込めば当たるという計算なのだろうが……それを今の均等をつぶした。


 鬼が近づいてきた瞬間に攻撃している鬼が仲間に当たらないように攻撃の手を一瞬止めてしまった。主人公補正がかかっている俺はその隙を見逃さなかった。


 低い体勢で全力で懐に飛び込み、足に攻撃した。体制を崩した鬼は地面に膝をつく、俺はその瞬間に鬼を土台にして、飛び上がり、近づいてきた鬼の背後に回り込み、両手の木刀で二連打で意識を落とす。


 驚いた鬼が、一瞬怯む。その瞬間にもう一体の鬼の背後に回り込み、意識を落とす。遠くから鬼が走って近づいてきていることを確認しながらさらに一体意識を落とし、最初に足を攻撃した鬼の方に全力で駆け出す。


 立ち上がろうとしている途中にさらに同じ場所に一撃を加え、立ち上がらせない。背後に回り込み二連打で意識を落とす。


(残り四体!)


 近づいてきていることを確信してある鬼が死角から攻撃してくるが、そこに鬼が居るということを知っているので、躱すことが出来た。驚いた鬼だが、再び攻撃をしてくるが、受けながす。当然周囲に居る鬼の動きも把握しながら。


 一体ずつであれば油断しなければ大丈夫だろう。拳を躱し、背後から意識を奪うと、俺は残りの鬼の方に駆け出した。戦おうとせずに背中を向けて逃げ出そうとしたが、その瞬間を狙って意識奪い、迫ってくる二体の鬼の攻撃をうまく回避しながら、隙を探る。


 そして、俺は一体にカレンから預かったのと違う木刀を投げつけた。怯んだ鬼は一瞬だけ動きを止めて木刀をはじいた。その隙に背後に回り込み意識を奪い、残り一体も攻撃を躱して意識を奪った。


「終わった……」


 周囲を見渡すが、立っている鬼は居ない。森から四人が出てくると、俺の方にかけてきた。


「航すごくカッコよかったよ!!」


「あろがとう……」


「お疲れ様なのだ!」


「本当に良くがんばったわ!」


「航君が立役者だね♪」


「ありがとうございます」


 終わってから初めて伝わる体が感じている疲労を思い知った。そもそも俺の肉体では絶対に出来ないような動きをしていたのだから疲労が溜まっている程度で済んでいて良かった。もしかすると現実に帰ると全身筋肉痛の可能性が高い。


「後はカレンだけね……もう会えないけど頑張ってほしいわ」


「そうですね。鬼と人間の共存……叶えて欲しいですね」


「そうだね♪出来たら本当にすごいことだよね」


「そうですよ!!きっとカレンなら出来るよ!」


「そうなのだ!!頑張れなのだ!!」


 俺達はもう二度と会うことは無いであろう相手に最後のエールを送る。







************







 カレンは鬼のボスが居ると信じて走っていた。森はどんどん深くなるが、ある所を超えたと同時に舗装された道になっている。これはますますボスの存在が濃厚になりながらも走る足を止めない。


 暫く走ると、大きな洞窟が見えてきた。入口は先ほど戦っていた鬼が二体分の高さがあり、横もかなり広い。鬼のボスが居ても全く不思議ではない場所だった。


「行くのじゃ!!」


 カレンは意を決して洞窟の中に足を踏み入れる。洞窟の中は外よりも温度が低く、ひんやりとした場所で、涼しく居心地がよかった。


 暗い洞窟の中を歩いて数分すると、鬼の姿が視界に入った。すかさず剣を抜くが、相手から戦う意思が感じ慣れない。


「ボスはこの奥に居るので行ってください。通すように言われています」


「わかったのじゃ」


 カレンは走り出し、鬼を置き去りにした。後ろからの奇襲も視野に入れての行動だが、鬼は追いかけてくることもしなかったので、鬼が言っていたことは本当のことだったのだと、察した。


 カレンが立ち止まると、そこには一体の鬼が居た。先ほど戦っていた鬼とは明らかに雰囲気が違う。強さというのが肌を通して伝わってくる。間違いなくボスだった。


「人間の小娘が良くここまで来れたな……褒めてやる」


「褒められても嬉しくないのじゃ」


「ガッガッガッハ!そらそうだろうな……要件はなんだ??」


「我と勝負してほしい。そして、我が勝ったら我の望みのために動いてほしいのじゃ」


「ほう……その望みとは金銀財宝か??確かに俺達の力があれば財宝を奪うことは容易い。人間相手でやるのならばもっと容易いな……」


「違うのじゃ!我は人間と鬼が共存出来ると思っているのじゃ。もし、ボスであるお主が言うのであれば、皆も言う事を聞くはずなのじゃ」


「人間と鬼の共存??面白な!!だが、もし仮にお前が俺に勝てたとしても、人間達がそれを拒むだろうに」


 確かに今まで鬼が人間にした事を考えるとそうかもしれない。けれど、それは人間から仕掛けたこと……なんていう綺麗事は通じないはずだ。しかし、だからこそボスの言うことが大事なのだとカレンは考える。


「認めるまで我と頑張るのじゃ!」


「また容易く言ってくれる……それで、お前が負けたらどうするんだ??」


「我を好きにすればいいのじゃ。負けたのであればなんでも受け止めるのじゃ。剣にかけて」


「なるほど、それなら相手してやる!俺が負けたら人間に寄り添い、共存する未来、お前が負けたら俺達の仲間になる勝負を!!」


鬼は構え、カレンもまた剣を構える。お互いに一切視線を外さずに、十秒ほど経過した瞬間、偶然にも微かに音が聞こえた。それが、戦い開始の合図だった。





*********






 俺達はカレンが勝つのを静かになっている。二本の木刀はカレンが帰って着た時に分かりやすいように、地面に刺しておいてある。俺の手で渡すことは決して出来ないからだ。


 無言で待っていると三十分程度経過してから、背後から光が差した。


 みんなで振り向くとそこには、部室にある扉と同じ物が存在していた。何も無かった場所から突然扉が出てくる……間違いなく、カレンが鬼を倒した証拠だった。


「やったのね……」


「そうみたいですね」


「よかったね♪」


「本当にそうですね!」


「本当に良かったのだ!!」


 俺達は自分の事であるかのように喜び、ハイタッチや、女の子同士は抱き合ったりなど、喜びを体で表した。それと同時にこの世界にさよならを告げるという事実も襲い掛かってくる。


「帰らなきゃだね」


「そうね……きっとここでカレンに会ってしまうと物語は変わってしまうわ」


「さよならぐらい言いたかったですね」


「そうなのだ……」


 俺達はそういいながら扉に手をかける。この世界に居た時間は決して長くはないだろう。だけど、カレンと一緒に鬼ヶ島を目指した時間は夢などではなく、確かに俺達の胸と思い出に残るはずだ。それは決して消えることは無い。


「開けますね」


 俺は扉に力を込めると扉を開いた。その瞬間、光に包まれて視界が光に染まる。あまりの眩しさに目を閉じてしまい、目を開けるとそこは部室だった。


 俺達は現実に帰って着たと同時に椅子に座り、立花先輩が本を持ってくる。前見た時は白紙だった中身、ページをめくると、文字で埋め尽くされていた。


 俺達が物語の世界に入ってから、鬼を倒すまでの流れが一切変化なく書かれていた。まるで、近くで見ていたかのように一語一句違わないで書かれていた。


 そして、最後のページをめくる。鬼を倒してからの話だ。そこに全ての真実が掛かれていることは違いない。


「めくるわよ」


 俺達全員は頷き、本から一切視線を外さない。そして、そこに描かれていた未来は……。


「本当にやってのけたのね!」


「そうみたいだね!本当にすごいよ!」


「やりましたね!!カレンは本当に共存させることに成功したんですね!!」


「すごいのだ!!さすがなのだ!!」


 描かれていたのは、鬼と人間が共存する未来だった。鬼と人間は初めはぶつかりあっていたが、自然と時間が解決し、鬼達自身が歩み寄って着たという事実もあり、今では村で一緒に暮らしているらしい。


 力がある鬼は人間には出来ないことの助けになりお互いがお互いに得意なことをしながら支え合って生きていると書かれていた。


 それは間違いなく。誰よりも早く鬼と人間が共存できると信じたカレン自身の力だろう。あの女の子が居なければこれ以上のパッピーエンドは生まれなかったに違いない。


 桃太郎という物語の世界観を得て、紡ぎ出せれる物語は桃太郎とは似ていて、けど結果が全く異なる桃太郎になった。どちらがいいなどは決してわからない。けれど、この桃太郎という話は、間違いなく語られてきた桃太郎というカテゴリーでは一番のハッピーエンドなのは間違いない。それを作りだしたのは一人の女の子の思いだった。


(花恋は俺が主人公と言っていたけど、それは間違いだ。だって俺が主人公ならこんな終わり方は決して出来なかっただろう。主人公は常に最善の終わり方と選択をする者だろ??)


 俺が選択していたら決してこんなに綺麗な終わり方は出来なかっただろう。そう思いながら俺は本を見ていた。


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