鬼ヶ島に向かう理由
早朝に俺たちは鬼ヶ島に向かうために村を出た。鬼ヶ島までは数日かかり、一番最短の道で行くとこの村が最後になるらしい。途中で村に寄って休んだりなどが出来なくなる。
当然、お風呂などにも入ったり出来なくなるのだが、そこで文句を言うものは存在しなかった。無理を言ってカレンに付いて行くのだ。最短の道で行くのは当然の事で、そのことに関して文句を言える立場でもなければ、そんなことを言って居る余裕もない。
だが、必要な物は多く、この世界のお金など持っている訳もない俺たちは、一緒に行くカレンに用意してもらった。申し訳ない気持ちだが、カレンの好意に甘えることにした。
カレンに聞いた話だが、鬼ヶ島は名前の通り島らしい。当然行くのに、ボートなどが必要になるらしい。島に入る前から鬼達が居る可能性があるので注意しなければならないと言っていた。
村を出てから綺麗な風景を見ながら歩いて一時間ぐらい経過した。不意にカレンが俺の横に来て、視線を向けて口を開いた。
「そうじゃ、ワタル。お主はこれを扱えるか??」
腰にぶら下げてある木刀を持ち上げると、カレンは俺に渡してきた。見る限り、俺が中学校の時に使っていた物よりも重く、そして長い。だが、あまり変わらない印象を受けた。
「大丈夫だとは思う……自信がある訳ではないが」
「うむ、やはり他の女の子に戦わせるより、男であるワタルが一番の戦力になるのじゃ……寝る前ぐらいに少し稽古するがいいか??」
「ああ、頼むよ。俺も怪我とかしたくないし、みんなにもして欲しくない。できる限り頑張ってみるよ」
「うむ!頼りにしているのじゃ!」
そういいながら笑顔で背中を叩かれ、カレンは木刀をそのまま俺に預け、すぐに俺から離れた。鬼ヶ島の場所はカレンしかわからないので、先頭で歩くためだろう。
今日も空は晴れ渡り、雲を多くない。雨は降りそうにないので安心する。雨が降ってしまうとどうしても進む速度が遅くなってしまう。濡れたまま歩くと風邪をひいてしまうおそれもあるので、できればずっと晴れのままであってほしい。
慣れない草や舗装されていないデコボコの道を歩くのは男の俺でも非常に疲れる。普段、そんな場所を歩かないから余計に疲労が溜まってしまう。どれだけ現実世界が舗装されて、歩きやすくなっているかがわかる。
普段からずっとこのような場所を歩いているカレンからしたらなんとも感じないはずだ。だからこそ、二時間ほど歩いているが全く疲れている気配がない。
二時間前と同じ速度で変わらずに歩いているのがその証拠だろう。だが、後ろを振り返って、俺たちの様子を見ながら歩いているため、一人で行くより確実に歩く速度は遅くなる。
それに、俺はまだ大丈夫だが、みんなはそういう訳には行かない。運動をやっている訳でもなく、特別得意な人もいないだろう。だからこそ、振り返ると疲労が溜まっているのがよくわかる。しかし、無理を言って付いてきているので、誰も文句を言わずに歩いている。
それを察してか、カレンは周囲を見渡し、歩みを止めた。
「少し休むのじゃ、あの辺で休憩するのじゃ!」
そういい、指を刺した場所は、巨大な木の下だった。葉が多く、影の部分が非常に広い。地面も柔らかな草が生えている程度なので、座ってもどこも痛くならないだろう。
カレンの心遣いに感謝をしながらも、俺たちは木の下で休憩することになった。そして、俺が持っている布を開け、飲み物を渡す。
「ゆっくり休むのじゃ!」
「申し訳ないわ……私たちが居なければもっと先に進めていたはずなのに」
「気にすることないのだ!一緒に行くと言ってくれた時すごく嬉しかったのじゃ!我も感謝しているのじゃ!」
「……ありがとう」
笑顔で言うカレンを見ていれば本心で言って居るということが直ぐに分かる。だからこそ、何も言わずに休憩することを受け入れ、迷惑をかけていることを深く言うことはしなかった。
しばらく休憩していると、カレンが不意に立て上がり、遠くを指刺した。
「あそこに何か居るのじゃ!」
俺たちはその方向を見つめると、確かに何か居るのはわかるが、何が居るのかはわからない。黒い影が見える程度だ。しかし、少し時間が経過すると、こちらに近づいていることが理解出来る。
先ほどよりも大きく見え、四足歩行している姿が見えるからだ。当然、鬼や人間ではないだろう。何か動物の可能性が高い。
「あれって、犬じゃない??」
彩のその一言で、ようやく近づいてくる動物の正体が判明した。そして、木の下に来ると、カレンの目の前までやってきて、座った。
桃太郎の話では、猿、雉、犬がいるはずだ。もしかするとこの犬は仲間になるのではないか。犬は立ち上がり、鼻を近づけて匂いを嗅ぎだした。
「犬は鼻が言いと聞いていたのじゃが、まさかきびだんごを持っていることがわかるほど良いと思わなかったのじゃ」
そういいながらカレンはきびだんごの入った袋を出すと同時に悲劇が起こった。犬は突然カレンに襲い掛かり、持っていたきびだんご一つを食べてしまった。突然の出来事になにが起こったのか理解できないカレンは、目を見開き、尻餅をついていた。
そんなカレンを方を一度だけ振り向き、そして犬は走り去ってしまった。仲間になりに来たのかと思えば、犬はきびだんごを食べた挙句、走って逃げてしまった。
「一体どうなっているのじゃ……」
ただただ、呆気に取られるカレンは立ち上がり、きびだんごを元の場所に戻した。だが、それからしばらくすると、再び遠くに四足歩行で歩いてくる二匹の動物の姿を発見した。
近づいてくると、そこには先ほどきびだんごを一つだけ食べて去っていった犬と猿だった。再びカレンの傍に行くと、猿は手を差し出した。
「きびだんご欲しそうだぞ」
「そんなの分かっているのじゃ!けど、このきびだんごはおじいさんが作ってくれた大事な物じゃ!あげる訳には行かないのじゃ!」
そう言うと猿は犬と同様にカレンに襲い掛かった。袴を引っ張ったり、上に乗っかられたり、そして抵抗も空しく猿にきびだんごを取られ、口に入れて咀嚼を始めた。犬の所に猿は戻り、犬はその場で糞をして去ってしまった。完全にバカにされている様子だった。
「…………」
そんな可哀そうなカレンに俺達は見ている事しかできなかった。ただ、目尻に涙をうっすら浮かべているカレンを見ながら何も慰めの言葉をかけられずに居た。
「我が一体何をしたというのじゃ……」
「と、とりあえず、ここから移動した方がいいと思うわ」
「それか残り一つを今食べるといいのだ!」
「どっちかにしないと、この感じだとまた動物にきびだんご取られる可能性あるよ??」
俺の予想であれば次は雉がやってくるはずだ……いや、確実に雉がきびだんごを奪いにやってくるだろう。その前に食べるのが一番正しい判断だと思う。
「それもそうなのじゃ!最後の一つぐらい、自分で食べるのじゃ!!」
カレンはきびだんごを取り出し、食べようとした瞬間、視界に物凄く早い速度で飛んでくる鳥が近づいてきていた。俺達で気が付いたのだから、当然カレンも気が付く。そして、一瞬そちらに意識を向けてしまった。
「カレン早く食べるんだ!!」
あまりに動物に襲われて、きびだんごを持っていかれるカレンを見るのは可哀そうなので、気を取られているカレンに大声で叫んだ。
「わかったのじゃ!」
だが、既に遅かった。低空飛行で飛んでくる鳥はカレンの手にあったきびだんごを足で掴み、口の中に入れて咀嚼した。
三つ目のきびだんごも取られてしまった。
「そんな……」
膝から崩れるようにして、地面に倒れた木に止まったままの雉が、見下ろす。そして、犬と同様にその場に糞をして、大空に飛び立った。
「…………」
最後のきびだんごも取られたカレンにかける言葉はなかった。本来仲間になるはずの、犬、猿、雉が仲間にならない理由は俺達が物語に関わったからだろう。そう思うと、今絶望的な顔をしていいるカレンに申し訳ない気持ちになってしまった。
「残ったのは糞だけか……」
「そんなの見ればわかるのじゃ!!」
立ち上がり、涙を拭いたカレンは決意を固めた顔をしていた。
「覚えておるのじゃ!!必ず痛い目見てもらうのじゃ!!鬼退治よりも先に必ずやり遂げるのじゃ!!」
三回もきびだんごを取られたカレンはおかしくなったのか、鬼退治よりも優先すると言い出した。食べ物の恨みは怖いとよく言われるのが理解出来た瞬間だった。ていうか、物語変化してね??
「違う物語になってるわよね?」
「奇遇ですね、同じこと思いました」
それから犬達を追おうとしたカレンをなんとか止めて、鬼ヶ島に向かうことにした。カレン曰く、決して許さないが、今は割り切って鬼ヶ島に向かうと言っていた。
*********
鬼ヶ島を目指し始めて五日が経過した。カレンの話では鬼ヶ島まで後二日掛かるかからない程度だと言っていた。俺達に合わせて休憩してくれているので、少し時間が掛かっているだろう。
食べ物などは村から持ってきた釣り竿や、森を抜ける際にカレンに聞いて食べられる木の実などを集めながら進んでいるため、食べ物に困ることは無い。
後、始めは人を見かけることは多くあったが、進むにつれて人を見かける回数は少なくなり、今は全く見なくなってしまった。鬼ヶ島が近づいているという証だろう。みんな、鬼が怖くて近くには近づかないのだろう。
俺はいつも夜になるとカレンに木刀の扱について教えてもらっていた。剣道をやっていたが、カレンが教えてくれるのは剣道などに当てはまるものではなく、戦う技だった。始めは少し不慣れだったが、今ではなんとか形になったと自分では思っている。カレンは全然というが。
カレンによると、鬼の皮膚は思っているほど固くないと言っていた。だが、力は桁違いなので、直撃で攻撃を受けないほうがいいと。
「だが、我の言葉を完全に信じないほうがいいのじゃ。我も一度しか鬼と対峙したことがないのじゃ。もしかすると固い鬼も居るかもしれないのじゃ。戦いながら学ぶのが一番なのじゃ」
俺のような素人に戦いながら学ぶ余裕などあると思えないが、学ばなければ負ける可能性が高くなるので、やる以外ないだろう。
「今日はここを寝床にするのじゃ!!」
基本、寝床を決めるのは早い段階から決める。この世界に外灯など存在しない。夜になると月明りだけが頼りになってしまい、遠くの方が見えなくなってしまうため、夕日が上るぐらいには寝床を決めている。そして、早朝に出るという形になっている。
森の中を歩いていた俺達は、拓いた場所を寝床にすることに決めた。周囲には何もなく、大きく拓いているため、もし何かが接近してきても気が付きやすいだろう。
「やっぱり少し足が痛いな」
「そうだよね!私も足パンパンだよ!」
「我もなのだ!こんなに歩くことなんて中々無いのだ!けど、みんなと歩いていると楽しいのだ!!」
柊の顔を見ていると本当に楽しいと思っているのがよくわかる満面の笑みを浮かべていた。だが、俺は少し他に気なっている部分があった。
「そいうえば柊って、カレンと出会ってから中二発言してないよな。普段はあんなに痛いのに」
「奇遇だわ。私も同じ事思ってたわ」
「痛いって……ひどい言い方なのだ。だって、誰か一人我の言って居る意味が分からなければ面白くないのだ!!」
それは、中二病などという概念自体が存在しない世界に住んでいるカレンについて言って居るのだろうが、一つ訂正して起きたい部分があった。
「何っているのよ。私たちは柊さんの言って居る意味全く理解出来てないわ」
「俺も全く同じだ」
「??航君は理解しているよね。シナプス君♪」
「やめてください!!」
物語の世界に来てから鬼ヶ島に向けて歩いたり、カレンに木刀での戦い方などを学ぶことで、部室でのやり取りなど完全に頭の中から消えていた。
柊の楽しそうな顔を見れたはよかったが、今それを掘り返さなくても……。
「ごめんね♪お詫びにお姉さんがご褒美あげるね??」
そういうと静奈さんは俺に近づいてきて、座っている俺と目線の高さを合わせて、柔らかい手で頭を撫でてきた。
「なっ……」
「なななな!!」
驚きの行動に俺と彩は同時に声を出してしまった。そして静奈さんの可愛らしい顔が目の前にあるという事実と頭を撫でられているという事実が重なり、恥ずかしくなり俺は視線をそらした。
「もしかして、航君照れてる??かわいいね♪」
「可愛いって……」
恥ずかしい気持ちはあるのだが、俺が振り払えば静奈さんは頭を撫でるのをやめてくれるだろう。だが、俺にはない柔らかな手の感触に撫でられる頭が心地よく、振り払うことが出来ない。
頭を撫でられて一分ほど経過すると、我慢の限界が来たのか、彩は大声を上げた。
「いつまで頭撫でられてるの!?仙道先輩だけずるいです!!私も撫でさせてください!!」
「私はいいよ♪」
「あの……俺の意見は……」
「何か言った!?」
「いえ、何も言ってません」
彩の迫力に、否定するはずが頷いてしまった。彩も俺に近づいてきて、同じように視線を合わし、頭を撫でてきた。当然静奈さんに劣らないほど柔らかな感触がした。
「どうして照れないの!?」
「どうしてって……」
「ふん!!どうせおっぱいでしょ!大きなおっぱいが好きなんでしょ!!男なんて二次元でも三次元でも共通して大きなおっぱいが大好きだもんね!私みたいな貧乳には興味ないよね!貧乳には興味ありません!!巨乳、爆乳、超爆乳が居たら俺の所に来い!以上!!だもんね」
彩の中では俺は巨乳好きということになっているらしい。確かに大きな胸は好きだが。しかし、それ、彩が好きなアニメのセリフを改造したものだろ……いいのかそれで……。
「あれは一体なにじゃ??」
今まで俺達の様子を興味深そうに眺めていたカレンの声に俺達全員が振り向いた。そして、指を刺している方向に視線を向けると、そこには湯気があがっていた。
「何かしら……山火事とかそういうのじゃないだろうし……」
「ここを一夜過ごすのだから見に行った方がいいと思うわ」
「そうなのだ!」
「そうですよね。さすがにほっておく訳にはいきませんし……」
荷物を見張る物と少し離れている湯気の場所を見に行くグループで別れることにした。柊とカレンが残り、俺達が見に行くという物だった。
湯気の方向に向かって歩き、五分ほど経過するとその場所についた。そこには五人など軽く入れる大きな天然の露天風呂が存在していた。
「これってお風呂じゃない!」
立花先輩が嬉しそうな声を上げた。女の子三人は天然の露天風呂を見て目を輝かせていた。仕方ないとは言え、数日間お風呂に入ることが出来なかったのだ。俺も嬉しいが、女の子の三人はさらに嬉しいはずだ。
「これって温度とか大丈夫なのかな?」
「大丈夫じゃない?見る限り沸騰とかしてないし♪」
「俺が触ってみます」
大丈夫だろうと思うが、一応心配なのでお湯に触れておくことにした。手を伸ばして触れてみると、普段入ってるお風呂の温度と変化はなく、間違いなく浸かれば気持ちがよさそうだった。
「大丈夫ですよ。温度もちょうどいい感じです」
「よかった!ありがとう航!!」
「これは待っている二人にも伝えに行きましょうか」
「そうだね♪後でみんなでお風呂入ろうね」
「そうですね!すごく楽しみです!」
彩は嬉しに返事をして、待っている二人の場所に駆け足でかけていく。それに続いて俺達も歩いて後を付いて行っている途中、静奈さんが隣で小さくつぶやいた。
「お風呂楽しみだね♪航君♪♪」
「そうですね。久しぶりに入るのですっきりしそうです」
「そういう意味じゃないんだけど……まぁ、いっか!」
そういいながら静奈せんはウインクをして、立花先輩の隣に戻っていく。よくわからなかったが、久しぶりのお風呂が楽しみなのだろうと勝手に結論づけた。そう、気が付くべきだった。
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「どうしたらこんな状況になるんですか!?」
「私言ったよね♪みんなで入ろうって!」
「言いましたけど、普通こうなりますか!?立花先輩はいいんですか!」
「私は大丈夫よ!静奈の言い方でこうなる事は気が付いていたし、それに一人だけ省くのも可哀そうじゃない??」
「確かにそうですけど!恥ずかしいです!」
「けど、もう手遅れだわ。実際に一緒に入っている訳だし」
「彩は気にしすぎなのだ!我はもう慣れたのだ!!」
「我も全然大丈夫じゃ、タオルも巻いておるのじゃ」
「だって♪彩ちゃん以外はみんな賛成みたいだよ」
「あの……俺は反対なんですが……」
「どうしてよ?こんな美少女五人と一緒にお風呂入る機会なんてそうそうないわ!」
そう、なぜか俺はみんなで一緒にお風呂に入っていた。静奈さんが言って居た“みんなで”というのは俺の事も含めていたらしく、強制的にお風呂に連れてこられた。
当然だが、嬉しくないと言えば嘘にはなる。立花先輩が言った通り、美少女に囲まれてお風呂に入ることなど、今後絶対にすることはないだろう。だが、タオルを巻いているからと言って、全て隠れる訳ではない。白く柔らかそうな足や、綺麗な肩やうなじ……とても目のやり場に困る。
「今更気にしても遅いよ♪もう入ってるし♪」
「そうですけど……流石にこれは……」
「先輩も気にしすぎなのだ!!タオル巻いてるから大丈夫なのだ!!それに仮にタオルが飛ばされても、謎の白い光が助けてくれるのだ!」
「そうだよつかさ!こういう場面では絶対に白い光が仕事をしてくれるんだよ!忘れてた!」
一体何の事を言って居るのかはイマイチ分からないが、本当に目のやり場に困る。当然のように誰かと付き合ったりした経験はなく、一緒にお風呂に入ることなどしたことがない。タオルを巻いているとはいえ、タオル以外の場所に視線が行ってしまう。見たいという気持ちを抑えて、俺は視線を極力女の子に向けないようにしていた。
「それにしても本当に気持ちいのじゃ」
「そうなのだ!景色も綺麗だし気持ちがいいのだ!」
「そうだね♪本当に綺麗だよ!」
俺は上を見上げた。そこは様々な星が浮かぶ空で、とても綺麗な光景だった。月明り以外の光など存在せず、星の輝きを邪魔するもはない。今まで見た中で一番綺麗な星空だった。
「我からみんなに話したいことがあるのじゃ」
カレンの言葉でみんなの視線が向く。俺は顔だけを見るようにして、カレンに視線を向けていた。
「我は鬼退治向かっているが、鬼を殺したり、あまり傷つけたくないのだ」
「それはどういうことなの??」
彩が行くと、カレンは一度目を閉じてから口を開く。
「確かに鬼は我ら人間の村を壊したり、怪我をさせたり、食物を荒らしたりなど、人間に害になる事をするのじゃ。だけど、我の知る限り、鬼から人間に対して先制して攻撃したことは一度もないのじゃ。こちらに来るのは鬼じゃが、いつも先生して攻撃をするのは人間じゃ。鬼はその攻撃から自分たちを守るために行動しておるのじゃ」
深呼吸をしてから再びカレンは口を開く。
「鬼は人間を殺したことは一度足りともないのじゃ。だけど、人間側は鬼を何体も殺しているのじゃ。そして我はある日見てしまったのじゃ。崩れる建物から人間の子供を守る鬼の姿をじゃ。しかも一体だけではなく、四体ほどで協力して助けている姿を見かけたのじゃ。自分たちも怪我をしているにも関わらず、敵である人間を助ける鬼の姿……それは我に衝撃を与えるとともに、ある一つの考えに至ったのじゃ」
俺達は黙ったカレンの言葉を聞く。
「我たちは一方的に鬼を悪と決めつけていたのではないか?本当に鬼たちは乱暴で狂暴なのだろうか?という考えじゃ。もしかすると我ら人間が、鬼を受け入れると共に協力して、共存出来る世界が作れるのではないか?確かに、鬼たちは村を襲ったりするのじゃ。だから我は鬼ヶ島に行き、鬼を退治して説得するのじゃ。共に共存出来る未来を信じてじゃ。それが我が鬼ヶ島に行き、鬼を退治する理由なのじゃ」
カレンの言う言葉に俺は衝撃を受けた。本来桃太郎という物語は、鬼が悪で桃太郎が正というイメージが強く、桃太郎が鬼を退治して平和になるというのが一般的だ。だが、カレンの言う鬼との共存というのは、桃太郎的はどうかとおもうが……しかし、だからこそ……。
「だから鬼と戦っている時はとどめを刺さないでほしいのだ。戦いなのだから怪我をさせることは仕方がないのじゃ。けど、行為的に致命的な怪我をさせたりはないでほしいのだ。だけど、もし自分が危なくなった場合は何も言わないのだ。我もみんなに怪我をしてほしくないのじゃ。だけど、出来るだけ怪我をさせることなく、終わらせたいのじゃ」
ある日、妹の花恋が言って居た。「どんなに物語的に無理でも、設定的に無理やりでも、最後に敵も味方も笑いあっている物語が好き」っと言って居た。鬼との共存……それは桃太郎という物語では最高の終わりかたではないだろうか?
「鬼との共存か……私はすごくいいと思うわ!」
「私もそう思うよ♪そんなこと今まで誰も思いつかなかったよ!」
「私もいいと思います!種族なんて関係なく、仲良くできるのが一番だと思います!」
「我もいいと思うのだ!」
カレンの言葉を否定する物など居るはずもなかった。鬼との共存……夢物語だと言われればそれまでだが、それを本気で臨んでいる人が居る。すくなくとも鬼と共存できると信じている者が居る。それは物凄い事だと理解出来る。
仮に俺がこの世界の住人であれば、きっとそんなこと臨まないだろう。村を壊され、食物を荒らされ……そんな事する連中と一緒に暮らせるのではないか?など考えないだろう。カレンが言って居た、鬼が人間の子供を助ける光景を見ても、絶対に臨まないであろう
だが、カレンは鬼がどういう存在で、人々にどう思われているかという事実を深くしりながらなお、鬼は敵だと認識している人が多く居る人種と共存出来ればいいと考えているのだ。応援し、手伝いたいと思うのは仕方がないだろう。
「やってやろうぜ。俺達でその鬼との共存出来る世界ってやつお!」
「そうなのじゃ!やってやるのじゃ!」
カレンは笑顔でそう言った。それから俺達はお風呂を出て、寝る準備をした。鬼との戦いはもうすぐだ