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「お兄ちゃん!!私と遊んでよ!!!暇だよ!!!!」
自分の妹が呼んでいることに気が付き、顔を上げる。視線を妹へと向けるとなぜか分からないが、物凄く不機嫌そうな顔をしていた。滅多に見ることが出来ない妹の不機嫌な顔に少し驚いた顔をする少年は、妹と二人で部屋の中に居た。
窓の外からは真っ赤に染まった夕日が姿を現しており、街を優しい色で包み込んでいる。季節は秋で間違いないだろう。遠くに見える山は紅葉の色で紅く綺麗に染まっている。なんとも言えない綺麗な景色が広がっている。帰宅途中の会社員、買い物終わりの主婦、犬を散歩させている老夫婦。様々な年齢層の人たちが、この景色を綺麗だと感じているだろう。
だが、目の前に居る妹はそんな景色が全く目に映っていないのだろう。唇を尖らせて、不機嫌アピールをしている。これは良く妹がする機嫌が悪い時の合図になっている。滅多にみせないが、たまに不機嫌アピールをしてくるのだ。見慣れた光景だといえばそれまでだが、なぜ不機嫌気になのか兄は聞いてみることにした。
「どうしてそんなに不機嫌なんだ??見ろよ、窓から見える真っ赤な夕日。綺麗で、自分の醜い心が洗われて行く気持ちにならないか??」
「この前テレビで言ってた言葉まねしている!!お兄ちゃんにそんなキザ??な言葉に合わないよ!!って、そんなことはどうでもいいんだよ!!私は暇しているの!!お兄ちゃんが私に全くかまってくれないから!!」
部屋中に響き渡る声で言う妹に、それも慣れた様子の兄は全く驚きもせず、口を開いた。
「かまってるじゃないか!今こうして二人で部屋で遊んでるだろ??僕がかわいい妹をほったらかしにするわけないじゃないか」
「ほったらかしにされてるから不機嫌なんだよ!!そもそも、お兄ちゃん本ばっかり読んで私の言葉ほとんど返事してくれないもん!!それはかまってるなんて言わないもん!!放置だよ!!放置プレイだよ!!」
「放置プレイ……??なにそれ??」
「私も分からない……けど、お母さんがお父さんに無視されて放置プレイって言ってたから使ってみた!!お母さんが使ってたから変な言葉じゃないよきっと!!」
娘が居る前で放置プレイを言う母親と言わせる父親はどうかと思うが、二人の両親は円満に家庭を築いているのだろう。子供というのは母親と父親の変化には気がつくことが多い。何事もなく過ごしているということは円満に違いない。
窓から刺す真っ赤な夕日の光は部屋に居る二人も秋色に染め上げる。妹は始めて外に目を向け、指を刺して叫んだ。
「とにかく私は暇なの!!今から外に遊びにいこ??ちょっとだけでいいから!!」
「もう遊びに行っていい時間過ぎてるし、暗くなり始めるから駄目だ。お母さんに怒られたくな。またお兄ちゃんなんだからしっかりしなさい!って言われるに決まっている。僕らはまだ小学生なんだからお母さん、お父さんに言われたことは守らないと駄目だよ」
「ええー!!まだ明るいから大丈夫だよ!!本当に少しだけでいいから!!お兄ちゃんダメ??」
少し涙を溜めて見つめてくる妹。兄からすれば一人しか居ない妹だ。当然可愛くないことなんてありえない。実際にこの兄弟はとても仲が良いと近所でも評判の兄弟だ。友達を遊ぶよりもこうして兄弟で遊ぶ時間のほうが圧倒的に長い。兄は本当に妹の事を大切に思っているし、可愛いと思っている。
一方、妹のほうも兄のことが本当に大好きだ。兄には言っていないが、小学校のクラスメイトにはお兄ちゃんと結婚すると言っているほどに兄のことが大好きなのだ。お兄ちゃんが傍に居れば怖いものなんて何もないと心の中で感じている。
夕日が街を綺麗に染めている……一見、その様子だけ見ればまだ外は明るく見える。妹の言う通り、これだけ明るければ大丈夫だと思ってしまった。
「仕方ないな……少しだけだぞ??」
「やったー!!お兄ちゃん大好き!!」
先ほどの不機嫌な顔など一瞬で吹き飛び、満面の笑みに変わった。そんな妹の様子を見て、兄は頬が緩んだ。母親に言われた通り、自分がしっかりしていれば危険はないだろうと思い、遊びに行く。
二人の両親は少しの間、家を空けている。勿論二人にも伝えてある。普段は決まり事を破ることなどしない二人だからこそ、安心して家を空けて出て行った両親。三十分程度で戻る予定だったが、少し延びてしまい帰るのが遅くなってしまった。その隙に二人は内緒で遊びに行くことにしたのだ。
両親が不在な今、こっそり外で出て行く二人。まだ小学三年生と二年生の二人。時刻は十七時半を回ろうとしていた。普段、十七時には絶対に家に居る二人。両親が近くに居ない状況で外に出るのは初めての経験で、二人とも楽しいと思ってしまった。
「それでどこに行くつもりなんだ??」
家を出て、歩道を手を繋いで歩く二人。本当に仲のいい兄弟で、周囲に居る人たちが頬が緩むほどだった。だが、当然いつも居ない時間に二人で出歩いている子供を見て、不審に思った人も居た。近所に住んでいる人達ならなおさら思うだろう。
だが、声を掛けることはせず大丈夫だろうと思ってしまい、それぞれ帰宅して行く。何も起こりはしないだろうと決め付けている。当然、子供である二人はそんなこと考えもしなかった。
「公園に行こう!!いつも遊んでいる公園!!あそこなら家からも近いし、すぐ帰れるでしょ??」
繋いだ手を大きく振りながら笑顔で言う妹に、兄も「そうだね」と返し、いつも遊んでいる公園に向かう。
住宅街に住んでいる二人が遊ぶ場所はいつも家の中か、今向かっている公園だった。それ以外に遊ぶ場所は知らない二人。少し遠くに行けば、さらに大きな公園があったが、小学生の低学年の足で行ける場所は狭い。
当然、両親にも家の周囲で遊ぶように言われていた。両親との約束を破り、十七時以降に家の外に出てしまったが、自分たちだけで行ったことが無い場所に向かう勇気はなかった。もし、何かあって帰れなくなる可能性を考慮したのだ。
歩道を歩き、家を出たときより周囲が暗くなり始めた。だが、まだ夕日は街を紅く染めている。二人はまだ大丈夫だと思ってしまった。
「公園についたね!!!」
テンションが高い妹が公園に入ると、いつも誰か居る公園には誰も居なかった。当然、近所に住んでいる子供達はこの時間に自分たちで出歩くことはしない。両親に止められているからだ。
「私ブランコ乗るね!!お兄ちゃんも一緒に乗ろう!!」
「いいよ、行こうか!」
誰も居ない公園に少しテンションが上がってしまった兄を、手を強引に引っ張る妹。周囲は暗くなってきており、電灯の灯りが点灯する。だが、遊びに無夢中になった二人は気がつかなかった。
しばらくブランコで遊んだ二人は、ようやく周囲が暗くなっていることに気がついた。家を出た頃の夕日は顔を隠し、月灯りが街を照らしている事に。二人の両親は家に帰っている時間になっていることに今気がついたのだ。
「さすがに暗くなったし帰ろうか。もうお母さん達も帰ってきてるだろうし、二人で怒られよう」
「そうだね、約束破って遊びにきちゃったの私たちだもん。怒られるのはいやだし、怖いけど仕方ないよね……」
家を勝手に抜け出し、楽しかった時間が終わると急に約束を破ったという事実が二人を襲う。当然、心配を掛けているだろうし、何か起こった時に傍に居なければ対応出来ないから、十七時を超えてからは外出禁止にしているのだ。
自分たちのことを思って十七時以降外出禁止にしているのに、破ってしまった事を申し訳なく思う二人。周囲が暗くなっているにも関わらず、自分達二人しか居ないという事実に、寂しさと少しの恐怖を覚えた二人。
「手を繋いで帰ろうよ……」
「そうだね、そうしようか……」
今にも泣き出しそうな妹の手を握り、歩き出す二人。家から公園まだは十分程度で着く距離だ。普段遊びに行く時は近く感じる距離。だが、周囲は暗く、車通りが多いこの時間帯は、公園から家までの距離が長く感じた。
「お母さん達怒っているかな……」
腕にしがみつくように歩いている妹は涙目で聞いてきた。
「怒ってると思うよ。心配もしていると思う。もしかしたらしばらくは外出禁止かも」
「そうだね……いやだけど約束破ったの私達だし、仕方ないよね……」
歩道を歩く二人は信号が無い横断歩道に差し掛かった。横断歩道を越えて、少し曲がったところに二人の家がある。家に明かりが着いているため、両親は帰ってきている。
「早く帰ろう!!」
妹は兄の腕を離し、家まで走りだした。普段は両親に言われた通り、車が来ていないか左右確認してから横断歩道を渡るようにしている。だが、家に帰りたいという想いと、周囲が暗いことに対する恐怖でその行動を忘れてしまった妹。
そんな時、タイミング悪く車が来ているのを兄は気づいてしまう。周囲は暗いにも関わらず、ヘッドライトを点灯させずに走行していた車。灯りが無いので車の接近に気が付かない妹。
このまま行けば大好きで、大切な妹が車に激突してしまう。それを察した兄は駆け出し、妹の体を今出せる最大の力で押す。兄に押され、道路に倒れた妹は背後を振り返る。
「え……」
道路に倒れた痛みで、泣きそうだった妹だが、背後に広がっている光景を見て痛みなど一瞬で忘れてしまった。そこには、ライトが付いていない車が外壁を突き破って居る光景と、大好きな兄が見たことがない量の血を流して倒れている光景だった。
「お兄ちゃん……??」
始めは理解できなかった。今さっきまで腕にしがみついて歩いていた兄が、今度は道路に倒れて、血だらけで倒れて居る状態になっていた。兄の方は当然意識は無く、車に轢かれた衝撃により、体が少しだけ前に飛んで倒れていた。
地面には少年に気が付いた車の持ち主が急いでブレーキを踏んだ後が残っていた。急いでハンドルを切ったため、車は外壁に突撃した形になったが、気が付いた時には遅かったのだ。
「お兄ちゃん!!」
妹は倒れて居る兄に駆け寄る。全身血だらけを兄を見て、泣くことすら忘れていた。ただ、無心で倒れている兄の体を揺すった。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
騒音がなり、周囲に住んでいる人達が何事かと、家の中から出てくる。当然その中に二人の両親の姿も存在した。泣きながら体を揺すっている自分の子供を見て、急いで駆け出す二人。妹は両親に何度も名前を呼ばれたが、全く気が付かなかった。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!嫌だよ、目を開けてよお兄ちゃん!!!」
大声で叫びながら体を揺する妹。だが、全身血で真っ赤に染まっている兄は一向に目を覚ます気配は無かった。無造作にも、約束を破ったその日に、車に乗っていた男の飲酒運転で事故が起こってしまった。
千歳里香といいます!矛盾点や、表現が下手な部分が多々あると思いますが、頑張りますのでよろしくお願いします!!