からくちの、に。
同日更新3回目の中編です。
「あ、あー。いいかね?」
「……はい」
覚悟です。
覚悟を決めねば。
椅子からしゅたっと降りて、お辞儀をしました。
「なんなりとお申し付けください」
「う、うむ? まあ、その、これをだね、君に」
と、床に置かれていた背嚢から差し出されたのは――
「こ、これは、怪物の核、ですか」
「あ、ああ。どうかな?」
「すごい……こんな大きいの、初めて」
つい見入ってしまいます。
「そ、そうか……!」
両手で持ち上げて照明にかざしました。
思わず、ほうと息をつきます。
大きさだけでなく、純度も逸品です。
やはり騎士さまは強いです。
私とは比べ物にならないくらい。
私とは――まったく釣り合わないくらい。
「いい物を見せていただいて、ありがとうございました――」
礼を言って、返しました。
「えっ」
騎士さまが受け取らず、きょとんとしています。
私も首を傾げました。
とりあえず卓子の天板に、ごろんと置いておきます。
「どうされましたか」
「い、いや、これは君にあげようと」
何を仰るのか。
思わず、ぽかんと口を開けたまま固まりました。
こんな素晴らしい物を、ただ受け取れるはずもないのに。
もしかして人間にとっては、それほど価値がない――わけないです。
私たちの種族のような用途はないとしても、売れば、ひと財産のはずです。
いったい何を考えているのか。
まさか就職をうながしたことへの謝礼だとでも。
釣り合わないどころの話ではない。
「騎士さま、私は受け取るいわれがありません」
「……っ、そ、そう、か」
もしも私に、もっと力があったならば――。
卓子に転がる核を恨めしく見下ろします。
これに敵わないまでも、自力で怪物を倒し、核を調達できていたなら。
返礼ができたかもしれません。
求愛の証として互いに贈り合う風習は、人間にはありません。
ですので、そうした意図で渡してきたわけではないとは思いますが。
それでも交換する核さえ持っていたなら……。
でも無理です。
荒野を思い出してしまいます。
瀕死になるまで追い回された記憶。
私には二度と挑む勇気がありません。
なんて臆病……なんて卑怯……。
騎士さまをあれほど発奮させようとしながら、己は一歩も踏み出すことをせず、日々を過ごしていただけ。
自然、尻尾が下がります。
「え……そ、そこまで……?」
騎士さまが何事か呟いています。
私の耳でも聞き取れませんでしたが。
見上げると、こほんと咳をされました。
「いや、無理強いをする気はなかったのだ。うむ」
「はい?」
首を傾げると、なぜかはっとした表情になる騎士さま。
「き、君……もしや、すでに決まった相手がいるのかね!?」
「はい? 私は意味を図りかねます」
「つまり、その婚約、いや、将来を誓ったというか、その、だな」
「……?」
「ええと、あれだ――伴侶!」
「いません!」
思わず、きっと睨みます。
二度と怪物を狩ることができないのですから。
「どうせ私には、つがいの相手など一生できません!!」
「ええっ!?」
つい毛を逆立てて怒鳴ってしまいました。
いけない。
騎士さまには、なんの悪気もないのに。
「待ってくれ! その、君には何か問題でもあるのかね!?」
「……」
ぷいとそっぽを向きました。
そんなこと情けなくて語れるわけもありません。
「いや、何があるか知らないが、私は気にしない……たぶん」
「はい?」
「厭だというなら無理強いはしないが、しかし候補として一考してもらえればだな」
「騎士さま」
「うむ?」
「そのような言い方は、まるで騎士さまが私に求愛しているようです」
「してるんだよ!!?」
沈黙。




