おおからの、に。
同日更新2回目の後編です。
たどり着いた大広場。
設営された舞台の上で、魔王さまが演説していました。
全身をくまなく飾りつつ露出が激しい、という不思議な恰好をしています。
魔王さまの種族は知られていませんが、姿形は人間そっくりです。
違いといえば、白くとがった角や羽や尾があるくらい。
そして人間にとっては魅力的な造作であるそうです。
舞台の袖には、ほかにも大勢が立っていました。
すべて高位の魔物――魔族です。
しかも、いわゆる魔人族ばかり。
呪術などの補助なしに、人とのあいだに仔をもうけられるほど近い種族です。
なかには魔物の一種でなく『亜人』などと思われていた例もあります。
さらに、やはり人の基準では群を抜いた美形ぞろいだそうです。
美男や美少年の集団とか、美女や美少女の集団とか。
選りすぐりの選りどり見どりです。
彼らにも、やはり歌って踊る技能があります。
魔王さまが仰るには、効果が高い文化侵略で、効率のよい慰撫戦略で、効験のある偶像崇拝だそうです。
伝え聞いただけの無学な私には、いまひとつ分かりかねますが。
けれど、大広場に集う人々の目には、おおむね好感が浮かんでいるようですので、すごいことです。
皇都に到着する前、魔物である私は、きっと忌避されるものと思っていました。
どうにか騎士さまを探し出し、お礼を告げたら去るつもりでした。
なのに女将さんを始め、親切にしてくださる人間はとても多くいました。
これも魔王さまや、舞台上の彼らが活躍した結果だと思います。
……。
ちろりと騎士さまの横顔を見上げました。
瞬きもせず舞台に見入っています。
やはり魅力的であるようです。
もしも私が、あのような外見だったならば……。
なんて考えても仕方ありません。
目を逸らして、ため息をつきました。
「うむ? どうかしたのかね?」
「なんでもないことを私は表明します」
ひときわ歓声が沸きました。
そういえば魔王さまの演説を聞いていませんでした。親衛隊がどうとかいう話だったようですが。
と、騎士さまが急に動きだしたので、前肢が引っぱられました。
「何事ですか」
「あ、ああ、すまん」
言いながらも早足で歩いていきます。
――その後。
騎士さまが上の空だったせいで、ほとんど祭を楽しむことなく帰ってきました。
しょんぼりです。
それでも落胆を隠して礼を述べます。
こういう時、人間には感情が分かりにくい顔で助かります。
「本日はありがとうございました」
「いや……まあ、うむ」
首を傾げました。
なぜか騎士さまが何か言いたそうにしています。
「どうしましたか」
「その、がんばろうと思う」
「はい?」
唐突な宣言に、さらに首の傾斜角が増しました。
「何に対してか、私は分かりかねます」
「えっ。あ、ああ、その、就職をだね、がんばろうと」
「それは、とてもよい心がけと心得ます」
「うむ……」
驚きましたが、歓迎すべき決意でした。
それにしても、なぜ急に?
去ってゆく騎士さまの背を見送りつつ考えます。
まさか。
態度が変わったのは、あの舞台を見てからでした。
人間には魅力的な姿である魔王さま。
それを熱心に、食い入るように見つめていた騎士さまの横顔。
それに、そうです。
思い出しました。
あの時、断片的に耳に入ってきた言葉を。
正式に魔王さまの親衛隊を発足する。
入隊資格に種族は不問、と。
騎士さまの鎧が視界から消え去っても、私は立ち尽くしていました。